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「自分の音楽は、ゆっくりと燃えるようなイメージのものだと思っている」
エモ、オルタナからジョニ・ミッチェルまで──スクワレル・フラワーが宿す、静かに燃え上がるセンチメント

30 June 2021 | By Nami Igusa

90年代のエモ・バンドを思わせる、青々としたメランコリーが美しいメロディ・ライティングに、揺蕩う夢見心地なサウンド・メイク。かき鳴らすエレキ・ギターで静かに燃え上がるエモーションに、独特のオープンチューニングのアコースティック・ギターに漂うブルーな気分──2020年のデビューアルバム『I Was Born Swimming』は、決して派手ではないかもしれないが、つい胸を焦がさずにはいられないようなエッセンスを詰め込んだ、その年の隠れた良盤となった……少なくとも、筆者にとっては。Squirrel Flower(スクワレル・フラワー)、それが彼女のステージ・ネームだ。この変わった名前は、幼少期のあだ名なのだそうだが、彼女がこのステージ・ネームを使い始めたのは2015年、故郷を離れてアイオワ州の大学に進学した頃からなのだという。

1996年生まれ、マサチューセッツ州のアーリントン出身。本名はエラ・オコナー・ウィリアムズという。祖父母、そして父親、兄弟もミュージシャンという音楽一家に育ち、ごく自然な流れでギターを手に取り10代の頃から音楽を作っていたという彼女だが、一介の「音楽好きな少女」から「アーティスト」へと羽化を遂げ、その明確な自覚が芽生えたのは、やはり自分自身を理解しそばで支えてきた家族と離れ、馴染みのない土地でひとり生きていくことになった経験がきっかけだったようだ。“スクワレル・フラワー”としての初めての作品であるEP『Early Winter Songs from Middle America』(2015年)は、ホームシックにかかり大学を一時休学していた間に作ったものだそうで、アイオワの厳しい冬と、外の世界と隔絶された自身の孤独を憂いを帯びた澄んだ歌声で歌い上げる様は、その誕生の過程も相まって、ボン・イヴェールの『For Emma, Forever ago』(2008年)を彷彿とさせなくもない。

その後、ビッグ・シーフやジュリアン・ベイカー、モーゼス・サムニーらのオープナーも務め、米《Polyvinyl》とサイン、デビューアルバムをリリース、とステップアップを重ねてきたエラ。その前作から約1年という短いスパンでのリリースとなった、このセカンド・アルバム『Planet (i)』(プラネット・アイ)は、“災害”をテーマにした作品だ。その背景には、各地をツアーで回りながら様々な災害を目撃したことで、自分の内側と外側の世界が切り離されたように感じた経験があるのだそうで、リリックには、荒涼とした干ばつ地帯や、混沌とした嵐の中を火の玉のように突き進む彼女の姿も登場する。なるほど、こうした外の世界と自分の内なる世界との隔絶 / 融和への興味こそが、彼女の音楽の動機であり、大きなテーマでもあるのだろう。エモーショナルでセンチメンタル、だがその中に確かに宿る燃え上がるような熱情は、外 / 内の世界の境界を突き破らんとする彼女の意思の力そのものだ。そしてそれは、昨今すっかり内側の世界に閉じこもることにも慣れ、外側から感情を動かされることが少なくなってしまった筆者の心に薪をくべ、ジリジリと燃やし、焦がすのには十分すぎる火力をそなえているのである。

彼女が大学時代を過ごした中西部をそのシーンのひとつの拠点としたエモと、在りし日のローレル・キャニオンにスリップしたかのような、ジョニ・ミッチェルやニール・ヤングを思わせる滋味深いソングライティングが1枚の中に同居するだけでなく、90年代のオルタナ~グランジ色も垣間見せるなど、前作以上にその音楽性の幅も広がった今作。彼女の音楽のバックグラウンドから、イギリスはブリストルで行われたという今作の制作のエピソードまで話を聞いてみた。 (インタビュー・文 / 井草七海、翻訳 / 相澤宏子)



Interview with Ella Williams(Squirrel Flower)

──あなたのおじいさんはリュート奏者で、古代・中世音楽のアンサンブルのメンバーでもあったそうですね。おばあさんもシンガーで、彼らはGate Hill Co-Op(ゲートヒル・コープ。ニューヨークに1950年代に作られた芸術家のためのコミュニティ)で暮らすミュージシャンだったそうですが、あなたが音楽を始めたのは、おじいさんやおばあさんの影響もあったのでしょうか? また、あなた自身、家族と一緒にゲート・ヒル・コープに訪れたこともあるそうですが、そこはどんなところだったと記憶していますか?

Ella Williams(以下、E):そうね、祖父母は私が音楽を始めることに大いに影響を与えたと思う。私は彼らに会いに行くたびに一緒に音楽を作っていた。ゲートヒル・コープでは多くの時間を過ごしたし、実は今も時々訪れている。幼少期と思春期を通してそこに通っていたことによって、私の人生は非常に明確に、クリエイティヴであること、音楽や芸術を何が何でも作るんだ、という方向に向かっていったと思う。 私のゲートヒル・コープでの思い出は主に、愛すべき家族が集まって一緒に音楽を演奏したことね。また、その場所は私が初めてアコースティック・ギターに触れた場所でもある。皆がアーティストもしくはミュージシャンであり、ただの変人でもあった。それが私の最初の記憶であるし、人生のあらゆるステージにおいて、そこに思い出があるの。

──あなたのお父さん (ジェシー・ウィリアムズ)もベーシストであり、ゲートヒル・コープで育ったと聞きました。あなたの兄弟(ネイトとジェイムソン)もミュージシャンで、今回のアルバムに参加しているんですよね。今のあなたにとって彼らはどんな存在ですか?

E:ネイトは弟で、ジェムソンは兄よ。彼らは私の親友なの。今はジェムソンと一緒に住んでいて、ネイトは歩いて10分のところに住んでいる。シンセノイズを中心に、時にはリコーダーを使って、時間があれば一緒に演奏していて。ネイトは驚くべきリコーダー奏者よ。ジェムソンはチェロを弾くので、チェロとギターのデュエットをたまにやっている。彼らと私の父の音楽性は間違いなく私に影響を与えているし、彼らと演奏するのが本当に好きなの。

──あなたの地元は、マサチューセッツ州のアーリントンですが、大学はアイオワのグリネル・カレッジに通っていたそうですね。そしてその頃に、Squirrel Flowerとしての初めての作品『Early Winter Songs from Middle America』(2015年)というEPをリリースしています。地元から遠く離れたあなたの孤独とアイオワの厳しい冬をパッキングしたようなこのEPは、その誕生のエピソードも含めて、ボン・イヴェールの『For Emma, Forever Ago』(2008年)を思い起こすところもあります。あなた自身、ボン・イヴェールが好きだということですが、彼の音楽やリリックのどんなところに魅了されているのでしょう?

E:14歳で初めてギターを手にした時から、本当にボン・イヴェールが大好きなの。彼の音楽が私に影響を与えているとはそんなには思わないけど、彼は本当に偉大なミュージシャンであることは間違いない。『For Emma, Forever Ago』は、私にとって音楽や音楽で環境を表現することについての考え方を変えてくれたと思う。

──あなたはローラ・マーリングにも憧れてアコースティック・ギターを手にとったと聞きましたが、彼女のどのようなところに惹かれたのでしょうか?

E:彼女の声とギター演奏がとてもダイナミックで魔法のように感じたことを覚えている。ただただ魅了された。世界の全てが曲の中にあって、ギターのリフの中で語られているように感じたの。

──前作にあたるデビューアルバム『I Was Born Swimming』(2020年)についても聞かせてください。特に印象に残ったのが「Red Shoulder」というナンバーで、その燃え上がるようなメランコリーは、エモを彷彿とさせるものでした。あなたの所属する《Polyvinyl》には、アメリカン・フットボールも所属していますが、そうしたエモ・ミュージックも、あなたのルーツのひとつなのでしょうか?

E:正直なところ、エモは私の好きなスタイルで決してなかったの。でも「Red Shoulder」のリフを書いていた時に、アメリカ中西部のエモ・スタイルと、エモでよく見られるギター・パートについて考えていて。大学時代に中西部で長い間過ごしてきたので、そうした中西部のエモ・スタイルに少し影響を受けているのかもしれない。

──なるほど、地元を離れて中西部で過ごしたことがエモに目を向けるきっかけになったと。その時に自分がいた土地のシーンから影響を受けているというのは興味深い経緯です。一方、今回のセカンド・アルバム『Planet (i)』では、雨や雷、嵐、干ばつなどをモチーフにしたリリックが登場するように、“災害”がテーマになっていますし、また、それらに立ち向かうようなイメージを彷彿とさせる、今までよりぐっと力強いサウンドが聴けるのも印象的でした。なぜ“災害”が今回のアルバムのテーマとなったのでしょうか?

E:このアルバムの最初の曲を書いていたのは2019年の夏で、1ヶ月のおよぶ長いツアーを終えたばかりだった。ツアーの間、洪水、干ばつなどの気候に関連した災害を目にしたんだけど、それらは私にとって本当に衝撃的だった。それを見て、私の内側と外側の世界が切り離されたように感じたけど、それは同時に美しい形でもあった。自分と世界の関係性の崩壊と緊張、という意味でね。それがこの『Planet (i)』 が本当に示していることなの。

──冒頭の「I’ll Go Running」は特に心に残ったナンバーでした。<I’ll be newer than before>と繰り返すリリックも印象的で、一言歌うごとに自信を深めていくような感覚を抱きました。この曲にはあなたがアーティストとして活動していくにあたっての強い決意表明のような意思を感じたのですが、デビューアルバムをリリースして以降、何か難しさを感じるような出来事はありましたか?

E:音楽をシェアすることはとても美しいことだけど、やはり難しいことにもなり得るとわかった。マーケターやビジネス・パーソンのように芸術を促進していく必要があるから、多くの認知的不協和音が生じてしまうのよね。「I’ll Go Running」 は“仕事”として音楽を作ることの闇についての曲だけど、とはいえ私自身は、やっぱり人間として必要だから音楽を作っているのだと思う。

──その「I’ll Go Running」では、自身を燃えながら落ちる隕石や、燃えるオイルタンクにたとえたり、また「Flames and Flat Tires」という曲ではその名の通り、燃え上がるパンクした車が登場したりしますね。また、あなたのエレキギターのサウンドも青く燃え上がるような、静かで激しいエモーションを感じさせるところがあって、それもまたあなたの音楽の魅力の一つです。この「燃える」というモチーフは、あなたの頭の中に常にあるイメージなのでしょうか?

E:率直に言うと、イエスね。私は、自分の音楽はいつも燃えるようなもの──大抵、ゆっくりと燃えるようなイメージのものだと思っている。自分の音楽の中に、磁力のある火の玉のようなテンションを作って、それを集めることにこだわっている、という感じで。

──今作の収録曲の中では、「Hurt A Fly」、「Big Beast」、「Roadkill」といった楽曲から、90年代のグランジ~オルタナ・ロックを思い起こさせるナンバーですね。あなたは「Explain It To Me」のカヴァーをリリースしているようにリズ・フェアのファンでもあるそうですが、あなたにとってグランジ~オルタナ・ロックの魅力はどんなところでしょうか?

E:クランチーで歪んだギターを弾き始めたのは2015年ね。それまではアコースティック・ギターを主に弾いていたんだけど、その頃からエレキ・ギターを本格的に弾くようになって。まるで自信が開花したような気分だった。ラウドでありながら脆さや柔らかさを表現する演奏は本当に特別に感じるし、それが私がロックやラウド・ギター・ミュージックの演奏が好きになったきっかけなの。

──一方で、穏やかに語りかけるようなタイプの楽曲も今作にはあります。特に「Deluge In the South」 はニール・ヤングを、「Iowa 146」はジョニ・ミッチェルを思い起こさせるナンバーですが、あなたのソングライティングには、そうした1970年代のを代表するシンガー・ソングライターたちからの影響も強くあるのでしょうか?

E:フォーク・ミュージックや古いカントリー・ミュージックは大好き。ニール・ヤングやジョニ・ミッチェルは、私にとって常にお気に入りのミュージシャンであり続けている。彼らの音楽は、語り部のようで、かつ大抵はとてもシンプルな楽器編成で真実を語っているし、人間味や、自然さ、柔らかさを感じるところが魅力だと思う。このアルバムを書いていた時はフォーク・ミュージックをたくさん聴いていたの。ラウドなオルタナティヴ・ロックのようなサウンドももっと入れたかったんだけど、私はやっぱりアコースティック・ギターにこそ本当に影響を受けたんだと思う。

──今作はブリストルでレコーディングされ、アリ・チャントやポーティスヘッドのエイドリアン・アトリーも参加していますね。まず、そもそもアリ・チャントとはどのように知り合い、どんなところに共鳴して、今作を一緒に作ることになったのでしょうか? トリップホップをはじめとしたブリストル・サウンドにはもともと興味があったのでしょうか?

E:ブリストル・サウンドはいつだって大好きだったし、トリップ・ホップではないけれど、ブリストルのシーンで音楽を作っている友人は何人かいたの。アリと私は電話で話しただけで、クリエイティビティが本当に一致していることがわかった。このアルバムで私がトライしようとしていたことを彼は全て持っているように感じたし、リスクを取ってでもただやってみようと思えたのよ! エイドリアンとアリは友人で、エイドリアンはいくつかの曲でギターやモジュラーシンセで演奏してくれて、良い質感とサウンドをアレンジに加えてくれた。

──このアルバムでは、ウォーターフォンのような珍しい楽器をいくつか取り入れているようですが、これはアリ・チャントのアイデアでしょうか? また、制作過程であなたに強い印象を与えた楽器や、エピソードがあれば教えてください。

E:ウォーターフォンはアリのアイデアよ! このアルバムは、彼のスタジオでレコーディングしたのだけど、彼はこのクレイジーなパーカッションをスタジオに持っているの。彼との作業は本当に素晴らしかった。彼は全てのことに遊び心のあるエネルギーをもたらしてくれた。彼は本当に実験的な人だけど、物事を減らしてオリジナル・テイクの生のエナジーをキープする方法も知っているの。

──アルバムのラストの曲「Starshine」では、災害でその荒廃した光景をも丸ごと受け入れ、静かに愛するような趣きを感じました。それは、そうした惨状に立ち向かうときでさえも希望を失ってはいけないというメッセージであるようにも感じたのですが……。

E:「Starshine」は自分自身の肯定についての曲ね。叔母とタロット占いをした後に書いたもので、祖先が私を見守っていること、自然のエナジーが常に私の周りで私を導いていることについて書いている。とてもパワフルな曲で、痛みを恐れずに存在する、ということについての曲でもあるのよ。

<了>

Text By Nami Igusa


Squirrel Flower

Planet (i)

LABEL : Polyvinyl Records / Tugboat Records
RELEASE DATE : 2021.06.25


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