BRINGING THE PAST TO THE FUTURE : 09 July 2019

Dennis Young

BRINGING THE PAST TO THE FUTURE〜未来は懐かしい #4

By Yuji Shibasaki

BRINGING THE PAST TO THE FUTURE : 09 July 2019

Dennis Young

BRINGING THE PAST TO THE FUTURE〜未来は懐かしい #4

By Yuji Shibasaki

ポストパンクとニューエイジ、内向と享楽が併せ立つ、異形のベッドルーム・ダンスミュージック

Dennis Young 『Primitive Substance』

アーリー80’sのNYアンダーグラウンド・シーンに漲っていた脱ジャンル的なエナジーについては、近年でこそ様々な証言や研究によって徐々に明らかにされつつあるが、今その重要性が認識されている程度に当時から関心が注がれていたかというと、疑問を挟むべきだろう(特にここ日本では)。この10数年で決定的となったアーサー・ラッセルへの再評価にも見られる通り、このあまりにハイ・ブリッドで(語本来の意味として)ポスト・モダン的なシーンは、過ぎ去った狂騒の後に振り返られることによってようやくその真価を我々の眼前に表すこととなったのだった。

ポスト・パンクやディスコ文化、ヒップ・ホップ、各種コンテンポラリー・アートやクィア文化などが渾然一体となって展開したこのシーンにあって、Liquid Liquidこそはそのダンス的享楽性で、特筆すべきポピュラリティを持ったバンドだった(レコードがよく売れた、という意味ではない)。ESGと並ぶ《99 Records》の代表的アクトとして12インチ・リリースを重ね、「CAVERN」がグランドマスター・フラッシュ&メリー・メルの「White Lines(Don’t Don’t Do It)」で大々的にサンプリングされるなど、はじめからシーン横断的な魅力を備えたバンドでもあった。彼らのサウンドをオリジナルなものにしているのは、各種パーカッションの反復的ビートであり、時にマリンバをも交えたカラフルなリズム・テクスチャーだが、それを牽引したのが中核メンバーのデニス・ヤングだった。

これは、そんな彼がバンド解散後1987年から2004年にかけて録音/リリースしたもの(一部未発表音源)に、自ら再ミックスとオーバーダブを施した作品集である。これまでも80年代前半にホーム・レコーディングしていた作品や、カセット・テープ作品などがリイシューされてきたデニス・ヤングだが、本作はそうした一連の流れのクライマックスというべき充実の内容となっている。多様な時代に録音された音源が渾然と配置されるが、ミックスとオーバーダブの効果によって全編に渡り確かな統一感が感じられる作りとなっている。その統一的傾向をざっくりと言ってしまうなら、いわゆるニュー・エイジ的なテクスチャーかもしれない。ポスト・パンクを出自とする音楽表現においてニュー・エイジ的な要素が接合するという、かつては想定もし得なかったハイ・ブリッドが見事に成し遂げられている様に今、心を動かされないわけにはいかないだろう。しかも当たり前のことだが、この音楽は、そうした結合が来るべき2019年的のリスナーに同時代的快感を与えるだろうなどとは予想しえない過去に作られたもの元にしているのだから、なお驚きなのだ。

ただ、それ以上にこの音楽を面白く感じさせるのに大きな役割を果たしているのは、メディテーショナルなシンセサイザー音やマリンバのサウンドが醸す表層上のニュー・エイジ的要素を下からしっかりと支える、DIYなダンス・ミュージックとしての強度だろう。特に1991年に制作された“Pulse”からの数曲は、Liquid LiquidがNYオールドスクール・ヒップホップとの共振のもとにその輝きを後世に伝えられているように、まるで、シカゴ・ハウス〜アシッド・ハウスがパラレル・ワールドへ迷い込んだ(ダンス・フロアからベッドルームに逆行した)とでもいいたくなるような音楽的符合を聴かせる。また、2004年の“Old Dog, New Tricks”からの曲は、往年のバレアリック・クラシックにも通底する祝祭感を湛えながら、どこかインナーなムードも漂い、極めて<使い勝手が良さそう>だ。また、遡って87年に録られた初出含む幾つの曲は、エレ・ポップ〜イタロ・ハウスをアヴァンギャルドな方法論で再解釈したようなパンキッシュな肉体性を聴かせたりもする。

ポスト・パンク的パトスとニュー・エイジ的沈潜が、更には、内向的密室性と外向的ダンス的享楽が、時にいびつな形をさらけ出しつつ両立しうること。一見相反するかにように区分けされてきたこと/ものが、音楽においてこうして並び立つとき、オルタナティブの始原と行く末がぼんやりと見えてくる。「これ」と「あれ」が一人の音楽家によって素朴に接合されていたことを知る時、今皆が求めているにもかかわらず幻のように捉えがたい「これではないなにか」も案外すんなりと姿を表わすのかもしれない。デニス・ヤングが人知れず作り続けてきた楽曲たちにその姿を探してみるのは、2019年の音楽リスナーにとって、実におもしろい作業となるだろう。(柴崎祐二)

■Athens Of The North Official Site
www.athensofthenorth.com

【未来は懐かしい】
第5回 Various Artists『Digital Kabar”Electronic Maloya From La Reunion Since 1980″』
文化混交と多様性の称揚〜レユニオン島の「エレクトロニック・マロヤ」を聴く
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf5/

【未来は懐かしい】
第3回 Azimuth 『Demos 1973-1975 Volumes 1&2』
神話時代のブラジリアン・フュージョン、そして〈プログレッシブ〉
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf3/

【未来は懐かしい】
第2回 Joe Tossini and Friends 『Lady of Mine』
純粋経験としてのポップス~「アウトサイダー・ミュージック」のその先へ
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf2/

【未来は懐かしい】
第1回 キングコングパラダイス 『Atsusa Mo Samusamo…あつさもさむさも…』
既存の音楽地図を引き破る、脱ジャンル的秘宝盤
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf1/

Text By Yuji Shibasaki


Dennis Young

Primitive Substance

2019年 / Athens of the North
■購入はこちらから


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