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Fallsheeps: Eureka

2025 / tomoran
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光について

11 March 2025 | By Yasuyuki Ono

アメリカのユーザー参加型総合レビュー/百科事典サイト《Rate Your Music》において、2024年10月にあるジャンルの解説記事が登場した。“Shimokita-kei”と題されたその記事では、“下北”と題されてはいるものの、くるり、スーパーカー、ナンバーガールといった所謂“97の世代”をはじめ、BUMP OF CHICKEN、ASIAN KUNG-FU GENERATIONといった00年代ギター・ロックのメイン・ストリームをけん引したバンド、近年“鬱ロック”とカテゴライズされることもあるsyrup16g、ART-SCHOOLといったダークで陰鬱な世界観を保持したシューゲイズ/エモ・スタイルのバンドが取り上げられている。90年代後半から10年代前半を射程に入れた、日本国内で展開したオルタナティヴ・ロックを巡る、特定の史観がそこでは提示されている。

そこで取り上げられている音楽が果たして、2010年代後半以降に海を越えて広がった“シティポップ”のような“リヴァイヴァル”として展開するかどうかは本論の範疇外だし、ここでは論の正否を問題にしたいのではない。しかしながら、00年代以降に花開いた国内オルタナティヴ・ロックが“Shimokita-kei”もしくは“鬱ロック”というカテゴライズのもとで、国内外で一定程度以上の広がりと深さを有したジャンルとして流通し始めているという事態は書き留められておくべきだろう。さらに、例えばkurayamisaka、せだい、yubiori、downt、雪国、ひとひら、hardnutsといった現行の国内インディー・バンドたちが上述したような国内オルタナティヴ・ロック/ポスト・ロックの影響を受けながら独自のロック・サウンドを構築している姿を見れば、“Shimokita-kei”というカテゴリのもとで論じられているようなバンドたちが一定の影響力と存在感をもって、現在のバンドたちに受容されてきていることは確かだ。さらにいうなれば、せだい『Underground』(2024年)のレヴューでも言及したような「USインディーにおけるウェンズデイ、ホットラインTNT、フィーブル・リトル・ホースといった、空間的な轟音ギターを主軸とするオルナティヴ・ロック・バンドの評価の高まり」とも、“Shimokita-kei”の表出は無関係ではないだろう。

そのようなオルタナ・サウンドが現在のロックにおける“時代の音”であるとするならば、せだいが主宰するレーベル《tomoran》よりリリースされた、神奈川県横須賀をルーツとする3人組バンド、Fallsheepsのセカンド・アルバム『Eureka』はまさに現在のインディー/オルタナティヴ・ロックの時代精神の中に位置づけられる作品だろう。

金属のようにソリッドに形成されたノイジーなエレクトリック・ギターと濡れた氷のように滑らかに輝くギター・サウンドが混交する、アルバム・オープナー「2025」や「iai」といった楽曲がアルバム全体におけるサウンド感を示しながら、地面を踏みしめるベースと跳ねるドラムのグルーヴが楽曲を先導していく「わたしたちのみどり」や「よすが」、タイトル・トラック「Eureka」といった楽曲の存在感も確かだ。リード・トラック「snowyyy」では、快晴の下に広がる真っ白な雪原を進む足音のようにザクザクと弾けるエレクトリック・ギターを背景に、川口淳太のジュヴナイルな響きを伴った歌声が広がっていく。本作のどこからでも瑞々しく響き渡るFallsheepsのバンド・サウンドには、上述した00年代の国内ギター・ロックや、アメリカン・フットボールに代表されるようなミッドウエスト・エモ~ポスト・ロックの息吹が宿っている。

「ああ/光よ/ありがとう/君がいないと/走れない/そんな心に成り下がって/おかしくて」(「iai」)。ソリッドなエレクトリック・ギターとダウナーな音色のアルペジオを伴い、先が見えずとも前へと進む決意とそこにある僅かな心の震えを川口淳太は一文字、一文字を噛みしめるように歌う。その歌に、かつて世紀末に「光に満たされてゆくこの世界の中/何をしていられた?/誰もがうかれて理解りあったつもりなら/それだけでいられた/いつか/いつか/忘れてゆく人になるさ」と空を見上げて嗚咽するようなエレクトリック・ギターを伴って、この世界への諦念と未来への微かな希望を歌ったバンドの歌を重ね併せてしまうのは、きっと偶然ではないのだと思う。(尾野泰幸)

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