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特集
【マンチェスター その青き憂鬱】
Vol.3
ティム・バージェス インタビュー
マンチェスター・ムーヴメントのカリスマから慧眼を持つキュレーターへ

26 October 2022 | By Kenji Komai

2022年10月に実現したザ・シャーラタンズの来日公演、リキッドルームのステージに姿を見せたフロントマンのティム・バージェスは終始ご機嫌な様子だった。活動32周年を記念するツアーだけに、マンチェスター・ムーヴメント真っ只中にリリースされた1990年の「Then」「The Only One I Know」から2017年の「Plastic Machinery」までの、キャリアを俯瞰するセットリスト。しかし、レジェンドと言ってさしつかえないキャリアであるのに「マンチェスター・ムーヴメントの重要人物」という重々しい形容がどうも似合わない。Urban Outfittersの「Until We Meet Again(また会う日まで)」とプリントされたスウェットシャツを着て、ひっきりなしに自分のiPhoneを操り、フロアに降りてオーディエンスを撮りまくる、どこまでもカジュアルなたたずまいが微笑ましい。

1996年にロブ・コリンズ(キーボード)を自動車事故で、2013年にジョン・ブルックス(ドラム)を脳腫瘍で、ふたりのメンバーを亡くし、かつて「世界で最も不運なバンド」と呼ばれた彼らがここまで活動を続けてこられたのは、ティム自らのかつての言葉を引用するならば「快適なゾーンから一歩踏み出すこと」を厭わなかった賜物であるだろう。そのフットワークの「軽さ」こそが、シャーラタンズたらしめているのだと、懐古的とはいささか異なる空間で再確認せずにはいられなかった。

ティム・バージェスの現場感覚とキュレーターとしての目利きの鋭さを象徴するのが、ロックダウン期間中に爆発的な人気を博した《Tim’s Twitter Listening Party》だ。お題となるアルバムをユーザーが同時に再生ボタンを押し、ティムとゲストによる各曲へのライヴ・ツイートに参加者がコメントや質問を投げかける。シャーラタンズのアルバムからスタートした企画は紹介数1000枚を越え、ポール・マッカートニーから賛同を得るまでになり、つい先ごろもジョン・レノンの最新ベスト・アルバム『Gimme Some Truth.』の回が彼の82歳の誕生日にオノ・ヨーコをゲストに迎えて実施されたばかりだ(https://timstwitterlisteningparty.com/pages/replay/feed_1151.html)。アーティストとリスナー、さらにリスナー同士を繋ぐだけでなく、ストリーミング全盛の時代に制作者の意図とおりの曲順でアルバムをフルで聴く楽しみの復権に貢献した。

今回、来日したティム・バージェスに話を訊いたのだが、今では28万人のフォロワーを持ち、パンデミック下の時の人となった彼は、9月にリリースした2枚組、22曲のボリュームを持つ新しいソロ・アルバム『Typical Music』が《Tim’s Twitter Listening Party》のオーガナイズ経験から生まれたことを否定しない。

「リスニング・パーティーでアルバムというフォーマットという魅力にみんな気づいてくれたと思う。プレイリストやトラックの一曲一曲を聴くことではなく、長い間忘れられていたアルバムというかたちを再び感じてくれた。だから、このアルバムをリリースすることによって、人々の集中力というか、アルバムについて感じてくれている魅力をもうすこし広げて提示できたらと思ったんだ。ブロックバスターみたいにね(笑)」

「今回は全曲をアコースティック・ギターで書いた。ギターを持って自分の心地よい空間で自分の頭に浮かんでくるものを曲にしていった。カポを動かしながら自分がいいと思えるコードを探して、そこから歌詞を書いて……多いときは1日に4、5曲アイディアを思いついたりした。そんな感じだから、制作中は他のアーティストの曲はぜんぜん聴いていなかったけれど、最近聴いているもので言えば、ノーマ・タネガ、ポール・マッカートニー、ピーター・ガブリエル、10cc、ソフィー・ロイヤー、ワイズ・ブラッド、ジュリア・ホルター、キム・フォウリー、ジョルジュ・エルブレヒト、エイサップ・ロッキー、パンダ・ベア、ソニック・ブーム、アイスエイジ……本当に様々だ」

ロックダウン中、6ヵ月間で書き上げた22曲の新曲を持って彼はウェールズの《Rockfield Studios》に向かった。『Tellin’ Stories』(1997年)までのシャーラタンズのアルバム群を生み出したスタジオであり、レコーディング中にロブ・コリンズが事故で命を落とした場所でもある。25年ぶりにかの地に戻った彼は、前作『I Love The New Sky』(2020年)に続いてのコラボレーションとなるサイポールサンドラとダニエル・オサリバンというふたりのマルチ・インストゥルメンタリストとともに30日間スタジオに籠もった。

「22曲の歌詞とメロディをふたりに見せて、そこから3人でマイクをセットしたり楽器を加えたり、とにかく演奏しまくって、すごく楽しいプロセスだった。僕がアコースティック・ギターを弾いて、ダニエルがピアノとドラムとベース、サイポールサンドラがシンセとエンジニアと料理担当、彼はすごい料理が上手なんだよ(笑)。それで、『Curiosity』みたいな曲はバンドサウンドだと思うし、『Time That We Call Time』『Flamingo』などはすごくスタジオっぽいサウンドになった。レコーディングはバンドではないんだけれど、でもやっぱりライヴでやるときは他のメンバーを加えてバンドのサウンドになると思う」

運営するレーベル《O GENESIS》でも、ダニエル・オサリバン以外に、R・スティーヴィー・ムーアのようなレジェンドから、ティム・コーやアヴェレージ・セックスのような新しい世代のアーティストまでをリリースしており、卓越した審美眼に唸らされてばかりだ。なかでも『Typical Music』から想起したのは、2021年にリリースしたジョルジュ・エルブレヒトのトリッピーで美しい『Presentable Corpse 002』。今年に入ってからもハッチーの新作『Giving The World Away』やスカイ・フェレイラの復活シングル「Don’t Forget」を手掛けているエルブレヒトのアルバムと、現代におけるサイケデリックなポップスのあり方として共通点は少なくない。

「そう、モダンなサイケデリック・ポップというのは僕も彼のアルバムを聴いて感じていて、今作を制作中も頭をよぎっていた。ジョルジュのことは以前から知っていて、彼の音楽が好きだ。彼が『Presentable Corpse 002』を発表したがっていたので、僕のレーベルでリリースすることを決めた。とにかく早くてサイケで面白いサウンドだし、ギタープレイも好きだ。さらに素晴らしいプロデューサーでもある。実はコラボをしたいと何度も思っているんだけれど、彼がコロラドのデンヴァーに住んでいるので、実現できていないんだ。でも将来ぜひやりたいね」

デイヴ・フリッドマンが全曲のミックスを担当しアルバムのダイナミズムを精緻にコントロールしているほか、アルバムにはパール・チャールズや、ニティン・ソーニー、エコー・コレクティブなど多彩なアーティストが参加、なかでも「Time That We Call Time」と「Kinetic Connection」ではサム・ゲンデルが参加し、一聴してそれと分かるエフェクティヴな音色で彩っている。

「彼の音楽に関してはそんなに前から聴いていたわけではなくて、最近ネットで発見して聴き始めた。そこからすごくいいなと思って、彼の新しいジャズの要素を取り込めたらと、自分からアプローチして参加を依頼した。それで、ファイルを送り合って彼の要素を曲に加えてもらった。実は4曲送ったんだけれど、そのうちこの2曲が繋がりを感じられると言ってくれた。彼自身がなにかもたらせると感じているものがいいと思って、この2曲でコラボレーションすることにした。僕にとっても大きな意味があったね」

「「Curiosity」では、〈reciprocity(互恵性)〉という言葉がドアを開ける鍵になっている。自分が誰かに好奇心を持って、興味を持っていたら、その人に、自分も同じものを返してほしい、この気持が一方的なのか、相手からの “お返し“も欲しいと感じるのか。そうした意味を込めて歌詞に入れたんだ」。そう語るように、88分にわたる『Typical Music』に間断なく流れているのは、彼が《Tim’s Twitter Listening Party》を通して感じた、コロナ禍の社会における人の結びつきであることは間違いない。5月生まれの9歳になる息子モーガンについて書いた「In May」のメランコリーや、2020年に亡くなった父そして息子との関係について“もう手遅れかもしれない/生まれ変わる前に決めた運命を調整するには”と歌う「Flamingo」など、今作のリリックには彼のプライベートでの変化が如実に反映されている。「After This」ではパンデミック後の世界に生きる感情と未来の展望について、実に楽観的かつロマンティックに表現する。ビーチ・ボーイズとフガジが出会うエクスペリメンタルな「L.O.S.T Lost / Will You Take A Look At My Hand Please」では“明日に向かって歩ける”とまで言い切る。『Typical Music』のあっけらかんとしたポジティヴさを生んでいるのは、カリスマとしての虚栄心や快楽主義を捨て、あくまでリスナーとしての目線を崩さず、貪欲に新しい音楽を掘っていく探究心と慧眼である。90年代、シャーラタンズのハモンド・オルガンを駆使したサウンドを契機にブライアン・オーガーが再発見されたように、ティム・バージェスはいまも「良き音楽の紹介者」であり続ける。
(インタビュー・文/駒井憲嗣 通訳/原口美穂 撮影/久野剛士 協力/高久大輝)


Text By Kenji Komai


Tim Burgess

Typical Music

LABEL : Bella Union / Big Nothing
RELEASE DATE : 2021.09.23


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