Back

「熱中しているだけの人がもっと自然に存在していい」
『Some Dad Rap Songs』から最新作『Mirrors』へ
VOLOJZAが地元・松戸で語る

30 July 2026 | By Daiki Takaku

Interview with VOLOJZA

5月のいつかの週末、電車に少し揺られて千葉へ。

松戸駅に着いて、チェーン店の並ぶ郊外らしい駅前をふらついていると、約束の人物から着信が入る。

「今駅の近くにいて。あ、吉野家が近くに見えます」

「そっか、じゃあそのままその辺にいてもらえたら」

インディー・レーベル《VLUTENT RECORDS》を率いるラッパー/ビートメイカーのVOLOJZAは、勝手知った様子で電話を切ると、ほどなくして目の前に現れた。

「テキトーに喫茶店でも入ろうか」と一応の目的地を決めて、世間話をしながら2人で駅前を歩く。VOLOJZAは言う。

「今はさ、良くも悪くも勝ち筋が見えてるからね。本当は別の道なんてたくさんあるんだよ。でも一つの勝ち筋が見えている分、他が負け筋に見えてしまうから、だからどうしても、その勝ち筋を追う以外は怖くてできなくなっちゃうんじゃないかな?ラップに限った話じゃないけれど。」

勝ち筋というのは、例えばオーディション番組で勝ち抜くとか、デカいフェスに呼ばれるとか、そういうことだろう。

「そういう道があること自体はまったく悪いことじゃないんだけどね。ないより絶対良いし、ただ良い面も悪い面もあるって話で」

とりあえずで入った星乃珈琲店は満席。「この辺もだいぶ変わっちゃったんだけどさ、そういえば良さげなとこあるんだよね」とVOLOJZAの案内で少し通りを歩いた先にある、いわゆるレトロな空気の漂う喫茶店へと向かい、無事に席に着く。

「要するに、前は勝ち筋も見えない代わりに負け筋も見えなかったから、あまり現実的な事をちゃんと考えなくて済んでいたんだろうね。ラップするの楽しいし、曲作るのも楽しいからやっていて、なんとかなるんじゃねって。楽観的だった。自分がラップを始めた頃に聴いていた降神やMSCは、ラップで食えていると思っていたしね。変なことやっていても食えるんだと思ったわけ。後々になって、どうやらそんなに食えてないらしいぞ?となるんだけど、そのときにはもう遅いっていうか。他にやりたいこともないし、まあ一生懸命やるかって感じでさ」

“音楽だけで食っていく”というのは、おそらく若いミュージシャンにとって永遠の課題だ。年配の女性の店員にブレンドをホットで注文して、話は続く。

「俺はもう音楽じゃない仕事をしながら活動するのが長くなりすぎて、そういう感覚がなくなっちゃっているのかもしれない(笑)。“これで食っていく”なんて40代になっても実現してないのに言うのもワケわかんないから。野心がないわけではないんだけど、あんまり考えていないってのが本音かな。結局は、カッコいいものが作れればいい。周りに迷惑を多少かけながらも、まあガチギレはされない範囲でさ」

「でも、『其レハ鳴リ続ケル』(2021年)は客演もたくさんいて、“広げよう”という意思のあったアルバムなのかと思っていました」と湧いてきた疑問をぶつけてみる。

「あのアルバムを作ったのは、コロナ禍であまり人と会えない期間で。それもあって繋がり的な、アルバム作って、それでパーティーとかやって、知ってる人も知らない人も遊べたら楽しいだろうなってところがきっかけかな。近い人に喜んでほしい気持ちもデカくて。コロナ禍で自分はちょっと躁状態だったというか、すげえやる気があって。でもやっぱり逆の人もたくさんいて、何も手につかない、みたいな。だから俺のやる気があればあるほど嫌な感じもあったのかな?というか。その時期にバックDJをやってくれていたDJ AGAが亡くなってしまったりもして、浮かれてたなって気持ちにもなって。なんかムズいなって思ったんだよね」

それでも実際、コロナ禍でリリースされたKID FRESINOとの「I LIKE YOU」は多くのリスナーの心をほぐすような力を持った曲だった。

「あの曲は佐々木(KID FRESINO)とやった方がいいと思ったんだよね。野心というか、プロデューサー的な感覚だよね、あのトラックはすげえキャッチーだから、ソロでやるのは難しくて、一度ボツにしたもので。綺麗だし、自分はめっちゃ好きだけど、一人でラップするのは恥ずかしいし。で、いろいろ考えていたら佐々木が思い浮かんで。佐々木とは古い繋がりではあるけど、すごく活躍してるから、誘うのも勇気がいるんだけど、好奇心というか、あるじゃん、映画とか観て“こいつが参加した方がよかったよ”みたいな、それだよ。みんなに喜んで貰いたいモードだったのもあるしね。佐々木にはめちゃめちゃ感謝してるよ」

「じゃあ今はどんなモードなんですか?」。話を今に近づけてみる。

「ダウナーだね(笑)。モチベーションがないんだよね、それが悩みかな。いや、結局ビートが良ければやる気が出るんだよね。最近ちょっと忙しくてビートを作れていないから、サイクルが崩れていて。だから作り始めればモチベーションは湧いてくるとは思ってるんだけど」

「え、じゃあSubjxct 5のビートで作っていたときは?」。ラウンジーとは言い難いピアノ・ジャズが流れる店内で、この日彼に会った目的──ニュージャージーのプロデューサー、Subjxct 5とタッグを組んだ最新作『Some Dad Rap Songs』の取材をさりげなく始める。

「いや、ビートがめっちゃいいから、上がってたよ。最初にコンタクト取ったのは一昨年くらいかな。彼の相方的なPapo2oo4ってラッパーとの作品を何個も出しているんだけど、それがカッコいいなと思ってフォローしたタイミングで1曲目で歌っている通り、日曜日に家族とバスケやってサイゼ行った帰りとかにDMが来たんだよね。“Yo!! お前の曲聞いたぜ!ビート買うか?”って。『潮』(2024年)を聴いてくれたみたいで。その前の週に《VLUTENT RECORDS》のdoqのヴァースを録り終わった後、Subjxct 5が良いって盛り上がってたのもあってブチ上がりだよね」

とはいえ、Subjxct 5がリアクションをくれたという『潮』と比べると『Some Dad Rap Songs』は極めてラッパー然とした作品となっている。

「ソロのラッパーとして同じビートメイカーと1枚がっつりやるのはKECHAさんとやった『SIAM』(2014年)以来なんだけど、Subjxct 5との1曲目のイントロはショーン・プライスの「Bar-Barian」のサンプリングで。ショーン・プライスが好きだったし、すごい引っ張られて、ラップ然としたラップになったんだよね。それで、自分が昔から聴いてきたもののニュアンスとか、言葉遊びとかが自然に出てきて、自分が好きなものをベースにラップする流れになったかな。そう、やっぱりビートなんだよね。ラップのクオリティも全部ビートで決まるから。ビートが良ければラップも良くなるんだよ、絶対」

なお、Subjxct 5から初めに来たビートはブーンバップが中心だったため、Gユニット風の「はっきり言って」と「ダウナー」、《No Limit》風の「ローマ」と「ゲーム7」は追ってオーダーしたものだそう。話を引き戻して、ラップをどのように構築していくのか、そもそものところから聞いてみる。

「まずワン・ライン思いついたらここはこれで韻を踏みたいっていうのが出てくるわけ。そしたらそれに誘発されるように次々に思いつくんだよね、使いたいラインが。で、それを入れるために作っていく。その上で細かい調節をして意味を作って、自分の中で筋が通るようにしていくから、最初から何かのオマージュを入れたいとか、このトピックについて話したいというよりは、構造に引っ張られて自分が考えていることが出てくる。だからラップ、ライムっていう構造が先にあるんだよね」

VOLOJZAが「構造が先」と話すのは、決して突飛なことではない。そこにはVOLOJZAの愛したラップの影響が色濃く存在している。

「ロック・マルシアーノとかゴーストフェイス・キラーとか、キャムロンがずっと好きで。要は一見ナンセンスに感じるけどめちゃくちゃ面白い言い回しで韻を踏むみたいなタイプのラップがベースになってる。だから現行の音というよりは、昔の自分の教科書にしていたラッパーのスタイルを踏み台にして今の自分が思っていることをラップした感じだね」

気になるのは、そういった作品にアール・スウェットシャツの傑作『Some Rap Songs』へのオマージュであろう『Some Dad Rap Songs』というタイトルを付けていることだ。

「タイトルはノリで。クラブ行ったときに“アルバムできたよ、結構ダッド・ラップって感じだね、だから『Some Dad Rap Songs』だよ”、みたいなことを友達に冗談で言ってたんだけど、それいいなって」

そうは言うが、VOLOJZAがアール・スウェットシャツやビリー・ウッズの率いる《Backwoodz Studioz》、マイクの率いる《10k》周辺のアンダーグラウンド・ラップに並々ならぬ共感を示してきたのも事実だ。

「彼らが作ってきたシグネチャーなスタイルが《Backwoodz Studioz》にしても《10k》にしてもあると感じるし、ラグジュアリーじゃなくて自分の生活圏内ともなんか地続きに繋がっているような感じがするんだよね。市井の人のままのエクスペリメンタルというか。ここ数年は自分にとってのベスト・アルバムは《Backwoodz Studioz》のカタログから出たものばかりだし。変なことをずっとやってる大人が好きなんだよね。音楽が好きでラップが好きでやってるのに、結局業界人の思うような売れるものを打算的にやるのはつまんなくない?金持ちになるんだったらもっと他にたくさん方法があるだろうし、なんで今更打算的に生きるの?って。でもそんなこと言えるのは俺が豊かだったからかな、とも思うわけ。豊かっていうのは家族や友人に恵まれていたりまだ未来みたいなものがぼんやり信じられる状況だったって事なんだけど。単になんも考えてなかったといえばそうなんだけど何も考えて無いことが別に許される空気がある状態が豊かだとしたら自分にはそれがあったんだよね運良く。逆に今は切羽詰まった社会の状況の中で這い上がれる手段としての側面強くなってるから中々難しいんだけど。ただ、何かを好きで、熱中しているだけの人がもっと自然に存在してもいいかなって」

その想いはSubjxct 5のビートに引き出される形で、『Some Dad Rap Songs』に溢れている。

「俺は、“〇〇ってラッパーの曲は聴いていなきゃいけない”みたいなことを言うのはすごく嫌で。一般的なヒップホップのどうのこうのみたいなの、マジで興味ないからさ。本当に、自分の好きなものだけを詰め込みたかったんだよね。例えばショーン・プライスはブラウンズビルのめちゃくちゃな暴れん坊みたいなリリックの中に、自虐的なジョークも入れながらカッコいいラップをしていたわけ。“俺は一番貧しくてうまいラッパーだ”みたいな。そういうものが好きって気持ちが無意識にだけどやっぱり出ていると思う。伝わったら嬉しいな。だから『Some Dad Rap Songs』は、俺の中の俺の思うラップはこうだっていう作品になってるんだよね」

「アンダースタディ」での“Yuki Kawamura(河村勇輝)”のネームドロップもVOLOJZAのラップに持つ美学が映し出されたものの一つだ。

「海外のラップってこうだよねっていうのを日本語で、わかる言葉で自分が思うあっちのノリを再現できたらっていうのが一番ベースにあるかも。あっちのラップはめちゃくちゃ固有名詞出るし、地元の全然わかんないスラングも入れる、だから固有名詞を入れて、何のことかわかんないけど、やべえみたいな、こいつの生活気になる、みたいなのが良さだと思っていたから。自分の日常を歌いつつ、響きはめっちゃあっちっぽくしているというか。彼らも身近なことを歌っているわけだから、そういうのを俺も俺なりにやりたいなって。例えば政治性がリリックに宿っているとしたら、それは自分の描く世界に自然と写り込んでいるものなんだよね」

スライの『暴動』についても歌っている「ゲーム7」はタイトル通りNBAのプレイオフ中に書かれたラップであり、「日本を舐めるなと 俺を睨んだポスター」というラインが現実のものであることは(加えてスライの亡くなった日に書いたラップでもあるそう)その証左だろう。「はっきりいって」で“MEGUMI”をネームドロップしていることに触れるとVOLOJZAは嬉しそうに笑う。

「MEGUMIがマスクをめっちゃするの、シート・マスクね、それをスキー・マスクとかけてて(笑)、俺もスキー・マスクして強盗はしないけど保湿はしてるしまだまだあがってくぜみたいな(笑)。実際年齢を重ねると本当に保湿とか大事だから。そういうのも結婚していわれないとやらなかったから、俺にとっては現実的なネタだよね。シリアスじゃないよ。シリアスな中で生きていて楽しくやるんだよ。それがラップのいいところじゃない」

時刻は19時を過ぎた頃合いで、年配の女性店員から声がかかる。「ウチ、もう閉めちゃうから、ごめんね」。喫茶店にしては早い店じまいにやや気圧されつつ、急いで取材を締めようとするとVOLOJZAが別の話を始める。

「実はもう今年は一個アルバムが出るんだよね、自分のセルフ・プロデュースで。本当は『Some Dad Rap Songs』より先にできていたんだけど、いろいろ考えてちょっとズラしてだそうかなって」

驚きながらも、最後に次の作品について教えてもらった。

「モノトーンだね。ニュアンスとしては『割れた鏡が見た何か』(2023年)に近いけど、もっと厭世的というか。最初は楽しく聴けて……聴いてもらうとわかるけど、段々、結構俺の作品の似たところで、日常っぽいけど、どこかすごく変な、ぐにゃっとした瞬間があって、新作はぐにゃっとしたまま終わるというか。最初はラップしているけど、最終的にはラップしなくなって、子どもが歌って終わる。だから結構不思議なアルバムかな。通しで聴いた感覚、後味みたいなものが大事だと思うし、それが気に入っていて。だから曲一つずつよりも通して聴いてもらえたら嬉しいね」

最新作『Mirrors』は8月5日にリリースされる。今回の鏡は割れていない。

(インタヴュー・文・写真/高久大輝)

<了>

Text By Daiki Takaku

Photo By Daiki Takaku


VOLOJZA

『Some Dad Rap Songs』

LABEL : VLUTENT RECORDS
RELEASE DATE : 2026.03.18
各種配信リンク
https://linkco.re/VqEuVtzQ

VOLOJZA

『Mirrors』

LABEL : VLUTENT RECORDS
RELEASE DATE : 2026.08.05
各種配信リンク
https://linkco.re/4rHV36rf


1 2 3 90