Back

「この人なら自分をさらけ出してもいい」
フォーク・ビッチ・トリオに訊く、曲作りのアティテュード

09 May 2026 | By Yasuo Murao

メルボルン/ナームを拠点に活動する女性3人組、フォーク・ビッチ・トリオ。幼馴染のグレイシー・シンクレア、ジーニー・ピルキントン、ハイデ・ペヴェレルは出会った時から音楽に情熱を注ぎ、18歳の時にバンドを結成。2025年にファースト・アルバム『Now Would Be A Good Time』を発表した。バンド名の中にある“ビッチ”という挑発的な言葉。それが彼女達のユニークなキャラクターを知る手がかりになるだろう。“フォーク”と名乗りながらも、フォークというジャンルにとらわれない豊かな音楽性。でも、フォークに対するリスペクトはしっかり持っていて、アコースティック・ギターとエレクトリック・ギターを織り交ぜながら、3人の美しいハーモニーを聞かせる。

彼女達はアレックスG、コートニー・バーネット、キング・ギザード・アンド・ザ・リザード・ウィザードなど、様々なアーティストのサポートを勤めて世界中をツアーで周り、今年4月についに日本に初上陸。東京渋谷の《WWW》で噂に違わず素晴らしいパフォーマンスを披露してくれたが、その数日後、初めての来日を満喫している3人に話を訊いた。

(インタヴュー・文/村尾泰郎 通訳/竹澤彩子 トップ写真/Nick Mckk 本文写真/古溪一道)

写真左から、ジーニー・ピルキントン、グレイシー・シンクレア、ハイデ・ペヴェレル

Interview with Folk Bitch Trio(Jeanie Pilkington, Gracie Sinclair, Heide Peverelle)


──ライヴで生で聞いたあなた達の歌声は、アルバム以上に素晴らしかったです。まるで「フォーク・ビッチ・トリオ」というひとつの歌声があって、それがいろんな表情を見せているように思えるくらい、3人の歌声が溶け合っていました。

Heide Peverelle(以下、H):ありがとう! 私たちも曲を聴いて誰が歌っているのかわからない時があるんです(笑)。

Gracie Sinclair(以下、G):私たちの友達や家族も曲を聴いて誰が歌っているのかわからないことがあるみたい。

Jeanie Pilkington(以下、J):普段、話しているときの声も似てるしね。曲を何度も聴いていると誰が歌っているのかわかるようになってくると思います。

──歌声はバンドの大きな強みだと思うのですが、ハーモニーやコーラスのアレンジは特に念入りにやっているのでしょうか。

G:時間はかけていますね。曲ができてから何度も練習を重ねていて、一見、さらっと歌っているように聞こえても、そうなるまで何百回と練習しているんです。

J:でも、昔に比べたらだいぶスムースにできるようになってきたかも。もう、何年も3人で一緒にやって来ているので、新しい曲をアレンジする時にあれこれ悩まないし、自然に形になっているような気がします。重要なのはフィーリング。その曲に何が必要とされているのかを感じ取ることなんです。

G:そう。曲作りに関してはフィーリングや直感をすごく大切にしています。3人で歌うことを想定しながらメロディーを書いている曲もあるけれど、手を加える前に曲に語らせることも大事にしていて。そこにアレンジを施すことで、まったく新しいものに生まれ変わることもあるんです。

──普段はどんな風に曲作りをしているのでしょう。

G:それぞれが曲を持ち寄って一緒にアレンジします。そこで曲が変化していくんです。

H:曲作りの過程で一番大切なのが、3人で集まって曲を聴かせ合う瞬間。メンバーに見せた時に、「私の曲」から「私たちの曲」に変化するんです。

──その時、他のメンバーが書いた曲に対しては遠慮せず正直に感想を伝えています?

3人:はい!

──じゃあ、時には辛辣な意見が出ることも?

H:ズバッと言います(笑)。イマイチだなって思ったら正直に言う。それって、絶対必要なことだと思うから。でも、そこまで厳しい意見を言うことはあまりないですね。というのも、私たちは自分自身に対して厳しい批評家でもあるので。

ハイデ・ペヴェレル

──メンバーに曲を持っていく前に、自分の厳しい耳でしっかり選んでいるわけですね。

H:私たち、当然のことながらダメな曲もたくさん書いているんです。でも、そういう曲はバンドには持ち込まない。バンドに持ち込む曲は、その時点でかなり良くできていると思える曲で、それが最終的にフォーク・ビッチ・トリオの曲になっていくんです。

J:ダメとまでは思わないけど、「う〜ん、これってどうかなあ」って、確信が持てない曲を持っていって、そこで2人に「いいね!」って言われることで自信を持つこともあります。2人に意見を言ってもらってお墨付きをもらうというか。自分が書いた曲を客観的に判断するのは難しいですからね。

H:グレイシーが「Cathode Ray」を書いたときがそうだったよね。グレイシーは「これ、どうかな……。あまり自信がないんだけど」みたいな感じだったでしょ? それで3人で車の中で一緒に聴いたんだけど、ジーニーと私が「いやいや、この曲は絶対に形にすべきでしょ!」って(笑)。

G:そうそう(笑)。「Sarah」もボツになりかけた曲だよね。曲を持って来たハイデは「どうかな……?」って感じだった。だいぶ前の曲だったから新たなエネルギーを吹き込む必要があって、スタジオでいろいろ手を加えたけど。

──そういえば、ハイデが書いた曲をジーニーがすごく気に入ったことがバンド結成に繋がったそうですね。

J:そうなんです。バンドを始めたとき、私たちの誰一人として自分のことをソングライターだとは思ってなくて。みんな音楽が好きで、それぞれなんとなく曲を書いてはいたけど、自分が書いた曲に自信なんてありませんでした。それで高校の最後の年にハイデが自分で書いた曲を私に聴かせてくれて、私も自分の曲をハイデに聴かせたんです。それが自分が書いた曲を他の人に聴かせた人生で初めての経験でした。

ジーニー・ピルキントン

──自分が書いた曲を誰かに聞いてもらうというのは、すごく勇気がいることですね。

J:私たちの間には友情があったんです。〈この人なら自分をさらけ出してもいい〉っていう安心感があったからこそ、曲を聞いてもらおうと思えたんです。そして、そういう信頼感が私たちのプロジェクトの核になっていきました。お互いに寄りかかりながらソングライターとして一緒に成長していく関係というか。実際、今それがうまく働いてるんだと思います。自分のソングライティングに関して自信を持てるようになりましたからね。しかも、バンドが私たちの人生の大きな一部になっている。自分たちの人生を日々曲にしていて、お互いに支え合って活動しているんです。

──素晴らしいストーリーですね。ちなみに3人の作風って結構違います?

3人:(それぞれ顔を見合わせて)違うよねー。

G:私たち3人の性格やキャラがわかるようになれば、違いがはっきり見えてくると思います。3人ともメロディーも歌詞のスタイルもはっきりした違いがありますから。お互いに影響を受け合っているし、それによって変化していところもありますけど、それぞれ確実に自分だけのものを持っているんです。

J:ソングライティングの作風は違うけど、そこにアレンジや色んな要素が加わってくるから、どこからどこまでが誰の音なのか判断つきかねるところはあるけど……。

G:それってすごくいいことだと思っていて。曲やアルバムを作っていくとき、メンバーそれぞれが違うものを持ち寄るわけじゃないですか。ちょっと悲しくて落ち込んだ曲を書きやすいメンバーもいれば、楽観的で明るい曲を書くメンバーもいて、それをひとつの作品にしてまとめたとき、一人だったら絶対に届かなかった広範囲の感情をカヴァーした作品になるんです。

グレイシー・シンクレア

──一人の人間の中にいろんな感情があるように、様々な感情が作品の中にあるのがあなたたちの魅力ですね。

H:そうなったらいいなって思ってます。

──『Now Would Be A Good Time』はツアーをしながら曲を作り上げていったそうですね。大変だったのでは?

G:ツアー中は一曲を丸ごと完成させる余裕がなくて……。家に帰ってから頭の中にあるものを吐き出していました。アルバムの構想に関しては、ツアー中にいろいろ思い浮かんでいて、常に頭の片隅でアイデアを練ってるみたいな状態でした。そして、そのアイデアを3人で形にしていったんです。

──アナログ・レコーディングの温かみのあるサウンドがアルバムの特徴のひとつになっていますが、アナログテープで録音しようと思ったのはどうしてですか?

H:タスマニアで友人のM・ウォードと一緒にレコーディング・セッションをした時に初めてテープで録音したんです。それまで一度もテープで録音したことがなかったんですけど、単純にテープの音がすごく好きだったのと、レコーディングのプロセス自体も気に入ったんです。

──というと?

H:テープだと物理的に限りがあるので、何度も録り直しするわけにもいかない。「今、ここ」に意識を集中する必要があるじゃないですか。スタジオにいる間、自分が何をするのか、ここでの時間をどう有効に使うのか、自覚的にならざるを得ない。そこが良いなって思ったんです。

──やり直しが何度もできないから1曲1曲に集中しなければいけない。その集中力が重要だった?

G:それもありますし、テープだと完璧なテイクが出るまで何度もやり直すことができないじゃないですか。

J:私たちは完璧なテイクが出るまでずっと録音し続ける性格なので(笑)

──なるほど。完璧なテイクより、その瞬間にしか生まれないものを大切にする、ということですね。あなた達の曲では音の余白が重要な役割を担っています。静寂が歌声やテープ録音だからこそ、静寂から伝わる空間の広がりが歌声やギターの音色を際立たせていますね。

J:そうですね。曲に余白を取り入れて空間的な広がりを生み出すようにしていますが、それは最初から狙っていたことではなく、自然にそうなったんです。曲自体の性質から楽器の演奏を最小限にしていったなかで、結果的に今のサウンドになったんです。

──「Hotel TV」のイントロでは雨音が聞こえてきて、それが想像力を膨らませるのですが、あれは実際の雨の音ですか?

G:はい。何かの機会にiPhoneで録音しておいた音をテープに焼いてアンプに通して違う種類の音に作りかえる、という実験をやってみるのが楽しくて。実際に雨音を曲に使ったのは「Hotel TV」が初めてでした。

──ホテルの一室を舞台にした「Hotel TV」をはじめ、日々の生活の中で感じたこと。心の揺れ動きを歌詞に反映させていることが多いようですね。

G:今回のアルバムでは、思春期ならではの怒りとか、溜め込んだフラストレーション。失恋や抑圧された感情、そこからの解放、そういうものが歌詞のテーマになっている気がします。若くて色んなことを手探りで理解しようとしてるような感覚がアルバム全体に出ているんじゃないでしょうか。今、セカンド・アルバムの準備をしてる最中なんですけど、ファーストとはかなり違うテーマに触れている気がします。そこには18歳から22歳くらいまでの自分たちの人生が反映されていて、ファーストとはまた全然違った自分たちの姿がそこにあると思います。

──ドキュメンタリーのように、曲にあなた達の人生が反映されているんですね。アルバムではデトロイトのシンガー・ソングライター、テッド・ルーカスが1975年に発表した「I’ll Find A Way (To Carry It All)」をカバーしています。ラヴィ・シャンカールの弟子でもあったテッドは知る人ぞ知るミュージシャンですが、なかなかマニアックな選曲ですね。

H:インターネットでこの曲を知って大好きになったんです。ライヴではよくやっていて、今回のライヴでもオープニングで歌いました。アカペラで歌う時の雰囲気が好きなんです。

J:私たちは有名なミュージシャンだと思っていたんですけど、このカヴァーのことをインタヴューで訊かれることが多くて、最近になってアンダーグラウンドなミュージシャンだということがわかったんです。私たちは同世代の人たちより変わった音楽が好きなのかも(笑)。知らない音楽を発見するのが趣味なんです。

──3人で見つけた音楽の情報交換をしたり?

G:いつも「今、何を聴いてるの?」っていう話をしてるよね?(笑)

J:12歳の頃から10年以上ね! 私たちだけじゃなくて、周りの友達とも音楽への愛を共有しているんです。めちゃくちゃ趣味がいい音楽を聞いている人もいれば、かなり変わった音楽を聴いている人もいて。

G:音楽に全然興味がない人と会う方が新鮮で面白いかも。それくらい、私たちにとって音楽は生活の一部。音楽は情熱であり、愛なんです。

J:音楽に興味がない人が不思議。どうして、音楽を聴いて胸をときめかずにいられるんだろうって思います。

──あなたたちの曲を聴いていると、ずっと音楽にときめいていることが伝わってきます。フォークだけではなく、ロックのエッジもあるし、ソウルの艶やかさもあって、いろんな音楽性が入っている。そんななかで、あえてバンド名に“フォーク”という言葉をいれたのは何か特別の思い入れがあるから?

J:そんなに深い意味はないんです。ちょっとふざけてつけたところもあって。私たちは“フォーク”と名乗りながらフォーク・アーティストであることを拒否しているところがある。その一方で、私たちはフォーク・ミュージックの大ファンなんです。“フォーク”には広範囲の音楽が含まれるような気がするんです。私にとってのフォークは告白だったり、感情の吐露だったり、ソングライティングやストーリーテリングを重視している曲で、どんな楽器を使うかはあまり重要じゃない。私たちのライヴでのプレゼンの仕方ってロック・バンドに近いと思います。フォークっぽい雰囲気になることもあるけど、フォークが好きなのでそうなったらそうなったで素敵だなって思えるけど。

──確かにあなたたちのライヴはロックな感じがありますね。フォークというと、どこか真面目な印象がありますが、ロックが持っている華やかさというか、セクシーさを感じました。

J:うん、確かにセクシーな要素が入っているかも!

G:プレイヤーとしてステージに立って自己表現すること自体、セクシーなところがあるしね。

H:実際、セックスについても歌ってるし(笑)

──そういう率直さも含めて、あなたたちの音楽にはフォークのイメージに対する反骨精神みたいなのを感じて、そこが“ビッチ”なところのかなって思いました。〈型にはまらないぞ!〉というあなたたちのやんちゃさが伝わってくるというか。

H:まさにその通り!

G:要するに、私たちにはパンクな面があるんですよね。フォークという枠からあえて外れていこうとする私たちの姿勢が「フォーク・ビッチ」という言葉に現れている。“フォーク”と“ビッチ”という普通だったらくっつかない言葉を繋げることでキャラクターが浮かんでくるでしょ? “フォーク”な“ビッチ”ってまさに私たちのことを表していると思います。3人ともソングライティングが好きだけどフォークというジャンルからはみ出している。それが私たちのアティテュードでありパンク精神だと思います。

──“フォーク”と名乗りながらも曲はモダンでみずみずしい。それは伝統に縛られないパンク精神から生まれるものなんですね。そして、3人の信頼関係がバンドの核にある。“ビッチ”から反骨精神が伝わるように、“トリオ”という言葉からは3人の絆が感じられます。

J:私たちは3人が完全にイコール(平等)なんです。その時々に違う役割を担うけれど、基本的にそれぞれがバンドの3分の1を担っている。

G:例えばジーニーが“フォーク”、私が“ビッチ”でハイデが“トリオ”みたいな感じ?(笑)。私が“ビッチ”担当というわけではなく、役割は毎回変わる。私たちは3人でひとつのチームなんです。

<了>

Text By Yasuo Murao

Photo By Nick Mckk, Kazumichi Kokei

Interpretation By Ayako Takezawa


Folk Bitch Trio

『Now Would Be A Good Time』

LABEL : Jagjaguwar / Big Nothing
RELEASE DATE : 2025.7.25
購入はこちら
Tower Records / HMV / Amazon / Apple Music


関連記事
【FEATURE】
初来日公演直前!!
日常の中のラディカルさを歌うフォーク・ビッチ・トリオについて
https://turntokyo.com/features/folk-bitch-trio-now-would-be-a-good-time/

1 2 3 88