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せだい: Underground

2024 / tomoran
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或る狂騒

04 February 2025 | By Yasuyuki Ono

時代が動き出している予感がする。東京・大井町の4人組バンド、せだいによるセカンド・アルバムである本作を初めて聴いた時の高揚感と体の火照りは今も止んでいない。

せだいについて語る際に、kurayamisakaの存在は欠かせないだろう。2022年3月に突如ツイートされた初期スーパーカー(特に「Lucky」や「cream soda」)の姿が浮かぶ「farewell」のMVが多くの人のもとに届いたことをきっかけに、一躍注目を浴びた同バンドのソングライターである清水正太郎はせだいのギターを担当しているし、せだいが主宰するレーベル《tomoran》からkurayamisakaは作品をリリースしている。さらに、同バンドのキラー・サマー・チューン「modify youth」は元々せだいの楽曲であり、反対にkurayamisakaの「seasons」をせだいがカヴァーしているように互いのバンドは密接に関わっている。

上述した《tomoran》からはその二つのバンドのみならず、せだいの盟友というTTUD、せだいと共演を重ねるYUMEGIWA GIRL FRIEND、ミッド・ウエスト・エモ(・リバイバル)とも繋がる「Separation e.p.」(2019年)がジワジワと広がったPygmy I’m Cricketらが作品をリリース。本作のリリース・パーティーとして昨年11月に開催されたイベントでは、the bercedes menzやhardnuts、ひとひら、I have a hurt、といった東京の現行インディー/オルタナ・バンドも名を連ねていた。さらに、せだいは先日開催された仙台を拠点に活動するバンド、Umisayaの最新作『a seaside mixtape』リリース・パーティーにも出演しており、TIDAL CLUB、なるぎれといった仙台のバンドたちとの交流も刺激的だ。

くるり、ナンバーガール、スーパーカー、中村一義といった所謂“98年の世代”が花を咲かせ牽引した国内オルタナ。日本独自で展開したbloodthirsty butchers 、イースタンユース、Naht、COWPERSといったエモ/ポスト・ハードコア。そこからバトンを受け継いだASIAN KUNG-FU GENERATIONや《下北系》を嚆矢とする00年代ギター・ロック(上述した本作のリリース・イベントにBURGER NUDSが出演していたことは象徴的だ)や《残響レコード》周辺のポスト・ロック。そのようなここ20年ほどの国内におけるロック・ミュージックを音楽的原体験として育ってきたバンド、ミュージシャンによるインディー/オルタナティヴ・ロックが、各地で胎動している感覚が確かにある。さらに言えば、それは(すでにピーク・アウトしたとはいえ)90`sエモ・リバイバルの広がりや、USインディーにおけるウェンズデイ、ホットラインTNT、フィーブル・リトル・ホースといった、空間的な轟音ギターを主軸とするオルナティヴ・ロック・バンドの評価の高まりとも絡み合った動きなのだとも思う。

せだいの本作はそんな数多くのバンドが蠢く地下世界に沈殿する熱量を確かに伝えているのだと思えてならない。ゴシックなリリックと地を這い、唸るベース・ラインが体に突き刺さるアルバム・オープナー「アンダーグラウンド」。クリーンなアルペジオとそれに連なって爆発するギターが楽曲全体を包むエモーショナルな空気感を伝える「feel again」。空に向かって突き刺さるようなギターを伴ってまるでスピッツやスネオヘアーのような淡く儚いメロディーが弾ける「bandwagon」といった楽曲から、ポスト・ハードコア、ミッドウエスト・エモ、00年代ギター・ロックが混交した、せだいというバンドの特徴が伝わってくる。

加え、シンプルで落ち着いたイントロと、鬱屈した感情を吐き出すような轟音ギターとヴォーカルが生み出す静と動のコントラストがカタルシスを醸す「ゼログラビティ」はウェンズデイのサウンドと共振するかのよう。イースタンユースとガイデッド・バイ・ヴォイシズが出会ったようなメランコリックなメロディーと日本語詞からなる「fireflowers」のヒリついたサウンド構築も見事で、本作は上述したようなインディー、オルタナを換骨奪胎しながら決してマニアックに拘泥しない、懐の深いロック・ミュージックとして仕上がっている。

00年代以降に拡大した大型ロック・フェスに順応するように構築された“邦ロック”や、“シティ・ポップ”もしくは“グッド・ミュージック”という今や高度に商業化されてしまったカテゴリーのもと、魂が抜けた工業製品のように生み出されるインディー・ポップが跋扈する現在にあって、せだいの音楽は、埃と煙にまみれた地の底から美しく、熱を帯びて心に響く。しかし、本作が放つその熱もきっと上述してきたようなバンドたちが日々生み出すエネルギーの総体にとってはきっと一部でしかないのだとも思う。理性的な判断は二の次だ。その熱を心にとどめ、情動的に、今もどこかのアンダーグラウンドで鳴らされている彼らの音楽のもとへ足を運ぼう。街の底で鳴っている一音が時代を動かす。そのような衝動と確信が、本作にはある。(尾野泰幸)

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