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Lord Spikeheart
「抵抗は喜びに満ちたものでありうる」初来日直前に語る、音、身体、そして解放について

05 September 2026 | By Shoya Takahashi

ケニアのロード・スパイクハート(Lord Spikeheart)が、初めて日本に降り立つ。9月6日、南青山WALL&WALLで開催される、アートプラットフォーム《MODE》のパフォーマンス・プログラムに出演。同じ夜ステージに立つのは他でもないボアダムスの∈Y∋である。自身のレーベル《HAEKALU》からファーストアルバム『The Adept』(2024年)、EP『REIGN』(2025年)をリリース。メタル、ノイズ、インダストリアル、デコンストラクテッド・クラブ、ケニアの伝統的なリズム……いまのところどれにも落ち着かずに活動をつづけている。

彼に、10の質問にメールで答えてもらった。ロード・スパイクハートの輪郭を金属片で塗りつぶしてしまうような音のイメージとは対照的(?)に、彼の制作に接するときの細やかな意識のうごきや、作品にもとめている豊かなムード、のようなものを知ることができた。というかこの会話にも出てくるコラボレーターの、東アフリカ、西欧、南米、東アジア、東南アジアなど音をつうじて、『八十日間世界一周』どころか「世界は1分間に45回転で廻っている」とも言えるハードコア文脈過多、固有名詞過多に改めて驚いた。その固有名詞のいくつかは、彼がまだ直接会ったことのない相手でもある。東京公演ではそのうちのひとり、SAIONJI BBBBBBBがバックDJを務める。

公演の詳細とチケットは《MODE》公式サイトにて。

(取材・文/髙橋翔哉 写真/Daniil Zozulya、Salvatore Delle Femmine、Fabiana Amato 写真提供/Dark Mofo)

Interview with Lord Spikeheart

──電子音やテクスチャーから作りはじめ、後から生楽器を加えることが多いと話していました。『REIGN』ではギターやメタルの比重が増しています。この音はどう組み立てたのでしょうか。

Lord Spikeheart(以下、L):伝統的なメタルへ向かっているとは思っていません。メタルから要素を取り出して、もっと広い音の世界に置くことに関心がある。このEPの音は、型に従うのではなく実験から出てきました。違う要素を組み合わせて、ぶつかったときに何が起きるかを見る。電子音やテクスチャー、リズムの断片から始めるのは今も同じですが、『REIGN』ではギターやドラムに場所を与えたかった。

曲ごとに、できかたが違います。うちの中心的なプロデューサーであるヨナス・カルステン(Jonas Karsten)が、僕がウガンダにいたときに訪ねてきてくれた。それが大きかった。彼が「REIGN」と「MBWA KALI」を始めて、毎日スタジオに入って実験していました。考えすぎずに、起きたことにその場で反応できた時期です。

「MBWA KALI」には、トーゴのアルカン・アスラフォコル(Arka’n Asrafokor)にどうしても入ってほしかった。彼らの音楽はもっと重くて、独特の言語を持っています。ボーカルもプロダクションも終わったあとの遅い段階で加わってもらいましたが、あの深いグルーヴのある重さが、曲の芯を変えないまま動き方だけを変えました。

「REIGN」は別の方向へ行きました。イゴール・カヴァレラ(Iggor Cavalera)のドラムです。曲のなかを進んでいく感じにどこか神秘的なものがあって、同時にものすごく物理的な脈を生む。ブッチャーズ・プレイ(Butchers Play)のギターと合わさって、激しくて、ほとんど超越的なものになりました。ただのメタル曲にならずにあの攻撃性を持てたことが、僕には大事でした。

「ANNUNAKI」はまったく違うところから来ています。ビートはもともとヴィナ・コンダ(Vina Konda)とブロディスキ(Brodiski)がリリースした曲で、それを作り直したかった。ヴィナがギターを足して、僕はボーカルをワンテイクで録りました。そのほうが直接的で本能的なままになる。ライブでやりはじめたら、この曲はまた別の生を持ちはじめて、クラブ・アンセムになりました。それが面白かった。こういう要素の組み合わせが、身体的にも、精神的にも、集団としても人とつながるんだと分かったので。

音楽の方向はそこです。ひとつのジャンルへ向かうのではなく、メタル、エレクトロニクス、クラブ、リズム、ノイズ、生演奏、民族的なサンプル、自然や環境の音、mp3以前の音の切れ端を持ってきて、共存を許されたときに何が起きるかを見る。

──『REIGN』では、声がことばを伝えるだけでなく、打撃や歪み、リズムの一部として機能しているように聴こえました。声を歌詞として前に出すか、音響のなかへ織り込むかは、どの段階で決まりますか。

L:意識して決めてはいません。曲のほうが姿を見せてくれるのに任せています。僕にとって声は、ずっとことばを届ける手段であると同時に、もうひとつの楽器でした。歌詞が明確で直接的であるべきときもあるし、声がテクスチャーやリズム、レイヤーになるときもある。曲によります。歌詞から始めて、あるスクリームや息づかい、反復、歪みのほうが音の一部としてうまく機能すると気づくこともある。逆に、ことばを前に置いて意味を運ばせたいときもある。『REIGN』では、どちらか一方を選ぶよりも、あいだを行き来したかった。ある瞬間には声がむき出しになって、次の瞬間にはプロダクションのなかへ消えていく。その両義性が好きなんです。ことばを理解することもできるし、同時に、声を音のエネルギーとして身体で受け取ることもできる。

──「SHAM-RA」と「VISTAS」には、ほかの音楽を知る以前から親しんでいたケニアの音とリズムが入っていると話していました。具体的には、どの地域の、どのような音楽や演奏ですか。

L:音楽と美術と演劇に深く関わって育ちました。学校でやっていた音楽の多くは、ケニア各地のコミュニティの伝統から来たものです。小さいころから、チャント、コレクティブ・シンギング、コール・アンド・レスポンス、太鼓、いろいろな管楽器に触れていました。土台の多くはケニア中央部と、自分のキクユのバックグラウンドから来ています。そこにマサイのチャント、西ケニアのルオのニャティティをはじめとする弦楽器の伝統、ギリアマやディゴといった沿岸部のドラム・サークルと魂のこもった歌が加わる。こうしたリズムや声、集団での演奏へのアプローチは、影響として意識するより前に、自分の語彙になっていました。

「SHAM-RA」と「VISTAS」には、その広がりを入れたかった。自然と、共同体と、ケニアのいろいろな風景に根を張っている感覚です。あの2曲の雰囲気が、それをまとめる場所をくれました。埃の舞うサバンナから、木々に覆われた緑の谷、うねる海岸線まで。ひとつの伝統を再現するというより、記憶と音を、自分にとって嘘のない形で持ち込むことに近いです。

赤いコートを着て歩くLord Spikeheart
Photo by Salvatore Delle Femmine

──SAIONJI BBBBBBBとはどう知り合い、『The Adept』の3曲を一緒に作ることになったのでしょうか。とりわけ「SHAM-RA」では、あなたの声とRully Shabaraのチャント、SAIONJIのプロダクションがどう組み合わさりましたか。

L:2023年に、サイオンジがインスタグラムで僕の前のバンドに連絡をくれたんです。自分の音楽を聴いてほしい、興味があれば一緒にやれないかと。Victory BBBBBBBを聴いて、すぐにその音と狂いっぷりが好きになりました。彼のプロダクションと僕の声を組み合わせたら、とんでもないものになると思った。

ほどなく最初のドラフトが届いて、それが「TYVM」になります。歌詞は一日で書いて録りました。あの曲の冒頭は、とにかくどうかしています。そこからさらに2曲、バックスウォッシュ(Backxwash)を迎えた「33rd Degree Access」と「SHAM-RA」が来ました。

「SHAM-RA」の歌詞を書いたとき、霊的なものを持ち込みたいと分かっていました。僕はスニャワ(Senyawa)の大ファンで、ルリーを知っていたパートナーが引き合わせてくれた。それでルリー・シャバラが入りました。ケニアに住んでいて、一緒にやる相手は世界中にいるので、リモートには慣れています。ファイルとメールとメッセージをやりとりして、そこから音楽ができていく。ルリーとはついこのあいだインドネシアで会えて、特別な時間でした。サイオンジとは東京で初めて会います。遠くにいたまま音楽を作ってきた人たちに、ようやく会える。

──DJ Scotch Rolexは、あなたがボアダムスのような日本のノイズ・ロックを好んでいたと話していました。今回同じ夜に立つ∈Y∋の、どこに惹かれてきましたか。ちなみにボアダムスを1枚だけ挙げるとしたら?

L:∈Y∋と同じ舞台に立てるのは本当に光栄です。発表があってから、アーティストの友人たちが次々にメッセージをくれました。ボアダムスに人生を変えられた、音楽の作り方が変わった、と。正直に言うと、これが対バンだけで終わらないことを願っています。∈Y∋と一緒に音楽を作る機会があるなら、ぜひやりたい。どうなるか、見てみましょう。

一枚だけというのは、ありません。自分たちを定義する必要もなく、まったく違う音楽の世界のあいだを移動できたこと。感じるままに、自分たちのやり方で探索していたこと。アルバムや曲のタイトルにさえ、あれだけの想像力とユーモアがあった。

ライブ映像を見るのが好きです。儀式的で、ほとんど原初的な何かがある。集団的な陶酔とカタルシスで、ふつうのコンサートをはるかに超えていた。身体的で、恍惚としていて、予測がつかなくて、完全に解き放たれている。圧倒されるように見えるけれど、同時に解放的でもある。あれだけ極端なものを作りながら、自分たちを深刻に受け取りすぎていない。彼らは音楽を作っていただけではなく、芸術を作っていた。それが何を意味するのであれ、探索することに完全に自由だった。音楽をどこへでも持っていって、規則も予想も壊して、観客ごと連れていける。

ロード・スパイクハートのショウにも、その精神に近いものがあると思っています。身体的で解放的であってほしいし、観客にはショウを見ているのではなく、ピットのなかで集団として何かが起きていると感じてほしい。予測のつかなさもあるけれど、遊びとユーモアの余地もあります。

同じ不遜さは、一緒にやってきた日本のプロデューサーたちにも見てきました。DJ Scotch Rolex、DJ Die Soon、SAIONJI BBBBBBBのような。アプローチは違っても、途方もない創造性と狂気と、予想外の場所へ行く自由を共有している。それに、彼らはとても愉快です。

──あなたの衣装にはしばしば、防具のように身体を守る感覚と、革やハーネスによって身体を強く意識させる官能性が同居しているように感じます。衣装を身につけることで、自分の意識はどのように変わりますか。

L:面白いですね。着ているとき、自分ではその言葉で考えていないので。KVLT Armorは、まだ2回しか着ていません。Kuboraumの親友セルジオと、Innerraumのチームが僕のためにデザインしてくれた見事な作品で、本当に大切にしています。腕の部分はこの一年でもう少し多く着ていますが、フルのピースは特定の場面のために取ってある。

それに、あれは革ではありません。写真や映像で革に見えるのは分かりますが、生で見ればすぐに別のものだと分かるはずです。

着ていると、自分の身体、姿勢、動き、空間の占め方に、はるかに意識的になります。防具という言い方が自分に響くとしたら、たぶんそこです。保護というより、身体を直接的な回路に変えるものとして。シルエットが変わって、動き方が変わる。それは必然的に、意識のありようも変えます。とても珍しいピースで、僕にとっては何よりもまず、たまたま身につけられる特別な芸術作品です。

赤い照明の中、ヘッドピースを着けたLord Spikeheart
Photo courtesy of Dark Mofo

──激しい音のなかでは、いまこの瞬間に深く集中し、思考が止まる状態になると話していました。マインドフルネスに近いものを想像します。ステージでその状態に入るとき、注意と身体感覚には何が起きていますか。

L:はい、あの激しさのなかに、たくさんの明晰さを見つけます。流れていく静けさがあって、古い感覚を呼び覚ます。日常では経験しない、この世のものでない気づきです。完全に原初的なもの。いまここにいることの深い知と充足で、説明が難しい。

そのエネルギーが自分を別の視座へ、変性した意識状態へ連れていきます。自分のパフォーマンスが目の前で展開していくのを見ているような感じで、完全に明け渡している。期待も、制御も、あらかじめの意図もない。セットのあいだ、僕らは別の世界にいる。別の次元に。身体は完全にリラックスしていて、ときには物理的な身体以上のもの、身体の外にいて、身体をスーツのように着ている感覚さえあります。

長くやってきているので、起きることの多くは本能的です。思考はほとんど関わっていない。頭がない状態です。ショウがあまりに激しくなると、コンマ何秒かのあいだ、僕の視点からはすべてがスローモーションで動いて、それから急にふだんの速度に戻ることがある。そのとき、音楽が完全に主導権を握ったと感じます。より高い存在が建物のなかにいて、すべてを動かしている。サウンドシステムが宇宙船になって、僕らはそれで、ほどけていく音の風景を旅する。音楽が導いてくれて、無事に地球へ帰してくれることを信じながら。

ステージ上でパフォーマンスするLord Spikeheart
Photo courtesy of Dark Mofo

──『REIGN』のライブは、植民地主義や喪失、抵抗、回復をめぐる物語を扱っています。その意味を理解してもらうことと、まず音圧や身体で感じてもらうことの関係を、どう考えていますか。

L:『REIGN』のEPとA/Vショウだけでなく、ファーストLPの『The Adept』も、僕の音楽全般がこうしたテーマを扱っています。植民地主義、喪失、土地と文化の収奪、破壊、抵抗、回復。書くことの核にあるものです。ただ、これをケニアやアフリカだけのもの、過去や自分個人の経験だけのものだとは思っていません。普遍的なもので、いまこの現在のものでもある。

観客が特定の理解へ導かれる必要があるとは思いません。彼らは自分自身の歴史と経験と連想を持ち込んできます。僕が関心があるのは、そうした考えが説明を剥ぎ取られて、音と身体的な現前を通して経験できるものになったとき、何が起きるかということです。音楽は、頭で理解するより先に、身体と感情のレベルで何かを伝えられる。

ロード・スパイクハートでは、身体が大きく音楽の一部です。音圧、スクリーム、動き、観客やモッシュピットとのやりとり。受け身では経験しにくい何かが生まれます。その激しさに明け渡すと、部屋そのものがエネルギーを生みはじめる。特定の反応を引き起こすように仕組んだものは、何もありません。僕と、音楽と、観客のあいだで、その場で自然に起きることです。

ショウはしばしば集団的なカタルシスになりますが、同時に、生きていることと、押し返す力を持っていることの祝祭にもなる。観客はそのやりとりの能動的な一部で、ピットにいる人によって毎回そのショウ独自のエネルギーが生まれます。抵抗という考えが入ってくるのはそこです。抵抗は喜びに満ちたものでありうる。大きく、身体的で、共同的で、解放的でありうる。僕にとって大事なのは、黙ってしまわずに表現することです。こうした主題を語り、作品を通して声を与えるとき、その表現自体がひとつの反応になる。世界を処理して、応答する方法になります。特定の答えを主張したり、どう考えるべきか告げたりするつもりはありません。そうした考えが、理解されるのと同じくらい感じられる世界を作りたい。

客席の中で歌うLord Spikeheart
Photo courtesy of Dark Mofo

──NMR.CCと作ってきた『REIGN』のビジュアルがあります。MESがレーザーVJを担当する東京公演では、その世界をどう引き継ぐ、あるいは変化させますか。

L:NMR.CCは『The Adept』と、僕のレーベル《HAEKALU》のビジュアル・アイデンティティを作って、ツアーやショウのポスターを含め、ロード・スパイクハートのイメージも手がけてきました。『REIGN』はNMR.CCとの共作で作ったA/Vショウで、独自のビジュアルと、少し違うプレイリストを持っています。まだ数回しかやっていません。

『REIGN』以外では、僕のショウはふつうビジュアルなしです。会場の照明デザイナーと組んで、色とムードについて僕から具体的に方向を出しながら空気を作ります。東京ではMESがこの公演のためにレーザーを作ってくれますし、サイオンジもバックDJとして僕と一緒にステージに立ちます。新しい共作にはいつでも開かれているので、それがロード・スパイクハートのショウに何をもたらすのか、見るのが楽しみです。

Lord Spikeheart w/NMR.CC presents REIGN at Berlin Atonal

──2025年に、次のアルバムの未発表曲をライブで演奏していると話していました。制作はいまどの段階にあり、また東京でも新曲を披露するのでしょうか。

L:レコードはいい形になってきていて、いまの状態にはかなり満足しています。まだ多くは明かせませんが、『The Adept』の続篇、Volume IIとして構想したものです。とはいえ同じ音になるとはかぎりません。音楽はあれからかなり進化しています。

制作は『The Adept』より長くかかりました。旅とツアーが多かったのと、同時に新しい音のリサーチと実験もしていて、急ぎたくなかった。音楽が自然に育つ時間と、次にどこへ持っていくか理解する時間が必要でした。これまで一緒にやったアーティストの何人かも参加していますし、素晴らしい新しいプロデューサーも加わっています。レコードはそれ自体のものになりつつあって、始めた場所とのつながりは保ったまま、新しくダイナミックな方向へ向かっています。

東京では未発表曲をいくつか演奏します。それがとても楽しみです。サイオンジがステージにいる状態でやるのは、とりわけ面白いことになるはずです。僕らの共作はほとんど遠隔で起きてきたので、そのつながりをライブの場に持ち込むのは、とても自然に感じます。アルバムは2027年のリリース予定なので、最終的な形になるまでにはまだ少し時間があります。いまは、やってきたもののほんの一部を東京で共有して、人がどう反応するか見るのが楽しみです。

<了>

Text By Shoya Takahashi


MODE

Performance – Lord Spikeheart / ∈Y∋

開催日時 : 2026年9月6日(日)Doors 17:00 / Start 18:00
会場 : WALL&WALL(東京都港区南青山3-18-19 / MAP
チケット : スタンディング ¥7,000(税込・ドリンクチャージ別)
チケット販売 : 2026年8月7日(金)18:00より受付開始
プレイガイド : e-plus / ZAIKO
出演者 : Lord Spikeheart / ∈Y∋
レーザーVJ : MES
共同企画 : Bar Nightingale
公演の詳細 : MODE公式インスタグラム


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