愛すべき「人たらし」ショーン・レノンが音楽を作り続けることの意味
ショーン・レノンほど「人たらし」なミュージジャンはいない。僕のFacebookのプロフ写真はバルセロナで撮ったショーンとの2ショットなのだが、別れ際に「おっ、いいiPhoneケースだね!」とお世辞でも褒めてくれたのがやたらと印象に残っている。さりげなくてスマートな気遣い屋。これまで様々なアーティストとコラボを重ねてきたショーンだけど、彼とのスタジオ・ワークはきっと刺激的で、ノンストレスで、かつ自尊心を満たしてくれるものに違いない。だからこそ、世代もジャンルも飛び越えてラヴコールが耐えないのだろう。僕もショーンとバンドをやりたい人生だった。
さておき、チボ・マットからプラスティック・オノ・バンドまで含む目まぐるしい彼のディスコグラフィにおいても、本人がいま最も気合を入れている(はずの)プロジェクトがザ・クレイプール・レノン・デリリウム(以下、TCLD)である。相方はレス・クレイプール。泣く子も黙る米音楽界の鬼才ベーシストにして、ロックもメタルもプログレもまるっと飲み込んだモンスター・バンド、プライマスの首謀者だ。ショーンのちょうど一回り上に当たるレスだが、彼もまたスチュワート・コープランド(ポリス)やトレイ・アナスタシオ(フィッシュ)と結成したオイスターヘッドをはじめとする数多くの名義を持ち、トム・ウェイツやデス・グリップスの作品にも引っ張りだこの「人たらし」である。
大きめのフェルトハット、眼鏡、ヒゲ、そしてナポレオンよろしく軍服を纏った2人のプレス・フォトはバンドというよりも新興宗教みたいだが、鳴らす音楽はその風貌以上にディープ。2016年にリリースされた1stアルバム『The Monolith Of Phobos』は、「火星のモノリス」を意味するタイトル通りサイケとプログレを魔改造した強烈なスペース・ロックであり、怪しげなメロトロンの旋律は、1960年代にお蔵入りとなったSF映画のサウンドトラックのようにも聴こえたものだ。当時のショーンはこの変人同士のコラボについて「レスほどの度量がある人といっしょに演奏するのは、名誉でもあり挑戦でもあった。幸運なことにピノ・ノワールの神様が味方になってくれて、猿や、宇宙や、性的倒錯についての悪魔っぽい曲をひとつかみ、にっこりと授けてくださったようだね」とコメント。うん、たぶんキマっていたんでしょう。
ショーンとレスの出会いは、2015年に行われたプライマスとダイナソーJr.のジョイント・ツアーにザ・ゴースト・オブ・ア・セイバー・トゥース・タイガー(THE GOASTT)が帯同したことがきっかけだ。ショーンの恋人でモデルのシャーロット・ケンプ・ミュールは、天に7物くらい与えられた「神様のお気に入り」にしてTHE GOASTTの優れたベーシストでもあるが、さすがにショーンが「オリンピック級のアスリート」と太鼓判を押すレスの人外プレイには敵わない。件のツアー中にショーンとレスはマニアックな音楽談義に花を咲かせていたそうだが、シャーロットがインスタで垢バン寸前の際どい写真を連投したり(警察のお世話にもなった模様)、コートニー・ラヴの元バンド・メンバーにしてNYのカルト・ヒーロー、デヴィッド・ストレンジと共にUNI(ウニ)という新バンドを結成したのは、ショーンに対する当て付けのように思えてならなかった。
ロケット工学の父ジャック・パーソンズについても歌ったTCLDの新作『South Of Reality』は、ショーンいわく「世界の崩壊のサウンドトラック」とのことだが、UNIの楽曲「Destroyer」のコンセプトもなんと「2042年:崩壊後の地球」。先行き不安なアメリカで暮らす彼らにとって、核戦争やら自然災害やらテラフォーマーの侵略やらで「しっちゃかめっちゃか(ヘルター・スケルター)」になってしまった地球=想像を超えた未来に想いを馳せるのは、表現者として避けて通れない道なのか? まるでコインの裏表のような両バンドだが、どうやら4月からスタートするTCLDの北米ツアーはUNIが前座としてサポートするそうなので、お互いの関係性そのものは良好なのだろう。両バンドをブッキングしたヴェニューのオーナーは、今から修繕費を請求しておいたほうがいい。
それにしても、なぜショーンはここまでオカルトや宇宙にのめり込んでしまったのか。そこで筆者はいつも同じ結論(暴論ですが)に辿り着くのだが、彼はあまりにも偉大な父親を狂信的なファンに殺害されただけでなく、何をやってもその父親と比較されるという我々の想像を絶する未来=現実をいまも生き続けているのである。本サイト掲載のROTH BART BARON三船雅也氏とのインタビューでは、「カルトの必要性について興味がある」と語っていたショーン。もしかすると……彼にとって自分だけの音楽をやること、アートを表現することこそが、フィクションを超えた現実と折り合いをつける唯一の方法だったのかもしれない。(文:上野功平 トップ写真: Zackery Michael)
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Text By Kohei Ueno