荒くれつつもスタイリッシュ。御年71の大ベテランが 新作から先んじて公開したサム・クックのカヴァー
これは、もう、言葉を失う素晴らしさだ。声という言葉は、歌という言葉は、この人のためにあるのではないか、とさえ思えてしまう。9月22日にリリースされる37作目(!)となるニュー・アルバム『Roll With The Punches』からの先行曲として発表されたこの曲は、もちろん、サム・クックのカヴァー。しかもヴァンがこの曲をとりあげるのもこれが初めてではなく、彼にとって初のライヴ・アルバム『魂の道のり(原題:It’s Too Late to Stop Now)』(1974年)でも既にカヴァーしているくらい昔からのお気に入りだ。だが、その時と比べても、ジェフ・ベックがギターで参加している今回のカヴァーの圧倒的なダイナミズムと、一方で醸し出される細やかさとセクシャリティが際立っている。そう、サム・クックの全盛時代1963年のパフォーマンスを収めたライヴ・アルバム『ハーレム・スクエア・クラブ 1963(原題:One Night Stand!)』と、翌年のステージを収録した『ライヴ・アット・ザ・コパ』の両方を併せ持っているかのようなヴァンの豪胆でヒューマンでスタイリッシュな歌声。サム・クックのその2枚のライヴ盤は同じ時期の録音にも関わらず、かたやラフでエネルギッシュ、かたや洗練されていてスタイリッシュ…と全く異なる側面を持っている。サム・クックの魅力の一端であるその歌い手としての二面性を、ゼム時代を含めると50年以上のキャリアを数えるヴァンは、その迫力ある唱法の中にここにきてこんなにも大らかに取り込んでしまっていることに今更ながら気づかされるのだ。この迫力としなやかさの共存には、もう、誰も敵わないのではないかと。
9月発売の新作では他にもボ・ディドリーやモーズ・アリソン、シスター・ロゼッタ・サープ、ライトニン・ホプキンスらの曲をとりあげているという。カヴァーされるのもするのも多い人で、オリジナルとカヴァーの境目ももはやあってないような人だが、北アイルランド出身、今なお英国で不動の人気を誇るもはやマフィアのようなルックスのこの71歳は、ブラックもホワイトもシームレスにシンクロする現代の豊かな大衆音楽の中で、とっくの昔からその中枢に居座る首領として、今再び絶頂期を迎えつつある。(岡村詩野)
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