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インタビューで辿る最新作『I Know I’m Funny haha』までの軌跡
多様なギター・サウンドとしてのフェイ・ウェブスター

28 August 2021 | By Koki Kato

国や時代、ジャンルを越境して音楽が生まれることをインターネットが広く普及した2021年の今、不思議に思うことは少なくなった。けれど、そんな今にあって、フェイ・ウェブスターという弱冠23歳のギターを抱えたシンガー・ソングライターが、何かと何かを掛け合わせて作る音楽は、好奇心を刺激してくれるし、体験したことのない響きを運んでくる。カントリー・ミュージックを思わせるペダル・スティール・ギターが聴こえてくる一方で、アリーヤからの影響を語り、地元アトランタのレーベル《Awful Records》の創立者でラッパーでもあるファーザーとのコラボレーション曲を収録した前作『Atlanta Millionaires Club』(2017年)は、カントリーでありネオソウル的でもあり、そのサウンドの混合に驚きがあった。この大胆なジャンルの越境は、例えば彼女のSNSに投稿される野球、TVゲーム、ヨーヨーなどの多趣味で、興味の赴くままに向かっていく様子からも伝わってくるようなところがある。自身の好きという気持ちに真っ直ぐな、その奔放さこそが彼女たらしめていると言わんばかりに。そんな彼女が、今年の6月にリリースした新作『I Know I’m Funny haha』は、前作と地続きのサウンドでありつつ、ギターという楽器を多様に鳴らすこと、寂しさという感情を表現することを、もう一歩、追求したような作品と言えるかもしれない。彼女のルーツから最新作までについて聞いたメール・インタビューを通して考えていく。

これまでウェブスターがリリースした最新作までの4作品全てで、カントリー・ミュージックを思わせるペダル・スティールの音を聞くことができる。それは、Matt “Pistol” Stoesselによって奏でられ、彼女の作品を象徴するサウンドになっていると言っていい。

「私は常に古い音楽やウエスタン・ミュージックを強いルーツとして持ってきました。私の両親が常に聴いていたものだったから、私も若い頃いつも聴いていた。そこから、新しいものにインスパイアされたり影響を受けたりして要素を加えていったんです。ペダル・スティール奏者は、レコーディング当初から欲しいと思っていました。子供の頃から1番好きな楽器だったんです。周りの人に、優れたペダル・スティール奏者がいないかと聞いていたら、みんなが薦めてくるのが同じ人でした。Pistolは最初の頃から長い間、私と一緒にやってきました。いつだって私にとってとても重要な人です」(発言引用はインタビューから、以下も全て同様)

そんな彼女の、幼い頃からの体験や音楽の好みを映した作品が、セルフ・リリースされた1作目『Run and Tell』(2013年)だったのだと思う。そのフォーキーでカントリーな作風はオーセンティックで、彼女自身のルーツを投影した率直な作品だった。けれど、続く2作目『Faye Webster』(2017年)がヒップホップ・レーベル《Awful Records》からリリースされたことは、そのサウンドの変化も相まって驚きがあった。学生時代からラッパーのリル・ヨッティやEtherealと友達であったというから、彼女にとってそれは自然なことだったかもしれない。フォーキーなメロディ・ラインとペダル・スティールのたゆたう音が、低音を強調したレイドバックしたビートの中で響くこの作品は、フォークやカントリーがヒップホップに初めて出会ったと言わんばかりの新しさに満ちていた。自身の名を冠した2作目『Faye Webster』で彼女が発明したこの作風は、文字どおり以降の彼女のアインデンティティを決定付けたと思う。のだが、そんなオリジナリティある低音を押し出した音作りについて、予想していなかったリファレンスが回答として届いた。

「私はずっとローエンドが大好き。私の弾くギターはクレイジーなローエンドが自然と組み込まれているんです。他では聴いたことがないようなね。私が最初にインスパイアされたローエンドはアリソン・クラウスとロバート・プラントが一緒に作ったアルバム(2007年リリースの『Raising Sand』)でした。私が2017年に出したアルバム『Faye Webster』は音的にとても刺激を受けています」

未聴だった『Raising Sand』をすぐに再生してみる。過去にはボブ・ディランのバンドでギタリストを務め、これまで数多のアルバムをプロデュースしてきたT・ボーン・バーネットがプロデューサーであることに加え、トム・ウェイツはじめ多くのミュージシャンをサポートし、ソロとしても多くの作品を出してきたギタリストのマーク・リーボウらも参加したこの作品は、エヴァリー・ブラザーズやディラード&クラーク、ベニー・スペルマンやリトル・ミルトンなどカントリーからブルーズ、そしてフォークやロックまで60年代から70年代のカヴァー曲を多くラインナップしたルーツ志向のアルバムだ。その大半の曲が、原曲からはアレンジを変えて、ゆったりとしたビートにバンジョーとペダル・スティール、フィドルやギターといった楽器が響くカントリーなアレンジに統一されている。それでいて、これでもかとバス・ドラムとベースを強調して鳴らしていることに驚きを覚える作品だ。少なくとも筆者は、カントリーの要素を多分に感じる作品で、こんなにもボトムが強調された録音を聴いたことがなかった。ロバート・プラントから連想されるレッド・ツェッペリンの、ハード・ロックの低音を感じさせ(たまにハードに歪んだギターも聴かせ)ながら、しかし全体がカントリー・ミュージックを基調とした作品に仕上げられていることの新しさ。それは、ウェブスターのアルバムで聴くことのできるローエンド重視の音響と重なるところがある。彼女のサウンドは、必ずしも前述したようなヒップホップからの影響だけではなかったということなのだ。フィドルを奏でるカントリー歌手のアリソン・クラウスとロック歌手のプラントのコラボレーション作品だということが明確に示された、T・ボーン・バーネットの手腕が光るこのアルバムから、ウェブスターが影響を受けたと話すことに納得だった。

『Raising Sand』の中でも、例えば「Nothin’」は、フィドルやバンジョーと絡み合って響くギターのディストーションからハード・ロックの要素を感じる曲なのだが、それを聴いていたらウェブスターの最新作『I Know I’m Funny haha』に収録されたヘヴィーなロック・ソング「Cheers」を連想するようなところもあった。ささやくような歌声にたしかに彼女の署名を残しながら、それでいて新境地と思えるこのロックな曲が生まれたことと、このミュージック・ヴィデオに彼女のパートナーであるBoothlordが、StingRay(「I Know I’m funny haha」の歌詞でリンキン・パークのベーシストが使うベースをプレゼントしたと歌っている)のベースを持って登場することについて聞いた。

「(「Cheers」の制作では)ただただ、その場がそういう気分でした。スタジオで私のバンドにその曲を持って行った時、私たちが取るべきアプローチについては、ほぼ間違いがなかったんです。作っていく過程で、みんなが意見を出し合ってた。Boothはずっとリンキン・パークのファンで、私たちが一緒に過ごすようになってから初めての彼の誕生日にStingRayをあげて、それ以来彼はずっと愛用しています。ヴィデオの中でも特別なものになったんです」

彼女のルーツであるカントリーから、ロバート・プラントとアリンソン・クラウスの『Raising Sand』、そしてリンキン・パークの名前まで飛び出すと、ギターがその形や響きを変えながら様々に鳴らされてきた歴史を振り返るような感覚にもなる。最新作の話からは逸れるが、2020年10月にリリースされたVOTING RIGHT LABのコンピレーション・アルバム『Good Music to Avert the Collapse of American Democracy, Volume 2』で彼女が、ギタリストでありプロデューサーでありシンガー・ソングライターでもあるブレイク・ミルズの「Vanishing Twin」をカバーしたことも、今日までのギターの変遷を想像させることの一端となった。ギター演奏のアプローチからアンビエントな音響を構築したような「Vanishing Twin」とこの曲を収録したアルバム『Mutable Set』での、ギターという楽器の響きを更新しようとするミルズの姿勢は、ウェブスターの音楽とギターへの眼差しとも繋がっていきはしないだろうか。

「ブレイクの音楽は常に私のフェイヴァリット。このアルバムはパンデミック下で私にとって特に意味があるものだったけど、なぜか“Vanishing Twin”が特に私に語りかけてきたんです」

最新作に話を戻す。「Cheers」がロックなアレンジだった一方で、「Sometimes」や「In a Good Way」、「Half of Me」からは前作までに無かったガット・ギターの素朴なフレーズが聴こえてきた。彼女の最新作には、Pistolのペダル・スティール・ギターと、自身のエレキ・ギターによる(時にはロック・ギターを思わせる)バッキング、そしてガット・ギターといったように幾つものギターの種類と奏法を使い分けたサウンドのバリエーションがある。この、あくまでもギターを中心においた制作にギターという楽器への探究の姿を見るのだ。そして、このガット・ギターの柔らかな音色は、彼女の表現にある寂しさを前作にも増して伝えてくるように思えた。

「パンデミックを経て、私はナイロン弦のギターが欲しいと思うようになりました。ナイロン弦のギターを手に入れることで、曲作りのプロセスが変わったり、全体的な雰囲気が変わったのかもしれません。ナイロン弦のギターを手にして、私は本当に楽器に恋に落ちたんです。そのソフトさや静けさが作品にまさに必要なものでした」

たしかにガット・ギターの音が、彼女のささやくような歌声と歩幅を共にしながらゆっくりと響いてくる。そんなガット・ギターとの静けさを象徴するような今作最後の曲「Half of Me」へ連なるように、その1つ前の曲「Over Slept(feat.mei ehara)」にも同様のソフトさが内包されている。共作共演したmei eharaの穏やかな歌声が、国や言語は異なっていても、ウェブスターの歌声と隣り合っていることが自然だと感じられる曲だった。

「私はもともと、mei eharaのただのファンの一人。スポティファイの関連アーティストで彼女を見つけてフォローするようになって、友達になるまでメッセージをたくさん送ったんです。作品に誰に参加してもらいたいかを考えたとき、ここ数年、彼女が最も私に影響を与えていたから、彼女が参加することがとても理にかなっていたし重要でした」

mei eharaの音楽からの影響、それは共振と言い換えることはできないだろうか。2人の音楽が近い振動を持っているから、それらは同期して振動を大きくし、ウェブスターの音楽に影響をもたらしたと思えるような。ウェブスターがインスタグラムのストーリーで彼女の楽曲を再生しながら、ノリノリでドライヴしている投稿を見かけたことがある。またある時は、彼女たちがSNS上で交流していることを見かけることもあった。そんな2人の音楽はフレンド・シップを通して交わったものではあるが、一方で友情とはまた別の繋がりを持ちながら2人のレコードが同じ棚に並んでいるとも感じられた。それは、ギターで弾き語るシンガー・ソングライターによるグルーヴを伴った音楽という点にあると思うのだ。

mei eharaの作品群を振り返ってみれば、そのどれもがリズムやビートへのこだわりを感じさせる音とそれを作り上げる音楽家たちとの演奏によるもので、それぞれがソウル、R&B、ヒップホップ、ファンク、ロックステディといった音楽を感じさせる。辻村豪文(キセル/yamomo/The Instant Obon)がドラムとプロデュースを務めたファースト・アルバム『Sway』(2017年)。ベースに長岡智顕(思い出野郎Aチーム)、ドラムに池田俊彦(T.V. not January/Hei Tanaka)を迎えた『最初の日は/午後には残って』(2019年)、そこにはジャズ・ピアニストでビート・メイカーのアーロン・チューライによるリミックスも収録された。セルフ・プロデュースとなったセカンド・アルバム『Ampersands』(2020年)には、ギターに鳥居真道(トリプル・ファイヤー)、ベースにCoff(ex.どついたるねん)、ドラムに浜松氣(どついたるねん)、鍵盤に沼沢成毅(ODOLA)を招集したように……これらの作品群は、ギターによる弾き語りのmay.e名義『see you soon』(2015年)やEP『私をしも』(2019年)と地続きのシンガー・ソングライター作品でありながら、思わず体を揺らしてしまうビートを宿している。

ときに筆者は、ソロのギターの弾き語りを、リズムやビートから解放された演奏形態だと思うことがある。例えばピアノ(88鍵)の弾き語りであればその音域は低音域まで及び、ベース・ラインを弾くことでリズミカルな演奏をすることもできる。一方、音域が限られたギターの弾き語りは、それがないゆえにリズムから解放された自由度の高い演奏形態になりうると思えるからだ。mei eharaとフェイ・ウェブスターの歌にはそんな、息をたっぷりと含んだ歌と言えばいいだろうか、ギターの弾き語りによる自由度の高い歌唱が根底にあるように感じられるのだ。この歌唱それ自体が持つリズムは一見、バンドという外部からのビートと交わらないようにも思える。けれど、バンドと歌唱それぞれのリズムが尊重し合いながら共存し、ときにはバンドのビートにジャストではない歌唱だからこそ生まれる音楽が、彼女たちギターを持つシンガー・ソングライターによるグルーヴを眼差した音楽であると筆者は思う。ここに、この2人の共振をみるようなところがあって、それが最新作での共作共演へと繋がっていったように感じた。

今作の歌詞についても聞いた。前作にも増して具体的な情景描写が増え、彼女自身の孤独や寂しさをより近くに感じさせる詩。そこに投影された彼女自身とソングライティングには、良好な関係性があったという。そして、前の段落で述べた歌唱それ自体が持つリズムの話にも繋がるが、前作では「Johny」で、今作では「A Stranger」で歌詞を朗読したこと、このバンドのビートから意図的に逸脱する表現についても思いを聞かせてもらった。

「人生の異なるポイントに自分自身を見出していて、それが私の音楽に反映されているのだと思います。今まで書いたことがないことを書いている自分を発見することで、ソングライターとして成長していると感じるんです。私は今自分のソングラインティングにとても心地よさを感じているし、とても正直になれているんです。(歌詞を)朗読することでしか正しくアイデアを表現できないことが時としてあると思っています。歌ってもいいけれど、歌うとシリアスさが損なわれることがあるんです」

自分を発見すること。そうやって書かれたから、その感情は具体的に、より近くに感じられるような詩に思えたのかもしれない。そしてそれは、彼女が拠点とするアトランタひいてはアメリカで白人として生きるということへの気付きとも無関係ではないだろう。昨年、2020年6月の彼女のインスタグラムには、これまで抗議をしてこなかった自身のことと、アメリカ国内の人種差別的なシステムについて抗議していく意思のステイトメントが投稿された。2020年にBlack Lives Matterの運動が活発化した地であり、2021年の3月にはマッサージ店でアジア系の女性が銃殺されたヘイト・クライム(フェミ・サイドとの見方もある)が起きた地、アトランタで暮らす彼女に今アメリカで必要な行動について話してもらった。

「アメリカでのアジア人や他の人種差別をシステム的に変える明確な『モノ』はないと思います。けれど、他の人達にとってアンフェアなシステムの恩恵を受けているという自分たち自身の特権を、まずは白人が理解するところから始めるのが良いと思っています。これについては話せば話すほど、広い範囲の問題について対処できる可能性が出てくると思うんです」

コロナ禍で様々な問題が表面化、彼女自身のアクションの1つとしてステイトメントが出された。その意思は4ヶ月後、大統領選挙を目前に『Good Music to Avert the Collapse of American Democracy, Volume 2(アメリカ民主主義の崩壊を回避するための良き音楽 第2弾)』と題したVOTING RIGHT LABのドネーション・コンピレーションへの参加にも繋がっていく。自身が白人であることの自覚からくるこれらの具体的な行動を通して、アメリカの人種差別の問題への対処を模索している様子があった。ただ、筆者はこれ以前にも彼女の活動(音楽)は、社会にポジティブさをもたらすものだと感じたことがあった。これまでの彼女の曲のどの歌詞にも明確なプロテストや社会へのメッセージは書き記されてはいない。けれど、フォークやカントリー、そこにR&Bやヒップホップが、ともすればハード・ロックも混合する彼女の音楽には、ジャンルやサウンドから連想されてしまうような、人種や肌の色と音楽との関係性へのステレオタイプを飛び越えるようなところがある。カントリーであれば白人とか、ヒップホップであれば黒人であるとか、そういった固定観念の壁を感じさせない、可能性に満ちた融和があると思ったからだ。それは勿論、彼女自身のアトランタでの交流や《Awful Record》との関係性の結果でもある。ルーツ・ミュージックへの志向を持ちながらも、彼女の音楽の歌やギターやビートが、新しさをもって2010年代以降の社会に響く理由がここにもあると思うのだ。

最後に、前作『Atlanta Millionaires Club』でも印象的だったアートワークが、最新作『I Know I’m Funny haha』でもまた印象を残すものになっていることについて尋ねた。笑い声の“haha”のステッカーが張り巡らされたアートワークについて、少し含みのある意味についての答えが返ってきた。

「これが最終的なアートワークとブランディングの一部になったことで、多くのことを意味するようになりました。その時は何の変哲もないシンプルなもので、背後にこんな大きな意味を持つようになるとは思いませんでした。でも“haha”というフレーズやコバルト・ブルーや赤のステッカーを見るたびに、私は自分が作ったこのレコードのことをいつも思い出すでしょう」

フェイ・ウェブスターというシンガー・ソングライターの音楽には、ギターという楽器の多様な響きと、彼女自身の寂しさの感情が通底している。そして、その中には多くの、一見遠い場所に位置していると思えていたもの同士が混ざり合っている。『Raising Sand』に影響を受けたり、カントリーをR&Bひいてはネオソウルや、ヒップホップと邂逅させたりしながら、サウンド同士を繋ぐ。最新作では、一つの曲の中で英語と日本語を隣り合わせにしたり、ギターを使い分けながら激しさと静けさを表現したり、寂しさを歌った自身の音楽に関わらず“haha”という笑い声を添えてみたり。こうやって、遠くにあるように見えるもの同士を交差させながら歌うことで、その寂しさは単なる一つの感情と言い切ることのできない、幾重もの異なるレイヤーと意味を帯びた作品になっている。そして、そこにはギターという楽器の変遷を思わず振り返るノスタルジーと、現在においてギターという楽器を多様に響かせようとする、これまでのステレオタイプを更新する音も含まれている。(加藤孔紀)

Photo by Pooneh Ghana

Text By Koki Kato


Faye Webster

I Know I’m Funny haha

LABEL : Secretly Canadian / BIG NOTHING
RELEASE DATE : 2021.06.25


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