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Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Anohni and the Johnsons – 「Breaking」

昨年久々に“ジョンソンズ”名義でのアルバム『My Back Was A Bridge For You To Cross』をリリースしてからというもの、アノーニが再び音楽活動に積極的になっている。8年ぶりに北米ツアーが行われることも発表され、締めくくりとなるニューヨーク公演まで、この秋は久々のライヴで話題を提供してくれそうだが、そんな最中に発表されたのがこの曲だ。『My Back〜』のセッション時に録音されたものだとはいえ、ダグ・ウィーゼルマン(ウェイン・ホーヴィッツ、ビル・フリゼール他)のクラリネットとギターを中心としたシンプルな編成は、R&Bシンガーとしてのアノーニの歌声にフォーカスさせた出色の仕上がり。アノーニ自身が撮影した北極海の映像とコリン・ウィッタカーによる映像をミックスして編集した抽象的なPVも不穏な美しさを放っている。(岡村詩野)

Caribou – 「Broke My Heart」

6月はジェイミーxxもフローティング・ポインツもクラブ回帰といえるようなキレのあるダンストラックを発表しているが、カリブー「Broke My Heart」もまた素晴らしい。「ある日ピアノの前に座ったら、ストリングスのリフが指先から流れてきて、ヴォーカルのメロディーもすぐ後に続いたんだ」とダン・スナイス(Dan Snaith)自ら語っている。クラブに特化したDaphni名義での活動からの反照にも聴こえるミニマルさ、そしてキャッチーなリフやボイス・サンプル使いのセンスは相変わらず。「Non-Lyrical Chorus」とされているコーラスは、まさに「曲が降りてきた」エピソードを裏付けるような軽やかさで萌える。(髙橋翔哉)

Macseal – 「Four Legs」

7月に5年ぶりとなるニュー・アルバムをリリースし、8月には東京、京都、大阪で来日公演も予定されているニューヨークはロングアイランドをベースに活動するバンドの最新楽曲。一音目から弾け飛ぶエレクトリック・ギターとバンドの影響源だというFountains Of Wayneのようなパワー・ポップ・メロディーに心をつかまれる。アナログ・ライクなシンセサイザーを使用したり、エモーティヴなヴォーカルを支えるコーラスも随所に登場させたり、楽曲途中でアコースティック・パートを用意して楽曲にメリハリを与えたりと、シンプルなようでいてじっくりと、丹念に作りこまれたパワー・ポップ・ナンバーに唸る。(尾野泰幸)

PIAO – 「flip phone」

ガラケーに触れたことのない世代も当然現れているわけですが、今回紹介するのはそんなガラケーの歌です。カナダはトロント出身の中国系カナダ人のポップ/R&Bシンガー、PIAOによるシングルで、プロデューサーにWes SingermanとTaydexという(このアーティストの規模感にしては強力な)布陣で制作された、いつバズってもおかしくない雰囲気ムンムンの、緩急あるフロウと滑らかな歌が魅力的なポップ・ソング……。少し調べてみるとPIAOはバークリー音大で音楽ビジネスとパフォーマンスをダブルで専攻していたとか。なるほど、狙い通りというわけですか、と皮肉っぽく言いたくなったりもしますが、「フリップ・フォン(ガラケー)で君を呼び出す/シンプルでトラディショナル」というリリックには少し頷きもします。複雑化する現代人の生活にガラケーがカムバックするとは思わないけど、ちょっとシンプルにしたいときもありますよね。(高久大輝)

urika’s bedroom – 「XTC」

LA拠点のシンガー・ソングライター、urika’s bedroom。2023年にシングル「Junkie」をリリース後、未だ謎の多いアーティストだが最近までNourished by Timeとツアーを周っていたそう。そんな彼の新曲「XTC」は色褪せた音色のギターやノイズを合わせたシューゲイザー、90年代後半オルタナの要素が入り混じる。さらに恍惚と揺られるブレイクビーツのグルーヴからはジョージ・クラントンのようなヴェイパーウェーブを想起するほど。けれど「エクスタシー・オーバードライブ」と囁く声、ニヒリズム的な歌詞、耽美なフレーズまで実はゴシックの要素が一番強いのでは? 今後の活動が気になります。(吉澤奈々)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

デキシード・ザ・エモンズ – 「ル・ノワール」

1990年に結成されガレージ・パンク、ブルーズ、GSサウンドに歌謡曲まで、いろんな具材を煮立った鍋にぶち込んだようなヴィンテージ・サウンドでライヴ・ハウスを席巻したデキシード・ザ・エモンズ。2006年に解散したものの、最近は「解散中を終了」としてライブ活動を再開。そしてついになんと18年ぶりとなる新曲を《KOGA Records》からリリース。掻き鳴らされるギター、疾走するドラム、怪しげな歌声。クセの強さだけで構成された3分間は他に並ぶものなし。台風クラブ、すばらしかなどの《NEW FOLK》周辺のバンド、ハシリコミーズや天国注射などに夢中になっている若いリスナーにも全力でおすすめしたいカッコよさ! (ドリーミー刑事)

Hak Baker – 「LUVLY」

ハク・ベイカーは、グレナダ人の父とジャマイカ人の母の間に9人兄弟の5番目として、ロンドンの北にあるルートンで生まれたシンガー・ソングライター。昨年発表のデビュー・アルバム『Worlds End FM』はレゲエやグライム、パンクを内包したアーバン・フォークとも言うべき内容で高く評価された。そのデビュー作以来となるこの新曲はメランコリックな旋律に乗せて、英国の若者の生活を断片的に描いていく。刑務所から出てきたばかりの若者が出所祝いで馬鹿騒ぎをし、やがてドラッグディーラーとしての生活に戻っていく様子を描いたMVとシンクロしており、社会と分断された若者たちの問題を楽曲と共に突きつけている。(油納将志)

Isik Kural – 「Almost a Ghost」

《RVNG Intl.》のコンピレーション『Salutations』に参加、自身の作品では様々な風景をふわりと行き来し、あたたかく生き生きと捉えてみせた、イスタンブール出身でグラスゴー在住のIsik Kural。本楽曲は9月リリースの『Moon in Gemini』の先行曲。ナイロンギターのフレーズに複数のコーラスが編み込まれ、語りと歌の中間のようなヴォーカルをくるむ。心地の良いうたたねのようでもあり、日常に宿る神々しさそのもののようでもある。実験的なヴォーカルという点でPiotr Kurek『Peach Blossom』や、音のムードからヌーノ・カナヴァーロ『Plux Quba』も思い浮かぶ。季節が移ろいゆく頃に届くアルバムが楽しみ。(佐藤遥)

mei ehara – 「まだ早い果物」

冒頭の「簡単な返事を迷って 塞ぐ」という一節に、いつぞや人から聞いた「優れた歌詞とは、誰もが感じていながら、まだ誰も言語化してない感情を描写すること」という話を思い出しつつ、うなずく。2つのコードを繰り返すシンプルな展開をベースラインが先導し、その上を力むことなく鳴るレゲエ・テイストのギター、焦らずに紡がれる少しの言葉。淡々としてリラックス感のあるグルーヴに気持ちが和らぎ、暑さを増していく今ごろにも心地よい。ふと流れたラジオで偶然耳にするのも似合う曲かもしれない。《カクバリズム》在籍のmei eharaより、ニュー・アルバムが待たれる中でのリリース。過去にコラボも果たしたフェイ・ウェブスターのアメリカ・ツアー出演も決定。(寺尾錬)

MICHELLE – 「Oontz」

NYを拠点に活動する6人組コレクティヴ、MICHELLEの最新アルバムからの先行楽曲。この曲の特徴は、4人が代わる代わる歌うという彼女らの個性によって、ダンス・ミュージック特有の繰り返すことで醸成される熱量を損なうことなく、ポップ・ミュージックに大切な変化(フック)を兼ね備えた所と言えるだろう。歌詞は恋愛における嘘をテーマにしており、「あなたは私が思っていたような人ではない」と、自分の思い込みの部分も含めてぐるぐると一人で思考している。こうした描写があることで、単純な繰り返しで構成された踊らせるための楽曲である本作を、歌詞の面からも補強していると捉えられるのではないか。(杉山慧)

もえ子 – 「ガガーリン」

彼女がいま何を見て、何を思っているのだろう、と気になる。人物像とは無関係に、単純に視聴者でありたいと思っても、どうしてもたくさんの話をしたいと思う。若きシンガー・ソングライター「もえ子」の、前作から3年を経て2枚目のEPがリリースされた。表題曲「ガガーリン」には、旋律を超えて内側から思いが溢れてくる部分がある。ガガーリンに問う場面では、地球が赤くて瞳が地球だったというロマンチックな結末。その中にアイロニーを散りばめて、色彩豊かなもえ子ワールドができあがっている。私は、弾き語りを聞く機会が少ないのだが、シンプルな手法の潔さに気づくと同時に、自分の言葉を持っている人が好きだと思った。詩人の石垣りんは「海は青くない 青く見えるだけ 私は真紅の海 海に見えないだけ。」(石垣, 2003,p.107)と詠っていて、ずっと大地と自分の接点を思索していた。そんなふうに、街角で世界を睨みながら自分との接点のバランスを取る彼女の歌をずっと聴きたいと思った。(西村紬)

Pond – 「Edge Of The World Pt. 3」

70’sサイケデリアとマキシマムR&Bを撹拌したPond初のダブル・アルバム『Stung!』は、その幻惑させる音像のなかに、カタストロフ下のささやかなロマンティシズムと希望を描く。なかでも8分に及ぶこの曲はフルート、サックス、テクノ的ドラム・シークエンスが次々に立ち現れる展開の末、アウトロでDungenのReine Fiskeが目の覚めるギターソロを披露し、ロック・オペラのごときクライマックスを彩っている。ブリッジで歌われる「灰があなたの髪に舞い落ちて眠りについた」とは、フロントマンのニック・オルブルックが2019年にオーストラリアで起こった森林火災「ブラックサマー」のさなかに目撃した恋人たちの姿を描写しているのだという。(駒井憲嗣)

Quartabê, Ná Ozzetti – 「Maricotinha」

ジョアナ・ケイロスやマリア・ベラルドといったブラジルの俊英プレイヤーたちによるアヴァンギャルドな室内楽プロジェクト、クアルタベー。今年で結成10周年を迎えたバンドがリリースしたEP『Repescagem』は、ブラジルのポピュラー音楽にとっての核となる最重要コンポーザー=ドリヴァル・カイミへのトリビュートだ。いつもは幽玄かつ繊細なエッセンスでアンサンブルに艶を与えるジョアナ・ケイロスのクラリネットも、このプロジェクトでは重厚なシンセサイザーとトランシーなコーラスの連なりと呼応して、仄暗い一面を見せる。まずはナー・オゼッティを招いた一曲から、今年度のMPBでも屈指のディープ・スポットであるクアルタベーの深淵を覗いてほしい。(風間一慶)


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Text By Haruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiNana YoshizawaIkkei KazamaRen TeraoTsumugi NishimuraDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaDaiki TakakuYasuyuki Ono

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