繰り返し問う、愛の在りかと行方
2017年以降、毎年コンスタントにリリースを続けるジェフ・トゥイーディーの新作(デジタル先行配信)。家族や愛をテーマにした心象スケッチ的なストレートな佳作を発表してきた彼だが、前作にのぞいたアシッド・フォークっぽさは、やや後退し、かわりに「A Robbin or A Wren」や、「Natural Disaster」で聴かれるような王道のカントリー曲が増えたのと、例えば同じくカントリー調の「Opaline」のような曲の中にも、いなたい音色の長尺のギターソロを差し込むことで、安易に郷愁に浸るのを拒むかのような「歪み」があるのが本作の特徴といってよいのではないだろうか。
昨年、ウィルコの充実した新作を挟んだことによって、ジェフの音楽面での創造性がまた一層かき立てられたであろうことは想像できる。そしてまた、ロックダウン中に書きためたという曲を、主にスペンサーとサミーの二人の息子と共にプライベート・スタジオで作りあげたことは、自身が掘り下げてきた愛というテーマを、今置かれているリアルな状況と照らし合わせながら、より抽象度を高めて考察するいい機会だったのではないだろうか。
ウィルコの新作『Ode to Joy』からのリード・シングルだった「Love is Everywhere」に続き、今作のタイトルは『Love is The King』。一筋縄ではいかない“愛すること”の概念に対するジェフの執着がよく伝わってくる。決して両手を広げて愛を讃えるわけではなく、疑いと迷いも抱きながらも諦念できないところが生身のジェフらしく、それが歌詞にも反映されている。表題曲「Love is The King」では、“愛は公平ではない、愛は王だ”とマイナー調で呟くように歌う。愛とは王のように、時に慈しみを与えてくれたり、沈み込むような孤独に襲われる時の救いの存在になるかもしれない。しかし、それは神のように絶対的な力を持っていて、その前には無条件にひざまずかなければならない。何かを正当化するスケープゴードにもなる危険なものでもある。そんな危険といつも隣り合わせなのが愛することだと歌う。先日ジェフは、ジョン・レノンの生誕80周年を記念して、ジョンの「God」のパフォーマンスを公開した。「I don’t believe in Kings」と歌いながらも信じることは諦めなかったジョン。ジェフもまた、この困難な環境下の、危うくも確かな希望を、葛藤を抱えながらも必死に掬いとろうとしている。なお、CDとアナログ・レコードは来年2021年1月15日にリリース予定。(キドウシンペイ)
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