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「自分がどこから来たのかを見つめ、自分がどこから来たのかを見つけることの重要性に気づいた」
アーティストとして、父として、人として
サンファの眼に映る過去、現在、未来
最新作『LAHAI』リリース・インタヴュー

20 October 2023 | By Daiki Takaku

サンファのセカンド・アルバム『LAHAI』が10月20日にリリースされた。前作『Process』からはなんと約6年ぶり。しかし、その間に世界中の音楽ファンが彼の名前を忘れることはなかっただろう。ヘディ・ワン&フレッド・アゲイン、アリシア・キーズ、アクトレス、ケンドリック・ラマー、リル・シルヴァ、スピーカーズ・コーナー・カルテットなどなど……(ファースト・アルバム以前もそうだが)サンファはさまざまなアーティストの注目作、重要作に登場し、印象深い仕事をしてきた。

そんな彼の仕事ぶりを知っていれば、当然のように最新作へのハードルも高くなるが、『LAHAI』はそれを軽々と超えていく作品だと断言しよう。まずイェジ、レア・セン、シーラ・モーリス・グレイ(ココロコ)、リサ=カインデ・ディアス(イベイー)、ローラ・グローヴス、Kwake Bass、モーガン・シンプソン(ブラック・ミディ)、ユセフ・デイズ、エル・ギンチョ……意外な人物からロンドンっ子を自称する彼の周辺まで、たくさんアーティスト/プロデューサーが参加(特に今作には女性アーティストが数多く参加している)。とはいえ、決して派手な作品ではない。時間や鳥といったトピックを扱いながら哲学的に、なおかつ父親となったサンファの視点も浮かび上がるリリック。音楽的にはジャズ、ソウル、エレクトロ、ルーツである西アフリカ音楽など折衷的なサウンドでサンファの感情の機微を映し出しているファースト・アルバム『Process』を押し広げ、突き詰めた作品、と言うとわかりやすいかもしれないが、『LAHAI』に収められているのは、エレクトロニクスと生音が絶妙な配合で混じり合い、高揚感に満ちていながらも、繊細に、聴き手により深いところで繋がる、内省的で自由な音楽だ。

TURNでは今回、この素晴らしい最新作『LAHAI』についてのオフィシャル・インタヴューを全文お届けする。

(インタヴュー・文/高久大輝 トップ写真/Jesse Crankson)

Interview with Sampha

──前作『Process』以降もさまざまなアーティストとコラボレーションした作品を発表してきましたが、ソロ・アルバムとしては約6年振りのリリースとなります。世界はその間にパンデミックをはじめたくさんの問題に直面しましたが、あなたにはどのようなことが起こり、あなたの祖父の名であり、あなた自身のミドルネームである『LAHAI』というタイトルのアルバムを制作するに至ったのか、その経緯を教えてください。

Sampha(以下、S):『Process』をリリースした後、1年半くらいはツアーをしていたんだ。その後はちょこちょこ音楽は作っていたけど、リリースしたいと思えるほどのものではなかった。多分2019年の5月末くらいに、自分が気持ちが良いと思える音楽をまた作り始めたんだ。同時にシンセサイザーを買った時期でもあって、それがすごく刺激的だったんだよね。あと、公園や自然のある場所にも足を運ぶようになって、そこで音楽を聴くようにもなった。それが作品の最初の曲を書き始めた頃。そのとき最初に書いたのが、「Spirit 2.0」なんだ。その流れで曲を書き続け、年末まで数曲出来上がって、そこで初めて、これでアルバムが作れると思ったんだ。そこから、ジャムをオーガナイズしたり、海外に行く計画も立てた。それに、自分が父親になると分かったのもちょうど年末頃だったんだよ。だから、なるべく早く音楽を作り、アルバムを仕上げたいと思うようにもなって、かなり意欲的だったんだ。でも、2020年になってコロナが始まり、立てていた計画が全て変更を余儀なくされてしまった。ミュージシャンと一緒に作業したりジャムをするつもりだったのに、それができなくなってしまったからね。だから、代わりに家にいる時間が増え、ベッドルームで音楽を沢山作るようになった。そのあと、娘が生まれて、更に全てがスローダウンしてしまったんだ(笑)。

そして音楽活動をそこから少し休み、また再び制作活動を始めたときに、誰かに助けてもらう必要があるように感じた。父親にもなったし、コロナのこともあったし、いろんなことが周りで起きていたから、1人で作業するのは難しいと思って。そこで、プロデューサーのエル・ギンチョに出会ったんだ。彼とは数年前から知り合いなんだけど、これまで一緒に作業したことはなかった。でも、今回いくつかのトラックでアレンジメントを手伝ってくれたりして、彼はモチベーションを与えてくれたんだ。コロナ禍でどうやって1人でアルバムを書けばいいか、僕は少し戸惑っていたからね。スタジオに入って人と一緒に作業することができなかったから。僕は、人と一緒の空間で作業するのが好きなんだよ。エル・ギンチョとは何度かリモートでセッションをやって、それはうまくいったから良かった。その後、制限が緩和された後は、スタジオで人と一緒に作業するようになった。リッキー・ダミアンというエンジニアと一緒に仕事をしたんだけど、彼は自分の家の中にスタジオを持っている。だから彼の家に行って、そこでヴォーカルを録音したり、アレンジメントの作業をしたりしたんだ。彼とは『Process』でも密接に一緒に仕事をしたし、今回のアルバムでも同じくらいお世話になった。まあこんな感じで、アルバムが出来上がるまではかなり長いプロセスだったんだ(笑)。

──その結果出来上がったアルバムタイトルに、おじいさんの名前、そしてあなた自身のミドルネームを選んだ理由は何だったのでしょう?

S:今回は、歌詞を書いていて、自然に出てくるトピックがすごくパーソナルな内容であることに気がついたんだ。コロナを通して、自分の人生の方向性について考える時間ができたからね。僕は今までスピリチュアルな修行をしたことがなかったし、人生について十分な問いかけをしたことがなかったように感じていたけれど、人生の大きな問いに向かって、自分を引っ張っていく何かが今は存在しているような気がしたんだ。そして娘が生まれたとき、父や母のエネルギーを感じることができたのもそうだし、それが起きたことで、自分たちの血統や先祖について考えるようになった。自分がどこから来たのかを見つめ、自分がどこから来たのかを見つけることの重要性にも気づいたんだよ。自分たちの将来のことも考えるようになったしね。だから、僕自身のミドルネームであり、祖父の名前でもあるこのタイトルがすごくしっくり来たんだ。

──前作に引き続き、『LAHAI』は折衷的サウンドで溢れていて、緊張感と開放感のバランスが絶妙です。過去のインタヴューでは、フリースタイルで歌を歌いながらであったり、ピアノを弾きながらメロディを作っていくことが多いと話していましたが、作曲の方法や機材面での変化はあったのでしょうか? 作曲のプロセスにおいて特にこだわったポイントがあれば教えてください。

S:今回は、特にプロダクション面でいくつか新しいことを試してみたんだ。ロボット・ドラマーのドラムマシンを買ったんだけど、アコースティック・ドラムを叩くそのマシンにMIDIメッセージを送り、その送ったドラム・パターンをロボット・ドラムが演奏してくれるという仕組みで、人間がいないままドラムキットを演奏できる。つまり、僕はそのロボット・ドラマーと一緒にジャムをしてレコーディングしたんだ。正に電子機器とアコースティック楽器のハイブリット。それを使って曲を作っていくというのはすごく興味深かったし、楽しかったね。

──繊細かつ大胆なサウンドや歌唱には、別のアーティストとのセッションを含む多くの実験の過程があったのだろうと感じます。本作の制作過程で最もあなたが時間をかけて取り組んだのは具体的にどのような部分ですか?

S:それは多分歌詞かな。歌詞を書くのって、とても難しく感じることがあるんだ。歌詞に関しては、結構自分に厳しいんだよね。これをもう少し明確にする必要があるんじゃないかとか、もう少し深く掘り下げたほうがいいんじゃないかとか、あるいは、もっと奇妙で曖昧にしたほうがいいんじゃないかとか、いろんなことを考えさせられるから。だから、僕はそれを彫刻と見なすようにしていて、少し遠くからそれを眺め、周りを歩いたり、逆さまにしてみたりしていろんなことを試すようにしてるんだ。あとは、ドラムのプロダクションかな。全てに納得がいくものを作り出すのって難しいんだよね。沢山アコースティックのドラムをレコーディングしたものがあって、それをどう配置するかを見極めるのに手こずったんだ。トラックに合ったグルーヴを見極めたりね。別のセッションで使ったドラムを違う曲に入れて、それがどう機能するかを試したりもした。それから、一般的なドラム・プロダクション、つまり、音そのものをよくしたり、EQをうまく調整したり、それ全てがしっくりくるまで時間がかかったんだ。それからベース。ベースも結構難しかった。一番時間がかかったのはその3つだね。

──今年の6月にロンドンとNY(ブルックリン)であなたが行ったイベント《Satellite Business》は収録曲のタイトルにもなってます。イベントについてあなたは“A place to explore again”(再び探求する場所)と書いていて、そこでは新曲の演奏を含めさまざまな試みがあったと聞いています。『LAHAI』の最終調整をそこで行っていたのではないかと勝手に想像したりしたのですが、実際にイベント《Satellite Business》ではどのようなことにトライし、何を得て持ち帰ったのでしょうか? また、イベント《Satellite Business》は『LAHAI』にどのように影響しているのでしょうか?

S:長い間ライヴをやっていなかったから、ライヴに対して僕は少し不安になっていたんだ。コロナが明けてからは新しい世界でも合ったし、SNSで人々はとても批判的になったりもするし。特に繊細な人間にとっては難しく、僕の声は常に最高というわけではないし、失敗もするから。だから、本格的なライヴをやる前に、自分がより安全だと思える空間を作り、そこでパフォーマンスをしようと思ったんだ。ここは実験のための空間だ、と人々に提示した上でライヴをやりたかったんだよ。だから、僕はあの場所を、自由を感じられ、大きすぎず、親密さを感じられる空間にしたかった。そのためにステージを円形にして、皆が近くに来て歩き回れるようにしたんだ。あのステージは、衛星通信を象徴していると思う。お互いに手を伸ばし合っているような、そういうコンセプト。それがアルバムにどう影響しているかはわからない。というのは、イベントをやった時点では基本的にアルバムは完成していたからね。でも、オーディエンスは皆本当にポジティヴな人ばかりで、皆が僕に沢山のエネルギーと愛をくれた。あれは本当に素晴らしい経験だったよ。僕自身は新しいことに挑戦できたし、観客も自由を感じていたと思う。で、そのあと、それにインスパイアされて、バンドと一緒にスタジオの戻って、「Satellite Business」をもっと長くした、全く新しい曲をレコーディングしなおしたんだ。あの曲は、もしかしたらいずれリリースするかもしれない。ライヴで演奏するのはすごくクールだった。やっぱりエネルギーが違うんだよね。だから、ライヴをやることで何かが見えてくることがたまにあるんだ。

──今作『LAHAI』には沢山の女性アーティストも参加しています。中でも最新作『With A Hammer』も素晴らしかったイェジ(Yeaji)の参加には驚きました。彼女とはどういった経緯で出会い、どのようにコミュニケーションを取りながら制作を進めていったのでしょうか?

S:知り合いから「イェジがロンドンにいるから会ってみたらいいよ」と言われて、声をかけてみることにしたんだ。僕は彼女のファンだからね。そのとき僕はスタジオにいたんだけど、彼女が自由時間に犬と友達を連れてスタジオに来てくれた。で、僕たちはずっと話をしていたんだけど、その流れで僕がそのとき作っていた曲を彼女に聴かせたんだ。そしたらイェジが、「何かやってみようか?」と言ったから、僕はもちろんと答えた。そんな感じで、とても自然な流れだったんだ。彼女が音に合わせて韓国語で歌い始めたんだけど、それはとても美しかった。彼女が何を言っているのか、内容はそのとき理解できなかったけど、彼女がそれを訳してくれたとき、僕が作っていた音楽と本当に繋がっていると感じたんだ。だから、本当にクールだったし完璧だった。彼女には、こう歌ってほしいとか、そういうリクエストは一切していない。ただ自由に、感じるがままに歌ってもらったんだ。

──沢山の女性アーティストの参加についてあなたは資料のなかで「感謝の気持ちを表現」「すべては直感的にまとまった」と語っています。ほとんどのシーンにおいてジェンダーの不均衡が指摘される現在、その事実はとても重要で、なおかつ、これまでのソロ作品や参加作品で世界中から高く評価されてきたあなたが自身の持つ影響力を認め、それをどのように活用するかを考えた結果でもあるのではないでしょうか。より良い未来のためにどのようなことが必要だと思いますか?

S:女性アーティストが参加しているのは、僕自身が意識したことではなく、気がついたら沢山の素晴らしい女性アーティストたちに囲まれていたんだ。彼女たちは僕の友人だし、また、今回のアルバムは、僕にとっては家母長制が一つのテーマでもある。家族を維持したり、サポートしたり、繊細さを理解してくれたり、アルバムの曲を書いていたときの僕は、女性が僕の人生でいかに重要な存在であったかを認識していたからね。そして自分自身が娘の父親になり、女性たちと仕事もしている。僕は4人の兄と育ってきたから、女性と男性の違いを結構感じるんだ。もちろん男性からも助けられているけど、女性からいかに支えられているかを自分自身の観察でより感じたんだよね。娘に対する僕の祖母や母の接し方などを見ていると、自然とそれを感じる。だから、影響力やその活用法をもっと自分が意識できればとは思うんだけど、残念ながらそこまで深く考えたわけではなく、自然と起こったことなんだ(笑)。

まあでも、より良い未来にするために必要なのは話すことだと思う。大きな声で話すこと。専門家ではなくても、自分が思うことを話すことがまずは大切なんじゃないかな。人と人の議論ってときには必要だと思う。そして、現実の生活と繋がることも大事だと思うね。今の時代、皆現実からどんどん遠ざかっていっているような気がするんだ。僕らの人生にとって、そして僕個人にとっても、今この瞬間起こっていることと繋がり、未来について考える必要がある。ただ正直でいること、そして、自分の真実を話すことが怖くなるときもある。でもより良い未来への第一歩は、未来があると知ること、あるいは、未来に関心を持つこと、そして、世界で何が起こっていることを認識することだと思う。今の世の中、情報が溢れすぎていて対処しきれないと思うこともあるよね。だから、人々の個人的な健康や社会的な健康を気遣ったり、権力に対して真実を話したりすることがまずは必要なんじゃないかな。僕たちが個人で出来ることは沢山あると思うよ。

──あなたも参加している『Further Out Than The Edge』というファースト・アルバムを今年発表したスピーカーズ・コーナー・カルテットのKwake Bassやブラック・ミディのモーガン・シンプソン、ユセフ・デイズであったり、ロンドンっ子であるというあなたの周辺から今作には多くミュージシャンが参加している印象もあります。ロンドンのシーン、あるいはあなたの周辺ではどのようなコミュニティが築かれているのでしょうか? また、あなたが感じているロンドンのシーン、コミュニティの特異性などがあれば教えてください。

S:ロンドンのシーンでは、すごく自然体でいられるんだ。周りはもう何年も前から知っている人たちばかりだし。自分の知っているミュージシャンを紹介しあったり、皆が繋がっているんだよ。蜘蛛の巣みたいな感じ。ロンドンはとても肥沃な音楽空間で、沢山の創造性に溢れている。あと、僕は個人的に、素晴らしいドラマーが沢山いると感じているんだ。他にも、マンスール・ブラウンやローラ・グローヴスといった素晴らしいミュージシャンたちが沢山いるし、すごくいいコミュニティだと思う。多くのミュージシャンたちが友人だし、僕はロンドンで生まれ育ったから、このコミュニティにいることが、僕にはとても自然に感じられるんだ。

──数曲でクレジットされているエル・ギンチョも例えばFKAツイッグスやロザリアといった多くのアーティストから求められる存在です。あなたは彼のプロデューサーとしての特徴がどこにあると感じていますか? また、彼が具体的に『LAHAI』を作る上でどのような役割を果たしているのか、どのようなやりとりがあったのかについても教えてください。

S:コロナ禍だったから、彼とはズームでやりとりをしたんだ。話すうちに仲良くなって、彼に何曲か曲を送ったんだけど、彼はそれらを本当に理解してくれた。僕は結構強い意見やヴィジョンを持っていて、あまりそれを崩されたくないタイプなんだ。だから、僕と一緒に仕事をするには、特別な人が必要なんだよね。でも彼は、それをしっかりと理解してくれた上で、絶妙なバランスで僕を助けてくれた。僕みたいなタイプだと摩擦も起きやすく、チャレンジングだと思うんだけど、彼は本当に理解力があるんだ。

──資料には「コドウォ・エシュンの『More Brilliant Than The Sun』や、スピリチュアルな寓話的小説『かもめのジョナサン』、物理学者ブライアン・コックスなどの本やドキュメンタリーからインスピレーションを得た」とありますが、あなたが興味を持つ対象にはどのような共通点があると感じますか? また、あなたが『LAHAI』にいくつかのテーマを設けるに当たって、これらをどのように掘り下げていったのでしょうか?

S:自然な繋がりはあると思うんだけど、それが何かは意識したことがないんだ。でも、子供の頃に聴いていた音楽や映画を、当時はなんでそれが好きなのかさえわからなかったけど、今同じ映画を見返してみると「なるほど、この映画にはサイケデリック・ロックが使われているのか」とか、「演出が素晴らしい」とか、自分がなぜその作品を好きなのかに気づくようになったと思う。で、ときどきそういうインスピレーションが潜在意識に入り込むんだ。で、それが自然と出てくるんだよ。例えば『かもめのジョナサン』は、ジョナサンは本当に高く空を飛び、それから超高速で水に飛び込もうとする。僕はそこに惹かれたんだと思う。彼は飛ぶことに夢中だったけど、カモメのコミュニティでは、飛ぶことは疎まれ、興味を持つことは見下されていた。だから彼は仲間外れにされたんだ。僕にもそういう時期があった。なぜ創造的な努力に多くの時間を費やす必要があるのかを言葉では説明できなくて、そのことで頭がいっぱいで、僕も少し疎外感を感じたことがあって。そこにちょっと似た要素を感じたんだ。

──『LAHAI』の大胆さや繊細さに感動して興奮する一方で、循環していくような、巡り巡る深い思考が表れたリリックやスムースなサウンドによって過去と現在、未来が繋がり、どこか癒されていく感覚を抱きます。さらにリリックに関しては時間や鳥といったテーマに対するあなたの深い思考が表れてもいると思います。あなたはリリックにおいてどのようなものを目指したのでしょうか? また、『LAHAI』の歌詞を書くことはあなたの精神や思考に対してどのような影響を及ぼしましたか?

S:歌詞は、直感的に生まれたものなんだ。年齢を重ねるにつれて、自分が何に夢中になっているのかが分かるようになったし、自分が自分であることに少し自信が持てるようになった。哲学なんかもさ、僕は前から面白いと思っていたんだけど、僕は哲学者でも専門家でもないし、それを語ることは気取ってるとか、言葉が十分じゃないとか思ってたんだよね。でも今は、自分の興味や自分が惹かれるものについて話すことに心地よさを感じるようになったと思う。歌詞を書くことで、精神的な影響があったとは特に思わないかな。ライヴで演奏していたり、曲を聴き返したりすることで少し安心したりすることはあるけど。

──『LAHAI』には、父親になったあなたの視点があり、ケンドリック・ラマーの昨年のアルバム『Mr. Morale & The Big Steppers』に収録された「Father Time」にあなたが参加していたことがより必然に感じました。この曲のヴァースでは、父親になったケンドリックが自身の父親との間にあった問題に向き合っていると思うのですが、若くして父親を亡くしているあなたはこの曲をどのように受け取ってフックを書いたのでしょうか?

S:僕が9歳のとき、父が亡くなったんだ。だから父のことは覚えているし、兄達からも父の話をずっと聞いていたから、父のことは覚えている。父はとても厳しかったけれど、それはタフな愛があるからこそだった。だから、幼い頃に父を亡くしても、ケンドリックが話していることには共感することができたんだ。自分自身が父親であることでも、両親世代と今の世代との違いや、物事の進め方の違いを認識することができるしね。そして、両親が僕達のためにどれだけのことをしてくれたか、子育てがどれほど大変だったかを認識することもできる。あのフックを書いているとき、僕は世代について考えたんだ。この曲には共感したし、ケンドリックが言っていることにも共感したし、理解もできた。親子関係や世代の違いってすごく複雑なんだよ。あの曲では、そのニュアンスを表現することができてとても良かったと思う。

──「Satellite Business」や「Evidence」などには、あなたとあなたの娘、アウリさんとの感動的な瞬間がキャプチャーされています。あなたが父親になったときに起きた精神的な変化が『LAHAI』にも大きく影響していると思うのですが、その変化は父親になる前から予想していたものでしたか?

S:いや、予想はしてなかった。子供を持つことは虹色の夢だと言う人もいるかもしれないけど、僕はそんなことはなかったからね(笑)。最初の時期は「この子をどうにか生かさなきゃいけない」という感じだった。子育てって、かなり難しいことなんだ。それに何かが自分をどう変えようとしているのかを理解するのは難しいことだと思う。でも娘が大きくなるにつれて、僕は、忍耐と共感力を教えてくれたと感じるようになった。なぜなら、子供の脳は自分の脳とは全く違っていて、世界を全く違う角度から見ているから。だから、彼らが経験していることに共感することが難しいこともあるんだ。「疲れているのかな?」とか、「感情をコントロールする能力がないのかな?」と思ったり、まったく不合理に思えることもある。でも、彼らの表現や気持ちは、彼らにとってはすごく純粋な気持ちから来ているものなんだよね。そんな彼らと接していくことで、無条件の愛というものは時間と共に成長していく。そして、それは自分自身を映し出す鏡のようなものなんだ。子供は本当に無邪気で、美しくて、挑戦的で、難しい。難しいけど魔法みたいでもある。本当にいろんな要素が詰まっているんだ。

──残念ながら日本でのライヴは現状発表されていませんが、10月にはロンドンとロサンゼルスでイベント《Satellite Business》を行い、その先もツアーが予定されています。多くの人があなたを待っていると思いますが、どのようなライヴを届けるのか、すでにイメージしていますか?

S:今年はツアーをやるし、できれば来年もやりたいと思っているんだ。日本にもぜひ行けたらいいな。とりあえず今頭にあるのは、ミュージシャンをベースとしたショウにすること。すごくシンプルだけど、ミュージシャン一人ひとりが演奏し、それが繋がることでマジックが生まれるし、それが一番最高なことだからね。

<了>

Text By Daiki Takaku


Sampha

『LAHAI』

LABEL : Young / Beat Records
RELEASE DATE : 2023.10.20
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Tower Records / HMV / Disk Union / Amazon / Beat Records


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