BEST 12 TRACKS OF THE MONTH – Mar, 2024
Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!
Bored At My Grandmas House – 「How Do You See The World?」
イングランドのリーズを拠点として活動するシンガー・ソングライター、アンバー・ストローブリッジによる最新楽曲。メランコリックなメロディーと、それを支える轟音のシューゲイザー・ギターや、煌めくクリーン・トーンのギター・サウンドの絡み合いが印象的。“世界をあなたはどう見ているの?”という問いかけになっている楽曲タイトルが示すように、本曲は世界、環境に対する人間の傲慢さと、それを駆動する物質至上主義について歌われたもの。“私たちが住む世界をあなたはどう見ているの?”と繰り返されるメッセージのリリックは、飾らないシンプルさゆえにいつまでも耳に残る。(尾野泰幸)
Hazel English – 「Jesse(feat. Day Wave)」
カリフォルニア州オークランドを拠点に活動するシンガー・ソングライターのヘイゼル・イングリッシュとデイ・ウェーブことジャクソン・フィリップスによる名タッグのコラボレーション。ざらついた質感のギターリフを変ロ長調のくすんだ音色に乗せ、儚い楽曲に変えてしまうのはこの二人ならでは。大切な人を失った悲しみを歌い、夢の中での再会を望む二人のヴォーカルは穏やかに交響する。が、その淡い重なりも束の間にうっすらと消えていく。まるで走馬灯のように思い出を浮かべては過ぎ去っていくノスタルジックな楽曲だが、はっきりと印象づけるフレーズがある。それは一番短い詩でもありタイトルになっている素朴な響きの名前なのがにくい。(吉澤奈々)
James Elkington and Nathan Salsburg – 「Buffalo Stance」
ジェームス・エルキントンとネイサン・サルズバーグという、共にジョン・フェイヒィ直系とも言えるギター・プレイでお馴染みの二人が4月12日に3作目となる新作『All Gist』をリリースする。シカゴで制作されたという今作からの先行曲がこれなのだが、なんとあっと驚くネナ・チェリーのカヴァー(89年『Raw Like Sushi』の1曲目)。原曲とは全く似ても似つかないアコギのストロークが美しく絡み合うインストで、アルバムには他にもイギリスの作曲家、ハワード・スケンプトンのカヴァーもあるという。ヘイデン・ペディゴ、スティーヴ・ガンらとの共振も如実。現代アメリカン・プリミティヴ・ギターの新波は確実に到来している。(岡村詩野)
Skrapz – 「I’m Yours」
もともとSkrapstaと呼ばれるグライムMCだったUKのヴェテラン・ラッパーにしてリリシスト、Skrapzによる最新アルバムでありカムバック作『Reflection』は、アルバム全体で言えば、政治や貧困、復讐といったシリアスなトピックを扱っているが、この「I’m Yours」はスウィートなラヴソングだ。滑らかなヴォーカル・サンプルに、落ち着きのある声でライムが降り注ぐ。「もし俺が破産しても愛してくれるか尋ねたら/彼女は息ができなくなるその日まで愛してくれると言ったんだ」。そう、この曲で描かれているのは、ハードな環境を生きるラッパーがつかの間、最愛の人との思い出に浸る時間。グッとこないわけがない。(高久大輝)
水曜日のカンパネラ – 「たまものまえ」
BLACKPINK以降のK-POPとYOASOBI以降のJ-POP、ポップネスと実験性、叙情とナンセンス、歴史コンセプトと私小説。その全てに引き裂かれながらキャリアを進めている、近年の水曜日のカンパネラ。今回は、詩羽の「たまもるふぉーぜ」と口籠るように発声されるchildlikeな魅力からハード・トランスなブレイクへと雪崩れ込む瞬間に、そんなかれらの特異な立脚点が伺える。ソロやxiangyuのプロデュースでも注目されたケンモチのビートはつぎはぎのように変化。リリックは、外国映画に出てくるようなジャパニーズ意匠と、「シャンパンタワー」など夜の街を思わせるワードとが配置され、奇天烈な架空の平安絵巻を描いている。(髙橋翔哉)
Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!
The Dream Machine – 「Frankenstein」
全英トップ5圏内に多くのバンドを送り込んでいるリヴァプールのインディ・レーベル《Modern Sky UK》(本拠は北京)のサブレーベル《Run On》に所属するマージーサイドの5人組、ザ・ドリーム・マシーン。プロデュースを手がけているのは同郷の先輩バンドでレーベルメイトでもあるザ・コーラルのフロントマン、ジェイムス・スケリー。ということもあって、サイケ味はあるものの、彼らのような煮詰めたような感じではなく、サウンドの主要素として背骨にしつつもエモーショナルな展開を見せるのが本バンドの魅力だ。この新曲もジ・オンリー・ワンズの「Another Girl, Another Planet」に通じるパワー・ポップで、イングランド北部に通底するやるせなさが充満している。昨年アルバムを発表したばかりだが、この調子だと今年もリリースがありそう。(油納将志)
Klaus Johann Grobe – 「Bay Of Love」
スイスのデュオによるニュー・アルバム『Io tu il loro』は、前作『Du Bist So Symmetrisch』(2018年)でのクラウトロック感を保持したまま、ブラジリアンやAORの要素が強まり、より弛緩したムードが漂う。同じく新作をリリースしたブリストルのCousin Kulaと繋げてエンドレスでプレイしていると、部屋が得も言われぬ陶酔感に包まれる。とりわけこの曲は中毒性のあるシンセ・リフやディスコ・ビートに代わり、フェニックスのスマートさを取り入れようとして異次元に歪んでしまったようなポップネスが秀逸。山小屋で行ったという制作の現場を再現した(?)思わず脱力してしまうMVも憎めない。(駒井憲嗣)
Le Makeup – 「Boy」
睡眠と音楽の可能性を探求するレーベル《ZZZN》の、第一弾作品として『ZZZN EP Vol.1』というEPがリリースされた。CHARAなどの参加アーティストが睡眠をテーマに楽曲制作を行っている中で、私が最近よくライヴに出向く彼の楽曲をピックアップ。先日、駆け込んだ《SOCORE FACTORY》にて、散漫な情景をポツポツと切れたことばで歌っているこの楽曲を聴いて、あがっていた息がスンと落ちついた。微睡んでいる時の感覚。後ほどインストゥルメンタル・ヴァージョンを聴きながら、目を瞑って音楽を聴く時間が至福で、より生活に向き合えると気づいた。いつも睡眠とやるべきことは反対にあって、優先してあげられていなかった……! 新年度、生活しながらもリラックスを。(西村紬)
Louf – 「Warning Call」
Loufはロンドンを拠点とするプロデューサー。一定のリズムで刻まれるシンセのモチーフが崩れることなく清潔に展開されていくなか、フルートやブラスのような音のフレーズがやや異質で目立つ。EP『Our Intervals』(2022年)でもシンセの鈍いきらめきに、擦れるような音や有機的なボイス・サンプルを重ねており、それらはほのかに照らされるように浮き上がっていた。そういった点で、大仰ゆえに記名性が低く無臭のメランコリックなムードが、楽曲の異物感を目立たせるツーリストと似ているとも言えるだろう。本楽曲が収録されるファースト・アルバムは年内にリリース予定で、サウンド・デザインを重視した作品になるようだ。(佐藤遥)
Mess/age – 「Hi Wo Kaou」
Khan BrownとOhhki(元 Isayahh Woodha)からなるユニットが、米《Peoples Potential Unlimited》から新曲をリリース。闇の中から漂う微かなメロウネス、国籍不詳のローファイ・ファンクビートに乗せて歌われるリリックは、混沌とした世界に対する詩人の警句のようにも聴こえるし、深夜の街を徘徊する酔っ払いの戯言かもしれない。Message を「Mess=めちゃくちゃな」+「age =時代」と切り分けたユニット名同様に、不敵な両義性がクセになる。2019年に同レーベルからリリースしたWool & The Pantsへの京都からの回答という感も。(ドリーミー刑事)
Remi Wolf – 「Cinderella」
シンガー・ソングライター、レミ・ウルフのセカンド・アルバムからの先行シングル。「Photo ID」などからファンキーな雰囲気を纏っていたが、本作はより正当な70年代ソウルとしてその片鱗を顕在化させている。楽曲に陽気な雰囲気を充満させるホーン隊は、カーティス・メイフィールド「Move on Up」などを、また太いベースラインはスライ&ザ・ファミリー・ストーン「Family Affair」なども彷彿とさせる。日常生活で起こる感情の浮き沈みを描きながら、彼女はそんな時に、晴れた気分にさせてくれる楽曲を作って彼女自身を鼓舞する手段を取った。カラフルなMVは感情の起伏を表すだけでなく、虹色は多様性の象徴としても用いられていると思う。(杉山慧)
Tori & Pedro Fonte – 「Esquecer」
ドリーム・ポップ・バンド、Ipásiaのフロントマンも務めるブラジル・セルジペ州出身のトリ。ドメニコ・ランセロッチやブルーノ・ベルリといった、アウトサイドから国内のインディー・シーンを縁取っているSSWたちと声で協働する重要人物だ。新たに公開されたシングルは優美なサウンドによるデュオ曲、相対するのはアナ・フランゴ・エレトリコやダダ・ジョアンジーニョといった新世代が多数参加したアルバム『Luz Na Madrugada / Late Night Light』を昨年リリースしたペドロ・フォンチ。役者が揃い始めた2020年代のブラジル・インディー、まだ見ぬ怪作の萌芽がここにある。(風間一慶)
Text By Haruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiNana YoshizawaIkkei KazamaTsumugi NishimuraDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaDaiki TakakuYasuyuki Ono