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Aldous Harding: Train On The Island

2026 / 4AD / Beatink
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はぐらかしてはいるが拒んではいない

05 June 2026 | By Masamichi Torii

Instagramなどを眺めていると、アリアナ・グランデがテレビ番組で巧妙な歌手のモノマネを披露する動画が流れてくることがある。ブリトニー・スピアーズやクリスティーナ・アギレラ、シャキーラ、セリーヌ・ディオンといったディーヴァたちのハイ・クオリティのモノマネだ。

一流の歌手はモノマネも一流なのだと感服せずにはいられない。しかし、発声をコントロールするという点で歌唱もモノマネも同じ技術を使うのだと考えれば、当たり前のことなのかもしれない。一方で、“voice”という単語が作家性や作風のような作者のアイデンティティを表す比喩として使用されるように、アリアナの声には固有性がある。そうでなければポップ・アイコンたり得ない。アリアナの歌唱力はむしろ彼女の“voice”に輪郭を与えているといえる。

ヴォーカリストにとって声はアイデンティティにほかならない。しかし、オルダス・ハーディングは、自分の声で遊ぶことにより、こうした固有性をむしろ撹乱する。ハーディングは「多声的(ポリフォニー)」という単語を文字通り表現するかのように、一曲のうちで様々な声色を使い分ける。体調も心境も年齢も性別も異なる人物たちが出たり入ったりする様は、ささやかなバンドのアンサンブルも相まって、まるで指人形の劇を見ているかのようだ。どの声もハーディングであってハーディングではない。この中心を欠いたあり方にこそ、ハーディングのシンガーとしての固有性が宿っている。

『Train On The Island』は、《4AD》からリリースされたハーディングの5作目となるスタジオ・アルバムだ。プロデュースはジョン・パリッシュが務めた。PJハーヴェイの長年のコラボレーターで、近年はドライ・クリーニングの作品も手掛けていた。ハーディングのプロデュースはこれで4作目となる。録音はパリッシュの根城ともいえるウェールズの《Rockfield Stuios》で行われた。パリッシュと並んでハーディングとは付き合いの長いH・ホークラインもマルチプレイヤーとして参加している。

デヴィッド・ボウイがミュージシャンという職業を選んだのは、自分の声を玩具のようにして遊ぶのが楽しかったからという理由もそのひとつにあったのではないかと私は睨んでいる。そして、ハーディングにも近いものを感じる。私はどうしてもボウイとハーディングを重ねて見てしまう。声色を使い分けてアイデンティティをはぐらかす点もそうだし、ソングライティング巧者である点もそうだ。とりわけ『Hunky Dory』に漂うインティメイトなムードはハーディングの作風と響き合うものがあると思う。

しかし、『Train On The Island』の楽曲には、「Changes」や「Life On Mars?」に見られるような明確なストーリーがあるわけではない。むしろどの曲も断片的だ。ヴァースとコーラスのような構成上の序列はもはや明確ではない。起承転結もはっきりしておらず、どこから始まって、どこで終わっても良いような曲が並ぶ。多声的なハーディングの歌唱も含め、このアルバムの世界では物事がリニアではなくパラレルに進んでいく。

図と地を明確にし、ストーリーをリニアに展開させるというポップスの作法から逸脱する一方で、メロディメイカーとして才はこれまで以上に炸裂しており、耳馴染みは良い。H・ホークラインとのデュエット「Venus in the Zinnia」の愛らしさといったらない。ハーディングは、たとえばK-POPのソングライティング・チームに参加しても良い仕事を残しそうなメロディ・センスの持ち主だ。ある種作為的であることがハーディングの作風だといえるが、メロディに関していえば、前作・前々作に比べて無防備だと感じる。

ハーディングの慎ましくも奇抜な振る舞いは、ユーモラスとシリアス、作為と自然という対立を無効にする。「はぐらかしてはいるが拒んではいない」という『Train On The Island』の作風および佇まいは、過剰な刺激とプレッシャー、人間関係のしがらみに満ちたこの世界で、私たちに深く息をするスペースを与えてくれている。(鳥居真道)





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