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「僕は伝統から遠いところよりスタートして、だんだん後ろに進んでいるのかも(笑)」
傑作誕生!! アニマル・コレクティヴのパンダ・ベアが最新ソロ作『Sinister Grift』で聴かせるダビーなバブルガム・ポップ

11 March 2025 | By Shino Okamura

予感はしていたが、パンダ・ベアの最新ソロ・アルバム『Sinister Grift』が本当に素晴らしい。今、ある種のポップス回帰を現代の目線でやるならこれしかない、とさえ思えるほど、見事に小さな穴をスパンと貫いてきた。2010年代の模索が嘘のように2020年に入ってからのアニマル・コレクティヴは順調に良作を重ねてきているが、その背後には間違いなくこのパンダ・ベアの充実した活動があったと断言できる。ソニック・ブームとのコラボレート・アルバム『Reset』(2022年)、エイドリアン・シャーウッドがリワークしたそのダブ・アルバム『Reset in Dub』(2023年)、さらに言えば、2024年8月には『Reset』収録曲のスペイン語ヴァージョンとも言える6曲入りのミニ・アルバム『Reset Mariachi EP』も発表しているので、ここに届いたオリジナル・アルバム『Sinister Grift』を含めると実に4年連続でリリース。《FatCat》や《Paw Tracks》から作品を出していた活動初期から多作傾向にあったパンダ・ベアだが、46歳を迎えて円熟期に入っている現在、再び精力的に活動している事実は大きなトピックと言っていいだろう。ポルトガルのリスボンで暮らすようになって久しいパンダ・ベアことノア・レノックスだが、アメリカのシーンと物理的に距離を置いていることがリラックスした制作環境をもたらしているのかもしれない。リスボンにはプライヴェート・スタジオもあるという。

タイトルの『Sinister Grift』は「不吉な企て」「悪巧み」という意味。その真意は確かに気になる。そして実際に歌詞に目を落とすと、「Venom’s In」や「Left in the Cold」などには、ウクライナやパレスチナの戦禍を想起させる厳しい表現も多い。底辺にはパンダ・ベアの自嘲的とも思える行動原則への内省をそこにみてとることもできる。だが、そうした言葉における表現とは裏腹に、サウンドだけ取り出せばかなりポップでむしろ多幸感さえ感じさせる内容だ。オープニング曲「Praise」からシンディー・リーのパトリック・フレーゲルが参加したラスト・トラック「Defense」までの全10曲(日本盤にはボーナス・トラック「Virginia Tech」が11曲目として追加)、『Pet Sounds』の頃のブライアン・ウィルソンがタイムスリップしてダブワイズの感覚に出会ってしまったような、そんな恍惚にも似た倒錯に包まれている。今、ポップスと改めて向き合っているというそんなパンダ・ベアの最新インタヴューをお届けしよう。(インタヴュー・文/岡村詩野 通訳/原口美穂)

Interview with Panda Bear

──まず、ソニック・ブームとのコラボレート・アルバム『Reset』と、エイドリアン・シャーウッドがリワークしたダブ・アルバム『Reset in Dub』があなたにもたらした大いなるプラスの要素についてあらためて聞かせてください。というのも、『Sinister Grift』は、フィル・スペクターからブライアン・ウィルソンに受け継がれたウォール・オブ・サウンドがダブと底辺で繋がっていたことを鮮やかに証明したような素晴らしいアルバムだと感じたのです。

Panda Bear(以下、P):自分一人で何かやる偽と、アニマル・コレクティヴというバンドで何かやるにせよ、何かに取り組む度に毎回何か新しいことを学んでいると思うんだ。つまり、何かに取り組むことで常に新しいことが学べている。『Reset』も『Reset in Dub』もそうだったけど、ピート(ピーター・ケンバー=ソニック・ブーム)や誰かと一緒に仕事をすることの素晴らしさは、相手が自分とは違う視点を持っているということだと思う。まあ、エイドリアンは一緒に作業したというよりは彼が一人で作業したけど。でも、二人とも僕が持っていない、これまでは自分の作品に反映されてこなかった新しい視点をもたらしてくれたと思う。予想できない場所に連れて行ってくれた、みたいな感じかな。僕は毎回、その新しい世界に興奮するんだ。さっきも言った通り、エイドリアンは彼一人で作業していたから、僕は彼の仕事のプロセスをちょっと垣間見ただけだった。でも今回の作品で彼のこれまでの作品を振り返るきっかけができて、ヴァラエティ豊富な彼の作品の数々を聴くのは本当に勉強になった。ピートは、彼に会う前からも既にスペースマン3やスペクトラムから影響を受けていたけど、実際に会って一緒に作業をしたことで、さらに僕に大きな影響を与えたと思う。彼と出会って、個人的にも音楽的にも大きな影響を受けたからね。今では親友の一人だし。

──ということは、今作の曲作り、および、アルバムとしての全体的なアイデアやヴィジョンは『Reset』および『Reset in Dub』からのフィードバックがやはり大きかったわけですね。

P:そう。ただ、今回の作品は、ゆっくりと徐々に大きくなって行ったんだ。最初の2、3曲は5年前くらいに書き始めたんだけど、その時はまだアルバムに収録するとかそういったアイディアはまだなかった。でも、曲を作り続けて行くうちに段々と焦点が定まってきたんだ。最初はぼんやりしていたんだけど、段々としょうてんが合ってきて、植物のように成長していった。何かいいなと思うものがあれば、その方向に向かって伸びていった感じ。そういう意味では、今回の作品のプロセスは目新しいものではなかった。僕の場合、最初からアイディアを持って曲作りを始めることはあまりないからね。でも、最初にきっかけとなった曲がすごく古いものだったことは珍しいかもしれない。大抵の場合は、最近作った曲から派生することの方がいいからね。

──では、どのように曲作りを始め、どのように進めていき、レコーディングに入ったのでしょうか。

P:いくつかの曲は、さっき話したように5年くらい前から既に書いたりデモを作ったりしていたんだけど、具体的なものは何もなかった。で、『Reset』のプロジェクトが始まってから、しばらくそれらの曲は保留にしていたんだ。僕は同時にいくつかのことに取り組むのがあまり好きじゃないんだよ。何か一つを選んで、その一つのことに夢中になって取り組まないと集中できなくて。で、『Reset』のプロジェクトが終わってからまた作業を始めた。僕の場合、作り始めはあまりルールみたいなものは作らないようにしているし、何を作るかを明確に定義しすぎないようにしている。それが何であろうと、どんな形であろうと、僕はその要素の最良の形を探し、その形に成長させるのが好きなんだ。だから、例えば今回の場合、書き始めた時に今回の作品がとてもストレートな曲になるとわかっていたわけではなかった。最初に考えていたのは、ただ昔ながらのバンド・スタイルでレコーディングすることだけだったんだ。僕が全ての楽器を演奏して、そこから抽象化していくような感じ。でも、ジョシュと一緒に作品に取り組んでいくうちに、曲のサウンドのシンプルさそのものが好きになって、これ以上変えたくないと思うようになった。その流れで、仕上がりが今回のような感じになったんだ。

──そもそも今回、改めてディーケンことジョシュ・ディヴと一緒に作業をすることになったのはなぜだったのでしょうか。

P:去年のちょうど今頃、ジョシュがポルトガルに来てくれたんだよ。で、彼がきた時に僕が近くに作った小さなスタジオが完成していたから、そこで一緒に作業を始めたんだ。そのスタジオで最初にやった大きなプロジェクトがこれだった。だから、本当にワクワクしたし興奮したよ。レコーディングには5週間くらいかかったと思う。そのあと3、4ヶ月の間、彼がミックス作業をやったりしてアルバムが完成したんだ。彼と作業することにした理由は、ちょっとした予感のようなものだった。彼と一緒に今回の作品のために作業をすることが運命のように感じたんだ。僕は物事に対して奇妙な感情を抱くことがあってね。運命が自分に語りかけているように感じたら、たとえそれがクレイジーに思えたとしてもその予感に従うことにしている。ジョシュは僕が13歳か14歳の時に始めて一緒にレコーディングをした人だから、本当に久しぶりに彼と2人だけで一緒に仕事をするのは、なんだか一つの輪を閉じるような(一周して過去とつながるような)感覚を覚えたし、すごくクールだったね。あと、彼を起用したもう一つの理由は、技術的な面でジョシュに彼の得意なことに取り組んで欲しかったから。僕がただアイディアを吐き出すだけなのに対して、彼は全てが最高の形で仕上がっていることを確認することにより気を配ってくれるから。だから、彼がいてくれたことは本当に素晴らしかったし、彼が僕と一緒に取り組んでくれたことはかなり効果的だったと思う。

──最初にお伝えしたように、1曲目の「Praise」を聴いて、このアルバムは新時代の、あるいはダブを起点としたウォール・オブ・サウンド……誤解を恐れずにいうとダブ・マナーでのバブルガム・ポップのような側面もあるように感じました。こうしたアイデアはどのように生まれたものなのでしょうか。

P:ああ、まさに1曲目の「Praise」はそうだね。『Reset』の時、ピートと僕の両方が好きな音楽についてよく話してたんだけど、その流れでそうなったんだと思う。ピートとは、アーチーズのようなバブルガム・ポップが共通して好きでね、それでちょっと目指してたんだよね。「Ends Meet」って曲もちょっとバブルガム・ポップっぽいかも。そういったサウンドは、僕が好きな音楽スタイルの一つなんだ。今回のアルバムに収録されている曲は、僕が本当に好きな様々なものをハイブリットにしたような感じ。だから、レゲエのようなものもあればカントリーの要素も入っている。そして、君が指摘したようにバブルガム・ポップものその一つ。そして、アルバムの後半になるに連れてもう少し難解で奇妙なタイプの音楽が多くなっていくんだ。

──アニマル・コレクティヴの作品には昔から少なからずウォール・オブ・サウンドの影響はありましたし、ビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』を再解釈するような姿勢もありました。しかしながら、その頃の作業とは違い、今作のあなたの作品は、細かな音作りにメスを入れつつも、さらにストレートなポップ・ソングのフォルムを大局的に見ているような気がしました。改めてポップ・ミュージックの黎明期を振り返ったり、勉強したりするようなことはしたのでしょうか。

P:うん、したよ。初期のロックンロールのような作品は、レコーディングのプロセスがシンプルでとても魅力的だった。つまり、マイクが2本あって、バンドがその部屋にいて、ただひたすら演奏する。あと、勉強したのはミニマリズムとか”Less is more”(より少ないものがより多くを生み出す)という考え方。ピートとリセットの時によく話していたことなんだけど、今回のアルバムではそれが大いに反映されていると思う。『Reset』ではサンプルを使っていて、サンプルが音楽の原動力のようなものだった。でも今回は、誰かの音楽をサンプリングするのではなく、自分自身でそれをやりたかったんだ。

──具体的な機材や楽器、リスボンの自宅スタジオの環境など技術的な面で、今回新たに試したことはありましたか。もしくは、音作りに対する見直し参照点とした作品などは他にありましたか。

P:ベース、ギター、ドラム、そしてヴォーカル。それは超典型的なロックのセットアップだけど、僕にとっては今回それが間違いなく初めての経験だった。ちょっと不思議に聞こえるかもしれないけど、本当にこれまでやったことがなかったんだ。僕は伝統から遠いところよりスタートして、だんだん後ろに進んでいるのかも(笑)。

──あなたとジョシュは1991年に初めて二人でマルチ・トラック・カセットを使って録音し始めたとあります。そこから32年、あなたがたは断続的にこのスタイルで作業をしています。その間、機材はどんどんと進化し、リスナーの聴取環境も変化しました。そうした変化、進化が、この30年であなたとジョシュの作業に与えた試練と気づきにはどのようなものがありましたか。

P:ロジカル、そしてテクニカルなことは変化してしまったけど、一緒に誰かと何かを作るときの感覚やそこから得られる興奮、満足感、達成感みたいなものは今でも変わらない。何かに取り組んでいてそこから本当にいいものが生まれると、いまだに13歳や14歳の時と全く同じ満足感が得られるんだ。だから、あまり試練はないね。作っている作品が果たしてどんな仕上がりになるか最後までわからないというミステリアスな感覚は全く同じ。機材やPCといったそのプロセスを取り巻くものはもちろん変化したけど、それだけだよ。ジョシュとの作業も同じ。一つ難しくなったことを挙げれば、お互いが1000マイルも離れたところに住んでいるということかな。レコーディングの技術が変わったように、制作における人間関係も常に変化している。君が言ったように、音楽を作り始めてから30年以上も経っているから、その長い期間で人間関係を維持するというのは大変なことだった。

──先行曲「Defense」にはシンディー・リーのパトリック・フレーゲルがギターで参加していて、非常に個性的なギター・ソロを弾いています。パトリックと知り合ったのはそもそもいつのことですか。

P:実は、まだ彼に直接会ったことはないんだよ。僕は彼の最初のバンド、Womenのファンだったんだけど、それ以来、彼が作った音楽をずっと追っているんだ。長い間彼らの大ファンでさ。アニマル・コレクティヴの他のメンバーも一緒にライブをやったことがあって、彼らはお互いを少し知っているんだけど、僕は彼にまだ会ったことがない。だから、ジョシュから彼の連絡先をもらって、一緒に何かやらないかと声をかけてみたんだ。

──また、スピリット・オブ・ザ・ビーハイブのRivka Ravedeも参加しています。2024年にリリースされたアルバム『YOU’LL HAVE TO LOSE SOMETHING』は素晴らしい作品でしたが、あのアルバムから受けた影響、刺激にはどのようなものがありましたか。

P:確かに、そのアルバムは僕が今年最も気に入ったアルバムのひとつだね。でも、このアルバムを作っている時はその作品は聴いていなかったんだ。実は、Rivkaは僕のガールフレンドなんだよ。だから、音楽的なレベルでも個人的なレベルでも、彼女からは多くのインスピレーションを受けている。レコードのアートワークも彼女が手掛けたんだ。サウンド的に受けている影響は、さっき話したようにバブルガム・ポップのような要素やロックンロール、レゲエ、カントリー、アメリカのオールディーズとかそういう僕が高校生の時や10代の時に聴いていたようなサウンド面で刺激を受けているかな。その辺で類似性を感じる。あと歌詞的にも影響を受けていると思う。今回の歌詞は全て僕の人生で経験した辛い出来事からきている。でも、今回は内容をあまり個人的なものにはしたくなかったし、露骨なことは書きたくなかったんだ。曲は僕が経験したことや考えていたことを基本に書かれてはいるけれど、曲が自分自身で成長していく形になっている。自分に起こっていること、あるいは考えていることを書き始めると、それはいつも少し違ったものに成長したり、最終的には全く新しいキャラクターが生まれたりする。これまでの僕は、それをあまりさせてこなかったと思うんだ。つまり、20代後半くらいから、僕の書くものはかなり個人的なもので、自分の内側を掘り起こして吐き出そうとしていたと思う。でも最近は、それが変わった気がするんだ。外から得たものを自分の中で見つけ出そうという、これまでとは正反対のプロセスで歌詞を書いているように感じる。今回の作品も同じで、他人の人生や他人の感情につながるものを作りたいと思いながら歌詞を書いたんだ。

──親しい関係といえば、あなたの娘、Nadjaも「Anywhere but Here」にヴォーカル……というよりスポークン・ワードで参加していますね。今年20歳になる彼女は本気で音楽の道を目指しているのでしょうか。あなたが彼女に与えてあげられるものは限りないとは思いますが、あなた自身は彼女のヴォーカルのどういう部分に最も大きなインスピレーションを得ているといえますか。

P:彼女はあまり音楽に乗り気じゃなかったんだ(笑)。そして、今も乗り気じゃない(笑)。多分、曲もまだ聴いてないんじゃないかな。それくらい気にしてないんだ(笑)。でも、娘は本当にハードワーカーで、日程とギャランティを伝えたら時間ぴったりにスタジオに来てくれたし、準備も万端だった。僕的には、彼女が歌ってくれて本当によかったけどね(笑)。というのも、この曲には僕が歌うリフレインのようなものがあって、その間に話し言葉のようなパートが入るというアイディアだったんだ。だから、彼女には特に何も指示をせずに歌って欲しかった。彼女に自由に詩を書いてもらって、その中から僕が選ぼうと思って。で、3つ4つくらい用意してくれていて、その中から曲のフレーズに一番合いそうなものを選んだんだ。しかも、あまり編集もしなかった。彼女が書いたものをそのまま使いたくて。で、彼女がそれを朗読して、歌っているところをすぐに録音したんだ。時間はそんなに掛からなかった。彼女はプロだよ。ただ彼女にとって音楽制作はそこまで彼女がやりたいことではないというだけ。でも、それでも彼女は素晴らしい仕事をしてくれたと思う。あのトラックは、アルバムの中でも僕のお気に入りのトラックなんだ。

──他にもリスボンを拠点とするシンガー・ソングライターのMaria Reisも参加していて、女性……もしくはフェミニンなヴォーカルが今作には多くフィーチュアされています。そして、あなた自身のヴォーカルも、それこそビーチ・ボーイズのマイク・ラブのようにハイ・トーンの、少し性差を感じさせない声が魅力的です。あなたが考えるポップ・ミュージックは、このように女性的で男性的でもない、どちらでもなく、どちらでもあるようなボーダーレスなものでありたい、ということでしょうか。

P:いや、それは意識してなかった。ただ、バブルガム・ポップの頭で色々考えていた時に、映画の『グリース』みたいなイメージが湧いてきてね。女性たちが歌うコーラスがあって、そこにジョン・トラボルタが入ってきて、また突然女性ヴォーカルがトラボルタに続いてきて彼女たちの歌声に切り替わる、みたいな。だから、曲が変わるときに突然女性たちが歌っているとこから始まるとうな感じにしたかったんだ。理由はないけど、個人的にそんな雰囲気にハマってたんだよね。なぜか、それがすごく楽しくてクールな感じがしたんだ。それに、僕はRivkaやMariaの大ファンだし、彼女たちを起用すること自体もクールだと思ったし。

──アルバム全体のサウンド面は、その音だけ聴いていると、ポップでうっすらとした多幸感にさえ包まれていますが、アルバム・タイトルの『Sinister Grift』は「不吉な企て」「悪巧み」というような意味です。これにはどういう意味が込められているのでしょうか。歌詞も含めた今作の言葉におけるヴィジョンをおしえてください。

P:自分自身に言い聞かせている、あるいは言い聞かせられているある種の蔓延した嘘のようなもので、自分自身には良いことだと言い聞かせているつもりでも本当はそうではない、もっと大きな意味で嘘のようなものを表しているんだ。僕は、よく曲のタイトルにいいなと思う言葉なんかに出会ったり思いつくとそれを書き留めるんだよ。例えば何かを読んでいるときにある単語が目に飛び込んできて、“これだ!”と思うことがある。で、気に入ったものをメモしてためておくんだけど、“Sinister”と”Grift”という言葉は両方とも長い間書き留めていたもので、メモしてから2、3年経ってもクールな響きや見た目のかっこよさが変わらなかったから、これはもう使っても大丈夫だなと思ってこの2つの言葉を選んで繋げたんだ。アルバムの音楽にも合っていると思ったしね。音楽が与える印象のようなものが、その言葉とうまく繋がっていると思ったんだ。Griftはネットでよく見かけていた単語で、よくTwitter(X)なんかで使われている気がする。7、8年前まではこの言葉は知らなかったんだけど、ネットで目にするようになって知ったんだ。でも、どうしてSinisterとGriftをくっつけようと思ったのかは思い出せないな。何か考え事をしていた時にパッと浮かんできたんじゃないかな(笑)。

──「Elegy For Noah Lou」はアルバムの中で大きなカギを握った曲だと思います。この曲で歌われているNoah Louについて、そしてこの曲が意味するものとはどういうものでしょうか。

P:その曲はとても悲しく、悲劇的な物語。ノア・ルーは僕の友人の子供で、若くして亡くなってしまったんだ。僕は彼らへの鎮魂歌というか、彼らに捧げるオマージュのようなものを書きたくてその曲を書いた。僕はノア・ルーの両親のことを考えると、自分の若い頃を思い出すような気がするから時々彼らのことを考えるんだ。そしてこの曲を作っている間、ノア・ルーのことをたくさん考えていて、自然とその曲が生まれた。ノア・ルーが亡くなったのはもう何年も前のことだけどね……。さっき話した、SinisterとGriftという単語をくっつけた、その組み合わせについてだけど、それはアルバムの曲の中で語られていること、自分自身に嘘をつくという内容に合う気がしたからなんだと思う。この曲の悲劇的な物語とは少し離れるけどね。


<了>

Text By Shino Okamura


Panda Bear

『Sinister Grift』

RELEASE DATE : 2025.02.28
LABEL : Domino / Beatink
CD/LPのご購入は以下から
BEATINK公式サイト


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