ローテンションのまるいトゲ
ニューヨーク、ブルックリンのレーベル《Fire Talk》が契約するバンドの音楽はどれもオーソドックスでありながらクセがある。たとえばノイズロックの荒地を行くロバー・ロバーの中にジャンルと相反するような心地良さが存在していたり、電子音とフォーク・サウンドを混ぜたニューカッスルのデュオ、ロッツ・オブ・ハンズの音楽から牧歌的な空気とモダンな手触りが同時に立ち上がってくるのがそうだ。頭の中に浮かべる風景から少しズレていて、そのズレがなんとも心を惹きつける。
それはモントリオール拠点のポストパンク・バンド、コーラにしても変わらない。元オウトのティム・ダーシー、ベン・スティドワーシーの2人とU.S.ガールズでサポートドラマーを務めていたエバン・カートライトが組んだバンドはやはり一筋縄ではいかないのだ。政治的な歌詞を歌うポストパンク・バンドの持つ枠組みはそのままに、有刺鉄線的ではないプラスティックなギターや色鮮やかに膨らむベースがその印象を一変させる。相手を熱っぽく説得するのでもなければ、呪詛のように冷たい言葉をつぶやくのでもない、メロディに乗って軽やかに喋るティム・ダーシーのヴォーカルは留まることなく目の前を流れていく。それはたわいもない深夜のラジオの言葉や、もはや失われてしまった個人ブログの文化に近いのかもしれない。特定の誰かに向けての言葉ではないが、聞いている存在を意識して喋る中途半端なコミュニケーション、ひとりごとと会話の間にある言葉、自らの意見を主張し合うSNSが中心になった世界において、その半端さはある種の優しさにも感じられる。音に乗った言葉は身構える心の壁を前に、反発することなく流れていき残り香が鼻をくすぐる。スゥと胸の中に入ってくるのだ。コーラのローテンションな軽さは新鮮でひねくれていてなんとも心地良く感じるものだ。
バンドの3枚目のアルバムはその路線をさらに推し進めたものだろう。彼らはポストパンクをポストパンクとして鳴らさない、哀しい出来事を哀しい歌として歌わない。あるのは、ひねたユーモアと決してストレートに描かない美学だ。『Cost of Living Adjustment』の頭文字をとりCola、セルフタイトルのアルバムでさえ直接的なものにはしない。『生活費調整』という上がり続けていく物価や不鮮明な未来に対して悲観的な問いの投げかけと、これこそが自分たちだと作品に収められた音楽を誇ることを同時にやる、コーラは実にひねている。
「Haveluck Country」では、軽妙でユーモラスなギターに乗せて悲劇を遠くに感じられる幸運な国の生活が明るくズレて描かれる。「ドラッグストアのビタミン剤でとても健康」「力には狂気が伴う/それには盲目が必要だ」。レッド・ハンドの赤はその手に塗られた血なのだろうか? 戦争も平和も出てこない、プロテストソングとも呼べない、格差についての曲でもない、幸せな国の生活を明るく歌った曲からは空恐ろしくなる不安と不穏が滲みだす。フレーズが繰り返される曲の構成と相まって、それは何度やってもぐるぐると同じ場所に戻って来る、抜け出すことのできない迷路なのだと伝えてくる。
シンセサイザーと加工されたドラムの音が不安を煽る「Conflagration Mindset」。「大火の心構え」とはダーシー自身が経験した2025年のロサンゼルスの山火事が出発点になっている。しかしここでバンドが描くのは炎の恐ろしさではなく、住む家を失った後でも続く生活の形だ。「哀しみのためのスペースを作る/そうすれば哀しみも君のために場所を作ってくれる」焼け出され、帰る場所をなくした歌の主人公がたどり着くダイナー、店のジュークボックスからははっきりとわからない誰かの曲が聞こえてくる。時を経て名前が消え役目が変わってもレコードはずっとまわり続ける。そうしてその人物は歩みをやめない街の気配に光を見つけるのだ。歴史の中で何があっても人の営みは止まらなかった。その年表の隙間でそれぞれが哀しみを抱えたまま生きていく方法を学ぶ。心が疲弊しきった後に出てくるユーモアのようにこの曲は優しく沈み込む。受け入れられる場所が存在すること、深い喪失感の中でそれはきっと小さな希望なのだ。
総じて、このアルバムのコーラはこんな感じだ。不穏でそこら中に影があるが決して暗くはない。それどころか暖かさを感じる。複雑にひねられた展開とウワモノのユーモア、軽快なビートが次へと心を押し流すコーラの音楽は聞く者の心に痛みのないトゲをさしていく。彼らは世界の形を組み替える。ズレがあるからこそ我々は何がそうさせるのかを考える。愛という言葉を使わずに愛を表現する物語のように、直接的に描かないからこそ染み込むものがこの世界には存在する。強烈なものだけが心に残るわけではない、流れていくものの中にも光はあるのだ。コーラはそれを証明している。(Casanova.S)

