真鍋大度と《BEATINK》が立ち上げる新しい音楽イベント
《Future Frequencies Festival 2026》
真鍋大度と《BEATINK》による企画で初開催される新しい音楽イベント《FUTURE FREQUENCIES FESTIVAL 2026》(FFF)の開催がいよいよ今週末、7月11日(土)〜12日(日)に迫ってきた。ジョイ・オービソン、セイバーズ・オブ・パラダイス、ノサッジ・シング×真鍋大度、ルイス・コールとジェネヴィーヴ・アルターディによるノウワー、カッサ・オーヴァーオール、長谷川白紙、ロレイン・ジェイムス、原摩利彦、YPY(日野浩志郎)、松丸契、Keigo Yoshida、Sogen Handa、Alminium、中田拓馬ら多様なラインナップが出演。加えて、カンファレンス、パネルディスカッション、ワークショップ、作品展示も予定されているそうで、多層的、多角的に楽しめそうだ。場所は高輪ゲートウェイシティにあるミュージアム《MoN Takanawa》。会場内には、FFFオフィシャル・バー、施設内のMoN Park CafeやMoN Kitchenも登場。ドーナツ店(《SON OF A TOM》)や足湯テラス、MoNファームなどでまったりすることもできそう。都心も都心、山手線の駅前での開催も嬉しいし、入退場も自由というのもありがたい。当日券も販売予定されているので気になる方はぜひ。期待値高いこのイベントを前に、TURN編集部での座談会をお届けしよう。(編集部)
『Flying Tokyo』の発展形として
岡村詩野:このイベントは真鍋大度とレーベルの《BEATINK》がタッグを組んで開催されますが、レーベルはかなり力を入れていますね。
高久大輝:真鍋大度が2009年からやってきた『Flying Tokyo』というイベントが原型になっていて、それを発展させたものみたいですね。
岡村:『Flying Tokyo』に関しては若手クリエイターを支援育成するプログラム。単にフェス的なイベントというよりは、若い人を発掘して育てていくことがそもそもの狙いなのかもしれない。
高久:けど、アーティストのラインナップからして様相は違っていそうです。もしかしたら演出的な面は引き継いでいるかもしれないですが。《MoN Takanawa》内の《Box1000》《Box300》で開催されるということで、行ったことはないんですが《Box1000》はステージ全面にLEDがあるらしいので、視覚的な演出が面白くなりそうです。真鍋大度が携わっているのはそういった点でも大きいかと。
岡村:ライヴだけじゃなくて、渡辺信一郎の短編作品の特別上映やトーク登壇、真鍋大度とロレイン・ジェイムズのトークがあったり、YOSHIROTTEN、Daito Manabe + Kyle McDonaldのインスタレーション展示など盛りだくさんらしいですね。マルチメディアって言い方は今更ですが、ただ、メディア・アートを今の時代に再定義しようとしているようにも見えますね。
「今の時代」が可視化されたラインナップ
岡村:このイベントのどういうところに期待してますか?
高久:どこまでリスナーが被ってるのかわからないですけど、例えば松丸契や長谷川白紙といった、国内のアーティストがいわゆる前座的な捉え方をされないでラインナップされてるのは象徴的ですよね。YPYもそうですけど、国内からもすごく先鋭的なアクトが揃っている。あと、ジョイ・オービソン(Joy Orbison)だったり、ダンス・ミュージック寄りなアクトもいつつ、もっとエクスペリメンタルというか、ポストクラブ的なところが全体として強いのかなとも感じます。例えばロレイン・ジェイムズももちろんダンス的な要素もあるアーティストだけど、どちらかというとエクスペリメンタル・エレクトロニック・ミュージックで。いろんなものが交錯しつつも、全体はなんとなく統一感がある。ジャズ畑もいれば電子音楽の畑の人もいて、様々な領域がクロスオーヴァーしていますよね。Mount XLRというUKの電子音楽/ダンス・ミュージックに影響を受けた韓国の電子音楽アーティストがいるのも重要かもしれません。
髙橋翔哉:真鍋大度って私のイメージだと、プログラミングやAIみたいな先端的なテクノロジーと、もっと身体的な——音楽もそうだし、ダンスとか——そういったものとのクロスオーヴァーを図っているアーティストだと思うんですけど。僕がこの出演アクトの中で気になるのが、ロレイン・ジェイムズもそうだし、ノウワー、カッサ・オーバーオールあたり。そのへんも、打ち込みの機械的なグルーヴと、生身の身体的な親密さや躍動感みたいなもののクロスオーヴァーを体現しているアーティストで、真鍋大度が主催するイベントに出演するアクトとして納得感があるし、このイベントの演出のなかでどんなかたちで彼らの音楽が活きてくるのかが興味深いなと思っていますね。いま挙げたようなアーティストも、高久さんがおっしゃったようにエクスペリメンタル圏内、あるいはインテリジェント寄りの音楽で、それは《BEATINK》がずっと日本に紹介してきた流れでもある。そういった文脈とも接続して、一本の軸がとおったイベントだなと思いましたね。
吉澤奈々:同じような流れで、《BEATINK》が総合プロデュースした屋内レイヴの《Electraglide》を思い出しましたね。通称エレグラは《WARP》などテクノ・アーティストの出演が多かった印象ですけど、ライヴだけでなくTOMATO、クリス・カニンガムなど映像の演出も魅力的だった。当時は《Electraglide》と《WIRE》が開催されていて、テクノ好きだけじゃなくロックのリスナーもイベントに参加しやすかったんじゃないかな。実際、私もそうだったので。なので今回のアート・テクノロジーを取り入れたイベント演出は、音楽のクロスオーヴァーにとどまらず、《BEATINK》と真鍋大度が活動してきた表現の発展でもあるような気がします。
尾野泰幸:ここ数年、海外でフェス・バブル崩壊という話題があるなか、今年はどのフェスも結構動員に苦戦してるという話が出てきてますよね。フジロックもサマソニも、円安の影響もあって海外アクトを以前のようなラインナップで招聘することが難しくなっているなか、《Future Frequencies Festival》はロレイン・ジェイムズやノウワーといった近年活躍するアクトを主軸におきながら独自のラインナップでフェスを組んでいて素晴らしいと思います。国外アクトの単独公演が増えている中で、一つの思想を持ったイベントとして新しいものを立ち上げる。かつて《Hostess》が主宰していたような趣のあるイベントを、改めて《BEATINK》が継承してやっているようにみえるところにまた意味があると思いますね。
岡村:現代は、ジャズ、クラブ・ミュージック、ヒップホップ、2ステップ、ダブステップ、あるいはバンド・サウンドとかも、全部分かれているようで実は根っこが一つにつながって、全部ひっくるめて音楽、という認識をみなどこかで感じとっていると思うんですよ。ジャズを聴いてる人がヒップホップを聴いていて、ヒップホップを聴いてる人がオーセンティックなフォークやカントリーも視野に入れていたり、打ち込みとオーガニックな音作りに大きな差がないことをやる人たちが増えたり。そういう意味では、今回のこのラインナップは、今の時代の傾向を見事に切り取っているという印象を受ける。《BEATINK》が日本で窓口となっている《WARP》《Brainfeeder》《Hyperdub》などはその点では象徴的なレーベル。個人的には《Leaving》《RVNG Intl.》あたりも含めると、面白いと思えるレーベルはそうした時代をどこかで嗅ぎとっているように思えます。その点で、そうしたある種のハイブリッド…というよりむしろ逆の、音楽の原点一本化が可視化されたようなイベントという気がすごくします。フジロックやサマーソニックでもおそらくそういう傾向は感じ取れるはずなんだけど、出演者が膨大だったり日数が長いから可視化されにくかった。このイベントはコンパクトであるが故に時代性を切り取っているのが見えやすい形になっていますね。
セイバーズ・オブ・パラダイス——90年代から地続きの縦軸
岡村:ラインナップの中ではセイバーズ・オブ・パラダイスの登場にまず驚きました。2020年に亡くなったけど、プライマル・スクリームのプロデュースなどで話題になってアンドリュー・ウェザオールらによるユニット。私は当時、新宿にあった頃のリキッドルームで見たけども……。
尾野:それが最後の来日のようですね。
岡村:その時に一緒に来ていたのがエイドリアン・シャーウッドで、ダブミックスをその場でやっていた。エイドリアン・シャーウッドは今も《BEATINK》から作品を出してるから、その点でも90年代からずっと連綿と地続きでつながってきていることを伝えてくれる、今回の来日だと思う。
髙橋:気になりますね。作品は通ってきていないんですが、僕の視界でも一部のユーザーのあいだでセイバーズ・オブ・パラダイスという名前が盛り上がっているのは観測していました。しかも、必ずしもリアルタイムで彼らのライヴを観た世代だけでなく、もう少し若いリスナーにも世代交代が行われている印象でした。
高久:このイベント自体が、縦の、歴史的な幅がちゃんとあるんですよね。ジョイ・オービソンも2000年代後半に出てきたわけで、ロレインは2010年代後半ですもんね。
岡村:ベース・ミュージック、そこからロレインへ。
髙橋:単に“いま”のエッジーな若手を集めたイベントというわけでもなく、良質なプレイリストのように、縦軸も含めたひとつの流れを提示するようなイベントになりそうですよね。
岡村:今の時代をパッと切り取るだけじゃなく、20年、30年、40年くらいの大きな流れを俯瞰して見られるような楽しみ方ができるかもしれない。
吉澤:大きな流れでいうと、アーティスト・トークがいくつもあるのは今後のクリエイターを育てていきたい気持ちをやはり感じます。
高久:カッサ・オーバーオールはわかりやすくヒップホップ的な感覚のあるアーティストですけど、それ以外の人も、個人的には今ラップを聴いてる人が聴いても違和感のない並びになってるかなと思っていて。ジョイ・オービソンは、この間取材したNoshさんというプロデューサーの方も聴いてたと言っていたし。UKのグライム、ドリル以降の耳があるヒップホップ・リスナーも、この辺の電子音楽は違和感なく聴けるんじゃないかなという感覚はありますね。
それぞれの注目アクト
高久:僕はジョイ・オービソンですね。今まで観れていなかったんで。あとはロレイン・ジェイムズの新作が出て、新作を携えてのライヴは初めてだと思うので、それも楽しみです。
髙橋:ロレインは、今年出したアルバム(『Detached From The Rest Of You』)がいちばん好きだな。前作(『Gentle Confrontation』)はシンガー・ソングライター的というほどでもないが私的で人間的なアルバムでしたが、今回はすごくダンス・ミュージックとしての機能性の高いアルバムで、それがすごくよかった。ノウワーも、2024年の『Knower Forever』はかなりいろんな要素の入ったアルバムで、ルイス・コールのドラムスのグリッド的な精度の高さとクラシカル・クロスオーヴァー的な構成の豊かさがポップな形で結実したアルバムだったので。これはカッサ・オーバーオールとも通じる話ですけど、カッサはまた初期からラップ・ミュージック色の強いアーティストで、デビュー作(『Go Get Ice Cream and Listen to Jazz』)からずっといい。ライヴで聴くとどうなのかがすごく気になる。挙げている三者は、聴き手によってはちょっと高尚な語られ方をするところがありますけど、本質的にはけっこうチャラい音楽家たちだと思っているので、チャラく楽しんで踊りましょうって感じ。
高久:補足すると、カッサ・オーバーオールが去年出した最新作が『Cream』というアルバムで、ジャズのインスト・アルバムなんだけど、『Cream』ってタイトルはウータン(・クラン)のあの曲のことを指してるわけです。要はヒップホップのクラシックをカヴァーしたアルバムなんですね。今年ウータンも来日してましたけど、ヒップホップ・ファンはこのタイミングでカッサ・オーバーオールを観ておいて損はないかと。
吉澤:私はノサッジ・シング × 真鍋大度のコラボレーション。長年コラボをしている2人だし、音楽と映像どちらも制作できる両者のライヴは、現場で体感してこその醍醐味かと。
尾野:《MUSIC AWARDS JAPAN》において、今回イベントに出演する原摩利彦さんが登壇した際に最近お子さんが生まれて、初めてお子さんが病院からご自宅に来た時にリビングで泣き声を聞いて、自分が父になった実感が湧いたという話に続けて、この子の頭上に爆弾が落ちてこないような世界をつくるため、自分は音楽を通じて平和に訴えかけていきたい、というお話をされていたのがすごく印象的でした。そのようなポリティカルな部分が、このイベントにおいて表出するとしたらどのようになるのかも興味深いですね。
岡村:クラブ系は昔からレフトフィールド系の人たちが多いから、直接的に戦争反対をアピールしているかどうかはともかく、オーディエンスは間違いなくそうした思想をどこかで受け取るかもしれない。
高久:ロレイン・ジェイムズも、音楽業界の不均衡みたいなところに注目して、安い機材でもちゃんと音楽を作れるということをやってきた人ですよね。
岡村:単に音楽を楽しむだけではなく、そうした意識を感じ取れるイベントになりそうな予感もします。あと、個人的にはYPY。日野浩志郎さんのプロジェクトがここに入るのは意味は大きい。日野さんはずっと海外で高い評価を得ていて、2010年代以降の海外に出ていく動線をいち早く作ってきた人の一人。特にヨーロッパへの流れを作った人だから、他のアクトとどう共鳴していくのか……。日野さんはヒップホップへのアプローチが最初から明確にある人で、特にYPYの初期はその要素が強かった。だからヒップホップ的な最新作を出しているカッサ・オーバーオールと同じ日というのは興味深いと感じます。それと、もし、生きていたら、ここに篠田ミルさんかyahyelが出演していたかもしれない、と思うとなんとも切ない気持ちになる……。篠田さんには本当にもっともっと生きて活動していてほしかった……。いずれにせよ、2日間開催の今回のこのイベント、長期的に続けていくことも視野に入れているそうなので、成功を収めて時代を切り取り続けていってほしいですね。
<了>
Text By TURN's Editors
Future Frequencies Festival 2026
DAY1 – 7.11(Sat)
[Box1000]
Joy Orbison
The Sabres Of Paradise(Club Set)
Nosaj Thing x Daito Manabe
Loraine James
[Box300]
Marihiko Hara
Mount XLR
Keigo Yoshida
Sogen Handa
Alminium
[Tatami]
特別上映 & Talk : 渡辺信一郎「A Girl meets A Boy and A Robot」
Artist Talk : Loraine James x Daito Manabe
and more
Future Frequencies Festival 2026
DAY2 – 7.12(Sun)
[Box1000]
Knower [full band show]
Kassa Overall
Hakushi Hasegawa
[Box300]
YPY
Kei Matsumaru
Takuma Nakata
and more
[Tatami]
特別上映 : 渡辺信一郎「A Girl meets A Boy and A Robot」
Talk:Nick Dwyer「A Century in Sound」
DAY1 / 2 – 7.11(Sat)-12(Sun)
Installation:
Yoshirotten「Sunbient Game」(Sea Lab)
Daito Manabe + Kyle McDonald「Transformirror FFF ver.」(Box300)
Future Frequencies Festival 2026
MoN Takanawa:Box1000 / Box300
Open/Start 15:30(※リストバンド交換は14:30より開始)
主催・企画制作:Studio Daito Manabe / Beatink / Fil
共催:MoN Takanawa: The Museum of Narratives
協力:Arts Council Tokyo
https://linktr.ee/fff_tokyo
