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遂に初来日公演が実現!
長いキャリアで音楽性と共に進化させてきたチョ・ヒュイル=ブラック・スカーツのグッド・メロディ

27 September 2019 | By Daichi Yamamoto

未だに鮮明に覚えている。2016年、ブラック・スカーツ(韓国語名:검정치마 / コムジョンチマ)のスロウ・バラード「Everything」と出会ったときの印象を。シューゲイザーやチルウェイブを通過した緩やかで淡いサウンド。「君は僕の全てだよ」というややもすればありったけにも感じられるメッセージを、これでもかとロマンティックにする美しいメロディにも聴き惚れた。韓国産でありながら、彼の国のチャートを騒がすK-POPからも、テレビ・ドラマ向けなバラード・ポップたちとも全くの別世界から現れたような美しくドリーミーなこの曲はなかなか衝撃的だったのだ。

韓国で5本の指に入るくらいの人気ロック・アクトであるチョ・ヒュイルによるソロ・プロジェクト=ブラック・スカーツは、土地も、音楽スタイルも、シーンの中での立ち位置も変化させながら長い道のりを歩んできた。ソウル生まれのチョは12歳の時からは米・ニュージャージー州で過ごし、2004年にニューヨークで3人組のパンク・バンドCastel Prayonを結成するものの数年で解散。その後チョ一人、”The Black Skirts”の名前で故国のインディー・シーンで活動する決意をすると、地道に韓国インディー・シーンのメッカ=ソウル・ホンデで実力をつけていった。再びアメリカに戻って友人の車に揺られ東海岸から西海岸へ移動しながら約一年かけてライブ活動、スタジオ録音を重ね製作されたデビュー・アルバム『201』をインディ・レーベル《ルビーサロン》から2008年に発表(現在視聴できるのは2010年にソニーから発表されたスペシャル・エディション)。韓国のアルバム・チャートで最高位9位を記録したり、韓国大衆音楽賞で「ベスト・モダン・ロック・アルバム」を受賞するなど、まさに韓国インディー界の寵児的な存在になった。当時の楽曲はキャッチーさ満点のメロディにこそいまに繋がる才覚を感じさせるが、ブリットポップ期のイギリスのギター・バンド風なサウンドは、良くも悪くも若かったころの”好き”を詰め込んだ、初期衝動的な荒削りなイメージが強い。

2011年に発表したセカンド・アルバム『Don’t You Worry Baby (I’m Only Swimming)』では、激しいギター・サウンドの代わりに韓国歌謡、フォークやカントリーの影響を前面に出し方向転換を果たした。”ビーチ・ボーイズ風”とも評されたというハーモニーの「Goodbye」や”50年代のマイク”や”19世紀製のピアノ”を使用するなどヴィンテージさにも拘った「International Love Song」など温かみのある作品に仕立て、ジャンルの幅を広げソングライティングで大きな成長を遂げた(チャートでも最高位3位を記録)。

この後ブラック・スカーツのディスコグラフィには約4年の長いブランクが空くのだが、この充電期間が生んだシングル「Hollywood」こそが、いまのスタイルにも直結する彼のキャリアのハイライトだろう。美しい歌メロこそ「International Love Song」のような以前のバラードを踏襲するが、この曲でチョはエレクトロ・サウンドに挑戦し今に繋がるドリーム・ポップ的な音像を作り上げた。また音に溶け込むように、聴き手を癒すように、歌い方も優しく穏やかなものにシフトしていった。冒頭の「Everything」はこれに続くシングルだ。

またその翌年、K-POPの3大事務所の一つYGエンターテインメント傘下のインディ・レーベル<HIGHGRND>に合流したこともチョに大きな影響を与えたはずだ。このレーベルはベテランのヒップホップ・グループ、エピック・ハイ(Epik High)のメンバーTabloによって設立され、ヒップホップ・R&Bシーンの新鋭の他に、ヒョゴやIdiotapeといったインディ・バンドも参加しており、韓国のインディー/オルタナティブとメインストリームの2つのシーンの架け橋のような役割を果たしている。近年ブラック・スカーツがテレビ・ドラマのサウンドトラックへの楽曲提供などインディーの壁を越えたより柔軟な活動をしているのも想像すれば納得なはずだ。

2017年にテーマを「愛」とした3部作の一作目として発表されたアルバム『TEAM BABY』はこうした流れの集大成といえる。「Everything」が象徴的だが、ジョーが元来持っていたメロディ・センスが、シューゲイザー、チルウェイブのフィルタを通して輝いていて、また<HIGHGRND>だからこそ可能になっただろう洗練されたプロダクションも他のK-POP作品と並べても自然に聴くことが出来るほどの強度がある。夢幻的な音の中で優しく何気無く歌ってみせるチョだが、だからこそテーマこそシンプルなラブソングであれ深みを感じさせるし、この音楽スタイルの変化は甘酸っぱい恋もあっただろう『201』の頃からは年齢を重ね成熟したチョ自身を映しているようでもあって、彼のラブソングを特別にさせる。

そして今年2月に発表されたアルバム『THIRSTY』(自主レーベル《BESPOK》から発表)は「愛」3部作の二枚目だが、『TEAM BABY』のイメージの”継承”と”打破”、2つの顔で私たちを楽しませる。前作でのスロウ・バラードを想起させる前半から一転、派手なギター・ソロまで飛び出すハイテンポなバンド・サウンドに変貌するリード曲「Island (queen of diamonds)」が象徴するように、他にもボコーダーも用いたカオティックな「Lester Burnham」や、ダンスホールのリズムが飛び込む「Sangsu Station」、カントリー調の「Mad dog diary」など目まぐるしく曲の表情が変わっていく。恋人への愛も故郷への愛もただ甘い曲が多く集められた『TEAM BABY』と比べれば、この作品では愛の「陰」の部分も歌おうとしているようにも聴こえるのだ。多彩なトーンの楽曲は、悲しみや憎しみ、困難にも変わる愛の温度の変化を巧みに映してくれる。コンセプト、音楽スタイルも挑戦的で、初めから終わりまでスリリングな作品だ。

ブラック・スカーツことチョ・ヒュイルはその長いキャリアで(彼は今年37歳になる)、持ち前のソングライティング能力を、若々しく、優しく、大人っぽい艶やかさや、夢幻的な空気も身につけながら進化させてきたが、どんな表情の曲も優しく親しみやすいメロディで、その豊富なディスコグラフィは飽きさせることがない。ついに実現する初来日公演はその珠玉のメロディたちの温かさをナマで体感できる機会として楽しみでならない。(山本大地)

Text By Daichi Yamamoto


THE BLACK SKIRTS ‘THIRSTY’ ASIA TOUR 2019 – TOKYO

東京公演
2019/10/13(日)
東京・青山月見ル君想フ 
OPEN/START
19:00 /20:00
ADV./DOOR ¥7,700
TICKET:
https://eventix.shop/mfu8ymj5%E2%81%A3
■東京・青山月見ル君想フ オフィシャルサイト
http://www.moonromantic.com

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