BRINGING THE PAST TO THE FUTURE : 08 May 2019

Joe Tossini and Friends

BRINGING THE PAST TO THE FUTURE〜未来は懐かしい #2

By Yuji Shibasaki

BRINGING THE PAST TO THE FUTURE : 08 May 2019

Joe Tossini and Friends

BRINGING THE PAST TO THE FUTURE〜未来は懐かしい #2

By Yuji Shibasaki

純粋経験としてのポップス~「アウトサイダー・ミュージック」のその先へ

Joe Tossini and Friends 『Lady of Mine』

これは、著名なミュージシャンによる記念碑的作品でもなく、歴史に名を残す堂々たる名盤でもない。日常の中で音楽を奏でてきたオーディナリー・パーソンによる音の記録だ。一人の若者がミュージシャンとしてヒロイックな活動を繰り広げていくロック式のビルドゥングス・ロマンから最も離れた、だがそれゆえに激しく尊いなにかである。

イタリアはシチリア島産まれ、後にボローニャへ移り、更にはデュッセルドルフ、トロント、フィラデルフィアと祖国を離れ流転の人生を歩んできたジョー・トッシーニ。1977年、母の死に接し一時は抑うつ状態に陥るが、幼少期より親しんできた音楽に救いを求め、作曲を通してその精神を緩やかに回復していったという。更にその後ニュージャージーに移住し、同じイタリア系の米音楽業界の大物バンドリーダー、ペッピーノ・ラッタンツィと出会い交流を深めることになった。ジョーの才能を高く買ったペッピーノが舵取り役となり、周辺ミュージシャンを一同に集めて制作されたのが本作『Lady of Mine』(1989年リリース)だ。

哀情溢れるイタリア流セレナータをルーツとしたマイナー調楽曲に、カシオトーンを駆使した極めてチープな電子音、妙に切れの良いホーン・セクション、セクシーな女性コーラス、突如切り込んでくる泣きのエレキ・ギター、そしてジョー本人の切々としたヴォーカルが乗るこの音楽の魅力を語ろうとするとき、多くの人が「アウトサイダー・ミュージック」という呼称を授けようとすることだろう。たしかに、美麗とロー・ファイが不可思議なバランスで同居する様は、ゲイリー・ウィルソンやチャック・センリック、ジェフ・フェルペスといったアーティスト達によるオブスキュアAORの名作群にも近しい質感を湛えている。実際に、本作が注目を集めたのは、ジュリアン・ドゥシエとDJサンデーによる2016年のコンピレーション『Sky Girl』へM7「Wild Dream」が収録されたことをきっかけとしており、珍奇なグルーヴを求めるディガー的な視点から評価されたという事実もある。しかしながら、こうしてオリジナル・アルバムのリイシューで全貌に触れてみると、そうした「珍盤礼賛」的視点のみでは取りこぼしてしまう音楽的美点に彩られていることがわかる。

それはどんなものかといえば、収められた音楽から強く感得される、音楽を固有的に対象化するのではなく、あくまで常なるものとして行為している様=「ミュージッキング性」によって生み出されるサムシングだ。当たり前のことだが、彼はここで何か珍奇なものを作ってやろうとか、後年のディガーをしてギョッとさせてやろうとか、そういう欲動に動かされているわけではない。自身を救ってくれた音楽制作を通して、音楽制作そのものを祝福しようとしているように感じてならない。音楽が値を付けられたり、マーケティングの対象としてそのアウラが不正にブーストされたり、消費されたり、転売されたり、捨てられたり、忘れされたりすることから幸運にも逃げおおせ、ただ内側に向かって音楽を開放させるのだった。だからこれは、究極的な意味で自己目的的な音楽であり、一般的なポップスが宿命的に足を踏み入れざるを得ない資本主義的道程が消し去ってしまうポップスの純粋経験とでもいうべきものを、それ自体が行為として行われることでフリーズ・ドライすることに成功した、非常に稀なる録音物といえるだろう。全ての「アウトサイダー・ミュージック」は、そのような純粋なる行為性の魅力に接近するときにのみ、その輝きを垣間見せてくるものなのだということを忘れないようにしたい。(柴崎祐二)

■Calentito内アーティスト情報
https://calentitomusic.blogspot.com/2019/02/rtmcd1372.html

【未来は懐かしい】
第5回 Various Artists『Digital Kabar”Electronic Maloya From La Reunion Since 1980″』
文化混交と多様性の称揚〜レユニオン島の「エレクトロニック・マロヤ」を聴く
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf5/

【未来は懐かしい】
第4回 Dennis Young 『Primitive Substance』
ポストパンクとニューエイジ、内向と享楽が併せ立つ、異形のベッドルーム・ダンスミュージック
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf4/

【未来は懐かしい】
第3回 Azimuth 『Demos 1973-1975 Volumes 1&2』
神話時代のブラジリアン・フュージョン、そして〈プログレッシブ〉
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf3/

【未来は懐かしい】
第1回 キングコングパラダイス 『Atsusa Mo Samusamo…あつさもさむさも…』
既存の音楽地図を引き破る、脱ジャンル的秘宝盤
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf1/


Joe Tossini and Friends

『Lady of Mine』

Original:

1989年 / IEA Records
Reissue:

2019年 / Efficient Space / Calentito

■購入はこちら


MORE FEATURES

  • FISHING THE BESTS : 18 September 2019

    youheyhey

    Fishing the Bests #3 〜Another Perspective〜

    By Daiki Takaku

    「音楽の聴き方を変えているのは間違いなくインターネット」先日TURNで行ったインタビューでYoung-Gもこう語っていたように、実際インターネット上で音楽を聴く、あるいはクラウドで音楽を管理することは

  • INTERVIEWS : 17 September 2019

    川本真琴&山本精一

    対談:川本真琴 × 山本精一
    「いろいろな曲がたくさん聴ける雑誌のようなアルバムにしたかった」

    By Shino Okamura

    悪いけど私はデビューした時から川本真琴のファンだ。だからわかる。彼女は決して衝動だけのアーティストなんかじゃないってことが。 それに気づいたのは、もう今から20年くらい前、彼女の正式なライヴとしてはお

  • INTERVIEWS : 16 September 2019

    Give me little more / MARKING RECORDS

    感度の高いショップが密集する城下町・松本のインディー文化
    カギを握る2軒の人気ショップ店主に訊く

    By Dreamy Deka

    サブスクリプション・サービスの普及と巨大フェスの定着によって、ぱっと見では隆盛を極めているようにも見える音楽シーン。洋楽・邦楽のメインストリームが盛り上がるのはもちろん素晴らしいことだけど、クラウドサ

  • FEATURES : 13 September 2019

    Belle And Sebastian

    映画と漫画と音楽から届いた手紙、私たちが過去を物語る理由

    By Koki Kato

    2020年公開予定の映画『Days Of The Bagnold Summer』のサウンドトラックがベル・アンド・セバスチャンの新作だという。誰かの過去について描くことで完成した新作、というべきだろう

  • BEST TRACKS OF THE MONTH : 08 September 2019

    Foals / Thom Yorke / Flea / Tohji / Alessia Cara / DIIV / The 1975 / South Penguin / Spinning Coin / First Aid Kit / Konradsen / 折坂悠太 / Oliver Tree

    BEST TRACKS OF THE MONTH – August, 2019

    By Hitoshi Abe / Si_Aerts / Sayuki Yoshida / Dreamy Deka / Shino Okamura / Kei Sugiyama / Daiki Takaku / Koki Kato / Hiroko Aizawa / Eri Mokutani

    The 1975 – 「People」 スタイリッシュでポップ、現代社会をクールに、かつ痛烈に切り裂くメッセージ性の強い歌詞、どこをとっても今最強で最高のロック・バントの一つであるThe

  • BRINGING THE PAST TO THE FUTURE : 06 September 2019

    Music From Temple

    〈プログレッシヴ〉の捨象したものが蘇る
    83年福岡産自主制作プログレを聴く

    By Yuji Shibasaki

    これまで一般にというと、テクニカルな演奏、複雑な楽曲構成、壮大で主情的なメロディーといった要素ばかりが取り沙汰されてきたきらいがある。それを抽出することをもってとして(一部カンタベリー系やジャーマン・

  • FEATURES : 04 September 2019

    Bon Iver

    バラバラになった何かをつなぐ最後の希望
    ROTH BART BARON三船雅也が綴る『i, i』に向けられたどうしようもなく美しい物語

    By Masaya Mifune

    ボン・イヴェール『i, i』に寄せて—— “これは1人のアメリカ人の男が絶望と孤独の淵から回復し、戻ってくる物語だった” 美しい自然と、黒く清んだ川がある。ウィスコンシン、オークレア。ジョン・プライン

  • FEATURES : 03 September 2019

    Jay Som

    Jay Som『Anak Ko』から考える、アジアン・アメリカン女性による”私たちの音楽”としてのギター・ミュージック

    By Nami Igusa

    90年代のオルタナ・ロックというのはある種、サウンドの荒っぽさゆえ、雄々しいイメージとは不可分であることは否定できない。いや、もちろん、ピクシーズのキム・ディールやソニック・ユースのキム・ゴードンとい