BEST MUSICは社会学!!
小田島等+細野しんいち=BEST MUSICがコロナ禍の大復活
「BEST MUSICというのは音とヴィジュアルを使った社会学です。時代を超えて社会を調べるためのゴーグルなのです」
2007年。未だヴェイパーウェーブというジャンルが発見されていない時代。ラウンジミュージックと呼ぶにはマテリアリスティックすぎる、そしてモンドミュージックと呼ぶにはあまりにも誠実な問題作がリリースされた。その名は『Music for Supermarket』。タイトル通り全国津々浦々のスーパーマーケットで流れている、誰もが耳にしたことがある、しかし誰も気に留めたことがないBGMを、過剰なまでの愛と技術、そしてポップアートへの造詣を注ぎ込んで再現したアルバムである。
リリースから13年経った今でも、冷凍ケースの中で鮮度を保ち続けているこの不朽の作品を世に送り出したのは、小田島等と細野しんいちからなるユニット、BEST MUSIC。サニーデイ・サービスのサポートやアートディレクションでも知られる二人組だ。
そんな彼らがコロナ禍でスーパーでの買い物もままならない2020年に、突如として13年ぶりの新曲「STAY HOME音頭」のミュージックビデオをYouTube上で発表した。インストなのに歌詞がある、歌詞があるのに歌がない楽曲は、盆踊り大会が姿を消した2020年のディストピア的な現実を生々しく反映しながら、同時に痛快なユーモアに満ちた和製ダンスミュージックとして響いてくる。
そして7月10日には「ニュージャックスウィングに初挑戦!」「シティ・ポップブームに殴り込み!」という、どこまで本気なのかわからないキャッチフレーズを冠しつつ、ジャケットはジャパニーズ・ポップアートの巨匠、スージー甘金が手がけたその名も「SUPER CITY POP 2020」をCDシングルとしてリリース(8月8日には7インチ・アナログ盤もリリース予定)。これもまた聴き手の想像を軽々と飛び越えつつ、細部に至るまで彼らの美学とインストゥルメンタル音楽愛を貫き通した楽曲となっている。
まるでこの人類史上に残る緊急事態を狙いすましたかのように復活し、時代を看破する問題作をドロップするアーティスト、BEST MUSICとはいったい何者なのか。彼らの芸術はどこからきて、どこに向かうのか。小田島等、細野しんいちの両名に、ソーシャル・ディスタンスを完全にキープしながら実施したリモート・インタビューにおいて、大いに語ってもらった。
(インタビュー・文/ドリーミー刑事 撮影/金子山 撮影協力/ココナッツディスク池袋店)
——13年ぶりに新曲をリリースということで、活動再開のきっかけを教えてもらえますか?
細野しんいち(以下、H):本当はもっと早く出したかったんですけど、我々には生みの苦しみがあるんですよね。普通に録ればいいってもんじゃなくて、コンセプトが必要なんです。シミュレーション・アートのユニットなので。そこがかっちり決まらないと動けないんですよね。
小田島等(以下、O):そう。理屈が揃わないと踏み込めない。
——じゃあコロナという状況があって、踏み込めたという感じですか?
H:この状況が制作に至った100%の理由って訳ではないですが、コロナ禍という不自由な状況下で何かを作るってのは大事だなと思いました。
——コロナ以外の動機はなかったんですか?
O:それはやっぱり去年ファースト・アルバム(『MUSIC FOR SUPER MARKET』)がアナログで再発されたことですよね。そこから機運が高まっていきました。あとは近田春夫さんのようなキャリアのある方が、YouTubeで新曲(「近田春夫のオリパラ音頭」)を発表しているのを見て、やっぱり我々も面白いものつくって、ステイホームしている人たちを楽しませていかないといけないなという気持ちになりました。
——そのファースト・アルバムの再発はどのような経緯で?
H:2枚目を作りたいと思っていたところに、たまたま1枚目をアナログにしましょうと、《なりすレコード》の平澤さんという方が挙手してくれて。もう完全に偶然です。
——ヴェイパーウェーブの流れでファースト・アルバムが注目された面もあると思いますが、その評価をお二人はどう思いますか?
O:驚きました。とてもうれしいです。
H:でも実はそんなにあのファーストはヴェイパーウェーブって感じでもないですよね
O:ファースト・アルバムの話をすると、当時に住んでいた家の近所(東京・東北沢)にスーパーがあって、そこにマイクを持ち込んで店内BGMを録音したりしてたんです。それを持ち帰ってダブ処理して遊んだり。その時に我々は二つの方向性で悩んでたんですね。一つはダブ的で偶発的な酔わせるサウンドを作るという方向。もう一つがポップアート的な人間の手垢のない、正解のあるツルっとした方向。この二つのどっちで行くのかすごい悩んで、細野君とずっと話し合っていて。90年代から続くエクスペリメンタル、音響系の問題をどうするのか?とかもあって。で、我々は悩みに悩んだ結果、ポップアート的でコンセプチュアルな方向を選んだんですよ
——やっぱりアンディ・ウォーホルの末裔である小田島さんはコンセプチュアルの道を……。
O:うーん。ウォーホルって感じでもないんですよね……。
H:どっちかっていうと、ウォーホルよりもデュシャンかな。店内で鳴っている音楽の模擬実験をする感覚は、既製品を凝視して愛でることに近いのかなと思います。
O:あと、デュシャンの後継者、リチャード・ハミルトンの作品からもヒントを得ています
——ファースト・アルバムのサウンドは絶対に色あせないですよね。いつ聴いてもその場の空気を捻じ曲げてしまう強度がある。
H:いつ聴いても部屋がスーパーの温度になるでしょ?でもあれは2年くらいかけて作ってるんですよ。すごく議論しながら。
―—本物のスーパーのBGMに近づけていくためですか?
O:そう。やっぱりテクノとかニューウェーブとか大好きだから。その影響が出ちゃうんですよ。特にニュー・オーダー的なところが抜けなくて驚いた。
H:かっこよくなっちゃう。
——確かに聴いててどうしても身体が反応しちゃう瞬間があるんですよ。今のリズムかっこよかったなとか良いメロディーだなとか……。これはお二人からすると正しい反応ですか?それともミュージシャンとしての痕跡を消しきれなかったということになりますか?
O:メロディーとかコード感とかね、細野君独特の手腕とセンスがあるんです。それはあえて消してない。やっぱり美メロが好きだから、聴き手を突き放すような曲にはしてないんです。
H:そもそもスーパーでそんなにお客さんを突き放すような曲も流れてないですしね。
——それはそうですね(笑)。
O:でも本当は流れてるんですよ。ラップのカヴァーとかね。ビースティー(・ボーイズ)の「Fight for your Right」のインスト・カバーを世田谷のサミットで聴いた時は、この前衛的な音楽はなんだ!って我々は思いましたから。
H:ラップのパートをサックスでやってるんですよ。パーパパ・パーパパ・パーパッパッーって。
O:サビのところまできてやっと何の曲か分かるというね(笑)。あれは本当にビックリした。こんな曲をインストにする必要あるのか!?って。BEST MUSICの路線を決定する衝撃的な出来事の一つでしたね。
H:高度に発達したはずであろう資本主義。その残留物、バグとしての音楽ですよね。
——その他にも衝撃があったんですか?
O:それはですね、我々が聖地と呼んでいる代々木上原のオリジン弁当で、店内BGMを聴いて閃いた瞬間というのがありまして。細野君に「この音楽をそのまま作ったらどう?」って思いついて話したんです。その時は「そんなもんダメだよ!」って怒られた(笑)
H:それは2005年くらいですね。その時は人前で不思議なパフォーマンスを見せるという活動をするグループだったんです。リクリット・ティラバーニャってアーティストに影響受けたものをやってたんです。RAW LIFEってレイヴにも出演したんですよ。
O:パフォーマンスって不確定性が高いし、後に残らないんですね。だから音源を作るのなら真逆を行こうと。構築的なものを作ろうという話になって。
H:「オリジン弁当の音楽をそのままやる」というアイデアを思い出した。あと意識したのは資本主義的リアリズムですね。資本主義というものの姿を克明に描くということ(笑)。その資本主義的リアリズムという点は、ヴェイパーウェーブと通じているところかもしれませんね。広告で使われるような商業利用・消費されていく音楽をピックアップしてきて再利用・再構築するところだろうから。
O:ある種の人工性を許容するということだね。「人間的な社会とは人工的な社会である」by 近田春夫、ですね。
H:とは言え結局のところ一番大きいのは、当時の僕たちはダンス・ミュージックやロックに全部に飽きちゃって、それしか面白がれることがなかったということなんですよ。それはもしかするとヴェイパーウェーブを聴いている今の若い人たちにも通じる部分なのかもしれないですね。
O:そう私たちはこんなににこやかな表情でBEST MUSICの活動をやってますけど、本当はめちゃめちゃ退廃的ですからね。超デカダンス。だから生きるのが楽なの。
H:世の中に何も期待してないから。
——今回は5月にまずB面に収録されている「STAY HOME音頭」がYouTubeで公開されました。
H:コロナの騒ぎがあってすぐに小田島君から「「STAY HOME音頭」って曲をつくろうよ」って声かけられて作り始めましたね。
O:僕、テンション高いんで、「つくろうよ!細野君!」って誘って、細野君が「やれやれ……」という感じで事が起こるパターンが多い。
H:この曲は完全にリモートワークでつくってますね。前は部屋で一緒にやってたんですけど、今回はもうデータのやりとりだけで。
O:作り方もステイホームで。
――インスト曲なのにちゃんと歌詞があって、カラオケ風のMVになってますね。
O:そもそも我々は結成した時から、カラオケのトラックに注目してたんですよ。よく細野君と下北沢のカラオケ館へ行って、カラオケの音だけ聴いたり、エコーとかをいじったりマイクをドアの外に出したり、ちょっと音響系っぽい実験したりして。カラオケのあの虚無な感じに興味があったんです。
H:あとはカラオケとインストの境界線みたいなことを問いかけてみたかったんですよ。我々がファーストアルバムの頃から使っている機材SC-88(カラオケ音源にも使用されるローランド社の音源モジュール)がカラオケとスーパーでかかるインスト、どちらにも使われているものなので。
O:コロナが収束しない社会がもし何10年も続いてしまったら、盆踊りというものはこのまま過去のものになってしまうんじゃないか?というSF的な奇想もあります。
H:ちなみに間奏で入ってくる「ハイサイおじさん」のフレーズは志村けんさんの「変なおじさん」へのオマージュです。しまおまほちゃんは気がついてました。
――それにしても、日本人って本当に音頭が好きですよね。Spotifyで「音頭」って単語で検索すると山のように出てくる。どこが魅力的だと思いますか?
O:西洋音楽にしても、現地で聴かれている時の感情がそのまま日本に輸入されているわけではないじゃん? 音楽がもたらす郷愁的感情って、それが作られた地域の生活や気候と深く結びついてる。我々の子供の頃に街の中にまだ残っていた、おじいちゃんおばあちゃん世代の昭和初期くらいの空気を、音頭を聴くとギリギリ思い出せる。
H:自分は音頭そのものというより、使われる音階に郷愁を感じますね。例えば中村八大が作曲した「笑点」のテーマ。あれは8ビートですけど音頭を聴いた時と同じような郷愁を感じます。否応なく、自分の魂がそこに連れていかれてしまうという。
O:あと、大瀧詠一さんの「LET’S ONDO AGAIN」の影響も大きい。あのノベルティ感覚。ファースト・アルバムにも「御御御付け音頭」(おみおつけ音頭)という曲もあるし。あと、個人的にはサニーデイの「FUCK YOU音頭」のMVを撮りました。まぁ、とにかく我々は音頭が好きなんです。あの三味線や締め太鼓の湿気を含んでない木の感じ、最高ですよね
H:でも今年は盆踊り大会無理だろうね。
O:「2メートルずつ間隔空けて ソーシャルディスタンス~ アソレソレ~」では踊れないのかな(笑)。
――でもあの歌詞通りに盆踊り大会をやるとすごく寒々しいものになりますよね。そういう寒々しさというか、ある種の終末感が裏側には漂っているようにも思うんですけど……。
H:絶えかけているものを見つけて、勝手に墓標を立ててしまうのが好きなのかもしれない。未来の世界で誰かに再発見されるようにカタログ化するのが好きというか。
O:アンダーグラウンドヒップホップの詞の世界みたいな終末観って、少し前の話のような気もするし。
――でもそういう時代こそ、BEST MUSICの表現が刺さる時代かもしれませんね。
H:我々はいつでもウェルカムですよ。そういう時代きてほしい(笑)。
細野しんいち(左)と小田島等(右)
――では、新曲の「SUPER CITY POP」について聞かせてください。まず、なんでニュージャック・スウィングを選んだんですか?
H:「STAY HOME音頭」をアナログでリリースしようとお話を頂いた時に、「ステイホームは期間限定だから、リリースの頃には自粛期間が終わって旬を逃すかも……」と思ったんですよ。だから「「STAYHOME音頭」はB面にさせてください。A面用にめちゃカッコイイのつくりますから!」ってお願いして。で、スーパーで流れているようなシティポップ、つまりSUPER CITY POPを作ったのです(笑)。
O:スーパーシティ法案も成立したしね。両面とも(小池)百合子の感じでいこう、と。
――スーパーシティ法案! それは気がつかなかった。
H:で、僕は最初、杏里とか泰葉っぽい感じの曲を作ればいいと思ったんですよ。
O:僕はソレじゃちょっと甘いかもしれない、もう一捻りしないと、と思ってて。その時に加納エミリちゃんから新しい12インチ「恋せよ乙女」を頂いたんですよ。そしたら音像が、ちょっとニュージャック・スウィングに近い感じがして、これだ! と思って細野君に伝えたの。
H:確かに普通に80年代のシティ・ポップやってもつまんないから、レイト80’Sで行きましょう、と。
O:ファーストでは85年以降のレイト80’sのネタはまったく扱ってないんですね。70年代後半から80年代前半までの価値観やメロディだけで作っているんです。
H:カーペンターズ、オリヴィア・ニュートン=ジョンから「元気が出るテレビ」まで、というイメージですね。
O:それ以降に出てきた、ストック・エイトキン・ウォーターマンやニュージャック・スウィング、ハウス、グラウンド・ビート等は参照していないんです。
H:そう。まだ人間が演奏している雰囲気は残しつつ……という設定でしたからね。
O:で、今回初めて我々が青春時代を過ごしたレイト80’Sの封印を解き、87年モノに手を付けたというワケです。
H:そう、ラ・ムーみたいなバンドが演奏してるところを想像して聴いてもらうとオモシロイかもしれない。
O:あと、ZOOとかね。1988年頃の深夜のお天気番組のBGMで流れてる感じ。まだインターネットはなかった。あの途方もなく怠惰な時間を思い出しながら作ったよね。
H:とても上手くできたと思っています。TDKカセットテープのCMソングみたいな感じで。
O:さすが、細野君です。小田島は何もしてないんじゃないかと思われると困るから一応、言うんですけど、ちょいちょい口出ししてますから。「ここにスクラッチ入れようとか」とか。
H:そうだね。そこはちゃんと分かってもらわないとね。
O:細野君もジャケットに口出ししてます。総合的にやってます。
――ちなみに途中で入ってくるサンプリングのネタはどっから持ってきたんですか?
H:あれは小田島君が探してきた、著作権フリーのやつですね。
――そして今回もSC-88がメインですか?
O:そう。でも今回は初めてSC-88以外の音が入ったね。サンプリングの「DJ」って声とスクラッチの音。そこはもう再結成記念ですわ。
H:そうそう。ご祝儀ですね。
――確かに80年代後半ではサンプラーも普及し始めてますもんね。
O:はい。そういう機材の歴史も踏まえています。
――オーケストラヒットも良かったですね。微妙にもたつく感じがグッときました。
H:そうそう。どうしてもちょっとアタックが遅れちゃう感じがね。
O:トレヴァー・ホーンがプロデュースしたイエスの「Owner Of A Lonely Heart」みたいにしようって言ってたけど、あんまりならなかった(笑)。
H:そこでトレヴァー・ホーンにしちゃうと目立ちすぎるから。だからあれはテディー·ライリー率いるGUYの方のオケヒです(笑)。
O:GUY最高です。
――アートワークについてはいかがですか?
O:タイトルが「SUPER CITY POP」、つまりは「超都会のPOP」ですから。そうなると、当然ジャケットはスージー甘金御大だろうと。スージーさんは僕の絵のお師匠さんです。スージーさんに頂いた「小松くん」の絵のデータを小田島がトレースしています。
H:師弟コラボですね。
――込められている情報量が半端じゃないですね……。それにしても2020年というものを2曲の中に凝縮させるには、大変なスキルと批評性が必要ですよね。
O:1964年の東京オリンピックの時にハイレッド・センター(高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之による前衛芸術グループ)がやった首都圏清掃整備促進運動という掃除のパフォーマンスに通じるところがあるという意見もSNSであった。これはどうなんだろう?
H:何かに対してツッコミを入れたいわけではないんですよね。説教くさいメッセージがあるわけではなく、ただ事実を記したいだけというか…。自分の感情を抜きにして国や都が言っていることをそのままトレースしただけというか。
――その時点で十分批評的じゃないですか?
H:まあ、それは受け取り方ですよね。そういう風に見える人もいるし、チラシみたいな曲だなと受け止める人もいるし。実際にコロナは危険だから、三密は守るべきだし。だからこの曲、オフィシャルで使って頂いても構わないです。
O:その点を考えると高田渡の「自衛隊に入ろう」や首都圏清掃整備促進運動とは少し違いますよね。で、ポップアートの話に戻ると、ウォーホルとリキテンスタインがデビュー時にラジオに出たことあって。その時にウォーホルがいつものように気取って「我々現代人はマンガや缶詰に囲まれた生活をしている」と言うんですね。それに対してリキテンスタインは「いや待って。我々はそれを愛することができるじゃないか」と言うんです。結局のところポップアートってこの二極だと思うんですよ。極端に説明すれば、この二つによってポップアートは成立していたと。貧困層出身のウォーホールは安価なキャンベルスープを憎んでいたし、同時に魅了されていた。POP ART=社会批評、というのは紋切り型の話かもしれません。
H:我々のファースト・アルバムもリリースした時は批評性の文脈で語られたりしたこともあったわけですよ。消費社会をちょっと皮肉っている、みたいなね。でも俺たちはスーパーで流れる音楽を完全に愛でてしまったわけですよ。しょっちゅうスーパーに行って。
O:最終的に沼津まで行ったもんね、レンタカーで。「いいスーパーがあるぞ」ってアクセルを踏んだ。スーパーの事、沢山考えたし知ったんですよ。
――ちなみに東京五輪についてはポジティヴですか?
O:どっちでもいいですよ。ま、開催されないことは知ってましたけどね。
――知ってた⁉︎
O:うん。BEST MUSICは知ってるの。来年もやらないよ。
H:最近はアバター使ってプレーするeスポーツも流行ってるよね。実は自分も小田島君もアバターになりたいんですよ。
O:うん。全てをスキャンする準備はできてるよ。
――それはウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』的なやつですか?
H:そうそう。電脳空間。
O:政府が言ってる「ムーンショット計画」ってあるじゃん? 想像もできないようなことを科学技術で実現させようという政策。その中に「サイバネティック・アバター生活」っていうのがあるんですよ。そこに我々も乗っかって、ウェブの中に入って生きて行くのさ。
H:小田島君が先に電脳世界に行ってしまって、スクリーン上で現実世界にいる俺と会話をするというシチュエーション・コントを最近たまにやってるんですよ。
O:うん。じゃあちょっとやってみようか…(以下、ウェブの世界へアバターとして入り込んだ小田島氏がジミ・ヘンドリクスやシド・ヴィシャス、大瀧詠一氏らとムーンライダーズのコピーバンドをやっているという近況報告を細野氏に行うというコントが繰り広げられるが、かなり差し障りのある内容のため、泣く泣く省略)。
――今のコントは次のアルバムに入らないんですか? スネークマンショーみたいな感じで。
H:いや。これはただの日常会話ですから。
O:でも、僕たちの諸行は冗談音楽でもあろうかとも思ってて。その中でもクレージーキャッツ的な、関東系の「ボケ続ける/ツッコミ不在のシュールな笑い」の路線ではあるまいか、と。あ、最近思うんですけど、時代が困窮するとシュールって成立しないかもしれない。シュールって優雅なものだから。シュルレアリストってみんな優雅ですよね。で、この国で今、唯一シュールな存在は?と思い巡らせると、小泉進次郎さん?あの話法は凄いですよね。奥さんも綺麗だしお金持ちだから、淀みがないシュールがスッと出ているように見える。
――じゃあBEST MUSICが今これだけシュールなことができるというのは、かなり優雅で幸せな状況にあると?
H:ええ。でももっと幸せになれればもっと面白いことができるってことです。
O:はい。なので、今日はお願いに上がりました。
H:そう。多くを望んではいけないんです。愛とか希望とか。
――ではBEST MUSICとして最後に言い残したことがあれば。
O:BEST MUSICというのは音とヴィジュアルを使った社会学です。時代を超えて社会を調べるためのゴーグルなのです。
H:例えば、セックス・ピストルズの『勝手にしやがれ』が出た1977年にはどういう社会だったのかと調べると、作品が立体的に聴こえてくるでしょ?でもBEST MUSICの今回のシングルはその時代に起きたことが、最初からすべてこのシングルに入っているんですよ。教科書に載っている年表が切り取られて、凝縮されている。
O:謎に社会派なんです。そして資本主義リアリストでもある。
――おまけに幸せでもある。
O:ええ。どこにでもコカ・コーラの自販機がある国に住んでるんですから。
――この後の活動予定はあるんですか?
O:セカンド・アルバムつくりたいですね。いいアイデアもあるし。
H:そう。これまでの拡大再生産ではなくて、新しい扉に手をかけたい。
O:そう。若いんですよ、我々の精神は。
<了>
BEST MUSIC
SUPER CITY POP 2020(7インチ・シングル・レコード)
LABEL : なりすレコード
RELEASE DATE : 2020.08.08(CDは発売中)
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Text By Dreamy Deka
Photo By 金子山