愚直なまでに今の自分自身を表現するバンド、
それがキングス・オブ・レオン
これほどまでにスモール・イン・ジャパンなバンドが他に存在するだろうか? というぐらい日本では注目度が高くないキングス・オブ・レオン。2000年代のガレージ・ロック・リヴァイヴァルを代表するバンドの一つであった、ナッシュヴィル出身の3兄弟+従兄弟という構成の4人組髭もじゃバンドは、小気味よく荒々しいギターを掻き鳴らし、独特の気怠くも勢いのあるボーカルを響かせ、あれよあれよという間にアリーナでオーディエンスをシングアロングさせるバンドになり、4thアルバム『Only by the Night』(2008年)である種頂点に達したとも言える領域に行ってしまった。
もちろんその過程では、初期の荒削りさ、奇妙なリズムを刻む特有のサウンドが消え、セルアウトした等の批判も多く受け、彼らも自覚的にわかりやすくポップなサウンドを取り入れて成功したものの、方向性への後悔や迷いも見られた。5作目の『Come Around Sundown』(2010年)はその名の通り、日没が似合うどこか憂鬱で寂しげな印象のあるアルバムだった。かと思えば、次作の『Mechanical Bull』(2013年)は吹っ切れたように疾走感がある、力強いサウンドと耳に残るギターのリフが印象的。さらに次のアルバム『Walls』(2016年)ではアーケイド・ファイアやコールドプレイ、フローレンス・アンド・ザ・マシーンのプロデュースで知られているマーカス・ドラヴスを迎え、それも納得のスケール感と艶っぽいサウンドが見事に共存する作品だった。この頃には、いわゆるロック・スター的な生活三昧で兄弟たちの仲も不穏になっていた微妙な時期を完全に乗り越え、再び結束力を強め、落ち着いて音楽を作ることができるようになっていたのかもしれない。彼らは常に自分たちの置かれた状況とサウンドに向き合い、自問自答し続け、その時々のエモーションがダイレクトに曲に表れている。こうして軌跡を辿ってみると、けっこう素直で微笑ましいバンドだなとすら思う。
さて、実に5年ぶり8枚目のアルバムとなる本作『When You See Yourself』だが、彼らがまた一歩成熟して、どっしり構えられていることが分かる作品になっている。スケールアウト感は維持しつつも、マシューのギターのリフやジャレドのベースラインからは、彼らが昔から得意としていることを伸び伸びやれている節が窺える。それは「The Bandit」、「Golden Restless Age」、「Echoes」などに顕著に表れている。特に「Golden Restless Age」は疾走感あるサウンドに乗せた流れるような憂いのあるメロディがとても美しく、彼らは間違っていなかったんだなと実感させられる。彼らは大衆に迎合しようとも原点回帰しようとしているわけでもなく、自分たちが今やりたいことを実直に表現している。
また、彼らは意外にラヴ・ソングが多かったりもする。セルアウトの代名詞となった曲の一つでもある「Sex on Fire」はサビこそ何言っちゃんてんの? という感じではあるが、身を焦がすように恋焦がれる様を表した曲だ。本作の1曲目「When You See Yourself, Are You Far Away?」はのっけから切ないラヴ・ソングである。肉感的な表現こそないものの “When it comes to you if you reach the moon Can I be there too?“なんて、詩的で涙が出そうである。
余談ではあるが、本作は《NFT》(固有の価値を持つ代替不可能なトークン形式)で販売される初の音楽作品である。1) 平たく言えば、唯一無二の一点物を所有することができる仕組みである。サブスクリプションが当たり前のこの時代に、音楽好きであればアナログ・レコードを所有することに喜びと価値を見出す人は多いだろう。こうした物を所有する喜びを、より先進的な技術で実現するキングス・オブ・レオンは、セルアウトしたアリーナ・バンドなんていう領域をとっくに超え、常に新しい自分たちの場所へ向かおうとする意思のあるバンドであることを、音楽そのもののみならず、音楽の届け方でも示している。彼らがこれからどんな場所を目指し、それをどう表現していくのか、さらに見逃せなくなってきた。(相澤宏子)
1)米ロックバンド「Kings Of Leon」がニューアルバムをNFTでリリース
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