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【未来は懐かしい】Vol.11
山下達郎「Sparkle」のキラーなカヴァー・ヴァージョンを収録した、
ハワイアンAORバンド唯一作が国内盤としてリイシュー

14 July 2020 | By Yuji Shibasaki

山下達郎による1982年の名曲「Sparkle」(及び同曲をオープナーとして収録するアルバム『FOR YOU』)は、ここ数年で巻き興ったジャパニーズ・シティポップ・リヴァイヴァルの象徴的存在として、今や世代や地域を問わず絶対の傑作としての地位を確立している。こうした状況を準備した大きな要因として、YouTubeを主としたインターネット上での後年世代からの注目があったことは既に様々な場面で語り尽くされている感がある。しかし、現在のリヴァイヴァルが本格する前夜に光を当ててみると、UKやUSのDJ達を中心に、様々な場面で山下達郎の音楽がプレイ(あるいはミックスに収録)されてきた様子も見えてくる。そして、更に遡るなら、オリジナル・リリース当時にも、「海外からの評価」がたしかに存在していたことも分かってくる。

今回紹介するのは、ハワイ生まれの日系ミュージシャン、ロビン・キムラを中心に結成されたホーン・セクション入りの大所帯R&Bバンド、グリーンウッドによる唯一のアルバム(2014年)の国内再発CDだ。このCD、初版となる自主レーベルからの海外版リリースにあたっても少々入り組んだ事情を介しているため、まずはそのあたりを整理してみよう。

70年代からハワイ内のホテルやナイトクラブを舞台にライヴ・バンドとして演奏を行っていたグリーンウッドは、一旦81年にオフィシャルな活動を終了していた。その後「記念」として7インチ・シングル制作の話が持ち上がり、少数プレスで85年にリリース、続いてアルバム制作のアイデアもあったようだがシングルの売上不調もあいまってそのまま立ち消え、グリーンウッドの存在も歴史の中に埋もれていった……。

しかしその20余年後、突如ここ日本で彼らの7インチが「再発見」され、2009年、DJ MUROによる伝説的ミックスCD『Hawaiian Breaks』に収録されるに至って、にわかに熱い注目が集まることとなったのだ。その曲こそ、件の7インチのB面に収録されていた山下達郎の「Sparkle」のカヴァーだったのだ。

グリーンウッド版「Sparkle」は、あの特徴的なイントロのギター・カッティングを含め、オリジナル・ヴァージョンを(英語詞に変更した以外)ほぼ忠実にコピーしたもので、その真摯なオマージュ具合はもちろん、自主制作盤ならではのローファイなミックスなど、ブライトな曲想と対象的なグルーミーな耳触りが他に得難い、まさにキラーな出来栄え。現地で発掘され日本に送られた追加のデッドストック在庫もまたたく間に売り切れるなど、当時ヴァイナル・シーンを大いに賑わしたことを覚えている方も少なくないであろう。

ところで、そもそもなぜハワイのローカル・バンドが「Sparkle」をカヴァーすることになったのだろうか。彼らはいったいどこで「Sparkle」の存在を知ったのか。その問へのキーマンが、現在も日本の各FMステーションで活躍する米国出身のラジオDJカマサミ・コング(KAMASAMI KONG)だ。80年代にはハワイのKIKI FMにてDJを務る傍ら、日本でもラジオ大阪でレギュラー番組を持ったり、折からのラジオ・スタイルのミックス・テープ・ブームも追い風となり、角松敏生『Surf Break from Sea Breeze』(1982年)や杉山清貴&オメガトライブの『カマサミ・コング・DJスペシャル』(1984年)、そして山下達郎『COME ALONG II』(1984年)へもナレーターとして録音参加するなど、いわば日本のシティポップ・シーンの活況を同時代の本場(ハワイ)へ伝えるハブのような役割を果たしていたのだ。

今回再発されたCDに付属のライナーノーツなどによると、このカマサミ・コングこそがバンドへ同曲を紹介した張本人だったようだ。また、バンド・メンバーの何人かはかねてより日本の音楽も好んで聴いていたという(当時の日系人コミュニティー内にそういった紹介ルートがあったのだろうか?要研究のテーマだ)から、当時の最新型「シティポップ」にもある程度馴染みはあったのだろう。ちなみに、件のオリジナル7イチのA面曲(本CDにも再収録されている)は、日本のフュージョン・バンド、スペクトラムの珍曲「ミーチャンGoing to the Hoikuen」のカヴァーだ(タイトルは「Cheerleader Strut」と変更されている)。

さて、折良くも(?)グリーンウッドは2005年、《70’s Nightclub Reunion》という、当時のハワイアンAORのアクトが集結した地元イベントに出演するため再結成を遂げており、その後も度々同イベントで演奏を行っていた。そこへ飛び込んだ日本のレコード・ディーラーからの7インチへの賛辞と熱いメッセージ。ロビン・キムラ本人もこれを受けて発奮、30年も前に頓挫していたアルバムを完成させようと動き出すこととなった。 そしてついに、過日録音していた素材を織り交ぜつつ新録を軸に構成されたのが、この『Lost In Paradise』だ。2014年自主レーベルよりリリースされた同作だが、例によって制作枚数も少なく流通上のハードルなどもありすぐに入手困難盤となってしまっていた。2016年には、現在に続くハワイアンAORブームを形作った、英《STRUT》と現地ハワイのレーベル《Aloha Got Soul》が協同リリースしたシンボリックなコンピレーション『Aloha Got Soul』をリリース、ここにも「Sparkle」が収録されたことで、グリーンウッドの名は更にファンの間へ浸透していたのだった。そんな中、今回5年ぶりに国内盤として手に入れやすい形で本作が再登場したのは、実に喜ばしいことだ。

ところで先に断っておくべきだろうが、この『Lost In Paradise』収録の「Sparkle」、「なぜか」というべきか(そのあたりの「ユルさ」がまた好ましさでもあるのだが……)、オリジナル7インチ・ヴァージョンでなく別ヴァージョンとなっている。しかし、だからといって過剰に「今っぽい」味付けがされてしまっているというわけでもなく、ミックスの完成度やグルーヴの推進力などからして、むしろこちらのテイクの方がベターに思えたりもする(山下達郎のオリジナル版との共振度という意味でもこちらのバージョンの方が面白いかもしれない)。

他に収められた楽曲も、前述の「Cheerleader Strut」をはじめとしてすべてカヴァー曲。ナイトクラブ叩き上げバンドの面目躍如たる、テンプテーションズの「Get Ready」やバディ・マイルスの「Them Changes」のタフな味わい、実にメロウなタヴァレスの「If That’s the Way You Want It」や、ファンキーなボズ・スキャッグスの「We Were Always Sweethearts」など魅力的な演奏が並ぶが、中でも注目したいのが「Never Can Say Goodbye」だろう。オリジナルは篠塚満由美作詞によるスペクトラムの歌ものバラード曲(渡辺直樹歌唱)で、「ミーチャンGoing to the Hoikuen」と並ぶ意外すぎる選曲だが、オリジナル版にあった歌謡的なムードを保ちつつ、よりメロウ&ウォームにまとめており、聴きものだ(チープなシンセ・ストリングスのサウンドも珍味)。

全編にわたって、叩き上げの演奏力によって下支えされた骨太なグルーヴが彼らの最も際立った魅力であり、ひとくちに「ハワイアンAOR」といえども、様々な音楽傾向のアクトが多くひしめいていたという事実が思い知らされるようだ。

昨今、「シティポップ・ブーム」の爛熟が言われるに伴い、ことさら現在的な視点からの海外評価ばかりが取り沙汰されてきた傾向があるように思うが、現地録音などを含めたAORシーンとの実際の交流や、このグリーンウッドの作品を通して見えてくるような、「メロウでファンキーなサウンド」を共有域とした様々な(タイニーかもしれないがしかし忘れがたい)創造の交歓があったことも、気に留めておきたい歴史的出来事だろう。(柴崎祐二)


Greenwood

『Lost In Paradise』



2020年 / AGATE / Inpartmaint(Reissue)

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Text By Yuji Shibasaki

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