Back

BEST 14 TRACKS OF THE MONTH – August, 2022

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

The National feat. Bon Iver – 「Weird Goodbyes」

ザ・ナショナルのニュー・アルバムがいよいよ見えてきた。その導入となりそうなこの新曲は今年春から再開したライヴで披露してきた新曲群の一つで、盟友であるボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンが参加。リズムボックスの乾いたビートに始まり、マット・バーニンガーの低く呟くような歌が聞こえ、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラのストリングス(ブライス・デスナーがアレンジを担当)が滑り込んでくる……これぞザ・ナショナルの真骨頂だ。ジャスティンとの掛け合いとなるヴァースの展開はさすが息が合っていて、「奇妙なお別れ」というアイロニカルなタイトルと世相を反映させたような歌詞の内容に胸が痛む。(岡村詩野)

NewJeans – 「Cookie」

徐々に情報や音源を明らかにする周到なプロモーションの後に発表されたEP『NewJeans』は、カルヴィン・ハリス『Funk Wav Bounces』の拡張版ともいえるサマーアンセム集だった。先行の3曲が『Funk Wav~』からそこはかとない切なさを受け継いでいたとすれば、最後に発表された「Cookie」が担うのは夏の刹那と享楽そのもの。全4曲中でもっとも余白の多いプロダクションとアウトロで変化するビートが、一見ハッピーなリリックに奥行きと余韻を与えている。英語圏で巻き起こった本楽曲のリリックと彼女たちの年齢の若さを絡めた批判は、グローバルなK-POP受容の裏に巣食う認知の歪みと、ファンダムの主観的体質の危うさを図らずも立証した。(髙橋翔哉)

PEARLA – 「MING THE CLAM」

ブルックリンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、ニコール・ロドリゲスによるプロジェクト、ピアラがこの10月にリリースするニュー・アルバム『Oh Glistening Onion, The Nighttime Is Coming』からのシングルカット。透き通ったシンプルなアコースティック・ギターを基軸としながらもコーラス・ワークと流麗なストリングスがそこに絡み合うことで、楽曲全体は奥深く、荘厳なオーケストラル・フォークといった印象に。そのような楽曲構成のうえに、ポップネスを湛えたメロディーも見事で、本作のレーベルである現行インディー・フォークにおいて実直に良作をリリースし続ける《Spacebomb》の手腕にも感服させられる。(尾野泰幸)

Quinn Christopherson – 「Celine」

2019年に「Erase Me」でトランスジェンダー男性としての経験を歌い、注目を集めたアラスカ州アンカレッジ出身のSSW、クイン・クリストファーソン。「Celine」は彼が9月16日にリリースを予定しているファースト・アルバム『Write Your Name In Pink』からの先行曲のひとつで、ドリーミーなシンセとキャッチーなメロディの映えるポップ・ソングに仕上がっている。描かれているのはかつて母親がカラオケに行って帰ってきたときの思い出で、MVにはその母親も出演しており、楽曲の持つ温もりと親しみ深さを一層引き立てているだろう。また「Celine」はアコースティック・ヴァージョンもリリースされており、そちらは彼のソングライティングの才と歌声の素晴らしさがよりわかりやすい。アルバムが楽しみだ。(高久大輝)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

Baytrees – 「Lover」

UKはブリクストンを拠点に活動する4人組バンド。初期は、’00年代ロックンロール・リバイバルを思わせる疾走感や、レッド・ツェッペリンなどのヘヴィー・ロックなテイストが特徴だった。しかし「Sundown」以降はディスコを意識し、本作ではその色をよりはっきりと提示した。参照点としては、70年代ソロ期のブーツィー・コリンズやプリンス(特に「The Ballad of Dorothy Parker」)、The S.O.S.バンドなどの《Tabu Records》関連のサウンドを思わせる。彼らは現在ファースト・アルバムへ動いており、どういった方向でまとめてくるのかも楽しみだ。(杉山慧)

Eddie Chacon – 「Holy Hell」

90年代にチャールズ&エディとしてヒットを飛ばすも、その後音楽業界から身を引いていた彼が穏やかで瞑想的なアルバム『Pleasure, Joy And Happiness』で復活を果たしたのは2020年のこと。ジョン・キャロル・カービーのベスト・プロデュース・ワークのひとつと断言したいその前作に続くコラボレーションが実現した。《Stones Throw》移籍第一弾は、しなやかなファルセットとソフトなキーボードの音色がきらめくディスコ・ブギー。Angels Flightを皮切りにLAの街を車で流すMVも最高で、通りすがりに挨拶を交わす友人としてマック・デマルコまで登場する。2020年の夏の終わりに、いよいよファンクネスを蘇らせたことを喜びたい。(駒井憲嗣)

Ela Minus & DJ Python – 「Pájaros en Verano」

中南米にルーツを持ち、NYを拠点に活動する2人。この曲はDJ PythonのトラックにEla Minusがヴォーカルをのせて制作された。マリンバの音がレゲトンと2ステップをミックスしたリズムに寄り添ったり、落ち着いたボーカルの合間を縫ったりしながら、水面に反射する光のようにきらめいている。ダブリングされたボーカルは、いくつもの「始まることのなかった日々と存在しなかった夜」があることを思わせ、それらを乗り越えたことを祝福しているよう。小さな行動の先に世界の変革があると示した『acts of rebellion』、より良い人間になりたいと願った『Mas Amable』、それらが交差した点にある本楽曲は、来月リリースのEP『♡』に収録。(佐藤遥)

Hitomi Moriwaki – 「Yu Yu Familia」

その他の短編ズの森脇ひとみがソロ・アルバム『Subtropic Cosmos』をリリース。もともと音楽だけでなく人形劇やZINE、近年は焼き物やアニメーション、さらにはモバイル・ゲームの実況など、泉のように溢れる好奇心と創作意欲を形にし、惜しげもなく披露してきた彼女。アルバム冒頭を飾る「Yu Yu Familia」は、その混沌とした小宇宙への招待状のようなエレクトロニック・ドリーム・ポップ。底知れぬ世界への扉がいざ開かんとばかりに銅鑼の音が鳴り響き、Kikagaku Moyoのレーベル《Guruguru Brain》からリリースされたのも納得の心地よい湿度に包まれる。自身が制作したビデオも必見。(前田理子)

PinkPantheress, Sam Gellaitry – 「Picture in My Mind」

ロンドンを拠点に活動をする新生代のスターとして注目を集めるシンガー・ソングライターのPinkPantheressと、スコットランドはスターリング出身のプロデューサーSam Gellaitryのコラボ作。本作では恋愛関係における、自分の思い描いていた理想と、生活の機微の中で生じた現実とのギャップを描く。特に、MVの花嫁花婿がコインランドリーという日常風景の中に映し出される違和感は、歌詞における理想と現実のギャップを映像的に表現していると思う。このテーマは、プライベートをあまり語らない彼女のスタンスと、注目度が増すことで変化する日常である。それは、自分の中で描いていた理想とのギャップを描いているようにも捉えられる。(杉山慧)

Silvana Estrada – 「Brindo」

例えばロザリアなどが魅力的な作品を発表する近年、スペイン語が持つ特有の発音で歌う新たな音楽家の登場を期待するようなところがある。そんな折、今年初めに新作『Marchita』発表以降、この人の存在が気になっている。弦楽器製作者の両親の影響で手にしたベネズエラの4弦ギターのクアトロを抱え、ラテンアメリカのフォーク・スタイルで弾き語るメキシコ出身のシンガー・ソングライターだ。この曲はクアトロと歌というシンプルな構成で、ビートこそないのだが、巻き舌の強い発音が聴く人の耳を擦り、躍動感を感じさせたりもするだろう。「そしてまた友達に会いに」と歌う曲のタイトルの意味は、乾杯。この世界で生きることのささやかな喜びを音と歌詞で表現してみせている。良い歌だ。(加藤孔紀)

(((さらうんど))) – 「After Life」

Jun KamodaとXTALによるユニット(((さらうんど))) の7年ぶりのニュー・アルバムの冒頭を飾る1曲。最初に耳へ飛び込んでくる研ぎ澄まされたキックやアシッドな303の音は完全にフロア仕様にも関わらず、わずか2分強で過ぎ去ってしまう異形のダンスミュージック。それは同時にリリカルなハーモニーとキャッチーなリフレインを備えながらも、歌を持たない異形のポップミュージックでもある。2012年のデビュー作で日本語によるポップソングの新たな章を開き、シティポップ・ブームの種を蒔いた彼らだが、「余生」または「来世」というタイトルからも伝わるように、今もなお時代の先を見据えていることだけは間違いない。(ドリーミー刑事)

Tori & Bruno Berle – 「Descese」

ベッドルーム、モダン・サイケ、ポスト・プロダクション。ここ数年のインディー界で頻繁に取り上げられるこれらを三題噺に、オルタナティヴなMPBとして吐き出した鬼才、Bruno Berle。今年発表したアルバム『No Reino Dos Afetos』で話題を呼んだ彼の次なる一手は、ブラジルのシンガー・ソングライターであるToriとのデュオだ。抑制を抑えた2人の立体的なハーモニーと享楽的なブラスがどこか懐かしい、ポスト・ショーロとでも言いたくなるような1曲に仕上がっている。今年中に発表されるというToriの最新作も含め、今後要注目のシーンとなること請け合いだ。(風間一慶)

宋柏緯 – 「Cause U」

落日飛車の新プロジェクト「夕陽無限好聽/Infinity Sunset」は、never young beachやタイのPhum Viphuritなど各国アーティストらと毎週7インチシングルを発表する試み。7月から始まり今夏をトロピカル・ムードで彩った楽曲の数々、その中の1曲が、俳優としても人気の宋柏緯「Cause U」だ。秋の昼下がりに恋人たちが交わす密やかな言葉なきコミュニケーションを描く、親密で温かなシンセサイザー・サウンドとナイーブなギターの朗らかさは晩夏にぴったり。こちらも必聴の韓国のシンガーソングライターO3ohn「RunRun」と世界観が地続きの、曰く「ダブルミュージックビデオ」にも注目!(Yo Kurokawa)

Arctic Monkeys – 「There’d Better Be A Mirrorball」

恐らくは、またこの路線か、とがっかりした人も多いかもしれない。大半の曲がアレックス・ターナーが所有するスタインウェイのピアノを用いて作曲された2018年発表の『Tranquility Base Hotel & Casino』に続く、10月21日リリースの最新アルバム『The Car」の先行シングル「There’d Better Be a Mirrorball」もラウンジ・ポップとなった。ロキシー・ミュージックが『Flesh And Blood』や『Avalon』で魅了した洗練さと艷やかさがここにもあり、そして麗しいストリングスとアレックスのヴォーカルはますますスコット・ウォーカーへ近づいた。ロック・バンドであることを放棄したように見えるかもしれないが、アークティック・モンキーズこそが現代のロック・バンドの解釈を一新する勇気を持った存在だと考える。(油納将志)


【BEST TRACKS OF THE MONTH】


過去記事(画像をクリックすると一覧ページに飛べます)






Text By Yo KurokawaHaruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiRiko MaedaIkkei KazamaDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki Ono

1 2 3 71