BRINGING THE PAST TO THE FUTURE : 04 April 2019

キングコングパラダイス

BRINGING THE PAST TO THE FUTURE〜未来は懐かしい #1

By Yuji Shibasaki

BRINGING THE PAST TO THE FUTURE : 04 April 2019

キングコングパラダイス

BRINGING THE PAST TO THE FUTURE〜未来は懐かしい #1

By Yuji Shibasaki

既存の音楽地図を引き破る、脱ジャンル的秘宝盤

キングコングパラダイス 『Atsusa Mo Samusamo...あつさもさむさも...』

1976年開催の第12回ヤマハポプコンに出場し、「朝が来ないうちに」で優秀曲賞を受賞、翌年東宝レコード傘下の《TAM》よりファースト・アルバム『トーキング・アバウト福生』でメジャー・デビューしたファンク・ロック・バンド、キングコングパラダイス。浦和ロックンロール・センター主催イベントへの出演や各地でのパフォーマンスを通じ、リズム・アンド・ブルースやラテン、レゲエなどを取り入れた熱い演奏でコアな人気を獲得していた彼らだったが、レコード・セールスという面からすると苦戦を強いられていたのだった。ヴォーカルの南條倖司のソウルフルな歌唱は、あの上田正樹とも比較されたこともあったようで、このキングコングパラダイスは、差し詰め東のサウス・トゥ・サウスもしくはソー・バッド・レビューとでもいうべき存在だったようだ。

79年には徳間内の名門レーベル《Bourbon》から前作同様野心的なセカンドアルバムを発売するが、残念ながらこれもヒットには至らず。その後、自主制作シングルを経て、岩手陸前高田の《Johnny’s Disk Record》より84年リリースした幻のサード・アルバムが、この『あつさもさむさも…』だ。地元ジャズ喫茶『ジョニー』の店主・照井彰氏が発足した《Johnny’s Disk Record》は、日本ジャズの深層部というべき先鋭的なカタログを有するインディーズ・レーベルであり、キングコングパラダイスのそれまでの音楽性からするとあまり接点がないようにも思われるのだが、今回まさかのLP再発が叶った本作を聴くと、レーベル或いはそれまでのバンド自身双方が抱かせる各々のイメージと隔絶したサウンドに驚くことになるだろう。

何より特筆すべきが、2011年にリリースされた《Johnny’s Disk Record》の軌跡をコンパイルした編集盤『Johnny’s Under Ground Best Of Johnny’s Disk』に収録され、ごく一部の音楽ファンに驚きを与えたA-1「FUJIYAMA」だろう。予てよりバンドが推進してきた有機的グルーヴを一旦脇に寄せ、生々しいリズムマシンとシンセサイザーが躍動し、同時期の英ポスト・パンクやノイエドイチュヴェレの諸アクトにも通じる冷徹なビート・センスを聴かせる逸曲だ。そこへ、隠しきれない本来の野卑な生演奏が集団戦のように徐々に挑みかかることで、異様な緊張感が漂ってくる…。レゲエを基調にしたリズム・パターンとこうした先鋭的なサウンドの融合は、あのミュー・トビートを彷彿とさせるし、本人たちがどれだけ自覚的だったかはわからないが、デニス・ボーヴェルやエイドリアン・シャーウッド、マッド・プロフェッサーによる初期Ariwa作などのUKレゲエ~ダブ、もっといえば後のトリップホップへと繋がっていくブリストル地下シーンにも接続されるようなサウンドだ。トラックの後景に追いやられた亡霊のようなヴォーカルに特徴的なように、(おそらく環境的・予算的問題がそうさせている)レコーディング~ミキシングの特異性もそうした印象を強めることとなっている。このところ、「和レアリック」といったタームで80年代の日本産音楽が再評価される流れがあり本作もそうした文脈からリイシューされた作品と思われるが、その聴き心地ははるかにダウナーかつ冷徹である。そして、それこそが「バレアリック」以降たる今2019年において本作が誇りうる最も顕著な美点であるとも言える。

他曲も素晴らしい。リズムマシン主導の構成は変わらずとも、A-1に比べると幾分穏やかなオルナタティブ・レゲエポップが奏でられるのだが、全曲からどうしても漂い出す寒々とした感覚が「ホットな空虚感」とでもいうべき不可思議な感覚を惹起する。まさにタイトル通り「あつさもさむさも…」というべき何か。生得的な暑い(あるいは熱い)寒いという感覚を超え、冷ややかなエレクトロニクスと混交した生演奏によって両義的な状態が喚起されることで、「温度の空白」が生まれている。

いわゆる“ロック正史”からこぼれ落ちたバンドが、オールド・ウェイブ対ニュー・ウェイブという当時喧伝された対立項を超え、というか、まったく無関係に特異な音楽を作っていたのだと知る時。あるいは、予てより共有されてきたポピュラー音楽上の系譜学のようなものが、過去側から未来へ向かって突き崩されるとき。そういった時、我々リスナーは過去の音楽を聴くことの魅力を知ることになる。このキングコングパラダイスによる『あつさもさむさも…』は、2019年最重要リイシュー案件の一つだと断言できる。(柴崎祐二)

【未来は懐かしい】
第5回 Various Artists『Digital Kabar”Electronic Maloya From La Reunion Since 1980″』
文化混交と多様性の称揚〜レユニオン島の「エレクトロニック・マロヤ」を聴く
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf5/

【未来は懐かしい】
第4回 Dennis Young 『Primitive Substance』
ポストパンクとニューエイジ、内向と享楽が併せ立つ、異形のベッドルーム・ダンスミュージック
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf4/

【未来は懐かしい】
第3回 Azimuth 『Demos 1973-1975 Volumes 1&2』
神話時代のブラジリアン・フュージョン、そして〈プログレッシブ〉
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf3/

【未来は懐かしい】
第2回 Joe Tossini and Friends 『Lady of Mine』
純粋経験としてのポップス~「アウトサイダー・ミュージック」のその先へ
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf2/

キングコングパラダイス

『Atsusa Mo Samusamo…あつさもさむさも…』

Original:
1984年 / Johnny’s Disk Record /JD-09
Reissue:
2019年 / Studio Mule / Johnny’s Disk Record / STUDIO MULE 16

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