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「ラナ・デル・レイの音楽はシネマティックだし聴いている音楽とそのヴィジュアルがすごくマッチする。私にとってずっと大きなインスピレーション」
《Dirty Hit》からデビュー・アルバム『The Jester』を発表したワリスに注目!!

15 November 2024 | By Nana Yoshizawa

《Dirty Hit》のレーベルメイトであるThe 1975やスティル・ウージーのオープニング・アクトを務めてきた、日本をルーツにもつLA拠点のシンガー・ソングライター、ワリス。彼女は幼少の頃からチェロを弾き、10代でウィーザーやノー・ダウトらのオルタナティヴ・ロックを聴いて、楽曲制作とバンド活動を行ってきた。そこから、ニューヨークのジャズ・スクールに進みドロップアウトを選ぶのだが、このときの実体験を綴った「23」(2021年)は同世代の間で共感を集めていく。もしかしたら年が違う人こそ「家出するには年を取り過ぎている」「負け犬のままになるのが怖い」といった彼女の歌詞に自分を重ねたりできるのかもしれない。大人になって『魔女の宅急便』を観たときに、新しく気づくことが多いみたいに。こうした理想と現実のギャップ、その狭間で揺れうごく蛇行のない歌詞、これはワリスの楽曲の魅力だ。

11月15日にリリースされたデビュー・アルバム『The Jester』は、The 1975の前座を務めた際に起きた体験談を歌う「The Opener」で幕をあけ、母親が日本人の父親と結婚したときの出来事ついて書いたインディー・ポップ・ナンバー「Gut Punch Love」などの親しみを覚えるストーリーテリングも興味深い。

サウンドについても、クラシック/ジャズを学んできた彼女とバンド・メンバーによる手堅い演奏力はもちろん、チェロ、ヴァイオリンといった弦楽器からアルト・サックスなどの管楽器、そしてドラム・マシンと非常に多彩な音色を味わえる作品だ。それでも散漫にならない、インディー・ロックにオーケストラの要素が感じられるプロダクションは、全14曲を通して洗練されている。今作はプロデューサーに、マイキー・フリーダム・ハートと初期からコラボレーションを重ねるmarinelliを迎えており、彼女の好みを熟知している2人の手腕も大きいのだろう。

今回のインタヴュー中に影響を受けたという、ラナ・デル・レイ、トム・ヨークの話題に及ぶと屈託のない笑顔で答えてくれたのが印象的だった。その清々しい彼女の姿勢からは、すでに次のステージを見つめているのかもしれないと思ったし、これまでの経験で培った力強さが伝わってくるようだった。ワリスに『The Jester』の制作背景、曲作りのこだわり、日本をルーツにもつことまでZoomで話を訊いた。

(インタヴュー・文/吉澤奈々 通訳/原口美穂 Photo/Monika Oliver)

Interview with Wallice


──では新作について聞きたいのですが、まず確認させてください。あなたにとって最初の楽器はチェロであっていますか?

 

Wallice(以下、W):最初はトランペットをやっていたんだけど、もうトランペットの吹き方は忘れちゃった(笑)。でも、チェロは9歳の時からずっとやっていて続いているから、本格的にやり始めた最初の楽器はやっぱりチェロかな。

 

──チェロの楽器を選んだ理由は何でしょうか?

 

W:私って変わった子だったのよね(笑)。ヴァイオリンはなぜか小さすぎだと思ったし、私みたいな女の子が選ぶには普通すぎると思ったの。でも、理由はわからないけどチェロのあの大きさをすごく気に入っちゃって。移動するのが大変そうなところにどういうわけか魅力を感じたの。あと、私はいつも理由なしに低音域の音に惹かれるところがあるのよね。ヴァイオリンは高音域で突き刺さるような音なのに対して、チェロは音が低かったからそこもいいなと思って。

 

──あなたが10代の頃は、ウィーザーやノー・ダウトのオルタナティヴ・ロックに影響を受けてバンド活動をしていました。そこからジャズにシフトしていくわけですが、ジャズを選択したのはなぜでしょうか?

 

W:私はラジオから流れてくるオルタナティブ・ロックを聴いて育ったの。母や父の車の中でも聴いていたし、自分で運転するようになってからも車でオルタナティブ・ロックのラジオを聴いてた。でも、チェロを勉強するために入ったパフォーミング・アーツの高校に通うようになって、その学校にヴォーカル・ジャズやジャズ・コンボの授業があったの。そういう音楽って若い世代の子達にとってはポップやロックと違って普通だったらなかなか聴いたり学んだりすることのない音楽だし、音楽理論や歌をもっと勉強したいとも思っていた。だから、ジャズのクラスを取ることにしたの。私は今でもジャズが大好きだし、ずっと聴いてる。ジャズを勉強し始めると、私が思っていた以上に得るものが大きかったのよね。そこでもっと魅力を感じるようになって、のめり込んでいったの。

 

──これまでのオルタナティヴ・ロックやジャズを経て、新作で再びインディー・ロックに戻ってきた理由を教えてください。

W:私にとって、インディ・ロックとオルタナティヴ・ロックはとても似ている存在。MGMTも聴けばミツキも聴くし、私の中ではミックスされているの。だから、そのどれかを作ろうと意識して音楽を作ろうとすることはないのよね。全ての音楽が私の中に混ざって存在して、それが自然に出てくるって感じ。

 

──ミツキの名前が出ましたが、『The Jester』はインディー・ロックにクラシックを融合しています。まるで、あなたの人生を振り返るような側面を感じました。そういったことも構想としてあったのでしょうか?

 

W:チェロを取り入れたくなったのは偶然だったと思う。サックスやトランペット、管楽器もそうだけど、そういった楽器ってすごくジャズ的でオーケストラ的な楽器を使いたいなというのは構想としてあった。でも、それは今までの人生を振り返るためではなくて、たまたまそういうサウンドに挑戦してみたくなったの。

 

──今おっしゃったように、新作ではチェロ、バイオリン、ヴィブラフォン、フレンチホルン、ウーリッツァーなど使われている楽器が非常に多彩です。個人的に、今作は中低音の厚みが増していると感じたのですが、どのような音響効果を求めて楽器を選択していきましたか?

 

W:サックスとトランペットはジャズで馴染みがあったから取り入れるのがすごく簡単だった。サックスとトランペットの奏者も周りにたくさんいるしね。あとは、オーケストラにいたことがあるから私にとってそれらの楽器は馴染みがあったし、手配可能な楽器でもあったから選んだの。プロデューサーの一人のマリネッリのお母さんがフレンチホルンを演奏できるんだけど、そのほかにフレンチホルンを演奏できる人は知らないから彼のお母さんに演奏してもらって、それをそのままレコーディングした。知り合いにフルート奏者もいたし、今回は、最初はとにかく可能な限りたくさんの楽器を取り入れたかったのよね。そして、馴染みのあるものや手配できるものを実際に使って今回のサウンドが出来上がったの。

 

──プロデューサーに長きに渡って共作しているマリネッリと、新たにマイキー・フリーダム・ハートを迎えています。彼らとの制作でとくに印象に残っている楽曲はありますか?

 

W:「I Want U Yesterday」かな。でも、全ての曲が印象に残ってる。一月と二月だけだったんだけど、全ての曲に思い出があるから。レコーディングしたのはごく最近で、2週間くらい集中して毎日、一日ほぼ一曲というペースで録っていった。でも、やっぱり一番印象深いのは3人で一緒に作ったから「I Want U Yesterday」だね。

 

──デビュー・アルバム『The Jester』はあなたが影響を受けたと話している、特にラナ・デル・レイからの影響が強いと感じました。ラナ・デル・レイの映像的な作風と『The Jester』の豊かなストーリーテリングは通じるものがあるように思います。ご自身では、この点についてどのように考えますか?

 

W:ありがとう。ラナ・デル・レイは、彼女がデビューした時からずっと好きなの。13歳の時に彼女の音楽を初めて聴いた時からずっと。「Video Games」が入ったアルバムの『Bone To Die』は常に私のお気に入り。彼女の音楽はシネマティックだし、聴いている音楽とそのヴィジュアルがすごくマッチするのよね。それは私にとってずっと大きなインスピレーションになっているし、それの自分ヴァージョンを作ることができているのはすごく嬉しい。

 

──ちなみに、ラナ・デル・レイの歌詞で特に好きな楽曲やフレーズはありますか。

 

W:特にこれというのは思いつかないな。歌詞にはもちろん影響を受けているけど、特にこれが、とかではなくて全体的にという感じ。人生を通して彼女の音楽を聴きまくっているから、彼女の作品全てが私にとって大きなインスピレーションなの。歌詞もそうだし、イメージやストーリーが表現されているのもそうだし。あのディープなストーリーテリングは本当に素晴らしいと思う。

──歌詞についても聞かせてください。あなたは制作するときも聴く側のときも、歌詞を大事にしていますよね。歌詞を書くときに、自分と約束している決まり事はありますか?  

W:私は韻を踏むのが大好き。あと、次に何が来るか予測できないような歌詞にしたいというのはいつも頭の中にあるかな。ちょっと予測不可能な感じが好きなのよね。あとは、ストーリーテリングの要素もすごく大切。歌詞って、私の音楽の中では一番重要なの。メロディはその次の二番目。メロディとかコードってちょっとアレンジして変えたりできるけど、歌詞ってそんなに変えれるものじゃないし。

──「The Opener」、「Clown Like Me」など今作の歌詞に、ピエロ(道化師)という例えが繰り返し登場します。ネガティヴとポジティヴの両方を兼ね揃えるピエロに対して、あなたはどのような印象で書いていたのでしょうか。

 

W:クラウン(ピエロ)は私にとってはジェスターと同じで、エンターテイナーみたいな存在。でも曲の中に出てくるクラウンは、ネガティブな意味を持っているの。もちろん、ピエロが常にネガティブなイメージを持っているわけじゃない。でも今回のアルバムの曲に関してはそうなの。

 

──「Heaven Has To Happen」はグリッチ音からサックス・ソロへの転換はもちろん、あなたのふっくらとしたヴォーカルが強く印象に残りました。ヴォーカリストとしてどういうスタイルを目指していますか? またイメージするロールモデルはいますか?

 

W:もちろんラナ・デル・レイのヴォーカルは大好き。あとはトム・ヨークも。「Heaven Has To Happen」に関しては、その曲は曲構成も一般的な構成とは違っているから、特に印象に残るのかも。ヴァース、コーラス、ヴァース、コーラスって感じじゃなくて、囁き声やチャントが入っているから。私のヴォーカルスタイルは曲によって違うと思う。曲によってパワフルに歌いたい時もあれば息をしているようなちょっと薄い感じのヴォーカルにしたい時もあるし、感情的だったり繊細な感じで歌いたい曲もあればラウドに歌いたい曲もあるから。

 

──ちなみに、トム・ヨークのヴォーカリストとしての魅力は?

 

W:彼は、必ずしも俗にいう素晴らしいヴォーカリストではないと思う。でも、彼の歌声からは彼の感情がすごく伝わってくるのよね。そこが魅力だと思う。

 

──「Heaven Has To Happen」のMVは、うさぎ、すすきと言った日本の十五夜をはじめ、桜、富士山と古典的なモチーフが登場してます。今の若い世代にはあまり馴染みのない、日本古来の風習や文化に関心があるのはなぜでしょうか?

 

W:私の関心ももちろんなんだけど、あのモチーフが登場するのは、ビデオの監督が昔の日本の映画が大好きだからな。彼女が私にビデオに出てくるああいうモチーフを参照として送ってくれて、すごく美しいと思ったから使うことにした。彼女は私の日本の文化への愛を理解してくれているから、ヴィジュアルに日本の要素を取り入れてくれたの。もちろん、私はそれが出てくるシーンが大好き。昔の日本の文化を取り入れて、あんな風にビデオが仕上がってすごく嬉しい。

──「Heaven Has To Happen」であなたのルーツである日本と歌詞の「天国」がリンクしていると解釈しました。

 

W:それを考えたことはなかったな。でも、その解釈も面白いから好き。この曲での天国が意味するのは、夢を叶えることができる場所。その夢のうちの一つが、日本でショーをやることなの。

 

──「Japan」(2022年)でも自身の家族について綴っていますが、日本というテーマを通じて音楽に反映したいことはどんなことでしょうか。

 

W:私はハーフとして生まれ育った。アメリカでは日本人としてみられるし、日本では白人としてみられる。必ずしてもそれをしたいとは思っていないけど、私はハーフとしてそういう環境で育っているから二つの文化が私の中に存在していて、バランスをとっているの。それは常に私の頭の片隅にあるから、もしかしたらそれが音楽に映し出されているっていうのはあるかもしれない。

 

──この「Heaven Has To Happen」のMVは、ワリスさんが衣装のスタイリングを手がけています。音楽を本格的に始める前は俳優やモデルとして活動していたそうですね。音楽とファッションを通して、具体的に想像している自身のイメージ、ワリス像はどのような感じなのでしょうか?

 

W:私の人生の大半を占めるものだし、音楽は私にとってとても重要。でも、曲を書くときは頭の中で同時にミュージックビデオやヴィジュアルのことも考えるくらいイメージも私にとっては大切なの。今回のジェスターも、ピエロとか、ルネサンスの道化師とか、ジョーカーとか、色んなオプションがある。だから、スタイリングを考えるのがすごく楽しかった。モデルをしていたからかもしれないけど、私はとにかく目に映るものが好きなのよね。映画やテレビも好きだし、広告や雑誌も好き。だから、音楽だけでなくヴィジュアルは私にとって大きいの。スタイリングも含め、ヴィジュアルが自分の作品の中で大きな役割を担っているのが好きだし、どんなイメージがいいかプランを考えるのも大好き。

──質問は以上です。ありがとうございました。

 

W:こちらこそ、ありがとう。

<了>

Text By Nana Yoshizawa

Interpretation By Miho Haraguchi


Wallice

『The Jester』

LABEL : Dirty Hit
RELEASE DATE : 2024.11.15
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Tower Records / HMV / Amazon / Apple Music



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