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250: PPONG

2022 / Bana / Calentito
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韓国ポピュラー音楽史への敬意が垣間見える力作

12 October 2022 | By tt

海外のR&Bやラップの影響下のもとで制作されたであろう韓国のポップ・ミュージックが新曲として多く並ぶ中、2021年の暮れにリリースされた「Bang Bus」の性急なビートとチープなシンセによるポンチャックは、どこか懐かしさを感じつつも鮮烈だった。100年近くの歴史を誇る韓国の大衆歌謡トロットにディスコを融合させたポンチャック・ディスコ(ポンチャック・テクノとも呼ばれている)は、日本においても電気グルーヴや幻の名盤解放同盟がイ・パクサを紹介したことで記憶に残っている人も多いことと思うが、それも90年代のこと。本国では90年代を境に、若者の人気は集落傾向であったものの、年配層やドライバーを中心に局地的なヒットを生み出し綿々と続いていたトロットは2010年代以降、《トロットX》(Mnet)や《明日はミス・トロット》(朝鮮放送)といったオーディション番組をひとつの契機にリバイバルが起こっており、そんな時代の最中でトロット或いはポンチャックを捉え直し再定義する韓国の音楽家が登場するのは、ごく自然のことのようにも思える。

250(イオゴン)のデビュー・アルバム『PPONG』には前述のイ・パクサやキーボード奏者のキム・スイル、電子オルガン奏者のナ・ウンドといった歴史に名を残しているレジェンドが参加していることからもトロット、或いはポンチャックに真摯に向き合う姿勢が覗えるが、同時に本作を魅力的たらしめているのはトロットの外側(或いはある時期にはクロスオーバーしていたかもしれない)音楽家たちの起用もあるだろう。日野皓正セクステットでも活動していたジャズ・サックス奏者イ・ジョンジクが参加した「Royal Blue」はローファイ・エレクトロニック・サウンドに艶のあるサックスが乗ることでトロットの歌謡性に確かな説得力を持たせているし、ギタリストにして韓国を代表するサイケデリック・レジェンドでもあるシン・ジュンヒョンが参加した「I Love You」はエレクトロニカ小品的なトラックにメランコリックなギターのループが乗ったドリーミー・サイケデリック歌謡の佳曲に仕上がっている。とりわけ上述の2人の起用はトロットやポンチャックを飛び越えて、ジャズやロックも含めた韓国ポピュラー音楽の歴史の一側面を垣間見ているようでもある。

250の活動で特筆すべきところは現行のポップ・ミュージックやヒップホップのシーンの中でも優れたトラック・メイカーやプロデューサーとしての側面だろう。E SENS「MTLA」(DecapとXXXのFRNKとの共作)のムーディなエレクトロニック・ビートやNCT127「My Van」の印象的なウワモノのアレンジは、ビートやクールなラップと合わさりながらも、「I Love You」や「Give Me」といったアルバムのアンビエントポップ・サイドとも言えるだろう楽曲群に通ずるところがあるように思う。また、一方では’90年代の韓国や日本のダンスポップの良質なパスティーシュともいえるNewJeansのファーストEP「New Jeans」の楽曲の多くを手掛けている。250が90年代にはトロットやポンチャックとは相反する関係にあったソテジワアイドゥル以降のポップ・ミュージックの作り手としての側面も併せ持っており、そのことは、ポンチャック・リバイバルとは一線を画すプロデューサーであることの証左なのではないだろうか。『PPONG』には’90年代以降のK-POPの要素こそ希薄ではあるが、従来のトロット/ポンチャックとは一線を画す洗練されたアレンジやミックスは、250のモダンなポップ・ミュージックを作るプロデューサーとしてのセンスとスキルが為せる技なのかもしれない。

トロット/ポンチャックは、青果市場や交通情報専門ラジオ局で流れる大衆音楽であり、そのシーンはポップ・マーケティングからは離れたところで、良い音楽家や歌い手になりたいだけの人々が芸術性に集中できる場所でもあるという(※《The Guardian》では元アフタースクールのリジの発言が引用されている)。BTSやBLACKPINKのようなグローバルなポップ・アクトとはまた違う、韓国ポピュラー音楽史とそこに存在する数多の音楽家たちのひとつの表象がトロット/ポンチャックであるとするならば、『PPONG』はそこにモダンでかつ洗練されたミックスやアレンジを施すことでそれらを再定義するとともに、90年代以降から今日に至るまでのK-POPと接続することをも試みた作品なのかもしれない。そして、韓国歴代の様々なポップ・ミュージックの要素を盛り込んだであろう本作に海外で何らかのリアクションが巻き起こっていることはとてもエキサイティングなことであり、韓国のポップ・ミュージックに今後どのような影響を及ぼすのか非常に興味深いところである。(tt)

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