Review

Parekh & Singh: Science City

2019 / Peacefrog
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インドはコルカタのポップ・デュオが目指した内省的かつ小宇宙的世界とは?

30 April 2019 | By Kei Sugiyama

インドはコルカタのポップ・デュオParekh & Singhによるセカンド『science city』。彼らの経歴を振り返っておくと、Nischay Parekhはアメリカの名門音楽大学バークリー音楽大学を2年間通い、Jivraj Singhも両親の影響で欧米のポップスを聞いて育った。Parekhが音楽を作るならインドの故郷コルカタに帰って作るべきだという発想からインド・コルカタに戻り、Singhと音楽制作を始める……といういきさつのようだ。

私たちはインド音楽と聞いた時、ボリウッド的な音楽を思い浮かべる場合が多いが、アメリカ留学や欧米のポップスを幼い頃から聴いていた彼らの作るサウンドはドリームポップと形容される。そして2作目となる本作は、シンセサイザーが存在感を増したことでサウンドがカラフルになり、ドリーミーな質感はより大きなものとなっている。

タイトル『Science City』とは、コルカタにある遊園地の名前。この遊園地は、ディズニーランドやUSJなどの巨大資本ではなく、小さい子供を連れた家族が行く感じの地方都市にある少しこじんまりした遊園地のようだ。どんな施設があるかと言えば、宇宙を舞台にした3Dシアターや、空中自転車、植物園的な展示、水族館的なサメの展示、大きな鍵盤の上を歩いて音を出すウォーキング・ピアノ、迷路、幾何学模様の展示などが入り混じっている。本作はこの遊園地から宇宙(内的小宇宙も含め)へと旅に出るようなコンセプト作になっている。何度も顔を出すのが“太陽”だ。大昔から人類の信仰の対象でもあり、最先端の科学でも未だに分からないことも多いこの言葉を中心に据えることで、科学的なワードから海、山、川から宇宙、時間、愛といった概念までもが、相互に結びついているように感じる。それだけでなく、トリップ感とおもちゃ感を醸し出す電子的な音は、科学的な響きを感じさせると共に、サイケデリックな揺らぎがもたらすトリップ感は内省的な小宇宙や超自然的な何かへの憧れをも内包するようである。

 本作のサウンドの肝であり、コンセプチュアルな魅力を惹き立てる意味で、大きな役割を果たしている楽器が「Hello」のMVに映りこんでいる。90年代半ばごろから坂本龍一や小室哲哉などが楽曲で用いていたKORGの『Trinity』(1995年〜1999年)というシンセサイザーと、ヴィンテージ・コンボ・オルガンYamahaの『reface YC』(2015年〜)だ。「Hello」や「Monkey」「One Hundred Shadows」などで基調となっているサイケデリックな導入剤となっているのは『Trinity』の音色で、「Hello」や「Surgeon」での不思議の国のアリス的なトイポップ感をもたらしている高音のヴィヴィッドなサウンドは、『reface YC』の音色だろう。

最後の「Crystalline」は、これまでの彼ららしいギターの音色と特徴的な電子音が組み合わさり、宇宙遊泳的な浮遊感をもたらしている。彼らは、英国の音楽サイト《ガーディアン》での前作のインタビューでノイズの除去とても時間を費やしたと語っていたが、本作ではザラつきは無くなり音の輪郭がはっきりした仕上がりになっている。今作でこのようなサウンドへと変化できたのも、制作環境や手法に変化があったのではないだろうかと想像する。オーガニックなサウンドが主軸だった前作から、カラフルかつ鮮明なものへと変化させ、それによりダンス・ミュージックとして魅力が加わった結果なのだろう。(杉山慧)

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