2024年1月から、6年振りの来日ツアー決定!
「より良き未来を願うのは人間の潜在的な本質なんだ」
ゴーゴー・ペンギンが新たなメンバーと切り開く新章
『Everything Is Going To Be OK』、
そして彼らを育んだマンチェスターの知られざる側面
今年4月にニュー・アルバム『Everything Is Going To Be OK』をリリースした、ゴーゴー・ペンギン。
前作『GoGo Penguin』は、3作品をリリースしてきた《Blue Note Records》からの最後のリリースで、セルフタイトル・アルバムということもあり、そのエッセンシャルな内容も含めてバンドの一時代を区切る作品となった。
そんな作品から3年のブランクを置いた最新作は、オリジナルメンバーでもあるドラムスのロブ・ターナーが脱退し、新たにジョン・スコットを迎えて製作され、ベルリンを拠点とする《XXIM Records》からの初めてのリリースである。
最新作を携えて、来年1〜2月に来日ツアーを行うゴーゴー・ペンギンだが、それに先立って先日開催されたフジロック出演のためにも来日しており、そんな出演前日の彼らにインタヴュー。
最新作のことや、《リアル・ワールド・スタジオ》でのレコーディング時のエピソード、地元マンチェスターの知られざるジャズ/クラシック・シーンについて、最終的にはマンチェスターの音楽シーンへの愛着を聞かせてくれた。
(インタヴュー・文/hiwatt 通訳/丸山京子 写真・動画/平間杏菜 協力/高久大輝)
今回は動画プログラム《TURN TV》でのQ&A方式の質問企画、「THE QUESTIONS✌️」にも答えていただいているので合わせてぜひ! 動画は記事の最後、あるいはこちらから!(編集部)
Interview with GoGo Penguin
──デビュー・アルバムから約10年というタイミングで、前作がセルフタイトル・アルバムということもあり、聴き手としても集大成のような感覚がありました。今作について、新たなフェーズの始まりという意識はありましたか?
クリス・アイリングワース(Key.)(以下、C):考えたこともなかったけど、今言われて気づいたよ!(笑)けど、バンドとして10年間で6作品を作ってきて、ライヴをする時にそれだけの持ち曲の中から演奏できるのはいいことだよね。今回のアルバムに関しては、特に区切りなんかは考えることはなくて、後ろを振り返るのではなくとにかく前を向いて、今の自分たちと向き合うことだけを考えたんだ。
ニック・ブラッカ(Ba.)(以下、N):僕が加入した時(2014年のセカンド・アルバム『v2.0』から加入)には、1時間に満たないほどの持ち曲しかなくて、セットを埋めるのに苦労したよ(笑)。
──「Everything is Going to Be OK」という言葉は、パンデミックの中で人々の間で頻繁に掛け合った言葉で、常に必要で、現在の不安定な社会情勢においても必要不可欠な言葉だと思います。この言葉をタイトルにした理由を教えてください。
N:元々はその名前の曲を作ったからアルバムのタイトルにも使ったんだけど、さらに元を辿れば僕のベースアンプに「Everything Is Going To Be OK」と書かれたステッカーを貼ってあって、時間が経つうちにその言葉が作品のタイトルにいいんじゃないかって思えてきたんだ。結局のところ、人間って誰も先のことは分からないわけだから、語りつくされた陳腐な言葉かもしれないし、ある種皮肉にも捉えられるかもしれないけど、やっぱり希望を持つのは悪いことじゃない。ジョン・スタインベックも言ってたけど、より良き未来を願うのは人間の潜在的な本質なんだよね。
C:この言葉は確かに今の時代を反映していると思う。でも、普遍的なことだとも思うんだ。そういった困難は常に起こりうるし、人々は浮き沈みを経験する。願わくば大丈夫だと言って安心させてくれるような人がそばにいて欲しいものだよね。
──あなた達の作品には、作品毎にサウンド面でテーマが設けられている印象があります。今作には、構造としてのエレクトロニカや、ニューエイジ、ダブからの影響も伺えますが、何かテーマとするようなものがあったのでしょうか?
C:今作に関しては、とにかくスタジオに集まって、ただ何かやってみようと思ったのが始まりだった。曲になるかも、それがバンドのサウンドになるかどうかも分からなかったけど、ただ何かやってみようという気持ちだけだった。色んな作曲方法を試してみたいし、シンセなんかも今までと違う物を試してみて、それが他のことに繋がって、結果的に新しいサウンドになったんだ。他にも、これまでニックがダブルベースではなく、エレキベースを弾くことも何度かあったけど、あまりしっくりこなくってね。けど、今作ではニックがエレキベースで作曲することがあって、今作の新鮮さや自由さはそこから始まっていたんじゃないかな。そして、それはジョンも同じだったと思う。
N:今作にテーマがあるとすれば、ルールレスで、ただ自分たちがやるべきだと思うこと、いいと思うことをやろうということ。ちょっと奇妙なテーマだけど、僕たちはとても自由で、プレッシャーやルールから解放されたんだ。
ジョン・スコット(Dr.)(以下、J):このバンド特有のルールがあるのかと思っていたけど、なんにもなかったよ(笑)。
C:とても自然にできた。それができた大きな理由は、今作が新しいチャプターのように感じられたから。ジョンがバンドの新しいメンバーでありながら、ずっとバンドにいたかのように感じられ、全てが新鮮で完璧な機会だと感じた。無理矢理ではなく、ただただ全てをやるには完璧なタイミングだと感じたんだ。
──そんな今作に影響を与えたアーティストや作品があれば教えてください。
C:本当に色んな要素がある。でも、これまでも影響はあったけど、ヒップホップ的な要素は今回強くフィーチャーされている。
N:再発見のようなものだと思う。少し閉ざされていた自分自身の一部を再発見したような感覚。だからあらゆることに立ち戻った。僕の場合は、アコースティックなシンガー・ソングライターのレコードや、インディーズのレコードを聴いて自分自身を再発見しているんだ。過去に何らかの理由で今まで聴いてこなかったものを。
C:つまり、僕らはいつも非常に折衷的で、聴く音楽に対してオープンマインドであることを心がけている。もちろん、嫌いな音楽もたくさんあれば、好きな音楽もたくさんあるし、それはみんなも同じだと思う。ただ、偏った音楽受容は僕らに合わないんだ。ロックが好きだとか、エレクトロニカが好きだとか、そういうカテゴリーには簡単に当てはめられない。色んなものが好きだし、それは本当に素晴らしいことなんだ。3人が平等で、3人が発言でき、3人が自分のアイデアや個性を持ち寄ることができる。ある時には、誰かがモンゴルのホーミーを聴いて、それをお互いに伝え合う。他にもインディーやポップス、クラシックを聴いて色んな音楽を伝え合うことで、多くのアイデアを互いに共有できる。そして語り合い、そこからインスピレーションを得ることができるから、クリエイティビティを発揮するのに有効なんだ。
──影響を受けたヒップホップ・アーティスト、あるいは作品について具体的に教えていただけますか?
C:明日、フジロックに行けばデンゼル・カリーに会えるんじゃないかとすごくワクワクしているんだ。あと、ケンドリック・ラマー。彼は最近も素晴らしい仕事をしている。今作でも影響を受けたよ。他に影響を受けたものだと古い作品が多いよね。DJシャドウやDJ KRUSHとかね。DJ KRUSHの『Code 4109』(2000年)は、今でもフェイバリットの一つだよ。実際にレコードも買ったことがある。
N:MFドゥームの作品はどれも本当に素晴らしい。あと、モス・デフ。
J:ラン・ザ・ジュエルズも。
C:ア・トライブ・コールド・クエストとかもね。
──今作からドラマーとしてジョン・スコットが加入したわけですが、彼が新しくバンドにもたらしたこと。またジョンから見たバンドの印象を教えてください。
C:不思議なもので、自然に、簡単にジョインできたんだ。彼がずっと前からバンドの一員であるような気がする。ここ数年を振り返ると、バンドに多くのことが起こり、浮き沈みがあったけど、またこうして活動できているのは本当に素晴らしいよ。
N:このバンドに参加することは本当にチャレンジだったと思う。簡単なことじゃないけど、彼は応えてくれた。個人的に、ベーシストとしてリズム・セクションという意味でドラマーがいることは、本当にありがたいんだ。実はこれまで、ただベースを弾いているという感覚になることもあった。けど、今はリズム・セクションを構成できている実感がある。
J:入って最初に何曲かセッションしたときから既に自然な感じだった。そこから一緒に飲みに行って音楽の話をした。やっぱり音楽の話が一番盛り上がったね(笑)。確かに、彼らは僕に多くを要求してきた。けど、特定のタイプのドラマーになれというプレッシャーはなかった。前任のドラマーのようなプレイを求められることもなかった。だから、本当に自由に、自分らしくできたような気がするんだ。僕らしいドラムのスタイルでゴーゴー・ペンギンに貢献していければと思うよ。
最新ライヴ映像 GoGo Penguin「Erased by Sunlight」(2023/9/7公開)──今作は、ピーター・ガブリエルの創設したことで知られる《リアル・ワールド・スタジオ》で録音されたとのことですが、イングランド南西部の田舎町にあるこのスタジオの魅力やエピソードを聞かせてください。
J:あのスタジオにいるとピーター・ガブリエルになりたくなるよね!(笑)
N:そうだね! 彼は本当にいい友達だよ!(笑)
C:今までに体験したことのないスタジオだった。コントロール・ルームなんか特に凄かった。建物はコンクリートで作られていて、中から大きな池が見渡せるし、周りは全て自然なんだ。そこには泊まれる場所もあって、そこからスタジオに歩いていくと滝の上に小さな橋がかかっていて、カワセミが舞い降りてくる。しかも、毎食フレンチのシェフが料理を作ってくれる。本当に今までにない経験ができるような素晴らしい環境が用意されているんだ。だから何も心配せず、レコードを作りながら楽しい時間を過ごせたよ。
N:僕たちは長い間一緒に仕事をしてきた。僕たちだけでなく、スタジオでもライヴでもエンジニアをしてくれているJoseph Reiserと、『v2.0』以降の全てのレコードで一緒に仕事をしているBrendan Williamsもいる。僕らは家族みたいなもので、彼らといる場所こそ最高の場所なんだ。レコーディングって本当に、本当に、本当にハードなんだけど、リラックスして一緒にいられる空間があるし、自然もある。ちょっと一人になりたいときでも、そこには全てがある。完璧だよ。
J:夕食の後、一緒にレコードを聴いたり、ぶらぶらしたりしたね。あそこに住みたいよ(笑)。
──あなた方の新作はもちろんですが、Manchester Collectiveの今年の作品にも非常に感銘を受けました。UKのジャズやクラシックと言えばロンドンが賑わっている印象ですが、まだあまり知られていないマンチェスターのジャズやクラシック界隈について教えてください。コミュニティやシーンと言えるものがあるのでしょうか?
C:さっき話した、僕らと一緒にレコードを作っているBrendanが《Low Four》というプロジェクトに関わっている。《オールド・グラナダ・スタジオ》という、テレビ・スタジオやレコーディング・スタジオを備えた《BBCテレビジョンセンター》よりも古いビルがあるんだ。そこのスタジオの1つを中心に、マンチェスターのアーティストはもちろん、他所からやって来たアーティストがライヴ・セッションやミニライヴを開催したり、YouTubeでそれを配信したりして、ちょっとしたシーンを作り始めていたんだ。
C:でも残念なことに、そのビルは再開発の煽りを受けたり、水漏れで水浸しになったりで、場所を移すしかなかった。その後、彼は新しい場所で仲間と4人で住み始めて、以前と同じように活動を再開し、今はとてもうまくいっている。ゼロから《Low Four Studio》を作り上げたんだ。そこには僕らの映像面を多く手がけている、Dan Parrottもいるし、地元のブリュワリーのお酒を出すバーも併設している素敵な場所だよ。
N:もしシーンが存在しないのなら、自分で作り出せばいいと思う。自分のシーンを作り、自分の夜を作る。僕もゴーゴー・ペンギンに入る前はミュージックナイトを企画してたりしたよ。
J:若いバンドにとっては、バンドとしてどうあるべきかを考えるだけでなく、曲を作り、オーディエンスからすぐにフィードバックを得られる場があることは重要だよね。
C:マンチェスターのDIYなアーティストたちは、ジャンルの境界線が曖昧で、みんなとてもオープンなんだ。君の言ってたManchester Collectiveも、基本的にコンテンポラリーなものを演奏しているけど、クラシックも演奏している。新しい作曲家とも仕事をしているし、一つの簡単な枠に収まらないようなことをやっている人たちだ。僕が子供の頃、あるミュージシャンのライヴを見にマンチェスターに行ったことがあったんだけど、今思えばそれが全ての始まりだった。それから18歳でマンチェスターに越して来たんだけど、ヘヴィ・メタルからエレクトロ、ヒップホップ、クラシックまで触れる機会を与えてくれるし、この街はそれを後押ししてくれる。この街でミュージシャンとして成長したいと思った。他が悪いってわけじゃ無いけど、少なくとも僕らはマンチェスターのことをどこよりもよく知っている。マンチェスターはこの仕事をするのに最適だよ。
<了>
【THE QUESTIONS✌️】Vol.9 GoGo PenguinText By hiwatt
【来日ツアー情報】
「GoGo Penguin Japan Tour2024」
1月31日(水)東京 Spotify O-EAST
2月1日(木)愛知 名古屋CLUB QUATTRO
2月2日(金)大阪 梅田CLUB QUATTRO
詳細は以下から
https://smash-jpn.com/live/?id=3983
【アルバム情報】
『エヴリシング・イズ・ゴーイング・トゥ・ビー・OK』
BSCD2:SICJ30034 定価¥2750
2023年4月12日国内盤先行発売
4月14日全曲配信開始
*ハイレゾ 48kHz/24bit 同時配信中
再生・購入はこちら
https://sonymusicjapan.lnk.to/GoGOPenguin_EverythingIsGoingtoBeOK
【ゴーゴー・ペンギン バイオグラフィ】
イギリスのマンチェスターで結成された新世代ピアノ・トリオ。2012年ゴンドワナ・レコーズから『Fanfares』をリリース、2014年に発表したセカンド・アルバム『v2.0』が権威あるマーキュリー・プライズにノミネートされ世界的な注目を集める。2015年ブルーノートと契約し、アルバム『Man Made Object』(2016),『A Humdrum Star』(2018),『GoGo Penguin』(2020) と2枚のEP、リミックス作品を発表。“アコースティック・エレクトロニカ・トリオ”として、コーチェラ・フェスティバル、アウトサイドランズ、ブルードット、SXSW、ボナルー等のフェスへ出演し、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールやNYバワリー・ボール・ルームといった世界の名だたる会場でソールドアウト公演を行っている。2022年7月1日、XXIMレコーズよりデジタルEP『ビトゥイーン・トゥ・ウェイヴス』(5曲),2023年4月12日には新生ゴーゴー・ペンギンとして初のフル・アルバム『エヴリシング・イズ・ゴーイング・トゥ・ビー・OK』をリリース。メンバーはクリス・イリングワース(p)、ニック・ブラッカ(b)、ジョン・スコット(ds)。 これまで2016年と2018年に合計4回来日している。
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