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「私の人生だから、正直にやりたいことをやる必要がある」
クラシック音楽とカウンターカルチャーが同居する、SASAMIインタヴュー

09 May 2025 | By Nana Yoshizawa

シンガー・ソングライター、ササミ・アシュワースのソロ・プロジェクトであるSASAMI。彼女の作品はリリースを重ねるごとに大胆な変貌を遂げていると思うかもしれない。2019年のデビュー・アルバム『SASAMI』で内省的なインディー・ロックを確立し、2022年の『Squeeze』ではニュー・メタルの攻撃性とササミが得意とする繊細なプロダクションを取り込んできた。

こうした野心的な試みは、彼女の歩んできたバックボーンが影響している。クラシック・フレンチホルン奏者、プロデューサー、作曲家、音楽教師としてクラシック音楽に精通する一方で、流れに逆らうカウンターカルチャーの姿勢を持つ。つまり、二つの側面が同居しており、それらが音の隅々から垣間見えるのだ。

そして最新作『Blood On the Silver Screen』は共同プロデュースに、ロスタム、ジェン・デシルヴェオを迎えて、目指したのは「愛についてのポップレコードを作る」ことだった。果たして挑戦的な試みだろうか? いや、ササミの着実なキャリアや自身の表現に正直である姿勢を思えば、ごく自然な流れであることがわかるだろう。ちなみに、今作に影響を与えた作品に2000年代後半から2010年代のポップ・ミュージック、なかでもブリトニー・スピアーズの『Femme Fatale』、レディー・ガガの『Born This Way』、ケリー・クラークソン、ケイティ・ペリー、シーアなどを挙げている。クレイロとのデュエット曲「In Love With A Memory」をはじめ、スタジアム・ロックのように壮大なビートアプローチとササミの滑らかなヴォーカルが重なる「I’ll Be Gone」など、アルバムを通してどの楽曲も非常に完成度が高い。

インタヴューではSASAMIの音楽に影響を与えてきた道のり、独自の音楽基盤となる考え、そして最新作について真っ直ぐに語ってくれた。

(インタヴュー・文/吉澤奈々 通訳/長谷川友美 トップ写真/Andrew Thomas Huang 本文写真/Miriam Marlene 協力/高久大輝)


SASAMIは動画プログラム《TURN TV》でのQ&A方式の質問企画、「THE QUESTIONS✌️」にも登場! 動画は記事の最後、あるいはこちらから!(編集部)

Interview with SASAMI


──5歳の頃から音楽に囲まれてきたあなたは幼少期の頃すでに、ピアノ、聖歌隊、フレンチホルンを習っていました。なかでもフレンチホルンを選んだことは、その後の進路に大きく関わってきたと思います。このフレンチホルンの楽器を選んだのはなぜでしょうか。

SASAMI(以下、S):子どもの頃から少し変わっていて、普通はもっと伝統的なフルートとかクラリネットとかバイオリンを選ぶと思うんです。でもその中で、すごく人気のあるものの対局にあるものを選びたくて、フレンチホルンを選びました。そういった考え方は、今の自分の音楽にも影響を与えていると思います。人々が私にロック・レコードを作ることを想像しているところで、自分の中の対局に行くDNAが騒ぎ出して、いろんな人が予想するものを覆そうとしたり裏切るような音楽を作りたいと思うんです。

──その後、フィービー・ブリジャーズ、ロレリー・ロドリゲス(Empress Of)、ハイムのメンバーも在籍した、ロサンゼルス・カウンティ・ハイスクール・フォー・ジ・アーツ(LACHSA)に進学しました。当時のロサンゼルスの音楽シーンは、あなたにどのような影響を与えましたか?

S:大体、悪い影響が多かったですね。私はとても信心深い保守的な家庭で育ったので、それとは全く真逆の、みんながタバコを吸ったりお酒を飲んだりロックを聞いたりするような環境でした。それが本当に楽しくて、おそらく私がインディー・ロックに本格的にハマり始めたきっかけだと思います。ハウスショーに行くようになったし、バンド活動もしていたし。その後は、音楽を真剣に学ぶことになるけれど、そうした経験からカウンターカルチャーの影響は強く受けていました。それに芸術に感度の高い人たちが多くて、マルセル・プルーストの小説を読んだり、ジャン=リュック・ゴダールの芸術映画を観たりするような授業を受けていた場所でもありました。普通の高校では触れることがなかった数多くの芸術作品に触れる環境は、大きな影響を与えてくれたと思います。

──ハイムのバックバンドのメンバーや、昨年はyeuleのツアーにギタリストで参加するなど、アーティストのサポート・メンバーでも活動されてます。そのような活動は、あなたにとってどのような意味を持つのでしょう。

S:子どもの頃フレンチホルンを演奏していたので、ステージ上では100人が同時に演奏する中の1人でした。それで私はずっと他のアーティストとコラボレーションすることは、協力的なプロセスだと考えていたんです。なので、自分のソロ・プロジェクトを始めた時は本当に孤独を感じて、コラボレーションをする機会を恋しく思っていました。だから、自分自身の活動とほかの人たちと一緒にやることで、そのバランスを取るようにしています。それに自分のプロジェクトで「ボス」としてギタープレイヤーやドラマーを迎えるのと同時に、誰かが私のボスである状況にいるのも好きで心地良いのです。私自身はエゴを主張するようなタイプでもないので、他の人たちが夢見ているものの一部であることも、楽しいことだと思ってます。

──今作で共同プロデュースを手掛けた、ロスタムもあなたと同じようにクラシック、ジャズ、ポップスなど多岐に渡って精通しているアーティストです。彼はあなたのクラシックの面を引き出そうとしたとありましたが、具体的にどのような要素を引き出そうとしたのですか。

 

S:今回はロスタムとジェン・デシルヴェオの二人が共同プロデュースで、それぞれ違う曲を手掛けてくれました。とくに印象に残っているのは「In Love With A Memory」という曲で、この曲には盛大なギターソロがあるんですけど、実際にはソロのパートをキーボードで書きました。キーボードで書いたのをMIDIを通して、違うサウンドにしていって。なので、これはギターソロでありながら、ほとんどピアノ曲を作曲するようなイメージで作っていきました。彼はこの曲で、私のクラシックの要素を引き出してくれたと思いますね。

──そのロスタムが手掛けたクレイロとのデュエット曲「In Love With A Memory」で、2人のヴォーカルは会話のようなやり取りをしています。この曲の経緯とアイデアはどのように生まれましたか?

S:クレイロとは長年の友人であり、お互いのファンでした。そして「In Love With a Memory」の歌詞を書き始めた段階で、もしかしたらこれは一人のキャラクターではなく、二つのキャラクターが曲の中に存在しているかもしれないと気づいたんです。その時点で、デュエットという形にしたいと思いました。 それに、クレイロと私の声はかなり似ているんです。だから、二人で歌うデュエットだけれど、一人の人間の中に二つの人格が合わせ鏡として存在するように作り上げたいと思ってました。

──一般的にはクラシック音楽とポピュラー音楽は対極とされています。それでも今作で、あなたの音楽がポップ・ミュージックへと変化したことに、あまり驚きませんでした。というのは、これまでのジャンルを超越した作風、ソング・ライティング、そしてクラシック音楽の専門家であることが大いに生きてくる領域だと思うからです。実際に、クラシックの知識が今作において役立つ場面はありましたか。

S:もちろん。例えば、クラシック音楽でベートーヴェンの「運命」なら、「ダダダダーン」っていう強力なフックがあってキャッチーだったりするのを、ある意味ではポップ・ミュージックだという風に私は理解しています。 一方で、マーラーとかもっと複雑なポップ・ミュージックとは言い難いクラシック音楽っていうのも存在していると思っていて。ロック・ミュージックでもオルタナティブでも、共通するところがあると思うんです。で、私はやはりクラシック音楽を学んできたので、音楽理論の基礎をよく理解しているっていうのは、大きな助けになっています。ポップ・ミュージックの曲を作りたいと思ったら、極力シンプルに、そして同じフレーズを何度も繰り返してリピートする作り方をするように、メタルだったらまた違う構築の仕方がある。そうした様々なジャンルの構築の基礎が身に付いているのは、私にとってはとても役に立ちました。

──今作の影響となったポップ・ミュージックに、ブリトニー・スピアーズの『Femme Fatale』やレディー・ガガの『Born This Way』を挙げています。これらの作品はポップ・ミュージックとして優れていることはもちろんですが、当時の新しい女性像、LGBTQ+の人々にスポットライトをあてている作品でもありますよね。これは、あなたが今作で「愛についてのポップレコードを作る」と選択したことと重なるように思えます。今作では、どのようにヴィジョンを描いていたのでしょう?

S:以前ツイートで読んだことに、「ササミはシステム・オブ・ア・ダウンとカーリー・レイ・ジェプセンを聴く人向けだ」って書いてあったんです。カーリー・レイ・ジェプセンのあの曲知ってる? 彼女の有名な曲なんだけど。(スタッフがカーリー・レイ・ジェプセンの「Call Me Baby」を流す)

そう、まさにそれ! だから、前作の『Squeeze』以来、私の音楽はメタルが好きな人でもポップ音楽が好きな人にも届くって、彼らには理解があるんです。それが私にとって本当に興奮する点だった。なぜなら、私が育った頃には、音楽のジャンルは一つしか聴かなかったから。例えば「私はロックの人だ」とか「ポップの人だ」とか「ヒップホップの人だ」とか。少なくとも私の成長期、ティーンエイジャーや中学生の頃は、聴く音楽のジャンルが自分や友達を定義していた。でも今はSpotifyのプレイリストの影響か、人々はもっと多様なジャンルにオープンになっていて、それが本当に興奮したの。違うジャンルの音楽を作っても、ファンから離れないでいられるって思えたから。だから、これは全て実験的なものなんです。ただ、自分が好きなものを作って、誰かがそれを好きになってくれることを願っているだけです。そして私の音楽が、様々なジャンルの音楽が好きな人たちに届くという期待があることを知ったのは、とても励みになりました。

──最初の質問で、あなたは「逆の方向に行きたい」と話してくれました。また、何度か「定義しない」というキーワードが出ているように思えます。それはつまり、人々の期待を裏切りたいのか、それともこの枠組みに縛られたくないのか、どちらになるのでしょうか?

S:実は一つには自分の肉体的、身体的な問題っていうのがあったと思います。というのも、前回『Squeeze』のツアーでメタルのバックバンドを連れていき、毎晩マイクに向かって叫び、重いギターを弾き、全身に青あざだらけでした。それは本当に身体的なもので、キャラクターに深く入り込んでいたからです。そして1、2年間のツアーを経て、私の体は「何か違うことをしなければならない」と訴えていました。「他のことがやりたい、もっと歌いたいし、叫ぶことも少なめにしていきたい」っていうような思いがあったというのも正直なところです。

私にとって、アルバムを出すということは、そのアルバム以降の3年間は、そのアルバムと一緒に生活をしていくことになるので。前回のアルバムで出していた怒りに満ちた状態を続けるのは自分の中で消化しきれなかった。それに、新しいことに挑戦していきたいとも思ってます。それは資本主義の社会に生きているので、売れるものを作らなければならないのも理解しています。でも、私の人生だから、正直にやりたいことをやる必要がある。特にソロ・アーティストとして、自分の感情の赴くままに、やりたいことをやらせてもらっているのは幸運なことだと思いますね。

<了>

【THE QUESTIONS✌️】Vol.32 SASAMI

Text By Nana Yoshizawa

Interpretation By Yumi Hasegawa


SASAMI

『Blood On the Silver Screen』

LABEL : Domino / BEATINK
RELEASE DATE : 2025.03.07
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BEATINK / Tower Records / HMV / Amazon / Apple Music


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