Review

Fatima Al Qadiri: Gumar

2023 / Hyperdub
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2023年における最もモダンなアラブのエレジー

13 April 2023 | By tt

LAをベースに活動するプロデューサー、Fatima Al Qadiriは、これまでもプロダクションや扱うトピックにおいて、ルーツであるクウェート、ひいてはアラブからの影響を反映させた作品を発表してきた。2016年にリリースされた『Brute』における政治や警察の腐敗や暴力といったトピックは「ブラック・ライヴス・マター」をはじめとする、今なお続く社会の動乱の時代に共鳴するものであると同時に、湾岸危機の時代をクウェートで過ごした経験の反映であるとも考えることができるだろう。或いは、東アラビア、アラビア湾岸諸国の音楽、ハリージ(Khaleeji)とフューチャー・ブラウン譲りのグライムやトラップを融合させたキャリアの中でも異色のアグレッシヴなダンス・ミュージック作品である2017年のEP『Shaneera』では、(Grindrのチャットを引用しつつ)アラビア半島の地域におけるクィアネスについての考察をテーマとしていた。



そんなFatima Al Qadiriの最新EP『Gumar』もまた、アラブのエレジー(哀歌)がクリエイティヴのベースになっており、彼女のルーツの一端が垣間見えるものになっている。このエレジーというコンセプトは、中世のアラブを代表する女性詩人アル=ハンサー(al-Khansā)にインスピレーションを得たという2021年リリースの『Medieval Femme』から、またそのメランコリックなサウンド・デザインは、2019年に手掛けたマティ・ディオプによる不穏なラブロマンス『アトランティックス』のスコアから地続きのものである(Fatima Al Qadiriはアラブの文学や音楽、映画といったあらゆる芸術の中で最も称賛されるのはメランコリックなものであると気づいたと『Medieval Femme』リリース時のインタビューで語っている)。



4つのトラックから成る11分強の作品である本作からは『Medieval Femme』を更に凝縮したようなメランコリーを感じ取ることができるが、そのインパクトは、本作のタイトルにもなっているシンガーGumarの歌唱に拠るところが大きい。Fatima Al Qadiriによる不気味なSynth Hornが鳴り響く「Fidetik (I Lay Down My Life For You)」やアシッドなシンセサイザーが印象的な「Mojik(Your Waves)」に乗っかるGumarの歌唱には、時に過剰にすら感じるリヴァーブと相俟って、エレジーというコンセプトをこれ以上なく体現するようなエモーションとメランコリーが宿っている。『Medieval Femme』以前における歌やコーラスは、主に声のサンプリングを切り刻んでプログラミングすることで形成されていたものであるが故に、そんなGumarの歌はより生身の声として切実に響いてくるのである。

アラブのエレジーにおいては「片想い」が伝統的なテーマとしてあるという。本作で最も明確にその伝統を踏襲している曲があるとするならば、ストレートな失恋をモチーフにした、ドローンと不穏なシンセに乗せて、Gumarが様々なバリエーションの発声でタイトル名(恐らくは人の名前だと思われる)を連呼する「Meriem」であり、最愛の人の喪失をモチーフにした「Gumar」(アラビア語で「最愛の人」を意味する言葉でもある)ということになるだろうか。その意味では上述の2曲が、Fatima Al Quadiriによるロマンティシズムと喪失が同居する、最もモダンな2023年のアラブのエレジーの形であるようにも思える。そしてこのエレジーにおける伝統的なテーマは、様々な形や違いはあれども、地域や文化を超えて共有されるテーマでもあり、だからこそ本作は例えば極東の島国に住む我々の心の深淵にも何かしら響くような、そんな作品になりえるのかもしれない。(tt)

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