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「色々なギタリストから影響を受けまくっている」
エクアドル系スイス人のギター兄弟、Hermanos Gutiérrez
初来日公演直前インタヴュー

05 February 2025 | By Masamichi Torii

エルマノス・グティエレスは、エクアドル人の母を持つスイス・チューリッヒ在住のグティエレス兄弟によるギター・デュオだ。昨年は新譜をリリースし、クルアンビンのUSツアーでオープニング・アクトを務めたことも話題を呼んだ。まもなく初の来日公演を控えている。不仲で知られるギャラガー兄弟が遂にオアシスを復活させるというニュースがファンを驚かせた。一方、こちらのグティエレス兄弟はとても仲が良さそうだ。

2017年に自主制作盤でデビュー。2022年、ザ・ブラック・キーズのダン・オーバックがプロデュースを務め、彼が主宰の《Easy Eye Sound》からリリースされた『El Bueno Y El Malo』で注目を集める。エレキ・ギターとラップ・スティールの枯れたトーンによって描かれるコズミックでシネマティック、そしてアンビエントなサウンドで世界を魅了した。2024年には《Easy Eye Sound》からの2作目となる『Sonido Cosmico』を再度オーバックと組んで制作。地上と宇宙の境目が曖昧になったランドスケープが、弦の振動と残響によって描かれている。

兄エステヴァンも弟アレハンドロもともに音楽と映画が大好きという人物だ。今回のインタヴューでは『レッド・デッド・リデンプション』や『ラスト・オブ・アス』のようなゲームの名前も飛び出した。曲の作り方、インスピレーションの源、ダン・オーバックとの出会い、影響を受けたギタリスト、音楽遍歴、クルアンビンとのツアーなど、たくさん話してくれた。
(インタヴュー・文/鳥居真道 通訳/竹澤彩子 協力/岡村詩野)


Interview with Estevan and Alejandro Gutiérrez


──お二人は兄弟ですが、どのような経緯でデュオとして音楽活動を始めたのでしょうか?

Estevan Gutiérrez(兄・以下E):自分がギターを始めたのが小学2年ぐらいで、たしか9歳とかかな? 最初はクラシック・ギターから入ってるんだよね……(笑いが止まらなくなる)……ごめん(笑)、日本の人とこうしてインタヴューで話すのが初めてなもんで、おかしなテンションになってて(笑)。今回、日本でライヴができることになって感激してるよ。というわけで、仕切り直して最初から! 小学校2年の9歳のときにクラシック・ギターから始めて、最初はナイロン・ギターから入ってるんだよね。もともとミロンガっていうアルゼンチンの伝統的音楽をやってて、フィンガー・ピッキングが特徴のスタイルなんだよね。15年くらいそれをやりつつ、ポップ・ミュージックかじりつつって感じで。兄弟二人とも生まれも育ちもスイスなんだけど、母親がエクアドル出身でね。僕も25歳のときにエクアドルに行って向こうで生活してた時期もあるんだよ。その間、弟がYouTube動画を観ながら独学でギターを習得して。帰国後に「うわ、会いたかったー‼」って再会を祝ってるときに、弟が「実は兄貴が向こうに行ってる間ギターを習得したんだよ‼」ってなって、「何だって⁉」っていう(笑)。「今まで一度もレッスンを受けたことないのに一体どうやって⁉」っていう。そこから一緒にギターを弾き始めたらすごくいい感じでね。二人して一緒に演奏できる喜びもさることながら、長いことお互い離れてたこともあり、ギターを通して再びお互い繋がり合える喜びもあって胸にグッとくるものがあったんだよ ね。今も二人で一緒にステージに立ってアンプのスイッチを入れる度に同じ感動と興奮が蘇っ てくる。

──弟さん的にはどういう心境の変化があってギターを手に取ったのでしょうか?

Alejandro Gutiérrez(弟・以下A):昔から兄の背中を見て育ってるんだけど、家でも兄が家でギターを弾いてる姿を見るのが好きでね。その後、兄が一年間エクアドルに滞在することになり、兄に会えなくて寂しい気持ちから自分もギターを始めてみようってことで、ギターを手に入れてYouTubeを観ながら独学練習を始めたんだ。その後、兄がエクアドルから帰国してから二人で一緒に演奏するようになったんだけど、とはいえ、実際に活動を始めたのは8年前だね。当時、自分はスイス国内でも地元以外の別の都市に住んでてね。そこから二人で再会したのをきっかけに、また二人で一緒につるむようになったんだ。そうやって二人で一緒にギターを弾きながらアイディアを形にしていく中で、当時のルームメイトが自分の部屋に入ってきたとき「これ誰の曲?」って訊かれて、「兄弟二人で作った曲だよ」っていうことがあってね。そこから二人で本格的にバンドとして始めてみようかって思いついたのが8年前になるよ。

──活動を始めるにあたって、デュオ以外の選択肢はありませんでしたか? 例えばメンバーを集めてバンドにするなど。

E:というか、本格的にバンドとして活動しようという発想自体がそもそもなかったので。もちろん、将来バンドをやって世界中をツアーするんだっていう目標を掲げてその夢を叶える人生とかカッコいいなあって憧れる気持ちはあったものの、あくまでも想像の世界の話でね。ただ、スイスのような小さい国で育った人間にとって、ミュージシャンって職業というよりもあくまでも趣味の延長上みたいなイメージしかなくて。当時から音楽に並々ならぬ情熱を抱いていたものの、どちらかと言うとレコード・コレクター的な面の方が強くて。最初に作品作りを始めたのも、自分達もレコードを作って記念にコレクションに加えようっていうのがきっかけだったし。それで思い切ってスタジオを借りて、レコーディングに挑戦して、せっかくだからってことで200枚刷ったんだけど、それが完売してしてね。当時は小さなクラブで演奏してたんだけど、それがすっかりはけるという嬉しい結果となり……そこから勢いを得て第2弾、第3弾を制作していったんだ。そこから徐々に色んなステージに呼ばれるようになり、それがどんどん繋がっていった先にザ・ブラック・キーズのダン・オーバックから声をかけてもらって契約に至ったんだ。そこから人生が思いも寄らない方向に動き出していったという。

──子供の頃からの音楽遍歴をお聞かせいただけますか? 最初二人で一緒に音楽を作ろうってなったときどういう方向性を目指していましたか?

A:僕は昔からアルゼンチン人作曲家のグスターボ・サンタオラヤの大ファンでね! メキシコ人監督、アレハンドロ・(ゴンサレス・)イニャリトゥの映画音楽を多く手がけてることでも知られてる作曲家だけど。映画自体もそうだけど、そのグスターボ・サンタオラヤのサウンドトラックに昔からものすごくインスピレーションを受けていてね。それと母親がエクアドル出身なんだけど、向こうではサルサが絶大的に人気でね。子供の頃からサルサが身近に流れてる家庭の中で育ってるんだよ。とくに好きだったのがフリオ・ジャラミロというエクアドルの国民的歌手がいて、50年代、60年代にボレロ音楽を作っていたアーティストなんだけど、もともと祖父があの時代の音楽のファンでね。中でも「Nuestro Juramento」って曲が祖父のお気に入りで、これはまたものすごく美しい曲なんだけど、うちの母親のお気に入りの曲の一つでもあるんだ。だから、そういうラテン文化圏の中で育ったことが自分達の音楽に決定的に作用してると思うよ。ものすごい深いレベルで影響を受けてると思うよ。

──過去のインタヴューやプレイリストではサント&ジョニー、今名前が出たフリオ・ジャラミロ、J・J・ケイル、ライ・クーダー、マーク・リーボウといった名前やサルサ、クンビアのようなラテン音楽を目にしました。やはりその辺からの影響を受けていたりするのでしょうか?

A:もう、まさに。今言ったすべてのアーティスト全員影響を受けてるし。あるいは、ブルックリン出身のサント&ジョニー兄弟の存在なんて、同じ兄弟デュオとしてものすごくインスピレーションを受けてるよ。それ以外にもたくさん、過去に遡って偉大な音楽を挙げていったらキリがない。それがすべて自分達のインスピレーションとして還元されている。いつか将来、時代を超えて自分達が今やってる音楽が誰かのインスピレーションの糧になってくれることを願ってる。

──今作、前作とプロデューサーを務めたダン・オーバックとはどのように出会ったのですか? 前作では「エルマノス三兄弟」("Tres Hermanos")として、オーバックをフィーチャーしていましたね。

E:そう、最初はマネジメント経由で。うちのマネジメントがダンのマネジメントに動画を送ったらしく。そしたら、その動画の最初の15秒を観た時点でダンがパタンとPCを閉じて「今すぐこの兄弟の連絡してくれ!」という展開になったらしく(笑)。それでZoomの画面ごしに15分間くらい会話したんだけど最初から意気投合してね。早速「一緒に何かやろう」って提案してもらって、スイスからナッシュヴィルまで飛んでダンと一緒に作品を作ったのが3年前で……それが『El Bueno Y El Malo』という作品になって、ダンのレーベルの《Easy Eye Sound》からリリースされてるんだ。 今ではすっかり大切な友人で、出会いに感謝してる、本当に心から尊敬できる人でね。で、当時、自分達の中にあった曲のアイディアをダンに相談したら「一緒に作ろう!」ってことになり、向こうもこっちも超ノリノリで、それを「エルマノス三兄弟」と命名したわけさ。 今でもスケジュールが合うときには、僕らのライヴ会場に駆けつけてくれて一緒に演奏してくれてる。本当に有難いことだよ。

──最新作は、音作りも相まって、自然と交信するかのような超越的な響き・スピリチュアルな響きがあるように感じます。それが『宇宙の音』というタイトルにも現れているように思いますが、いかがでしょうか?

E:まさに。《Easy Eye Sound》からのリリース第一弾の『El Bueno Y El Malo』の舞台背景として砂漠の風景が重なり合っててね。それこそエンニオ・モリコーネ作品的なスパゲッティ・ウェスタンの世界観が見事にはまってた。そこから次回作のアイディアについてダンと話してるときに、前回のウエスタン的な世界観を引き継いでいくという方向性はどうもそそられず。それでも一昨年の夏に弟と一緒に新作の曲作りに着手して、そこから新たな感覚を探っていったところ、突然、魂が砂漠から離れて宇宙へと拡大していくような瞬間が訪れたんだ……ただひたすら圧倒的にして超絶な体験であり、新たな音であり、宇宙の音が目の前でまさに生まれていってるような感覚で、そのものずばり『宇宙の音』と銘打ってるわけさ。

──エレキ・ギターやラップスティール・ギターの音色のどういうところに魅力を感じますか?

A:とはいえ、最初はギター二人体制だったんだよ。自分も兄の二人もギター担当で、当時はスティール・ギターなしだったんだ。最初の2、3枚に関しては完全にギター2本だけの体制で、それ以外のサウンドはほぼ皆無みたいな感じで作ってて……その後、カリフォルニアに滞在中にヴィンテージ・ギター・ショップで壁に掛かっているラップスティール・ギターが目に入ってね。「これは絶対に買いだよ!」で兄に猛プッシュされて、ラップスティール・ギターを手にするようになったんだけど、ラップスティールを取り入れた途端、一気に別次元が開かれたみたいな……そこから砂漠的というか、広大な大地であり空間の広がりを思わせるサウンドが目の前に一気に開けていくような感覚があって。しかも、自分達から探し求めたんじゃなくて、向こうから僕達の元に降りてきてくれた音であり……自然に訪れた音というか、何よりも美しい音色だなあと思って。それで自分達にとってこんなに美しい音なんだから、自分達と同じように僕達の音楽を好きって言ってくれる人達にとってもきっと美しいに決まってると思ってね。ただ自分達の目の前で形になっていく音であり、それを素直に美しいと感じる感性に絶対的な信頼を置いてるわけさ。

──ラップスティール・ギター以外のエレキ・ギターなどギター全般の魅力については?

E:自分は8、9歳のときにギターを始めてるんだけど、その頃から自分の感情を表現しやすい楽器だなってことを実感していて、そこからますます本格的に夢中になっていったんだ。しかもすごく恵まれてたと思うのは、当時のギターの先生が何よりも感性を大事にしている人でね。いかに上手く弾けるかとかテクニックは重要じゃない、ハートで演奏するものなんだって教え込まれたんだ。今でもその教えを守って、自分の心に従って音の強弱をつけたり、常に自分の心の動きと連動している。毎回決まりきったパターンの演奏をするんじゃなくてね。常に感 覚ありきのものなんだ。自分がギターを愛してやまない理由の一つもまさにそこで、たった一本のギターの奏でる音に多くの感情を込めることができる。しかも、そのギターの音を介してその感覚ごと人々と共有して繋がり合うことができる、そこが本当に素晴らしいと思う。自分が感じていることを同じように感じてくれてる、ギターを介して人と共鳴し合うことができる、そこが一番の魅力だよ。

──独自の演奏スタイルを固めるうえで、参考にしたギタリストはいますか?

A:いやもう、さんざん色々なギタリストから影響を受けまくってるよ。それこそ、マーク・リーボウみたいな超絶なギタリストから、さっきも名前を挙げたグスターボ・サンタオラヤや、あるいは一緒にツアーさせてもらったクルアンビンのマーク・スピアーにしろ。あるいは子供の頃好きだったのはトミー・ブレネックで、チャールズ・ブラッドリーやリー・フィールズなんかのソウル・ミュージックの名作を数多く手がけた名プロデューサーでもあって、ものすごく影響を受けてるよ。他にもたくさん……それこそギタリストというよりもシンガー・ソングライターというほうがふさわしいんだろうけど、ジャック・ジョンソンの曲なんて二人とも昔からずっと好きで聴いてたし、本当に偉大なギタリストがたくさんいるし、影響を受けてるよ。

E:あと個人的に、自分のギター・スタイルとはまるで違うけど、ガンズ・アンド・ローゼズのギタリストのスラッシュが大好きで!子供の時に彼がギターを弾いてる姿を見てめちゃくちゃカッコいいと思ってね。あのハット帽にしろヘアスタイルにしろ、ステージで煙草を吸ってる姿がマジでクールだと思って。生まれて初めて「カッコいい‼」と思った大人かもしれない。とはいえ、自分はスラッシュを目指したことはないんだけどね(笑)。あまりにも自分とギター・スタイルとかけ離れすぎているんで。とはいえ、大好きなことには変わりない。それこそギタリストとしても、ロックスターとしても、めちゃくちゃカッコいいと思ったよ、というか、いまだに現役でカッコいい。

──曲はお二人でジャムしながら作っているのでしょうか?

A:いや、最初はあくまでも個人個人の感情や感覚から入ってて、なんとかその瞬間を捉えようとしているんだけど。自分が曲を書いてるときのこと思い出そうとすると、真っ先に思い浮かぶのは部屋で自分が一人でギターを手にして座ってる図で。その瞬間、自分の内側では確実に何かしらの変化が起きていて、ギターの音色を聴いて「あ、なんかちょっといい感じかも」とか「新鮮だな」って、そこを手がかりに次の音を探しに行く……そこから「これは導入の部分だよね」、「こっちはサビだよね」っていうのが見えてきて、ひとまず完成の方向に向かうんだけど、ただ、その時点では最終的に完成する曲の形とはまるで違う。というのも、ある地点 で「この音を共有したい」と思う気持ちが必ず芽生えてくる、それを兄と共有してるわけさ。いつも曲を書きながら決定的に何かしら欠けてるって感じてるんだけど、その欠けている部分っていうのは、いつだって兄のパートなんだ。そこから二人で共有し合うんだけど、お互いに相手の音を聴いて「うわあ」ってなるわけさ、そこから「この音からこういうものを受け取る」っていうふうに、お互いのアイディアをやりとりしながら一つの作品として形にしていくわけさ。それこそ同じ一つの空間で、二人してその曲の持つ魂の本質を掘り当てようとしてる。しかも毎回パターンが違ってる。自分からアイディアが出てくることもあれば、兄から出てくることもある……言葉で説明するのは難しいんだけど、何しろそういう仕組みになってるんだよ。要するに、自分達の毎日の暮らしであり実感であり、日々の人生を暮らしていく中で経験していることがそのまま音に現れてるということなんじゃないかと。

E:まさに今言った通りだと思う。最初は個々に作り始めてるとしても、二人で音を重ねたときに、そこに魂であり命が宿っていくように感じる……たいていの場合、まだアイディアの種の段階から相当いい感じなんだけど、それでも二人の音でありエネルギーが重なり合ってからが本粋というか、そこから本格的に動き出す……それこそ新たな次元が開かれていくような、自分達も思わず目を見張ってしまうような……少なくとも自分の中での実感はそうなんだよね。といったところで、ごめん、娘を学校に送り出さなくちゃいけないんで、ここでいったんミュートするね。終わったらすぐ戻るね。

──お二人の音楽を聴いていると風景の映像が喚起されます。曲作りする際、何かしらの情景や状況、あるいは感情などをイメージしながら作っていますか?

A:うわ、なんて素敵な質問だろう……ありがとう! もちろん、実際の旅や風景からインスピレーションを受けることもあるし。初めてカリフォルニアの砂漠を訪れたときの風景や、あるいはニューメキシコの光景だったり……自宅に戻った後にもそれが強烈に焼きついて離れなくて……あの見渡す限り広大な景色の中に自分が立つという感覚というか、神々しさに包まれるような感覚とでもいうか、あんなの一生忘れられるはずもない。自分の存在すらかき消されてしまうような、目の前に広がるすべてが自分と一体化して世界に包み込まれているような……旅から戻ってくるなり早速、というか、自分達でも実際にどうやって音に落とし込んでいったのか、今となっては謎なんだけど、あの原風景でありそこに自分達が立っているときの感覚を音に還元していったんだ。ただ、今のはあくまでも例外中の例外であって。普段は大地だの山だの思い浮かべて、「あの時の風景について曲にしよう」って思いながら曲を書くことは滅多にない……というか、そういうんじゃないんだよなあ……。意識を働かせているというよりも、むしろ潜在意識の領域に近い。 それで言うなら、自分から出てきた音を聴いて、その何ヶ月前に自分が目にした光景が自分の中に蘇るみたいなパターンのほうが多くて……それもまたすごく特別な瞬間というか。曲にすることにとって、自分達の旅の経験であり、あるいは兄弟二人で一緒に体験したことをプロセスする作業にも繋がってるというか。音楽があの時あの場所に自分達を連れ戻してくれる……それこそ一瞬にして。気がついたときには自分がすでにその景色の中に立ってた、みたいな感覚というか……ただひたすら「うわあ!」みたいな、ものすごい強烈な感覚に襲われる……言葉にするのは難しいし、そもそも言葉にできるものじゃないかもしれないけど……とりあえず、意識を超越してる状態というか……ただ感じるものであり、それをそのまま表現するだけであり……「ああ、まさかあのときのあの記憶がこんな形で蘇ってくるなんて」って、後になって実感するものなんだよ。

──単に過去や景色を再訪してるんじゃなくて、その原風景が記憶や感情と強烈に結びついているような?

A:もうまさにその通り。

E:今、途中から聞いてたけど、まさに見事にまとめてる。

──先ほどからエンニオ・モリコーネやグスターボ・サンタオラヤの名前が挙がっていますが、モリコーネ以外にも映画音楽はよく聴きますか?

A:そうだね。二人とも大の映画好きなんで。いつか将来映画のサントラを手掛けることができたら最高だよねって二人で話してるよ。ちょうど『タンポポ』っていう日本映画を観たばかりなんだよ。知ってるかな?

──伊丹十三監督の『タンポポ』ですね!

A:そう、ジャンルとしてはラーメン・ウエスタン映画と言うべきなのか(笑)、何しろ素晴らしい作品で! あの映画を観て日本に行くのがますます楽しみになって。黒澤明の『夢』も本当に美しかったし。映画にはものすごくインスピレーションを受けてるし、いつか自分達も映画のサウンドトラックを手掛けてみたい。

──お気に入りの映画音楽は?

A:となると、『続・夕陽のガンマン』かなあ……あと最近になってからレオナルド・ディカプリオ主演の『レヴェナント: 蘇えりし者』のサントラがすごく良くて調べたら日本の作曲家で、えーっと。

──坂本龍一ですね。

A:そうそう、サカモト。あの映画のサントラも力強くて印象的で本当に素晴らしくて。今言った以外にも日本のカルチャーに並々ならぬリスペクトを抱いてるんで、初めての日本を本当に楽しみにしてるよ。

──お兄さんの好きな映画は?

E:個人的にはクエンティン・タランティーノ作品が好きなんだけど、『Sonido Cósmico』に関しては2021年前に公開された『DUNE/デューン 砂の惑星』からものすごくインスピレーションを受けてると思う。砂漠が舞台なんだけど、まるで空に浮かんでいるような、UFOに乗って時空を旅しているような、異次元の宇宙空間にいるような感覚があって。サントラもまたすごく良くてね。作曲家の名前は忘れちゃったけど。(※編注:ハンス・ジマー)

──いつか映画のサントラがやってみたいとのことでしたが、ドラマ、あるいはゲームのスコアなどにも興味ありますか?

E:昔は二人ともプレイステーションに夢中で、『レッド・デッド・リデンプション』っていうゲームがあってね。2019年にリリースした『Hoy como ayer』なんかはあのゲームの世界観にすごく影響を受けてるよ。砂漠を馬で駆け抜ける感覚が何しろ爽快でね! あのゲームは傑作だよ。


A:ゲーム音楽に関してなら『ザ・ラスト・オブ・アス』という、これまたグスターボ・サンタオラヤが手掛けてていてね。ドラマでも映画でもゲームでも、そのストーリーの世界観と自分達の音楽が重なり合う画面を観たら、きっとものすごい感動に包まれるんだろうなあ。

──クルアンビンとのツアーはいかがでしたか? サン・ルイス・オビスポ、ラス・ヴェガス、アルバカーキの三箇所ですよね。

A:最高のツアーだったよ。何しろものすごく影響を受けているバンドなんでね。実は6年だか7年前にドイツのベルリンで彼らのライヴを観てるんだよ。当時はまだ今ほどはとんでもなくビッグではなかったけど。その後、何年か後に自分達のまさにその同じヴェニューに立ってるんだよ!今から3、4年前の話になるのかな……あの頃、観客側からステージを観ていたときの自分と。こうしてそのステージに立っている自分達を重ね合わせてすごく感慨深い気持ちに包まれたというか。ただまあ、クルアンビンに関して言うなら、音楽的に素晴らしいのはもちろんのこと、唯一無二のスタイルを確立してるわけだから。だからこそ、あれだけ多くのファン達に愛されてる。しかもすごく嬉しいことに、彼らの音楽を好きな人達がなぜか僕達の音楽にも同じように反応してくれている。しかもクルアンビンの音楽が好きなのとはまったく違う理由から。たしかにインストゥルメンタルという点では同じかもしれないけど、まるで全然違う。何しろ絶大なインスピレーションを受けてることは確かだよ。今までやったツアーの中でも一番思い出に残ってるツアーのうちの一つだし、楽しかった!

──最近のお気に入りの音楽を教えてください。

E:正直、新しい音楽には昔から疎いほうで、むしろ昔のレコードをコレクションするのが趣味であり、しかも大のサルサ好きなので。それで言うなら最近の掘り出し物レコードはフランク &スス・インキエトスの作品だよ。1969年に出たレコードなんだけど、もうびっくりするくらい良くてね! 今では入手困難らしくて、早速、新たなお気に入りとして自分のコレクションに追加された一枚になったよ。ちょうど先々週ぐらいに買ったレコードだけど、最近買った一枚の中からお気に入りを挙げるならそれになるよ。

──最近のお気に入りの音楽が1970年代、となると、やはり最近音楽にはぶっちゃけ興味ない感じですかね。

E:いや、正確には1970年代じゃなくて、1969年だから(笑)! いやいや、最近の音楽も聴いてるよ。それこそクルアンビンだのレオン・ブリッジズだのは大好きで、それこそ両者による「Mariela」なんてまさに思いっきりツボだったし、ヒップホップなんかも好きだしね。個人的に90年代のラッパーものが好きで、2パックやらアウトキャストやらスヌープ・ドッグにしろ、LAもNYも関係なしに好き。それこそウータン・クランも大好きだし。

──それは意外な。アレハンドロさんのほうは?

A:自分も同じくどちらかと言うと昔の音楽のほうが好みではあるんだけど、最近のアーティストでいったら、それこそブラック・プーマズとして活躍してるエイドリアン・ケサダなんかすごくいいと思う。すごく仲良くさせてもらってるんだけど、昨年、日本でツアーしたんだってね。本当に素晴らしいミュージシャンだし、それ以前に友達としても人間的にも大好きな人でね。まさに現代のソウル・ミュージックというにふさわしいアーティストだと思う。あと最近の個人的なお気に入りはグティ・カルデナスっていうアーティストの「Canción Mixteca」って曲でね。メキシコのオアハカ地方の抒情曲で、オリジナルじゃなくておそらくカバーだと思うけど、故郷を懐かしく想いながら帰りたいと強く願うという、もうハッとするほど美しい曲でね。あの曲を聴く度に自分もメキシコのカルチャーや人々を思い出してすごく懐かしい気持ちに包まれる。

──ところで、あなたがたが住むスイスのチューリッヒにはエクアドル出身の方も多く住んでらっしゃるんですか?

E:ラテン系人種のコミュニティはあるものの、自分達はそこに属してるわけではないというか。

──自分達の家族以外にまわりにエクアドル人がいたりはしないんですか?

A:いや、それも全然なくて。というか、さすがに一人か二人くらいは知ってるけど、本当にその程度かな。

──それと、エージェントから日本のデニムに興味があるって話を聞いたのですが。

A&E:(にっこり)そうなんだよ‼

E:二人とも日本のデニムの大ファンで愛用してるんだよ。

A:間違いなく最高峰のクオリティだからね!

E:二人とも日本のデニムしか履いてない(笑)。日本製のデニム・ブランドに《AT LAST & CO》とか大ファンで……たしかブランド・ショップもあったはず。あとは《FREEWHEELERS》っていうブランドも素晴らしい。細部の一つ一つにまで丁寧に作られていて、あの職人精神と徹底的なこだわりぶりにひたすら感服してる。ただただ素晴らしい。

A:あと日本にデニムの産地として有名な街があるんだよね? 名前は忘れちゃったけど、そのデニムの街の話もあちこちで耳にしてる。

──岡山県ですね。大阪から1時間くらいなのでオフの日に行けますよ。

A:わあー、そうなんだ。日本でのライヴがますます楽しみでしかない。


<了>

Text By Masamichi Torii


Hermanos Gutiérrez JAPAN TOUR 2025


◾️2025年2月20日(木) 東京・渋谷 WWW X
開場18:00 開演19:00

◾️2025年2月21日(金) 大阪・LIVEHOUSE ANIMA
開場18:00 開演19:00

問い合わせ : SMASH
https://smash-jpn.com/live/?id=4315


Latest Album

Hermanos Gutiérrez

『Sonido Cósmico』

LABEL : Easy Eye Sound
RELEASE DATE : 2024.6.14
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