二面性のもと生まれる“カントリーゲイズ”
アメリカ南東部ノースカロライナ州アッシュビルのバンド、ウェンズデイ。元々は中心人物、カーリー・ハーツマンのパーソナルなプロジェクトとして2017年に始動し、自主作品『Yep Definitely』(2018年)をリリースした後に現在へと連なるバンド体制に。バンドとしては『I Was Trying To Describe You To Someone』(2020年)、『Twin Plagues』(2021年)に続くアルバムとなる本作は、名門レーベル《Dead Oceans》へ移籍してのリリースということもあり、各メディアはじめリリース前から多くの期待の声が寄せられていたが、率直に言ってそれらの前評判に違わない傑作となっている。
自らを“カントリーゲイズ”とタグ付けするバンドであるが、そこには多少の皮肉とともに自身のルーツへの敬愛も見て取ることができる。本作の前にリリースされたカヴァーアルバム『Mowing the Leaves Instead of Piling ‘em Up』(2021年)では、スマッシング・パンプキンズやメディシンといった納得のバンドから、ゲイリー・スチュワートといったカントリー・ミュージックの巨匠までがセレクトされており、本作のリリースを前に改めて自分たちの原点を見つめ直す役割も果たしたのではないだろうか。
本作について“Half-funny, half-tragic” (「半分ファニーで半分悲劇的」)と言及されるように、その言葉がまさに本作を良く表しているように思う。静と動、抑制と解放、感情と理性、愛と憎、本気と冗談…シューゲイズとカントリーという一見相容れない手法でもって、ウェンズデイはそうした二面性を生々しく描き出している。そしてその一番の推進力となっているのは、なんといってもハーツマンのヴォーカルだろう。本作においてハーツマンは、たとえばエイドリアン・レンカーやフィービー・ブリジャーズ、スネイル・メイルといった、同時代を代表するシンガーにも引けをとらない存在感を放っている。
グランジーなギターが響く1分半のオープニングから間髪入れずなだれ込む「Bull Believer」では、ヘヴィな演奏とハーツマンの悲痛なほどの叫びがある種のカタルシスを生み出し、中盤におけるバンドのキャリア史上屈指の名曲「Chosen To Deserve」から「Bath County」のダイナミックな展開への流れは、本作のハイライトと言ってもいいほどに心かきむしられるものがある。これまで以上に洗練されたソングライティングと、ハーツマンのシンガーとしての魅力が存分に発揮された本作は、バンドの歴史においても重要な位置を占める作品となることだろう。(小倉健一)