Back

「重要なのは正確さではなく、その瞬間、その場所にしか存在しない体験を作ること」
Moin来日記念インタヴュー

05 June 2026 | By Daiki Takaku

Moinの音楽は暗い。そして、その暗さに、私は極めて親密な共感を抱いている。どうしてか? どうやら、2024年11月に自分が書いた文章にその答えはすでにあったようだ。一部抜粋する。

渋谷の桜丘側の変わり果てた姿とか、道玄坂方面の更地になった一帯なんかを眺めながら聴くべきアルバムがある。あるいは、そういったことをまるっきり考えず、ただ楽しく遊んでいる合間にSNSを通してガザの惨状を間接的に見つめる瞬間でもいい。そのとき駆け巡っている怒りや哀しみ、寂しさ、そして諦めのような何かが混じり合った複雑な感情を、ほとんど完璧に表現しているアルバムがMoinの3作目『You Never End』だと思う。

要するに、Moinの鳴らす音楽の暗さは、おそらく日常的に我々の肩へとのしかかる暗さと似ているのだ。それはぼんやりと、どんよりと、抵抗やある種の正しさが、長い時間をかけて緩やかに力を失っていく現実世界に漂う暗さである。

前提を端折りすぎたので念のため説明しておくと、Moinは、Joe AndrewsとTom Halsteadからなるエレクトロニック・ユニット=Raimeのサイド・プロジェクトとして始まり、そこにHoly Tongueなど幅広く活動するパーカッショニスト/ドラマーのValentina Magalettiが合流し現在のトリオ編成へと落ち着いたロンドンのバンドである。

その音楽の中心で鳴っているのは、ポスト・ハードコア的な歪んだギター。だが、一般的なギター・バンドのそれとは一線を画す。Moinはそこにダンス・ミュージック、あるいはエレクトロニック・ミュージック的手法を持ち込み、ときにヴォーカル・サンプル、あるいはゲスト・ヴォーカルの声と混ぜ合わせ、脱構築的にオルタナティヴ・ロックの可能性を切り開いているのだ。

今回TURNでは、6月6日(土)に恵比寿《LIQUIDROOM》にて開催されるMoinの来日公演の東京編に際してメール・インタヴューを行なった。私は返答を読みながら、Moinが切り開く可能性とは、つまるところその先の対話に向けた、世界に広がる暗さの共有なのかもれないと考えている(同時にそもそも観に行くつもりではあったが、ライヴが猛烈に楽しみになっている!)。なお、今回のインタヴューには、メンバー個人ではなく、Moinとして答えてくれている。
(質問作成・文/高久大輝)

──日本語で読めるあなた方についての記事は貴重なので、まずはあなた方の成り立ちについて教えてください。元々はJoeとTomによるRaimeのサイド・プロジェクトとして始動し、初期にはYellow SwansのPete Swansonと共同でのリリースもあったという認識に間違いはないですか?

Moin(以下、M):その通り。Moinは《Blackest Ever Black》からPete Swansonとのスプリット7インチで始まり、その直後に12インチの3曲入りEP(『Moin』)をリリースしました。

Raimeでも以前、アコースティックの楽器を取り入れたことがありますが、Moinというサイド・プロジェクトを始めた当初の動機は、ドラム、ギター、ベースという最小限の編成で演奏することへの興味でした。

──Raimeの長年のコラボレーターであるValentinaを迎え入れてMoinは再始動し、現在の形に落ち着きました。再始動した経緯、ValentinaがMoinの一員となった経緯を教えてください。

M:私たちは2011年からRaimeの制作でValentinaとコラボレーションしており、2016年のアルバム『Tooth』のリリース後はライヴでも共演していました。

2019年の終わり頃、Raimeの制作プロセスに少々行き詰まりを感じるようになっていたこともあり、創作に新鮮な風を吹き込むべくMoinへと軸足を移しました。大きなプレッシャーや期待はなく、ただ実験を重ね、自分たちが聴きたいと思うトラックを作る機会として始めたんです。

──あなた方の音楽の制作方法の土台は、ギター・バンドという形式と、ダンス・ミュージック/エレクトロニック・ミュージックのプロダクションの融合にあるのだと思います。どのように制作を進めているのでしょう?

M:制作方法は時間とともに変化していて、今の作り方は始めた頃とかなり違います。以前は必ずドラムの録音から始めていて、その後は電子音楽のトラックを組み立てるような感覚で作曲やアレンジをしていました。最近はもっと流動的で、録音と作曲の工程を行き来しながら進めています。ある意味では常に実験していますが、それは闇雲なものではなく、探求に近い。興味をそそる瞬間を捉え、その感覚を追いかけていく。何かが火花を散らす瞬間は常にわかるものです。

──制作のプロセスの中であなた方が重要視しているポイントはどこにありますか? また、編集の作業には明確な“終わり”は存在しないと思うのですが、曲が完成したと感じるのはどのような瞬間なのでしょうか?

M:決して作り込みすぎた感じにはしたくなかったんです。Raimeで行なっていた骨の折れるプロセスに対して、Moinのそれは解毒剤のような存在でした。レコードにおけるリズムの側面は常に最優先事項であり、例えばドラムのミックスにしても、一般的なギター・バンドよりもずっと前面に出ているのがわかります。

また、編集は僕らの制作の中心にあります。コラージュ的な側面もありますが、それは純粋に、予期していなかった要素同士に相乗効果を見出すための方法です。思いがけない組み合わせから新しい生命力が生まれることがあるんです。

──Moinにヴォーカルを担当するメンバーはいませんが、ヴォーカル・サンプルを巧みに用い、リスナーを魅了すると同時に混乱させてきました。声をサンプリングする際はどんなことを意識していますか?

M:それには私たちの持つダンス・ミュージック的なDNAが大きく影響していると思います。声の使い方という点で、僕たちの楽曲はジャングルのレコードともそれほど遠くありません。ヴォーカル・サンプルを強調的かつ意図的に配置しながらも、解釈や曖昧さの余地を残しているんです。

──一方で、2024年の『You Never End』のリリース以降、ゲスト・ヴォーカルをフィーチャーしたトラックを増やしていますね。

M:ヴォーカル・サンプルを使った制作には限界があります。音楽的な感情とヴォーカル・サンプルが偶然にも互いを引き立て合うような相互作用を楽しむ一方で、私たちはそのプロセスを次の段階へ進める必要性を感じていました。そこで、自分たちが敬愛するアーティストたちと直接コラボレーションすることが、最も刺激的な道だと思ったんです。

──最新EP『Belly Up』にも参加するSophia Al-Maria(カタール系アメリカ人の作家/映画監督)が『You Never End』に収録された「Lift You」の冒頭で「ただ言いたいのは、本当に感謝しているってこと。だって、自分の声を曲に使わせてほしいって頼まれることなんて、今まで一度もなかったから」と話していたのも印象的でした。ゲストを選ぶ基準はどこにありますか?

M:決まった基準はありません。純粋に意味のあるコラボレーションであり、その曲だけでは到達できない場所へと導いてくれるようなものを探しているだけです。最もやりがいを感じるコラボレーションとは、新しい視点をもたらし、音楽の感情的な共鳴を深め、美しさと没入感を別の次元へと引き上げてくれるものです。

大切なのは何かの公式に従うことではなく、その創造的なつながりが作品に新たな可能性を開く瞬間を見極めることなんです。

──Moinのサウンドと、ゲスト・ヴォーカリストたちのリリックの内容やヴォーカルのムードは完璧にマッチしているように感じています。どのようなオーダーをしているのでしょうか?

M:前回のアルバムでは、ヴォーカリストたちに多くの楽曲の選択肢を与え、彼らが最もインスピレーションを感じた曲を選んでもらい、自分たちの思うままに自由に作詞できるようにしました。もちろん返ってくるのはアルバム全体にとって新たな可能性や方向性を提示するものになります。そういった想定を超えていくことこそ、本当に刺激的な挑戦なんです。

──個人的には、Moinの音楽にはジェントリフィケーションや経済格差、戦争を含む社会問題の影響が反映されているように感じます。近年のイギリスの政治や社会、あるいは世界の動向に対するあなた方の意見を教えてください。ちなみに日本は今、為政者の独断によって第二次大戦以後かろうじて保ってきた平和主義の礎が崩れ落ちようとしています。

M:私たちが周囲で起きていることの影響を受けずにいるのは難しいと思います。意識的であろうと無意識的であろうと。

英国では、経済格差の拡大、緊縮財政の影響、住宅危機、そして社会的な分断の進行などを目の当たりにしてきました。世界的にも戦争や強制移住、ナショナリズムの高まり、さらには日常のあらゆる側面に及ぶような不確実性が存在しています。こうした動きには、圧倒されるような感覚を抱くこともあります。

日本の人々の多くが、戦後の平和主義の理念が侵食されていることに懸念を抱いている理由も理解できます。同様の議論は多くの国で繰り広げられており、安全保障、アイデンティティ、国際協力に関する長年の前提が問い直されているのです。

私たちは今、大きな転換期を生きているように感じます。そして、それは当然、将来どのような社会を築きたいのかという難しい問いを突きつけてくるものです。音楽には、そうした緊張や不安、矛盾を感じ取り、共有し、集団として内省できる場を創り出すことができます。

──Moinのサウンドは、ポスト・ハードコア、ダンス・ミュージック、実験音楽といった既存のジャンルにはすっきりと収まりません。クリエイティヴ、哲学的、あるいは技術的な面で、共感できる現代のバンドやアーティストはいますか?

M:Moinのメンバーは皆、熱心なリスナーであり、今も多くの素晴らしいアーティストから常にインスピレーションを受けています。ここで長々と説明するより、私たちが隔月でやっている《NTS Radio》の番組を聴いてもらうのが一番わかりやすいでしょう。そこには私たちが創作面で共鳴している音楽やアーティスト、アイデアがかなり正確に反映されていますし、ミュージシャンである以前にリスナーとして交わしている会話も表れています。

──Moinの話題からは少し逸れますが、ValentinaはYPY(日野浩志郎)とコラボ作『Kansai Bruises』(2025年)をリリースしています。このコラボレーションはどのような経緯で実現したのでしょうか? また、Moinの皆さんがこれまで影響を受けた日本のバンドやアーティストがいたら教えてください。

M:Valentinaは以前からYPYや彼のレーベル《Nakid》を追っていて、日本を訪れ、日野浩志郎と制作することになったのも自然な流れでした。そして、数回ライヴでの共演を経て、『Kansai Bruises』が誕生しました。このタイトルは、関西地方の美しさへのオマージュです。Valentinaは、自転車で風景の中を旅する自分を想像していて、あまりにも周囲の景色に見惚れてしまうので、何度も転びながらあざ(bruise)を作っていく──そんなイメージだったそうです。

MerzbowからPhew、《vanity records》のアーティストたちに至るまで、日本の音楽は常に私たちのターンテーブルの上にあります。

──あなた方にとって(実際に再現不可能な曲が存在しているという点もあるかもしれませんが)ライヴのステージは単純にレコードを再現する場ではないですよね?

M:その通りです。スタジオ作品として完結している曲もあれば、ライヴの空間に特有のカタルシスをもたらすための曲もあります。

私たちにとって、ライヴは単にレコードを再現する場ではありません。それは解放感と儚さを同時に感じさせる、没入型の音響体験なのです。曲は固定された目的地ではなく、枠組みのようなもので、その中でエネルギーや緊張感、会場との相互作用が生まれます。パフォーマンス中、私たちが注力しているのは、その場の集合的な感覚、音が空間をどう駆け巡っているか、そして人々がそれにどう反応しているかです。重要なのは正確さではなく、その瞬間、その場所にしか存在しない体験を作ることです。

──ライヴ・パフォーマンスとスタジオ・ワークは、互いにどのように影響し合っていますか?

M:レコーディングが終わると、僕らはその曲のムードやエッセンスを捉えて、それをライヴへと翻訳しようとします。それはしばしば困難なプロセスですが、バンドの別の側面を探求できるため、非常にやりがいがあります。多くの場合、ライヴ・ヴァージョンはレコーディングとはかなり異なるサウンドになりますが、それも魅力の一部です。

リスナーにとっても、自宅でレコードを聴く体験とライヴでの音楽体験が全く別のものであることは当然でしょう。私たちはレコードの完璧な再現を目指しているわけではありません。会場のエネルギーに応え、それ自体として存在し得る何かを作り出すことに興味があるんです。

──6月には、Valentina Magaletti & YPY、Holy Tongue、そしてMoinが日本での公演を予定しています。日本滞在中に楽しみにしていることがあれば、ぜひ教えてください。

M:日本にはいつも素晴らしい発見が溢れています。何度も訪れているメンバーもいるので、今回は建築や工芸の伝統をより深く探求したいと思っています。一方で、初めてに近い感覚で日本を訪れるメンバーは、日本の親切さや寛大さ、美しさに魅了されるでしょう。建物の小さなディテールや地元の工房、人との出会いなど、訪れるたびに新しい発見があります。

言うまでもなく、本気のレコード・ディグも予定しています。そのスケジュールはすでに頭の中で組み上がっています(笑)。本当に楽しみです…!

──最後に、Moinの現在の状況について教えてください。

M:現在、ロンドンで多くの新曲を書き下ろし、レコーディングを行っています。先日《4AD》と契約したこともあり、次のアルバムに向けて素材を集め、形にしているところです。

バンドにとって非常に刺激的な時期で、たくさんのアイデアを試しながら発展させています。焦らずに時間をかけて、曲が自然に成長していくのを見守りながら、次の作品へ向かっています。

<了>

Text By Daiki Takaku


MODE

ACT: Moin (UK)、goat (JP)

DATE:2026. 6. 6 (Sat.)
OPEN:17:30 / START:18:30
PLACE:LIQUIDROOM
ADV:8,000 JPY +1D
TICKETS


関連記事
【FEATURE】
BEST 13 TRACKS OF THE MONTH – October, 2024
https://turntokyo.com/features/best-13-tracks-of-the-month-october-2024/

【REVIEW】
Moin
『You Never End』
https://turntokyo.com/reviews/you-never-end/

【FEATURE】
vanity records
音楽とメディア、身体や空間の関係性を再編成するために
https://turntokyo.com/features/vanity-records/

1 2 3 88