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Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Ayra Starr – 「Bad Vibes ft. Seyi Vibez」

ナイジェリア出身のシンガー・ソングライター、Ayra Starrによる現在ヒット中のハイライフやアマピアノを中心に据えつつナイジェリアをレペゼンするセカンド・アルバム『The Year I Turned 21』から先行でリリースされていた1曲で、印象的なゴスペル・クワイアに、スロウなフロウとR&B的な歌唱が落ち着いた、でも踊れるビートに乗ってなんとも心地よい。客演の、同じくナイジェリアのSeyi Vibezが持ち込んでいる部分も多いにあるが、MVに顕著なように、ストリートの空気とアフロ・フューチャリスティックな感性が絶妙にミックスされているのも面白い。この曲を気に入ったならアルバム丸っと聴くべきです!(高久大輝)

Clairo – 「Sexy to Someone」

驚くことにリオン・マイケルズ(元シャロン・ジョーンズ&ザ・ダップ・キングス、El Michels Affairほか)のプロデュースである。最近ではノラ・ジョーンズの最新作(とその前のクリスマス・アルバム)を手がけて話題を集めたマルチ・プレイヤーだが、音に豊潤な香りをもたらすことにかけては近年のプロデューサーの中では随一と言っていい。ベッドルーム・ポップを出発点とするクレイロの次なる一手を探った時に、リオンに白羽の矢が立ったのはファインプレーとも言える判断。なぜなら、彼女のヴォーカルの潜在的な持ち味として、オーガニックなアメリカン・ルーツ・ミュージックとの好相性が見え隠れしていたから。キャロル・キングを思わせる、スモーキーな歌声と密室的なソウル風味あるメロディとその音処理の見事さと言ったら! ニュー・アルバム『Charm』は7月12日発売。楽しみ!(岡村詩野)

Flawed Mangoes – 「Cold」

ニューヨーク州ロチェスターを拠点とするシンガー・ソングライター/プロデューサーのエヴァン・ローによるプロジェクト、Flawed Mangoes。限られたギター・フレーズを繰り返しずらしていくミニマル・ミュージックの作風に、ザ・ドゥルッティ・コラムの細やかさやビビオのアナログな温もりを内包したギター・トーンを重ねる。ふくよかな音色の中に侘しさを感じるインストゥルメンタルは、異なる要素を共存させているようだ。そう考えると、暖色系のアートワークに「Cold」と名付けられたタイトルも一見相反するようで自然なことなのだろう。空間を巡るシンセサイザーも相まって、情緒性に富んだインディートロニカな1曲。(吉澤奈々)

Imagine Dragons – 「Eyes Closed (feat. J Balvin)」

正直、2010年代以降のプロダクション至上主義と集合知インダストリを象徴するポップ・ロックでしょ?とタカを括っていた自分を反省すべきタームにきている。ラップもブロステップもなんでも、チャラくたってクールならアリ、ポストTikTok時代の意欲作「Eyes Closed」はJ.バルヴィンがヴァースを歌うことで完成する。これこそ融合と分裂を繰り返すジャンルという言語を無効化する痛快さ。そういえばトゥエンティ・ワン・パイロッツ「Backslide」もよかったな。ポップに希望なし? いや、インディーというサブカルに浸っているのはだれか、2010年代の亡霊に本当に囚われているのはだれか、いま一度問うのが先だろう。(髙橋翔哉)

Louis Cole (with Metropole Orkest & Jules Buckley) – 「Life」

80年代初頭のYMOか、後期ピチカート・ファイヴか。豊饒な音楽的素養を手当たりしだい放り込むことで、高密度化したグルーヴのハレーションを起こさんとする試み。ルイス・コールとメトロポール・オーケストラの共演作からの先行曲は、ルイスらしいミュータント・ファンクとでも呼べる楽曲。彼が演奏するドラムにスタッカートのきいたストリングス、高速で捌かれるベースのどれもが耳の近くで響く。オーケストラっぽいシアトリカルさに回収されていないところが、異種格闘的なコラボを必然あるものにしている。アルバムはリトル・シムズ『SIMBI』やフローティング・ポインツ『Promises』のような、キャリアを塗り替える傑作になる予感。(髙橋翔哉)

Luna Li – 「Confusion Song」

韓国にルーツを持つカナダ生まれのミュージシャン、ルナ・リーによるニュー・アルバムからのリード・トラック。《88rising》からのフックアップや、ジャパニーズ・ブレックファストとの共演、前作『DUALITY』(2022年)にはジェイ・サムやビーバドゥービーが参加するなどアジア・ルーツ・ミュージシャンのコミュニティを土台の一つとして彼女はこれまで活動を続けてきた。本曲はカサンドラ・ジェンキンスの最新作でもプロデュースを務めるアンドリュー・ラッピンとルナの共同プロデュース。幾重にも重なるコーラスと、エコーを効かせたヴォーカルが印象的なドリーム・ポップだが、ドラム・セクションを押し出した楽曲構成は彼女の音楽的ルーツであるというテーム・インパラの影も感じる。(尾野泰幸)

Romy Mars – 「Stuck Up」

ソフィア・コッポラの娘のデビュー曲。父はフェニックスのトーマス・マーズ。おまけに写真を見る限り本人はガーリーそのもので、もうそれだけで気持ちがワクワクしてきませんかこれ! しかも、この曲と、同時に公開されたもう1曲「From a Distance」を共作したのはクロード。クレイロらとともにZ世代のポップ・アクトとして話題を集めてきたクロードの楽曲さながらに、愛らしくも少し翳りある風合いのメロディにエコーをうっすらとかけてほんのちょっと幻想的に仕上がっていて、もうたまりません。セイント・エティエンヌとかワン・ダブとか、90年代を彩ったそういう名前にピンときた人は迷わずプレイボタンを押してください。裏切りません、ガール・ポップの系譜は。(岡村詩野)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

Antônio Neves「DINAMITE」

2021年に《Far Out Recordings》よりジャズ・サンバの快作『A Pegada Agora É Essa』を発表してからの約3年間、Antônio Nevesはブラジル・インディーの心臓として躍動していた。アナ・フランゴ・エレトリコやCéuの最新作をはじめ、重要作には彼の名前が必ずクレジットされている。最新作『Deixa Com a Gente』はCastelo BrancoとRe.Significaの2人と共に立ち上げた注目のレーベル《MEXXE》からのリリースだ。以前より一筆書きに近い、アッパーなサンバ・チューンが連発される本作。まずは先行曲「DINAMITE」から踊らずにはいられない。(風間一慶)

Dean Blunt – 「DOWNER」

ジョアン・ロバートソン(Joanne Robertson)との新EP『Backstage Raver』と時を同じくして、いつものように突然発表された新曲は2020年の『ZUSHI』に続きパンダ・ベアをヴォーカルにフィーチャー。さらにヴィーガン(Vegyn)を共同プロデュースに迎え、インディ・ドリーム・チームと呼ぶべき組み合わせが実現していて、ラウドなギターとダウンテンポが生むアトモスフィアと、彼のキャリアのなかで群を抜いて甘くストレートなメロディを持つ。この感じ……1991年に《Creation》か《Heavenly》から出た、ギター・オリエンテッドなサウンドからダンスへとシフトを変えたバンドのひとつと紹介されても信じてしまうことだろう。それにしても、このところのパンダ・ベアが客演した楽曲のハズレのなさときたら!(駒井憲嗣)

Foods – 「春風とコンビニスイーツ (feat.諭吉佳作/men)」

Foodsは、1997年生まれで埼玉県出身のアーティスト。2017年から活動している。輪郭がぼやけていて圧縮されているようなFoodsの声と私小説的な詞は、DTMではなく宅録と言いたくなる。ことばを引き延ばすフロウとキャッチーなメロディが、詞が含み持つ短歌的な鋭利さを柔らかくしている。Foodsの歌声と諭吉佳作/menの軽やかな歌声にある少年っぽさは、ずっと続いていくことになっている毎日へのゆるい諦念の中にある希望をすくい上げている。何にもつながっていない有線のヘッドフォン。叫んでいるのに叫んでいるようには聞こえない声。無数の見送った選択肢もその先でここにある日々もどっちも愛そう。(佐藤遥)

Kate Nash – 「My Bile」

近年は女優としての活躍も目立つ、ロンドン出身のシンガー・ソングライターがキル・ロック・スターズに移籍。この曲は6月21日にリリースされた5作目『9 Sad Symphonies』からの先行トラックとなる。MVのヴィジュアルが象徴するように、ニュー・アルバム古き良きハリウッドやミュージカル映画からインスパイアされていて、デビュー時のヴィンテージ感のあるポップ・サウンドを17年のキャリアをもってアップデートさせたような好内容で、過去の行動や現在の優先順位を見直して、「No!」と言える自分になろうという歌詞も実に彼女らしい。開けっ広げでユーモラスなラナ・デル・レイと言えば、もっと興味を持ってもらえるだろうか。前作は全英100位圏外という結果に終わったが、新作は起死回生の一作になりそうな気がする。(油納将志)

狩生健志 – 「それから光が」

東京を中心に長年活動を続け「俺はこんなもんじゃない」でもギターを務める狩生健志。ソロ・プロジェクトからニューアルバム『雨 / 水』を発表、先行して「それから光が」がリリースされた。宅録的な質感でギターやドラムが淡々と鳴らされる中、まるでベッドルームから抜けだしてなお、夢うつつで独り言を呟くようなヴォーカル。そのサイケデリアには危うい緊張感すら走り、雲を掴むような詩情もあいまってどこか浅井直樹なども連想させるだろうか。シンガー・ソングライターの活動と並走して劇伴やレコーディング仕事なども確認できるが、本作のサウンドもどこか極端でありつつ絶妙に洗練、配慮されており、異物的でありながら確実に「ポップス」として着地しているバランス感は前作から引き続き健在。(寺尾錬)

LA Priest – 「Apple」

元レイト・オブ・ザ・ピアのサム・イーストゲートによるソロ・プロジェクト、La Priestによる最新作。コスタリカで録音された前作は、ギターを主軸に置きつつもトロピカルかつドリーミーな作品だった。そうした部分を残しつつも「Learning To Love」などで見られたダフト・パンク的と言っていいシンセサイザー使いがトッピングされている。この名義に共通するドラッギーで一人だけ別世界に迷い込んでしまったような質感は、NHK VOOKとしてVHS化された『にんぎょうげき ガリバーの旅』のようだ。それは、言語化すると異世界転生モノと言えるのではないだろうか。(杉山慧)

スカート – 「波のない夏」

スカートの新曲が山下敦弘監督の映画『水深ゼロメートルから』の主題歌と聞き、ラジオやストリーミングで聴くことを我慢して映画館へ足を運んだ。水のないプールに閉じ込められた女子高生たちの、男女の性差や社会規範に対する戸惑いと苛立ちを生々しく描いた会話劇。そんなオフビートな世界に鮮やかな色彩をもたらす疾走感あるギター・ポップは、劇中の彼女たちにはまだ見えていない光のよう。少し先の未来から若者たちを見つめる澤部渡の眼差しはどこまでも優しい。そしてスカートの女性ヴォーカル曲にハズレなしという法則を裏付けるようにadieuとの相性も完璧。スムーズに主旋律を受け渡した後、伸びやかに広がる景色のキラメキといったら!(ドリーミー刑事)

Walt Disco – 「Come Undone」

6月19日にニュー・アルバムが控えているこのウォルト・ディスコは、実際にその新作をロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラの所有するスタジオで録音したり、デュラン・デュランの前座をつとめたりするなど、聴き心地そのままにグラム・ロック〜ディスコ〜ニュー・ロマの系譜を忠実に受け継いでいる。加えて、スコットランドのロック・バンドである彼らが作り出す、グラマラスで艶かしい音作りや、赤裸々な色恋についての歌詞からは、クィア・カルチャーとの接点も感じさせる。「孤独なパーティー・ソング」というこの曲の歌詞からは近年の窮屈な生活への思いを確かに連想させる側面もあるが、私には、もっと純粋でポップなものにも聴こえた。私たちの生活にも孤独と幸福の両方が訪れるのだから、このアップテンポな曲に身を任せられそうな気がしている。(西村紬)


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