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今、なぜ
ポップ・ミュージックに対して再び沸き起こるジェームズ・マーフィーの野心と情熱

25 July 2017 | By Tetsuya Sakamoto

 LCDサウンドシステムは、今思うと、一つの偶然によって生まれたバンドだったように思える。ジェームズ・マーフィーがティム・ゴールズワージーと共に始め、2000年代半ばのニュー・エレクトロやポスト・パンク・リヴァイヴァルといった流れの震源地となったレーベル《DFA》のいわば看板バンドであったザ・ラプチャーが《DFA》から離脱しなければ、LCDサウンドシステムはバンドとして活動を本格化させることなどなく、細々と12インチのダンス・トラックや7インチのパンク・ソングを作り続けている地味なバンドだったのかもしれないのだ。

 だが、LCDサウンドシステムはたとえそれがハプニングから起こったものであるにしても、3枚の素晴らしいポップ・アルバムを作り上げた。彼らの楽曲からは確かにイギー・ポップのようなパンクやトーキング・ヘッズのようなニュー・ウェーヴへの愛情が感じられるが、決してその文脈だけに回収されない豊穣な音楽的背景があった。アーサー・ラッセルからは弦楽器やパーカッションの響きを、カンやノイ!からは力強いハンマービートを、ダフト・パンクやペーパークリップ・ピープルからはダンス・ミュージックの快楽性を、ブライアン・イーノからはアブストラクトなアンビエントとポップ・ミュージックを往還するユーモアを受け継ぎ、生演奏とエレクトロニクスによる隙のないバンド・サウンドで、見事なポップ・ソングに昇華させたのだ。そしてその作り込まれたサウンド・プロダクションからは、ファレル・ウイリアムスやアウトキャスト、ジャスティン・ティンバーレイクに対抗してやろうとする野心を感じ取ることもできた。そんな彼らの精神は、アーケード・ファイアやザ・ナショナル、スプーンといったバンドにとっても一つの道標になったように思える。

 そんなLCDサウンドシステムが再結成した。しかも、ライヴ・ツアーを始め、新曲を発表し、9月にはニュー・アルバム『アメリカン・ドリーム』のリリースも予定されているーーこんなこと誰が予想しただろう。ビートルズの『アビー・ロード』のような『ディス・イズ・ハプニング』は完璧な幕引きのように思えたし、それゆえもう再結成など望めないだろうし、望むものでもないと思っていた。だが、現実にジェームズ・マーフィーはLCDサウンドシステムを再びバンドとして機能させようとしている。それは我々にとっては予期せぬアクシデントであるのかもしれない。

 しかしながら、バンドにとってはそうではないのではないだろうか。先日唐突に発表された「コール・ザ・ポリス/アメリカン・ドリーム」の、ノイ!のようなリズムに推進力があるクラウト・ロックとデヴィッド・ボウイのベルリン三部作を想起させる、削ぎ落とされたミニマルなホワイト・ファンク・サウンドは、一聴するだけだと彼らの代表曲である「オール・マイ・フレンズ」などを思い起こすかもしれない。だが、繰り返し聴くと、彼らのサウンドの特徴でもあったエレクトロニクスと生楽器による洗練さと生々しさがギリギリのバランスで共存しているプロダクションがより精緻になり、それによるダイナミズムがさらに増していることに気づかされるだろう。それは彼らが、再びレコードというコミュニケーション装置を媒介にして、ポップ・ミュージックに対する論争を起こそうという野心の表れであるように思える。もしかすると、フランク・オーシャンやケンドリック・ラマーが自らの素直な本音を洗練されたサウンド・プロダクションによって伝える優れた作品を作り上げたことも、少なからず影響を受けているのかもしれない。ともあれ、このシングルで彼らは過去にケリをつけ、明確な意思を持って再結成を宣言したのだ。

 そんな彼らが7年振りにフジロックのステージに戻ってくる。2010年のバンドに一度終止符を打つ前の、あまりにも感動的なパフォーマンスは筆者にとっても忘れなれないライヴ体験だったが、そのことは一旦忘れてしまっていい。今週末我々が目撃するのは、もう一度ポップ・フィールドに殴り込みをかける彼らの若くはないが、新しく、逞しい姿なのだから。(坂本哲哉)

Text By Tetsuya Sakamoto


FUJI ROCK FESTIVAL ’17

07.29(Sat) WHITE STAGE

■LCD Soundsystem Official Site
https://lcdsoundsystem.com/

■Sony Music内 アーティスト情報
http://www.sonymusic.co.jp/artist/lcdsoundsystem/

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