Back

【未来は懐かしい】Vol.9
一人のファンの熱意でリリースが実現した、
ジャパニーズ・ニューウェイヴ・バンドの未発表ライヴ・レコーディング集

24 March 2020 | By Yuji Shibasaki

まさか、チリの熱心なファン手によってチャクラの未発表ライヴ音源集がコンパイルされ、こうして日本盤CDとしてリリースされるなどいう未来がくるとはつゆにも思っていなかった。
本盤を制作したゴンサロ・フエンテスR.は、地球の裏側の国で、しかも40年近くも以前に活動していたバンドであるチャクラの楽曲を初めて聴いたとき、それまでの音楽体験とは全く隔絶した大きな感動を味わったという。2年ほど前からメンバーの小川美潮、板倉文とFacebookを通じて交流を行うようになり、ついには本盤のために自主レーベルを立ち上げ、見事リリースまでこぎつけてしまったのだから、その熱意と行動力に平伏するほかない。

ここに収められた音源は、ほとんどが当時のライヴにおいてオーディエンスがカセット・レコーディングしていたもので、後に小川美潮へ録音主から譲渡されたものだという。また、一部で小川自身が所持していた記録用ビデオの音声も収録されている(それぞれ、Disc1の1〜4が1981年・京都サーカス・サーカス、5〜9が同年・東京日立Lo-Dプラザ、10〜12とディスク2の1〜4が1982年・名古屋ユッカ、同じくディスク2の5が同年・東京青山タワーホール、6〜12が1983年・大阪バーボンハウスにおけるライブ録音)。
また、大きな聴きものが、オリジナル作未収録曲のライヴ・ヴァージョンが収録されているという点だろう。ディスク1の2「お地蔵さん」3「走象」4「床入り(華の夜) 」6「テクニック」8「はねる」10「キリエ(マテギ)」11「バヴァンコ」がそれにあたる。ありがちな言い方になってしまうが、それぞれ『チャクラ』や『さてこそ』といった各オリジナル・アルバム収録曲とも全く遜色ない魅力を放っているように思う。

これまで、スタジオ作を聴くにつけても、チャクラというバンドが非常に卓越したミュージシャン集団であることは知らされていたと思うが、こうして改めて当時のライブ演奏の記録に触れてみると、その腕達者ぶりに驚いてしまう。時節柄、テクノ・ポップ風の売り出し方を余儀なくされたというが、板倉文をはじめとしたメンバーの音楽的パースペクティブは明らかにもっと広範で豊かなものであったことがより一層はっきりと分かるだろう。ニュー・ウェイヴはもちろん、プログレやジャズ/フュージョン、ミニマル・ミュージック、ブラジル音楽、そして各種民族音楽を、単なる色付けのレベルを超えてしっかりと射程に据え、それを極めてフィジカルな演奏でエッジーなポップスに昇華してみせるさまは、おそらく当時の国内外シーンを見回しても相当に稀有なものだろう。また、テクノ・ポップ寄りの各オリジナル作のミックス等から若干その色彩が見えづらかったように思う彼ら特有のスピリチュアルな志向も、こうしてネイキッドな音像でダイナミックな演奏に触れてみるとよりはっきりとその魅力を現してくるように感じる。
また、メンバー離脱などの変遷を経た後、最後期(1983年)の演奏が聴けるDisc2の6以降のトラックも実に素晴らしい。清水一登や仙波清彦といったのちのKilling Timeに通じるミュージシャンや、久米大作といったジャズ/フュージョン畑の異才などが交わった演奏は、これぞまさに「和レアリック」といったもので、現在的な聴取感覚だと、むしろこれらの楽曲を最も面白く思うリスナーも多いかもしれない。

しかしながらやはり、全編を通じて最も魅力的かつ圧倒的な存在は、小川美潮の歌声にこそ他ならないだろう。19歳でバンドに参加してから、手練のメンバーたち囲まれる環境に臆することなく自由に発言し歌っていたという彼女こそは、チャクラ・サウンドの要であると同時に、彼らの音楽を今もって(これから先も)エターナルな存在にしている最も大きな要素だろう。これもまた先述した楽器演奏における印象と同じく、ライヴ・レコーディング集たる本盤では、その伸びやかで奔放自在な歌唱の躍動を心ゆくまで味わうことができる。強烈なフィジカリティーでアンサンブルを突き抜けていくかと思えば、ときに牽引し、ときに寄り添い、その中にゆったりと身を浸しもする。今も当時も、彼女が真の意味でオリジナルなヴォーカリストであることを鮮烈に再認識させてくれるのだ。

それにしても、こうした優れた発掘リリースが海外のファンの熱烈な関心と尊敬すべき仕事ぶりによって世に出ることになったというのは、本当に大きく祝すべきことだ。かねてより、世界中に埋もれている貴重な未発表音源が後進世代のファンの呼びかけによって発掘リリースされるという例は少なくなかったが、世界中のどんな音楽がふとしたきっかけで再発見され人気を博すか予想もつかないような昨今にあって、より一層こうした企画が活性化していくことだろう。リスナーとして楽しみは尽きないし、そうした流れを後押しするためにも、どんどん「未だ知られざる」音楽を各人が気軽に紹介し合うようになっていったらいい。(柴崎祐二)


チャクラ

『アンリリースド・ライヴ・レコーディングス1981-1983』



2020年 / SOLID(Reissue)

■購入はこちら


【未来は懐かしい】
特別編〜柴崎祐二・選 2019年リイシュー・ベスト10
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf2019best/

【未来は懐かしい】
第8回 Steve Hiett『Girls In Grass』
伝説的フォトグラファーが名盤『渚にて…』の後にプライベート録音していた“イマジナリー”な未発表音源集
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf8/

【未来は懐かしい】
第7回 4AM『4AM』
今再び「DIY」をさりげなく励ましてくれる、90年UK産オブスキュア・エレクトロニック・ポップ
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf7/

【未来は懐かしい】
第6回 Music From Temple『Music From Temple』
〈プログレッシヴ〉の捨象したものが蘇る〜83年福岡産自主制作プログレを聴く
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf6/

【未来は懐かしい】
第5回 Various Artists『Digital Kabar”Electronic Maloya From La Reunion Since 1980″』
文化混交と多様性の称揚〜レユニオン島の「エレクトロニック・マロヤ」を聴く
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf5/

【未来は懐かしい】
第4回 Dennis Young 『Primitive Substance』
ポストパンクとニューエイジ、内向と享楽が併せ立つ、異形のベッドルーム・ダンスミュージック
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf4/

【未来は懐かしい】
第3回 Azimuth 『Demos 1973-1975 Volumes 1&2』
神話時代のブラジリアン・フュージョン、そして〈プログレッシブ〉
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf3/

【未来は懐かしい】
第2回 Joe Tossini and Friends 『Lady of Mine』
純粋経験としてのポップス~「アウトサイダー・ミュージック」のその先へ
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf8/2

【未来は懐かしい】
第1回 キングコングパラダイス 『Atsusa Mo Samusamo…あつさもさむさも…』
既存の音楽地図を引き破る、脱ジャンル的秘宝盤
http://turntokyo.com/features/serirs-bptf1/

Text By Yuji Shibasaki

1 2 3 21