Back

【From My Bookshelf】
Vol. 39
『アイランダー クリス・ブラックウェル自伝: ボブ・マーリーとU2を世界に届けた男』
クリス・ブラックウェル(著)  吉成伸幸(翻訳)

ロマンティックで甘ったるいところのない自伝

14 November 2024 | By Masamichi Torii

《Island Records》の創設者、クリス・ブラックウェルの自伝だ。《Island Records》は、フォーク、ロック、レゲエの名作を世に送り出した先進的でクールなインディペンデント・レーベルとして知られている。トム・トム・クラブやグレイス・ジョーンズ、グウェン・ガスリーのレコードを愛する私からしてみれば、ブラックウェルは、バハマの首都ナッソーに《Compass Point Studios》を建てた偉人にほかならない。しかし、偉人と言っておきながら、彼の人となりやバックグラウンドについては何も知らない。だからこの度、この自伝を手に取った次第である。

現在、《Island Records》はブラックウェルの手を離れて、ユニバーサル・ミュージック・グループ傘下のレーベルとして運営されている。今年2024年を象徴するポップ・アイコン、サブリナ・カーペンターとチャペル・ローンは《Island Records》に所属するアーティストだ。レーベルとしては快調だと言って良い。

しかし、独立系のレーベルとして《Island Records》が輝いていたのは、60年代後半から80年代後半だと言って差し支えないだろう。《Island Records》に籍を置いたミュージシャンを列挙してみると、その偉業が十分に伝わると思われる。スティーヴ・ウィンウッド、トラフィック、フリー、ジョン・マーティン、ニック・ドレイク、キャット・スティーヴンス、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ、ロバート・パーマー、ブラック・ウフル、スライ&ロビー、トム・トム・クラブ、グレイス・ジョーンズ、B-52’s、バグルズ、トム・ウェイツ、ビル・ラズウェル、U2。ここに挙げたのは、この『アイランダー クリス・ブラックウェル自伝』で大きく取り上げられているミュージシャンたちの一部である。

ここに挙げたミュージシャンたちとブラックウェルの音楽的な結びつきこそがこの自伝の中心にほかならない。音楽関係者の自伝にありがちなロマンティックで甘ったるいところがなく、淡々とした筆致で書かれた自伝である。リップ・サービスもない。自画自賛したところで誰も責めはしないのに、ビジネス上の失敗をきちんと反省しているから驚かされる。

書きぶりはドライではあるが、《Compass Point Studios》を設立し、最高のミュージシャンたちを集めて最高のハウスバンドを拵え、グレイス・ジョーンズのレコードを作ったことを述懐した第11章「グレイス・ジョーンズとコンパス・ポイント・オールスターズ」は熱が入っているようにも思えた。この章はとりわけ楽しく読んだ。グレイス・ジョーンズがコンパス・ポイント・オールスターズとともに制作した3枚のレコードは、自分にとってまさに理想のアルバムだという思いがさらに強まる。

今回、この自伝を読むまで、ブラックウェルが名家のおぼっちゃんで、ジャマイカ育ちだとも知らずにいた。ゴム草履に短パンという出で立ちがトレードマークだったらしい。リー・スクラッチ・ペリーにはジャマイカ人を搾取する吸血鬼だと罵られたそうだ。大物ぶらないブラックウェルの真摯な態度は説得力に満ち溢れている。音楽への深い愛情とレーベルの美学を保ちながら、ビジネスとして成立させ、名盤の数々を世に送り出したブラックウェルの偉業を讃えずにはいられなかった。(鳥居真道)



Text By Masamichi Torii


『アイランダー クリス・ブラックウェル自伝: ボブ・マーリーとU2を世界に届けた男』

著者 : クリス・ブラックウェル
翻訳 : 吉成伸幸
出版社 : アルテスパブリッシング
発売日 : 2024年10月28日
購入はこちら


書評リレー連載【From My Bookshelf】


過去記事(画像をクリックすると一覧ページに飛べます)




関連記事
【FEATURE】
わたしのこの一冊〜
大切なことはすべて音楽書が教えてくれた
http://turntokyo.com/features/the-best-book-of-mine/

1 2 3 73