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【未来は懐かしい】Vol.12
ローカル・ヤング・ソウルの秘宝盤に聴く、無垢のクロスオーバー

19 August 2020 | By Yuji Shibasaki

新録、再発問わず、世界中の様々なメロウ/グルーヴィン・ミュージックを積極的にリリースしてきたフランスの名レーベル、《Favorite Recordings》。ここに紹介するトワイライト ’81による『First Coming』も、元々今年の2月に《Favorite Recordings》からLPリイシューされていたものだが、この度日本の《Pヴァイン》がCD化し、こうして容易に手に取れることになった。

トワイライト ’81は、フランク・ジョーンズ・ジュニア、アルフレッド・ブラウン・ジュニア、ジョン・ベルザガイからなる、ニューヨークを拠点に活動していたトリオだ。本作は1981年にニュー・ジャージーのローカル・レーベル《JSR》からリリースされた彼らの唯一作で、かねてより激レア作として一部のレア・グルーヴ・ファンからカルトな人気を集める盤だった。いかにもインディーズ臭満点な手書き文字も眩しいモノクロ・ジャケットからして、<隠された秘宝>感を強烈に発散させているが、なにより驚きなのが、本作のリリース時、メンバー皆18歳前後の少年たちだったという事実だ。

こうした周辺情報からすると、溌剌としたヤング・ソウル系の内容を思い浮かべてしまうかもしれないが、そう一筋縄にはいかないのがこうしたローカル盤の面白さだ。まず、ソウル・トリオというと、一般的には(自分たちでは演奏を担当しない)コーラス・トリオを想起するところだが、彼らの場合はフランク・ジョーンズ・ジュニアがソロ・ヴォーカルを努め、一部を除いて楽器演奏も自らが行っている。だからといって、いわゆる「セルフ・コンテインド・グループ」などのようにバリバリにソウル/ファンク的な分厚いオケをこなすという感じではなく、むしろ生ピアノを主軸としたジャズ・トリオ的な編成である点が面白い(ステージではフランクがピアノを担当していたようだが、このレコーディングではリー・アン・レジャーウッドというピアニストが加わり、フランクと弾き分けている)。2人のピアノの腕前もかなりのもので、レス・マッキャンやラムゼイ・ルイスなどに通じるようなソウル・ジャズ的テイストから、カクテル・ピアノ的な甘いプレイ、ジョー・サンプルを思わせるフュージョン的なプレイまで、かなり多彩で聴き応えがある。アルフレッド・ブラウン・ジュニアのドラム、ジョン・ベルザガイのベースもジャズ/ソウルの基本イディオムを押さえたかなり闊達なもので、マイナー盤の水準を軽々と超えている。

一方で、同時代のソウル〜ディスコ的要素ももちろん取り入れられており、特に4曲目「The Love We Lost」や5曲目「Time」などは硬質な(マシナリーな)ビートと生音楽器主体のアンサンブルの融合が興味深い。こうしたある種ちぐはぐとすらいえる妙味は予算潤沢な分かえって類型的なプロダクションになりがちなメジャー盤では決して味うことのできない固有的な魅力だろう。そして、この「隙間の多さ」と「ちぐはぐ感」こそは、本作をして単にオブスキュアなレア・グルーヴ好きのものだけでなく、より広範なリスナーへアピールする存在にせしめているように思う。わかりやすく言ってしまえば、例えばピーター・アイヴァースやゲイリー・ウィルソン等の密室的なウィアード・ポップ/ロックを好むようなファンにも十分その魅力が感得されうると思うのだ。そうした視点からオススメしたい曲は、(ちょっとビル・ウィザースの名曲「Use Me」を思わせる)3曲目「A Dreamer」や、1曲目「Like A Ferris Wheel」といったミディアム・トラックだが、これらにおけるシンプリシティと苦いメロウネスの融合は、現代興隆するオルタナティブなシンガーソングライター・ミュージックへ通じるようにも感じる。

そして、彼らトワイライト ’81の音楽をオリジナルなものにしているもう一つの大きな要素は、なによりもフランクによるバリトン・ヴォーカルだろう。一口に「低い声」といっても、例えばテディ・ペンダーグラスのようなセクシーな嗄れを伴うものでなく、かといって、バリー・ホワイト的なマンダム性を想起させるわけでもない。ふとテリー・キャリアーのようでもあるが、彼のような人肌の温もりと溢れ出る叙情に浸されているようでもない……。おそらく、最も近い声質(唱法)なのが、エキセントリックなヴォイシングでも知られるジャズ・ヴォーカリストのレオン・トーマスだろう。フランクの薄くヴィブラートがかった震え声は、通常いわれる「ソウルフル」というよりも、どこか無機質感や透徹性を感じさせるもので、このあたりの微細なニュアンスが絶妙に織り合わさることで、上述の「ウィアード・ポップ感」がより一層鮮やかに演出されているようにも思う。

どんなジャンルにおいても、マイナー盤の魅力とは、単に生々しかったりその時々のトレンドが素直に反映されているということに本質があるのではなく、むしろこのトワイライト ’81のアルバムがそうであるように、時に異ジャンルへも染み出ていくような独自のローカライズぶりを聴けるという部分にあるのだろう。確固とした領域(ジャンル)で磨き上げられた音楽よりも、領域同士の区画を溶かしてしまうような無垢のクロスオーバーこそが尊く感じるときが、たしかにある。(柴崎祐二)


Twylyte ’81

『The First Coming』



2020年 / Favorite Recordings / P-Vine(Reissue)

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Tower Records / Amazon / HMV / iTunes


柴崎祐二リイシュー連載【未来は懐かしい】
アーカイヴ記事

http://turntokyo.com/?s=BRINGING+THE+PAST+TO+THE+FUTURE&post_type%5B0%5D=reviews&post_type%5B1%5D=features&lang=jp

Text By Yuji Shibasaki

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