「ありのままが表現された『BRAT』が好きだし、チャーリーxcxは常に大ファンなんだ 」──Model/Actriz、インタヴュー
ニューヨークを拠点に活動し、2023年のデビュー・アルバム『Dogsbody』が各メディアからもリスナーからも高い評価を受けたModel/Actriz。ノー・ウェイヴやノイズロックの色彩が強かった『Dogsbody』に対し、新作『Pirouette』ではインダストリアルな要素が前面に出ている。
フロントマンのコール・ヘイデンは、幼少期からマドンナやレディー・ガガの音楽に親しみ、その影響は前作のころから美しくロマンティックなメロディーラインに表れていた。新作『Pirouette』をドラマーのルーベンは「ダンスポップ・アルバム」と表現しているが、ぜひこれらの文脈をとおして聴いてみてほしい。
前作に続き、『Pirouette』でもプロデューサーにセス・マンチェスター(Lambrini Girls、エムドゥ・モクターなど)、エンジニアにマット・コルトン(ブラック・カントリー・ニュー・ロード、Djrumなど)を迎えている。インタヴューではこの二人とのタッグについても語ってくれたが、作品を重ねることで練度を上げたサウンドプロダクションもまた楽しい。
今回、フロントマンのコール・ヘイデンへのインタヴューが実現した。サウンドの変化や、共感するポップスターなど、話を聞いた。
(質問作成・文/髙橋翔哉 通訳/原口美穂 写真/Kane Ocean 協力/吉澤奈々)

Interview with Cole Haden (Model/Actriz)
──『Pirouette』は、キックとハイハットを中心としたミニマルなビートが印象的で、まるでテクノを人力で再現したような印象を受けます。その一方で、ヴォーカルのメロディーは非常に親しみやすい。例えるなら、スチームパンクの世界観で歌姫が舞っているような感じで。あなたたち自身は、『Pirouette』のサウンドでどのような世界を描こうとしていたのでしょうか?
Cole Haden(以下、C):ルーベンと僕はついこの前、アルバムの香りをどう表現するか訊かれたんだ。で、僕が刈りたての草の香りと答え、ルーベンはジャズミンと紅茶のような香りと答えた。そのあと僕が、海のソルトスプレーみたいだと付け加えたんだ。というのは、すべての曲が夏の日を思い起こさせるから。自分の子供時代が舞台になっているから、どの曲も自分の近所だったり近くのビーチだったり、緑が青くてジメジメした雰囲気だったり、そういったものを持っているんだよね。ダンス・クラブとは違った、夏のあの蒸し暑い感じが描かれた作品だと思う。
──先行リリースされたシングルも素晴らしいですが、そのほかでは「Vespers」、「Poppy」、「Diva」、「Audience」、「Ring Road」が特に気に入っています。これらに共通しているのは、ダンスビートにノイジーなギターですよね。音楽における「ノイズ」という要素を、あなたはどのように捉えていますか?
C:ハーモニーのように、緊張を生み出しそれを解放することができるし、ノイズには無限の答えがあると思う。それが僕たちを興奮させるんだ。でも今回のアルバムでは、メロディもすごく生きていると思う。伝統的なハーモニーのような要素も意識的に取り入れているしね。
──本作の歌詞は非常に赤裸々な内容になっていると感じますし、あなた自身もそれに自覚的だと思います。比喩を避けて直接的な表現に至ったきっかけとなる出来事や経緯があれば、教えていただけますか?
C:そのきっかけには自分でも気づいていなかったと思う。でももしかしたら、カミングアウトという誰にとって難しい経験もその一つかもしれない。カミングアウトって、このアルバムが本当に伝えようとしていることと似ていると思うんだ。誰もがまず自分自身にカミングアウトするという課題を抱えていて、自分のアイデンティティが周りとは異なることを発見する。そして、最終的にそれを受け入れ克服する。
自分は他とは違うと感じたり疎外感を抱いたりするのはまるで吐き気のようなもので、僕にとっては恥ずかしさのようなものでもあった。だから、自分がゲイだと気づいたときは、目立たないようにしていたんだ。つまり、内面の葛藤は人々が気づかないうちに起こっているもので、普通は共有されることはない。そこで、僕は僕について人々が知らないことがたくさんあることに気づき、それをさらけ出して、人生に必要のない苦しみから自分を解放したいと思ったんだ。抱え込む苦しみはもう必要ないってね。
──ヴォーカルに関して、これまでのアプローチと比べて歌い方や表現方法を意識的に変えた点はありますか?
C:あるよ。例えば「Poppy」では、初めてハーモニーをレコーディングした。今回は、一緒にプロデュースをやってくれたセス(・マンチェスター)にはいろんな参照を伝えたんだ。ジャネット・ジャクソンとか、カイリー・ミノーグとか、マドンナとかね。ポップ・ミュージックはヴォーカルが重要という図式があるけど、今回はそのスタイルを意識した。で、いろんなバージョンの自分が積み重なったような感じにしたくてハーモニーを取り入れたんだ。
通訳:なぜ今回それをやりたいと思ったのでしょう?
C:自分でも分からないけど、それに今挑戦することがしっくりきたんだ。『Dogsbody』のツアーでショーをやればやるほど最初のものとは離れていって、ライヴは独自の性格を帯びていき、それは僕がずっと愛してきたシアトリカルなポップ・ディーヴァに似たものになっていった。そこで僕は、ライヴをその方向に進化させていきたいと感じたんだ。だから、アルバムの制作当初からすでに、このアルバムでどんなライヴをやりたいかを考えていた。その結果この変化が生まれたんだと思う。
──前作に引き続き、今回もセス・マンチェスター(プロデューサー)とマット・コルトン(マスタリング)との仕事ですね。前作の制作時と比べて、変わっていないこと、変わったことがあれば教えてください。
C:セスはプロ中のプロだから、彼のやり方や精神は今回のアルバムでもあまり変わらなかった。でも、僕たち自身は前回と比べてかなり変化していたんだよね。セスは物事を区別して探究するのがすごく得意なんだけど、彼が今の僕たちにできることを判断して最大限に引き出してくれたおかげでアルバムは大きく変化したと思う。もちろん彼には彼の好みがあるんだけど、彼はその曲にとってなにがベストかを見つけ出すことに関してチャンピオン級なんだ。今回の僕たちは、以前に比べてもっと柔軟だった。だから、スタジオ全体を楽器として使うような感じでアルバムをレコーディングすることができたと思うね。
──セス・マンチェスターやマット・コルトンと組む前に出していたEPでは、よりポストパンクやノー・ウェイヴの色合いが強かったように感じます。しかし『Dogsbody』以降、インダストリアルやダンスの要素が色濃くなったのは、あなたたち自身の音楽的なテイストの変化によるものですか? それとも、セスやマットとの出会いが音楽に新たな影響を与えたのでしょうか?
C:マットに関しては、彼はいつも素晴らしい仕事をしてくれるし、今回は彼のダンス・ミュージックの経歴を考慮して僕たちから彼にお願いしたんだけど、クリエイティブの面に関しては彼はそこまで関わっていないんだ。でももちろん、彼にお願いしたのはちゃんとした理由があったからだけどね。サウンドが変わったのは、僕らの活動も長いし、バンドを始めたときはまだ19歳とか20歳だったから、自分たち自身の変化と共に変化したんじゃないかな。
それに加えて、セスの影響もあると思う。最初の2曲と『AVA』をレコーディングしたときは、レコーディングもミックスも自分たちでやっていたし、EPは4人でライヴで1日でレコーディングした。それに、「Suntan」もライヴ録音だった。でもセスと一緒に作業したときは、初めてスタジオ・ヴァージョンを録音したんだ。そこで、曲は必ずしもライヴ演奏の曲と同一である必要ではないことを学んだ。そしてその気づきが、僕たちによりエレクトロニック・ミュージックに傾倒する自由を与えてくれたんだ。あと、今はペダルやその他の様々な機材を手に入れたことで、より幅広いサウンドを作ることが可能になったのも理由の一つだと思う。
──新作『Pirouette』を聴いて、チャーリーxcxの『BRAT』を思い出しました。ダンサブルなビートや攻撃的なプロダクション、美しいメロディーラインに共通していると感じます。『Pirouette』ではダンスポップを目指したと伺っていますが、ポップフィールドのアーティストの中で、自分たちのやろうとしていることに近いと感じる人はいますか?
C:『BRAT』を思い出してくれたなんて最高の褒め言葉だよ。チャーリーxcxはまさにその一人。僕はブロードウェイミュージカルや映画制作の裏側を描いた映画、例えば『四十二番街』とか『雨に唄えば』みたいな作品が昔から大好きなんだ。ああいう作品は、ステージにいる人が人間なんだなと思わせてくれる。拍手が鳴り止みショーが終わっても、現実に引き戻されるギャップをあまり感じないんだよね。メイクを落とした姿もその人に変わりはない。
だから僕はありのままが表現された『BRAT』が好きだし、チャーリーxcxは常に大ファンなんだ。あとは、ブリトニー・スピアーズの『Blackout』もそうだな。アーティストのパーソナルな部分が映し出された作品だし、すべての曲が素晴らしいから。作品のテーマやダークな部分も好きだし、2007年の彼女の状況を鏡で写したような、彼女が力を取り戻す様子が表現された素晴らしい作品だと思う。あの作品からも僕は本当に影響を受けていると思うね。
──本作でダンスポップを目指したと伺ったのに関連して……漠然とした質問かもしれませんが、「ポップ」という言葉を定義する場合どのように説明しますか? 私なら、「それに触れた人が変化せずにはいられないきっかけ」と説明します。あなたなら「ポップ」の定義をどう説明しますか?
C:もちろんサウンド的には、簡潔さを好むジャンルであり、ポップの真髄はフックだと思う。でも僕にとってポップ・ミュージックの重要性と目的は、それがアーティストの人生の物語を称えるジャンルであるということ。だから、ポップソングを書くときの目標は、他の誰も歌えないようにすることだと僕は思うんだよね。自分の魂が込められているような音楽。他の人たちがカラオケで歌うことはできても、他の誰も自分のようには歌えない、それを超える他のヴァージョンも絶対に作れないようなソングが、最高のポップソングだと思う。
──前作『Dogsbody』を初めて聴いたときには、初期デペッシュ・モードやD.A.F.、ミニストリーのような80年代のエレクトロニック・ボディ・ミュージックだ!と思いました。80年代の音楽と自分たちとの距離感について、どのように考えていますか?
C:他のバンドメンバーたちはどうか分からないけど、僕自身は80年代の音楽は大好き。僕はディペッシュ・モードが好きなんだけど、その理由はデヴィッド・ガーンの声をそのまま原曲キーで歌えるから。彼と僕はすごく声が似てるんだ。80年代の音楽はメロドラマティックだから好き。すごくロマンティックな音楽だと思う。ちょっとオペラっぽくもあるし、なにか大きなメッセージを投げかけるというか、時代のアンセムのようなものを感じるよね。でも、僕ら全員が80年代の音楽の大ファンというわけではないし、サウンド的には意識してインスレピーションとして取り入れているわけではないよ。
──最近のUSシーンでは、最近解散したスプレイン(Sprain)やYHWH Nailgunといったノイジーで実験的なバンドが注目されているように感じます。あなたたちのインダストリアル的なアプローチは、アイルランドのギラ・バンドを彷彿とさせます。アメリカ国内でもUS以外でも構いません、現代のアーティストで共感できる存在はいますか?
C:YHWH Nailgunとは親しいよ。サウンド的にお互いを参照し合っているとは思わないけど、僕らも彼らも自分たちがやりたいことをやっているという点では共通していると思う。あと、東海岸のツアーにAFKっていうバンドに一緒に来てもらうんだけど、彼らはブロンクス出身で、みんな若いけどものすごく上手いんだ。彼らがニューヨークでThat Dogのオープニングを務めていたのを観たときに、彼らにぜひ一緒に来て欲しいと思った。去年僕たちがやったクリスマス・ショーでも既にオープニングを務めてくれたんだ。彼らのショーはかなり興奮するよ。DJ、ドラマー、リードヴォーカルの構成ですごく面白い。僕が共感できるバンドはその2組かな。
──レディー・ガガの新作『MAYHEM』はあなたのお気に入りだと記事で読みました。私も「Abracadabra」のサウンドや作曲がアシッドで刺激的で、とても気に入っています。個人的には、レディー・ガガの作品の中では、フューチャリスティックな『Chromatica』が一番のお気に入りで、Model/Actrizの音楽にもどこか通じるものがあると感じています。あなたがレディー・ガガの作品の中で特にお気に入りなものはどれですか? その理由も教えていただけると嬉しいです。
C:レディー・ガガは大好きだけど、『MAYHEM』は僕のフェイバリットではないよ。僕が好きなのは『Born This Way』。『Chromatica』もいいよね。「Rain On Me」がリリースされたときはあの曲をループでかけて眠りについてた。たぶん200回くらいずっと流れたんじゃないかな。次の日に起きても流れてたから。あの曲は大好き。「Abracadabra」がリリースされたとき、僕たちは「Cinderella」のミュージックビデオを撮影してたんだ。で、友達やダンサーや振付師とみんなで座って、僕の電話からBluetoothスピーカーであの曲をかけて聴いてた。撮影の最終日で、みんなでキャーキャー言いながらあの曲を聴いてビデオを観たのを覚えてる。
ファンクラブに入ったり親にコンサートのチケットをねだったりするきっかけになったのは「Bad Romance」をラジオで聴いたのがきっかけだったけど、『Born This Way』は、ちょうど僕が自分がゲイだと気づき始めたときに出会った作品なんだ。だから、あの作品は僕にとってパーフェクトだったんだよね。それに、彼女のすべてのレコードがそうだけど、特に『Born This Way』は彼女が全力で取り組んでいるのが感じられるんだよね。かつキャリアを上昇させている作品だから、エネルギーを感じるんだ。今ニューヨークに住んでいることもあって、僕は『Born This Way』と自分のつながりを再発見しているところ。そしてあのレコードは、目の前に広がるランドスケープがすごい。それは『Chromatica』もそうだけど、『Born This Way』は特にシネマティックだと思う。
──アメリカ/ヨーロッパのツアーが決まっていますが、それに向けて今どんなことを考えていますか?
C:今回のツアーでは違う衣装を着る予定。ショーのエネルギーも、もっとポップ・ショーみたいな感じになると思う。『Dogsbody』のときのダークでインダストリアルなエネルギーも残しつつ、もっとポップになる感じかな。でも、今回の曲は前よりもキャッチーで、みんなが自然に踊れるようになっている。だから僕自身ショーがすごく楽しみ。日本でも是非パフォーマンスできたらいいな。
<了>
Text By Shoya Takahashi
Photo By Kane Ocean
Interpretation By Miho Haraguchi

Model/Actriz
『Pirouette』
LABEL : True panther / Dirty Hit
RELEASE DATE : 2025.5.2
購入 : TOWER RECORDS / hmv / Amazon / Apple Music