ムーンライダーズ50周年企画 メンバー全員インタヴュー
武川雅寛
「9人で“e.d morrison”という感じなのかな」
ムーンライダーズ50周年企画となるメンバー全員インタヴュー、今回登場していただくのは武川雅寛だ。50年におよぶバンドの歩みのなかで、武川自身、1995年には全日空ハイジャック事件に遭遇し、2015年には急性大動脈解離による大手術を経験している。バンドの存続すら揺るがしかねない出来事を、本人もバンドも乗り越え、音楽を続けることで先へと進んできた。
ひょうひょうとした佇まいと、穏やかな日々の過ごし方。その温かい人柄とは対照的に、ステージで見せる演奏は実に奔放だ。ヴァイオリンやトランペットを自在に操りながら、時にブルージーな歌声も聴かせる。近年は、そんな音楽的な魅力に加えて、独特のほっこりとしたMCもステージには欠かせないものになっている。
今回の『e.d morrison』でも、キャリアを重ねてもなお、メンバーの個性と自由な発想をぶつけ合いながら、音楽を作ることを楽しもうとする武川の姿がある。「新しいことにトライしている」という感覚すらなく、自然に新しくなっていくムーンライダーズ。その現在地と未来は、武川雅寛の目にどのように映っているのだろうか。
(インタヴュー・文/小暮秀夫)
鈴木慶一
「70年以上生きても知らないことはまだある。好奇心があるうちはやめない」
佐藤優介
「永遠に違う目が出てくるサイコロを振っているような感覚です」
Interview with Masahiro Takekawa
鼻歌+αの未完成なデモ
──今回、作る前にアルバムの方向性などに関してどのようなミーティングをされたのでしょうか。
武川雅寛(以下、T):特にそういうのはなかったと思います。デモテープを集めて、「全員、一人一曲は必ず入れましょう」みたいな、暗黙の了解があった感じかな。
──武川さんは、今回のデモはどんな感じで作っていったのですか。
T:僕は前と変わらずですね。どっちかというと、ギターとかキーボードひとつで鼻歌を歌うぐらいのデモテープです。他の人は割と完成されたものを持ってきていたりしたけど、僕は今回のために特別何かを変えたということはありませんでした。
──ICレコーダーなどでシンプルに録るだけ、みたいな?
T:そうです。迷惑をかえりみず、そのまま送っちゃうという(笑)。非常に未完成なものが多かったですね。
──今回は何曲ぐらいデモを作ったんですか。
T:みんなに聴いてもらわないまま「これはもういいか」と(自ら没に)したものも含めると、6~7曲ぐらい作ったかな。みんなに聴いてもらったのは2~3曲だったと思います。その中から「あの曲でいこうかな」と、自分で決めたところはありますね。それがアルバムに入っている「愚か者の壊れた杖」です。
──組曲となっている「腕に夕日 肩に枯れ木」の第一楽章(1st Mov)にあたる曲ですね。
T:そうですね。後奏が大変なことになって、面白かったですけど。前半(1st Mov. 愚か者の壊れた杖)は作詞・作曲が武川雅寛で、僕が一人で作ったという感じですね。後半(2nd Mov. 始まりの狼煙)は作詞が鈴木博文、作曲がムーンライダーズ(E.D MORRISON)。こっちはちょっとセッション的になって、最初は鈴木慶一が主導権を取ってコード・アレンジみたいなのをして、みんなで一斉に演奏した、という感じですね。
──最初から完成形を決めていたわけではなく、演奏しながら形ができていった。
T:そうですね。組曲みたいになっちゃったんだけど、後半(2nd Mov. 始まりの狼煙)はそういう作り方でした。
──「Suite シャンデリア」も組曲形式の曲ですよね。
T:「Suite シャンデリア」のアイデアは、慶一くんがある程度持っていたんじゃないかなと思うけど、レコーディングをしていくうちに「組曲というか、つながった一つの曲にしたほうがいいんじゃないか」という感じに自然になっていったんじゃないかな。みんなも「それがいいんじゃないか」という感じで、割とすんなりできた感じはありますよね。
──それぞれのデモを作った後に、組み合わせることで新しい形が見えてきた。
T:それもあると思います。かしぶち(哲郎)くんの曲なんかも、もともとあったものをつなげてみたりしていますから。
ライヴではヴァイオリンのほか、トランペット、マンドリン、もちろんヴォーカルも担当
互いに触発されたレコーディング
──かしぶちさんや岡田徹さんが遺した音源からも選曲されていますよね。
T:そうですね。岡田くんの曲と、かしぶちくんの曲も入れて、全員の曲が入っていて、作詞作曲も担当している。そういうコンセプトがあってできたアルバムだと思います。
──お二人の音源って、生前に作っていたデモが発見されたということですよね。
T:そうですね。僕も、それまでその二人のデモを聴いた記憶がないんですよ。ライダーズのデモを作っている時期とか、そういう中でも聴いた覚えがない。だから、本当に個人的に二人が作っていたものなんだと思います。それを発掘したというか……ちょっと大げさかもしれないけど、でも発掘ですよね。
──アルバム・タイトルの『e.d morrison』は、いつ頃決まったんですか。
T:レコーディングとか音入れが結構終わってからですね。僕もほかの組み合わせみたいなパターンを考えてみたりしたけど、やっぱり“e.d morrison”が一番いいんじゃないかなって。ある程度進んだところで決まった感じがありますね。やっぱり、かしぶちくん、岡田くんも含めて、全部で9人。このアルバムは、そのコンセプトがすごく強いんですよね。それを表すのに一番いいのが「e.d morrison」ってことになったんじゃないかな。
──たしかに今回のアルバムは、現在のメンバーだけでなく、亡くなった歴代メンバーも含めて一堂に会する作品になっている印象があります。
T:僕は、少なからずそういう思いはありましたね。やっぱり、それは今のライダーズを分かってもらう一つの手段でもあるし、とてもいい形なんじゃないかなと思えたので。何しろ、今聴いてもらって、一番最良のものを作るというのが究極の目的ですから。どこまでできたかは難しいけれど、「よく頑張って、よくできたんじゃないか」と自負する部分はあります。
──実際、演奏にもかなり強く「バンド感」を感じます。
T:そうですね。みんな好きに演奏した、という部分もすごく多いと思います。みんなが互いに触発されて、最終的にはそうなったんじゃないかな。今までのレコーディングが楽しくなかったってわけではないけれど、今回は特に、演奏していて楽しい感じがあった。そういうバンド感はありましたね。
──スタジオで一曲一曲、みんなが集まって仕上げていったという感じですか。
T:曲にもよりますね。コードなりメロディなり、ある程度できていて、そこにフレーズ的なものやアドリブ的なものを入れていく曲もある。曲によっては、そういうものがすごくたくさん入っているし。作り方は、いろいろバラバラだと思います。
──制作期間としては、どれくらいかかったんでしょう?
T:どれくらいかかったんだろうな。みんなそれぞれ仕事があったり、別のことをやっていたりしたから、何か月か作業して、また少し間が空いて、また作業する、という感じだったんじゃないかな。その分、制作期間は長くなったんだと思います。
──アルバムの内容や方向性について、メンバーの意見がぶつかったりすることは?
T:そんなになかったですよね。僕個人的には、「これはちょっとできないな」というものは全然なかったし。みんなそれぞれ、すごく個性豊かな曲を持ってきたという感じ。それが一番楽しかったです。
1500円で買ったチャルメラ
──今回、澤部渡さんや佐藤優介さんが、曲作りだけでなくディレクションにもかなり深く関わっていますね。
T:そうですね。曲作りももちろんそうだし、ディレクションもすごくよくしてくれて。ディレクターとしての二人の存在は、すごく大きかったと思います。昔のメンバーという言い方をすると変だけど、慶一、ふーちゃん(鈴木博文)、良明、僕なんかにとっては、新鮮なイメージがあって、すごく刺激を受ける部分が多かった。ありがたかったですね。
──新しい世代の視点が入ることで、予想しなかった方向に曲を発展させていくことができたわけですね。
T:そうですね。例えば「ここにトランペットを入れたら面白いんじゃないですか?」とか、いろいろ言ってくれたり。優介くんから「ちょっとマンドリンじゃないですか?」なんて言われて、「じゃあ入れてみようか」ということもあった。でも、それって以前とそんなに変わることではないんですよね。「これ入れたら面白いんじゃないか?」って言われて、やってみる。それは昔からあったことだから。
──スタジオには、いろいろな楽器が用意されていたそうですね。
T:そうなんです。レコーディングした《Sound Crew Studio》は、そこにある楽器を使い放題だったんですよ。いろんな特殊な楽器もあって、リストを見ていると「ここにないようなものはないかな」っていう話になる。それで「チャルメラはないの?」「ありません」って話になって、調べたら1500円ぐらいで売っているというので、「じゃあちょっと買ってください」と。せっかく買ったんだから、そのまま入れちゃおう、と(笑)。
──それが「2nd Mov. 始まりの狼煙」で聴けるチャルメラですね(笑)。
T:そうですね。めちゃくちゃ吹いたりして、楽しかったですよ。あんまり「これを使うぞ」と考えていたわけじゃなくて、思いつきというか、突発的なものなんですよ。組曲「2nd Mov. 始まりの狼煙」の後半なんかは、めちゃくちゃできる感じの部分だったから、何も気にせず、めちゃくちゃにできた。楽しかったですね。
──たしかに終盤で展開される即興的なヴォーカル・パフォーマンスは、そのニュアンスが出ていますね。
T:そうですね。「使うか使わないか分からないけど、とりあえず録っておこう」という感じで、即興的に何かやってみたり。使うかどうかは後で決めればいいや、という感じでした。他の曲でも、かなり好き勝手なことはやっていますけど、組曲の後半は一番むちゃくちゃな感じが出ているのかもしれない。
──「青空に泥靴」では前半を武川さんが歌っていますね。
T:そうです。作詞・作曲した夏秋(文尚)くんから「くじらさん、一番を歌ってください」みたいな要望があって。
──ライヴ・バンドとしてのムーンライダーズは、客観的に見て今どういう状態にあると思いますか。
T:ライヴ・バンドとしても非常に面白い状態にあると思います。今までと大きく違うのは、澤部くんと佐藤くんが入ってくれて、もうメンバーになったこと。今までは、彼ら自身もちょっとサポートみたいな意識があったのかもしれないけど、アルバムを一つ作り終えたってことは、もうメンバーなんだよね。亡くなった2人も入れれば9人でメンバーで、実際にライヴをやるのは7人。もちろん澤部くんと佐藤くんは前から対等だったんだけど、もっと本当に「メンバー」という感じになったと思います。
──この7人には、まだまだいろんな可能性があるということですね。
T:やっぱり、さっきも言ったように、このアルバムをこの7人プラス2人で作ったということはすごく大きい。これから先、ライヴをやるにしろ、何かほかのことをやるにしろ、また広がっていく部分とか、色が濃くなっていく部分とか、何かあるんじゃないかなと思っています。
左から夏秋文尚、佐藤優介、白井良明、鈴木博文、澤部渡、武川雅寛、鈴木慶一
のんびり好きなことをする日々
──ライダーズ以外で、今後やってみたいことはありますか。
T:僕は腰が重たい方だけど、なるべくライダーズ以外のソロなり、誰かとのコラボなり、何かやってみたいなと思っています。来年もみんなそれぞれ、いろいろやったりするんだろうし。僕も誰かに誘ってもらったり、声をかけてもらったらやりたいですね。ソロ・アルバムまではいかないかもしれないけど、ソロのライヴとかできたら、やりたいと思っています。今年(2026年)一つ決まっているのは、斉藤哲夫くんに誘われて、11月に二人でライヴをやること(注:11月14日に秩父《ホンキートンク》で開催)。それはライダーズ以外で今年一つ、ちょっとエポック的な感じがありますね。
──仕事がオフの日は、どんなふうに過ごしているのですか。
T:特に決まってないですね。家にずっといたり、好きなことをやってるというか。どこか旅行に行こうとか、最近は全然なくて。体を休めている部分もあるけど、無理せず近所を散歩するくらいで、あとは奥さんにどこか連れていってもらって、のんびりしているとか。そんな感じです。
──音楽以外の趣味は?
T:前は釣りをしたり、海に行って遊んだりしていたけど、最近は釣りもしなくなっちゃって。海に行ったり、庭で草むしりをしたり、本を読んだり、映画を観たり、どこか食べ物屋さんに行ったり。いろいろですね。
──健康にはかなり気を使っているのかなと思ったんですが。
T:あんまり気にしないのが一番(笑)。一応、自分なりには気をつけているつもりだけど、周りから見たら何もしてないみたいに見えるみたいです。酒も飲むし、好きなものを食べてるし。病院も、行けるうちは大丈夫ですね。だいたい、こういうことができなくなって終わるんです。自分でいろいろ歩いたりできるうちは、まだ大丈夫ってことですね。
──好きなことを続けられることが大事なんですね。
T:そうなんです。ゆっくりだけど、歩いたりできるうちは、好きなことをしているのが一番です。
継続できるうちは解散しない
──最近のライヴも、相変わらずかなりフィジカルですね。
T:ライヴも趣味のうちかもしれないね。まあ、ちょっと違いますけど(笑)。大胆なことを言えば、楽しんでいるところもあるし、もちろんちゃんと聴いてもらうというのは大事なんだけど、自分も楽しんでますね。
──最後に、現在のムーンライダーズについて伺いたいんですが、7人のメンバーの年齢も世代も、環境もかなり違います。それでも50年続いてきた。武川さんが考える「続いてきた理由」は何でしょう。
T:いろいろな理由があると思うんですけど、その時その時で作り方というか、形態がちょっとずつ違ってきて、いろんなアルバムを作ってきたと思うんですね。今回のレコーディングの形態も、もちろん初めてだし。若い二人が入って、結構ディレクションをしてくれて、おだててくれて(笑)、それに乗って楽しくできたところもあった。おまけに亡くなった二人のデモテープの曲があったりして、9人になっている。でも、「人数が多い」とか、そういう意識は僕は全然持たなかったですね。全員が揃っていない部分もあったりしましたし。やっぱり、若い二人が入って完成したアルバムというのは、今までと一番違うし、すごいパワーになったというか、助けられたというか、楽しかったというか。最終的には「楽しかった」というのが一言かな。
──作り手としても、かなり刺激を受けた。
T:直接インスパイアされたとか、そういうことは別にそんなにないのかもしれない。でも、やっぱり優介くんが作ってくる曲は優介くんにしか作れない曲だし、澤部くんの曲は絶対に澤部くんにしか作れないな、という気が強くしました。だから僕らも、僕なり、慶一、ふーちゃん、良明、夏秋、それぞれにしか作れないものがある。岡田くんと、かしぶちくんもやっぱりその二人にしか作れない曲だった。やっぱり9人で“e.d morrison”という感じなのかな。
──今のムーンライダーズは、バンドとしてもいい時期なんじゃないでしょうか。
T:本当にそう思います。今、一番バンドとしていい時期じゃないかな、というぐらい。僕は正直そう思っています。
──2000年代以降も、ムーンライダーズはどんどん進化してきました。このタイミングで新しいことにまたトライしたっていうのは、本当にすごいことだなと思います。
T:新しいことではありますけど、それを「新しいことにトライしている」という感じじゃなくて、当たり前に新しくなっているところが面白いのかもしれないよね。
──それが50年続いている理由でもあるのかもしれませんね。
T:そうですね。
──これからも続いていってほしいです。
T:継続できるうちは解散はないから。継続します。慶一にも言っておきますよ(笑)。
<了>
Text By Hideo Kogure
