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スカート: 駆ける / 標識の影・鉄塔の影

2020 / ポニーキャニオン
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目の前の光ではなく、それが生みだす影の美しさを描くこと

18 March 2020 | By Dreamy Deka

スカート・澤部渡が自らパーソナリティーを務めるアルファ・ステーション(FM京都)のラジオ番組《NICE POP RADIO》(毎週超最高の選曲)で、「アイラブユーやベイビーといったポップソングにおけるこっぱずかしいクリシェをどう乗り越えていくか、ソングライターとしての葛藤がある」という主旨の発言をしていた記憶がある。その時はあくまでも軽いトーンだったのだけど、この「直情的な表現を迂回しながら、いかに切実な心象風景を浮かび上がらせるか」という点は、スカートのソングライティングにおける特長的な技法であると共に、澤部渡というシャイなシンガーが広い大衆性を獲得する上で背負ってしまった十字架のようにも思える。しかしこのニュー・シングルにおいて、彼はその十字架を抱えたままで、今までよりも一段スケールの大きな普遍性を獲得している。

特にサッポロビールの第96回箱根駅伝用オリジナルCMソングとして話題を呼んだ「駆ける」。挫折と喪失感にあふれた歌詞は、一見すると箱根駅伝という国民的スポーツ・イベントには似つかわしくないものである。しかし、心の穴を残酷なほど丁寧になぞる言葉たちが、どこまでも優しいメロディー、余韻を重視した演奏と結びつくことで、何者にもなれなかった人々、例えばこの日、箱根と東京の間を走ることが叶わなかった多くのランナーたちに捧げた祈りのように響いてくる。そしてそれは同時に、この大舞台を走る若者たちが辿り着いた場所の尊さを逆説的に私たちに知らしめ、称えることでもある。つまり彼の歌は、日本中がこの大舞台に見出している感動の本質を浮かび上がらせ、共振していたのである。

目の前の光ではなく、それが生みだす影の美しさを描くこと。スカートの希求してきた世界観はデビュー10周年という節目において、いよいよ結実しつつある。しかしファンにとっての何よりの価値は、そこが全国放送のテレビであっても小さなライヴ・ハウスであっても、不特定多数のマスに向けてではなく、常に聴き手の一人ひとりとのコミュニケーションを試みようとする楽曲を歌い続けてきた誠実さにある。そのことを「標識の影・鉄塔の影」「駆ける」という2曲は改めて実感させてくれる。

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