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川辺素: 行方不明

2026 / Kawabe Moto
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“行方不明”に生きること

25 September 2026 | By pop

夜の散歩で必ず通りかかる近所の広大な草むらには野良猫が何匹か住み着いているのだが、最近はタヌキまで見かけるようになった。互いを必要以上に詮索することなく、変わらぬ顔で同じ場所を共有している。この自分にとって当たり前となった風景の持つ普遍性が、今の社会の大半には伝わらないのかもしれないと、一抹の不安を覚える。

そんな中、川辺素のソロアルバム『行方不明』のムードが妙にしっくりと来る。独自のランドマークを立てることや、SNS社会の中で自身を何者かに限定することを必要以上に課していないかと、ふと我に返ることができるのだ。

活動休止まで、川辺は4ピースバンド、ミツメで作詞作曲を手がけていた。歌詞の中で「これでいいのか」と歌詞の中で迷う姿勢があっても、他3人の演奏やアイデアが支柱となり、結果として骨太になった。その中で時にはサイケデリックさやまどろみを帯びた音像になったり、歌よりも演奏が前に出て突き抜けるような出力になった印象がある。

対して今作は、Tocagoの礒部智(Ba)とBROTHER SUN SISTER MOONの岡田優佑(Dr)を迎えた3ピース編成だ。全体的に歯切れよくスッキリとしたサウンドになり、明確に路頭に迷っている歌詞がはっきりと聞こえることによって、その曖昧さが強調されているのが面白い。

「秘密」「カラマリ」「深夜番組」「甘い果実」などに漂う、ミツメ初期のような、恋人や特定の誰かとの間柄を気にする世界観も戻ってきた。加えて、「夜逃げ」「カーブミラー」「XYZ」のように、一人の時間と目の前の存在を顧みる歌詞の素朴さと奥行き、そして楽しみ切れなさを抱えた胸中の表現が光る。特に、川辺のメロディと歌詞は、一音一文字が徹底されているからこそ言葉の粒が均一で、主人公のどうしようもなさや目に映る景色がそのまま削ぎ落とされずに届く。

個人的に印象に残っているのは、「エイリアンの恋」の「頭の中で描いていた 未来はいつでもあり得ない」というフレーズだ。ここでの「恋」は、何かに「没頭すること」の比喩のようにも思える。それは仕事や趣味、あるいは自身のこだわりにも置き換えられるだろう。シナリオ通りに進まない現実は、妄想と不安の間で、いつだって成功とも失敗ともつかない場所へと転がっていく。ギターのバッキング音も、行く先がわからない胸中を描くように呼応する。

冒頭に挙げた草むらの土地には、どうやらマンションが建つ予定らしい。古くからあったらしい祠は壊され、その代わりに突然大きな石像が出現した。これはフィクションではなく現実に起きていることだ。それでも、野良猫もタヌキも人間も、一般化されることのない場所や立場を“行方不明”の状態と判定され、この場所で一緒に暮らしていくのかもしれない。(ぽっぷ)

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