Review

Kali Uchis: Isolation

2018 / Virgin / Universal
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(現代の)カリフォルニアの地で生まれた、自由と解放へのエスケープ

14 May 2018 | By Daichi Yamamoto

幻覚だろうか。涼しい海風と波音が聞こえる気がする。そして彼女は誘うように「荷物を詰めて。私たちがどこへ行こうとしているかなんて聞かないで」(「Flight 22」)と歌う。この『Isolation』には、カリフォルニアの夜の海辺へとトリップさせるようなドリーミーな心地良さ、快感が充満している。

コロンビア出身、現在はロサンゼルスを拠点とする24歳、カリ・ウチスのメジャー・デビュー作となる本作はプロデューサーの布陣まで完璧である。サンダーキャットから、サウンウェイヴ、バッドバッドノットグッド、ジ・インターネットのスティーブ・レイシー、ブロックハンプトンのロミル、更にはテーム・インパラのケヴィン・パーカーやゴリラズのようなジャンルを超えたビッグ・ネームも揃っている。しかし本作は決して「オールスターによって堅くバックアップされた無難なポップ・アルバム」ではない。アルバムを聴いている間彼らの名前は記憶の奥底に留まっているし、なにせ歌詞のテーマで目立つのは、コントロールされることからの解放であり、エスケーピズムだ。もちろん先述のメンバーたちの参加を受け、サウンドは、ソウルやファンクから、ボサノバ、レゲエ、ダンスホールといったラテンものまでエクレクティックではあるが、全15曲は冒頭で述べたような一つのムードで統一されている。それは彼女の特徴的な甘くスモーキーな歌い方にも起因しているだろうし、ほとんどの曲で取り入れられているサイケデリックな音処理にもよるだろう。

家族の稼ぎのために売春に駆り出される少女を例に、アメリカン・ドリームへ懐疑的になりながら「絶望的な街から出て行こう/明日になってから考えよう」と歌う「Tomorrow」は作中最もポリティカルだ。解決されない人種問題。遠くの戦争への介入。聴いていて、思わず50年前のカリフォルニアをリンクさせたくなる。そうラナ・デル・レイが「Coachella – Woodstock In My Mind」でコーチェラの帰りに思い浮かべたように。これは、混沌として息苦しい「いま」からの自由と解放を渇望する、私たちのためのアルバムだ。(山本大地)

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