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〈プログレッシヴ〉の捨象したものが蘇る
83年福岡産自主制作プログレを聴く

Music From Temple『Music From Temple』
06 September 2019 | By Yuji Shibasaki

これまで一般に<プログレッシヴ・ロック>というと、テクニカルな演奏、複雑な楽曲構成、壮大で主情的なメロディーといった要素ばかりが取り沙汰されてきたきらいがある。それを抽出することをもって<固定化した様式美>として(一部カンタベリー系やジャーマン・ロックを除いた)プログレ一般を退けるのがオルタナティブ・ロック以降の<良心的リスナー>の仕草であったが、そもそもロックという大きな船自体が老朽化してしまった今にあって、果たしてそういった見取り図の描き方は無効化しつつあると感じる。そして、一旦その無効化を経た上で虚心にプログレ的なるものに向き合ってみると、今まで見えてこなかった様々な面白さが浮かび上がってきもする。またそのことで、かつてのテクニック至上主義的な観点からこぼれ落ちてきた秘宝たちにも正当に光が当たることにもなったのだ。

ここにご紹介するMusic From Templeは、福岡の久留米市で80年代初頭に結成されたグループである。地元真宗大谷派永福寺の現住職、阿英紹(ほとりえいしょう)が30代の頃に始動したこのバンドは、青年時代からプログレッシヴ・ロックに傾倒していた氏と、大学生時カンタベリー・ロック系のバンドで活動していた若きキーボード/ベース担当の野村昌弘を中心メンバーとしていた。バンド名の由来は、普段から寺の書庫の一角で練習をおこなっていたことによるもので、この唯一のアルバムも、同所にマルチ・テープ・レコーダーを持ち込み録音/自主制作されたものだという。完成後コジマ録音にプレスと流通を委託した上300枚という小ロットで発表された本作は、コジマ録音のカタログの中でも屈指のオブスキュア度を誇り、これまでよほどの自主盤マニア以外の目に(耳に)触れることはなかった。しかし今回、オリジナル・リリースから36年の時を経て、その優れた音楽内容のために世界初リイシューされることとなったのだ。

ここに収められた音楽を従来の音楽ジャンル言語で定義することはなかなかの難を要する。アクサク・マブールをはじめとして、ジェントル・ジャイアント、フォーカス、スティーヴ・ハウ、フリップ・アンド・イーノなど、ときに大胆なほどの直接的オマージュを交えて参照されるのは確かにプログレッシブ・ロックの歴史に名を残す名アクト達の音楽であることは確かなようなのだが、冒頭で述べたような<様式美>的な視点で聴くならば、正統的な意味での(狭義の)プログレッシヴ・ロックでは決してない、とも感じられる。そう思わせる大きな要素としては、やはりそこはかとなく漂うアマチュアリズムとピュアな憧憬、そしてまた、それらがもたらす脱形式主義的な風通しの良さなどが挙げられるだろう。いうなればこれは、巨大化したプログレッシヴ・ロックがその発展過程で捨象していった<雑味>の部分こそを純粋化したものであるのではないか。世界的なシーンを細微に眺めるなら、80年前後からアクサク・マブールや<レコメン系>といわれる一群をはじめとして、ある種のDIY的マインドのもとプログレッシヴ・ロックに再び先端的な熱を孕まようとする動きもあったことを考えると、このMusic From Templeもそうした新潮流に極東の地方都市から呼応した希有な例だと見做すことも可能かもしれない。しかしながら、そういった状況論的視点すらも透過するほどの無垢な実践に溢れているのもまた間違いないように思える。ときに英国トラッド・フォークの薫りも運び込むメロディーや、土着的歌謡性を醸すネイキッドなボーカル、巧みでいながらときにパンク的初期衝動に駆動されるようなパッション漲る演奏など、トリッキーな楽曲構造それ自体を突き出て前景化してくる主要素が、その純粋性をさらに際立たせている。まさに、<プログレッシヴ・ロック神話>が霧消してしまった今だからこそ、却っておもしろく聴くことができるのだ。

様々なジャンルで発掘されつつある自主制作盤だが、プログレッシヴ・ロックのそれはジャンル特性ゆえ今まで埋もれていた作品がまだまだ各地にあると思われる。プログレッシブだけど<プログレッシヴ>でない、このMusic From Templeにも通じるそういう音楽こそ、ヴェールが剥がされるのを待ち構えている。従来の音楽地図の転覆は、新譜作品だけでなく、今むしろ再発作品がその重要な担い手となっている。こうしたリイシューに触れるにつけ、そう思う。(柴崎祐二)

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Text By Yuji Shibasaki


Music From Temple

『Music From Temple』

Original:

1983年 / 自主制作
Reissue:

2019年 / FUJI

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