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映画『ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ』
UKロックの聖地が生んだ財産
劇中に登場しない重要ディスク5作

29 January 2022 | By Yasuo Murao

数々の名盤を生み出した録音スタジオ、音響ハウスをめぐるドキュメンタリー映画『音響ハウス Melody-Go-Round』が公開された際、映画に出演した大貫妙子に取材した。その時、彼女が「最近の日本の音楽を聴くと小さい場所で録っているのがわかる。だから音楽もどんどん小さくなっているんです」と語っていたのが印象的だった。曲からは演奏だけではなく、空間も伝わってくる。機材だけではなく、ミュージシャンを取り巻く環境も音に影響を与えるのだ。

近年、コンピュータを使ったハードディスク・レコーディングが普及。ミュージシャンは簡単に自宅で録音し、データを送りあって曲を作ることもできるようになった。そして、安価に使えるコンパクトなスタジオが増加し、老舗スタジオが次々と閉鎖。録音スタジオの在り方が問われる中で、ドキュメンタリー映画『ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ』はスタジオが持つ力を改めて考えさせてくれる。

1965年、イギリス南部・ウェールズの田舎に住むロック好きの兄弟、キングスリー・ウォードとチャールズ・ウォードが、生まれ育った農場の施設を改造して《Rockfield》というスタジオを建設した。自分たちで機材を購入し、防音壁を作るために飼料袋を積み上げたという手作り感溢れるスタジオだ。スタジオには宿泊施設があり、アーティストは農場に滞在して音楽作りに没頭できる。大自然に囲まれた環境のなか、アーティストは爆音を鳴らし放題。しかも、厩舎を改造したスタジオには独特のエコーがあって、それがサウンドにユニークな効果をもたらしてくれる。兄弟は独学で録音技術を学び、現場で培った経験をもとにエンジニアを育てた。そして、《Rockfield》には、クイーン、ブラック・サバス、オアシス、コールドプレイなど様々なアーティストが訪れて、田舎の牧場はUKロックの聖地になる。

この映画を見れば、機材だけではなく、スタジオを取り巻く環境がミュージシャンにインスピレーションを与えていることがよくわかる。そして、そこでは様々な人々が交流して刺激を与えあう。シンプル・マインズがレコーディングしているところに、大きなチーズを手土産にイギー・ポップとデヴィッド・ボウイが訪問。両者は親しくなり、シンプル・マインズのメンバーがイギーのアルバムにコーラスで参加した、というエピソードも微笑ましい。音響ハウスでも、そういうミュージシャンの交流が作品に反映されていた。「パソコンで音源を送りあって曲を作るなんて味気ない」と映画の中でリアム・ギャラガーがボヤくが、スタジオの役割は機材を揃えるだけではない。魅力的な「場」を作り出すことでアーティストの創造力を引き出す役割も担っていることを、《Rockfield》の歴史が改めて教えてくれた。

映画では《Rockfield》でレコーディングされたアルバムが紹介されているが、そのほかにも数々の作品が生み出された。そこで、映画の中では紹介されなかった重要作を独自にピックアップ。これらのアルバムを通じて、《Rockfield》の歴史に触れて欲しい。(文・ディスク選評/村尾泰郎)

ウェールズにある《Rockfield》の全景

Dave Edmunds『Subtle as a Flying Mallet』(1975年)

イギリスのパブ・ロック・シーンにおける重要人物、デイヴ・エドモンズは、ロック・バンド、ラヴ・スカルプチャー解散後、エドモンズはロックフィールドに資金提供をして共同経営者になった。そして、スタジオにこもって実験を繰り返し、その研究成果が遺憾無く発揮されたのが本作だ。ロネッツやクリスタルズのヒット曲のカヴァーを収録した本作は、エドモンズが憧れていたフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドを再現。ほとんどの楽器を一人で演奏してスタジオワークの可能性を追求した。そんなわけで邦題は『ひとりぼっちのスタジオ』。エドモンズは《Rockfield》で身につけたスキルを活かして、ニック・ロウやフレイミング・グルーヴィーズなど様々な作品でプロデューサーとしても活躍した。



Echo And The Bunnymen『Heaven Up Here』(1981年)

デビュー・アルバム『Crocodiles』(1980年)で注目を集めたエコー・アンド・ザ・バニーメン。彼らが大きく飛躍するきっかけになったのが2作目となる本作だった。プロデュースに招いたのは《Rockfield》をよく使っていたヒュー・ジョーンズ。アルバムを特徴づけているのは、たっぷりとエコーを効かせた奥行きのある空間だ。厩舎を改造したロック・フィールドには独特の残響音を出せる建物があり、そういった場所を使って録音された曲もあるのではないだろうか。オーバーダブされたギターやキーボードの音色が、深い霧を思わせるしっとりとしたサウンドを生み出すなかで、イアン・マッカロクの歌声がエモーショナルに響き渡る。ネオサイケのサウンドを象徴する一枚。

The Damned『Strawberries』(1982年)

セックス・ピストルズやクラッシュと並んでUKパンクの顔役だったダムド。しかし、80年代に入ると音楽性は次第に変化し始める。その過度期に制作された本作で、バンドは大都会のロンドンを離れて緑溢れるウェールズに向かった。環境の影響からか、アルバムの雰囲気は開放的。パンキッシュな勢いを残しながらも、ホーンやシタール、チェンバロなど多彩な楽器を加えて、これまで以上に表情豊かなサウンドだ。本作と同じ年にメンバーのキャプテン・センシブルがファースト・ソロ・アルバム『Women And Captains First』をリリースするが、そこで聞かせた英国気質のポップ・センスが本作でも開花している。ジャケットの可愛い豚は、動物たちが走り回る《Rockfield》へのオマージュなのかも。

Super Furry Animals『Fuzzy Logic』(1996年)

ポップスターが活躍した80年代後半、《Rockfield》は経営の危機を迎えるが、90年代に入ると、オアシス、ストーン・ローゼス、ブー・ラドリーズなど、新世代のロック・バンドが次々とレコーディングにやって来る。UKロックが息を吹き返したのだ。そんななか、地元ウェールズ出身のスーパー・ファーリー・アニマルズは(メンバーのグリフ・リースいわく)「ジャグジーがあって1日3度食事が出る」ことに惹かれて6週間スタジオに滞在し、このデビュー・アルバムを作り上げた。サイケ、グラム、パンクなど、60〜70年代ロックを取り入れた彼らの音楽性は、 UKロックの歴史を見てきた《Rockfield》と相性ぴったり。過去の音楽をリバイバルさせるのではなく、現代的な視点でミックスすることで、彼らは奇妙に歪んだ、それでいてポップなサウンドを生み出した。

Aldous Harding『Designer』(2019年)

ニュージーランド出身のシンガー・ソングライター、ハンナ・シアン・トップによるソロ・ユニット。彼女と2度目の顔合わせとなったプロデューサー、ジョン・パリッシュの提案で、本作を《Rockfield》で録音することになった。自然に囲まれ、仕事を終えた後に仲間たちとゆっくりとお茶ができるスタジオを気に入ったハンナは、今年3月25日にリリースされる予定の新作『Warm Chris』でも《Rockfield》を使用している。本作のレコーディングには、ハンナの恋人でシンガー・ソングライターのH.ホークラインをはじめ地元ミュージシャンが参加。アコースティックな楽器を中心にした演奏で、ハンナの繊細なメロディーや神秘的な歌声の魅力を引き出している。かつて《Rockfield》で録音された、ピーター・ハミルやロイ・ハーパーの作品に通じるアシッド・フォーク的な味わいも。



Text By Yasuo Murao


『ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ』

2022年1月28日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

監督:ハンナ・ベリーマン
出演:キングズリー・ウォード、チャールズ・ウォード、オジー・オズボーン、ロバート・プラント、リアム・ギャラガー、クリス・マーティン、ティム・バージェス、ジム・カー
配給:アンプラグド
© 2020 Ie Ie Rockfield Productions Ltd.

公式サイト

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