BEST 13 TRACKS OF THE MONTH – October, 2024
Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!
Alabaster DePlume – 「Honeycomb」
シャバカやヌバイア・ガルシアらとの交流でも知られ、ベス・オートンの最新作『Weather Alive』(2022年)にも参加しているロンドン拠点のサックス奏者の新しいシングル。「Honeycomb」はパレスチナの人々との連帯から生まれた3曲入りEP『Cremisan: Prologue To A Blade』のうちの1つで、地元のピアニストのSami El Enaniと共演、パレスチナで録音されている。美しいピアノと燻んだサックスが絡むその曲も緊迫した空気を伝えるが、昨年12月にイスラエルの空爆によって殺害されたガザ地区の作家、リファアト・アルアリイール(リフア・アル=アルイール)の詩「If I Must Die 」を引用した「Gifts Of Olive」はガザでの全ての犠牲者に向けた鎮魂歌のようだ。(岡村詩野)
Lusine, Arms and Sleepers, Yppah – 「Earth to Moon」
今秋に合同で北米ツアーを行う、ルシーン、アームズ・アンド・スリーパーズ、イパによるコラボレーション楽曲。前半と後半で表情を変える「Earth to Moon」は、エモーショナルなIDMと言うべきか。はじめはミニマル・ハウスの温かなグルーヴにシンセサイザーやスネアといったループを細かく回転させるサイケデリア。そこにロング・サスティーンのギター・ソロが入り感傷的に展開する。このシューゲイザー要素のあるギター・サウンドを用いたのは、紛れもなくイパによるものだろう。クリアで少し歪みを持ったギターの音色だけでなく、最初のリズムと打って変わって、余白のあるブレイクビーツになるのもストーリー性があっていい。(吉澤奈々)
Moin – 「Lift You」
渋谷の桜丘側の変わり果てた姿とか、道玄坂方面の更地になった一帯なんかを眺めながら聴くべきアルバムがある。あるいは、そういったことをまるっきり考えず、ただ楽しく遊んでいる合間にSNSを通してガザの惨状を間接的に見つめる瞬間でもいい。そのとき駆け巡っている怒りや哀しみ、寂しさ、そして諦めのような何かが混じり合った複雑な感情を、ほとんど完璧に表現しているアルバムがMoinの3作目『You Never End』だと思う。分解されたロック・サウンド(“post-whatever”とMoinは自称する)に、今作ではコビー・セイやソフィア・アル=マリアなどのゲストが言葉を乗せることで、ここにある孤独や倦怠感はより鮮明に鈍く輝いている。特にこの「Lift You」から「It’s Messy Coping」の流れは、吐き気がするほど苦しく美しい。(高久大輝)
ROSÉ & Bruno Mars – 「APT.」
楽曲以上にMVもマジ可愛い、ロゼ(BLACKPINK)とブルーノ・マーズによる「APT.」。韓国の飲み会ゲーム“APT drinking game”をモチーフにしたこの曲、軟派でチージーな雰囲気が何よりも愛おしい。ザ・ティン・ティンズ meets レディ・ガガ(またはビヨンセ)といった印象の作曲。ディーヴァ然とした大きな旋律とニューレイヴ的なエディット感との取り合わせが楽しく、そのあたりには音楽的素養と確固たる技術に裏打ちされた“本物のまがいもの”=ブルーノの手腕が振るわれただろう。ちなみに彼は、レディ・ガガとの共作「Die With A Smile」も相まってSpotify月間リスナー数1位に輝いている真の勝者。(髙橋翔哉)
Tunde Adebimpe – 「Magnetic」
TVオン・ザ・レディオのフロント・パーソンであるトゥンデ・アデビンペによるソロ・デビュー作からのリード楽曲。矢継ぎ早に言葉を重ねるエネルギーに満ち溢れたヴォーカル・スタイルとエッジの立った痺れるような音色のエレクトリック・ギターが暴れ回る。まさにTVオン・ザ・レディオ印といってよいその焼けつくような音色のインディー・ロック・チューンは、バンドの代表楽曲「Wolf Like Me」、それも彼らにとってクリエイティヴィティとパッションが最高潮に達した瞬間のひとつとして記憶されている《Live on Letterman》でのライヴ・パフォーマンスのような衝動で満たされている。(尾野泰幸)
Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!
Dawuna – 「Naya」
ニコラス・ジャーの主催レーベルよりリリースを重ねるアヴァン・フォーク・プロジェクト、Ot To, Not Toの首謀者でもある、NY拠点のSSW、Ian Mugerwaによるソロ・プロジェクトDawuna。影のあるR&Bを無数のコラージュより生み出すスタイルで静かな支持を集める彼が、11月15日にセカンド・アルバム『Naya』をリリースする。先行配信されたタイトル・トラックは、ブルックリンの地下に流れるほの暗い美しさとブリストルの荒涼とした風景が繋がる、トリップ・ホップ調の一曲。Nick Hakimやサラミ・ローズ・ジョー・ルイス(Salami Rose Joe Louis)など、密室型のインナーソウルの亜流としても味わえるナンバーだ。(風間一慶)
Ela Minus – 「BROKEN」
来年1月にリリースされる『DIA』に収録される楽曲。アメリカ国内の様々な土地、メキシコシティやロンドンでも制作を行ったというニュー・アルバムでは自身の内面に焦点を当てていて、そのなかでも本楽曲は今までで最もパーソナルなものだそう。「I’ll keep writing melodies / To sing away the gloom / That we have succumbed to…」という詞もあって、制作それ自体についての楽曲という側面もあるのかもしれない。軽やかでのびのびとしたヴォーカル、高度をぐんぐん上げるようなシンセとストレートな四つ打ちは爽やかで溌剌としている。最後に残る音は、遠くになにか光るものを見つけたかのようだ。(佐藤遥)
Florist – 「This Was A Gift」
エイドリアン・レンカーとの共振も感じさせながら、アンビエント・フォークを響かせた『Florist』(2022年)から次作へ繋がるシングルとなるだろうか。前作やヴォーカルのEmily A. Spragueのソロを印象付けるシンセサイザーはここでは影を潜め、もちろん強い音圧や派手な展開も必要とせず、バンドサウンドは穏やかに鳴らされる。特に後半へかけてのギターを聴いてほしい。川の流れに運ばれるように、ヴォーカルのメロディーの前後を行き来しながらたゆたうギターの塩梅は素朴だけれど、今はこんなプレイがちょうど気持ちいいなと思える。エレクトロニクスに頼らずとも描かれるアンビエントの先には、悠然とした自然への眼差しも変わらずに。(寺尾錬)
jasmine.4.t – 「Elephant」
ジャスミン.4.tはマンチェスターを拠点にするトランス・ウーマンのシンガー・ソングライター。フィービー・ブリジャーズのレーベル《Saddest Factory》の英国での最初の契約アーティストで、来年1月22日にはデビュー・アルバム『You Are The Morning』のリリースを予定している。この「Elephant」はそのアルバムからの先行トラックで、ボーイジーニアスの3人がプロデュース。彼女自身のトランジション初期に経験した愛と友情の葛藤や複雑さを描写しながらも、他者との関係性における希望も込められている。アルバムにも参加しているロサンゼルスのトランスジェンダーで構成されたコーラス団が曲の最後で祈りにも似た歌声をかぶせてくるのがドラマチックで心を揺さぶる。(油納将志)
Lady Gaga, Joaquin Phoenix – 「(They Long To Be) Close To You (Music From The Motion Picture)」
カーペンターズの有名な楽曲を、映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の主役二人がカバーした。拒食症が原因で亡くなったカレン・カーペンターの悲しい最期を、世間からの押し付けられた虚像と彼女自身とのギャップと捉えた場合、この映画で描かれるアーサー(ホアキン・フェニックス)の苦悩と重なる部分があるように思える。この曲で、彼は原曲にはない「Follow Me」と歌い、リー(レディー・ガガ)の期待に沿う形で虚勢を張りジョーカーを役割として受け入れる。このシーンは、男たるもの強くあるべし的な価値観に囚われていた彼を象徴しているようであり、このようなマチズモに対する批判的視座も込められていると思う。(杉山慧)
Mereba – 「Counterfeit」
優しいシンセの導入からギュッと胸が締め付けられる。クレオ・ソル的なメロウネスとフォーキーなタッチを湛えたR&Bトラックなんだけれど、そこにレゲエ、ラップのフィーリングをとても自然にミックスさせていくそのセンスは、まさに“オリジナル”。《Interscope》から《Secretly Canadian》に移籍後の第一弾(ちなみにこのキャリアはヤー・ヤー・ヤーズと同じだ)は、スピレッジ・ヴィレッジ(Spillage Village)のメンバーでもある彼女が、REASONなど客演などを経て、シンガーとしてのみならずプロデューサーとしての才気を一気に開花させている。自身のドッペルゲンガーと対峙するMVもリリックの肯定感をシネマティックに伝えていて見逃せない。(駒井憲嗣)
大石晴子 – 「サテンの月」
名盤『脈光』から約2年ぶりの新曲。ピアノによるシンプルな2小節のリフレインを8回、約1分にわたって繰り返すイントロのストイシズム。その後入ってくるヴォーカルのたよわかな憂いと湿度。この瞬間に溢れ出す特別な空気こそ、大石晴子という表現者の真骨頂と言いたくなる。前作からの流れをくむソウル、ジャズ、アンビエントの折衷的なバンドサウンドもさらに練度を高めており、後半につれて静かに熱を帯び、青い炎がゆらめいているかのよう。中でも石垣陽菜(TAMTAM)のベースは出色の存在感。寡作ながらリリースごとに違う次元に到達していく大石の次作は、ちょっととんでもないことになるのでは、という予感大。(ドリーミー刑事)
んoon – 「Forest feat.ACE COOL」
んoonが満を持してアルバム『FOREST LOVE』をリリース(11月20日発売)。この先行曲でフューチュアリングの概念がガラガラと音を立てて崩れていった。ポップスとヒップホップのコラボは今では多く見られるが、ラップを挿入する目的のみで起用されているとすごく寂しいな、と思う。んoonの聴きどころである、幾重にも重なるレイヤーと音としての歌詞はそのままに、限りなくACE COOLのスタイルに寄っていて、彼が最新アルバム『明暗』で披露した淡々としながら段々張り詰めてゆく様をきちんと表現。それが、この曲のこの箇所……“秒針/動いてる脳裏”の部分で崩れていく。今夏一番聴いたシングル「NANA」もアルバムに入っているようなので、アルバムのリリースが待ち遠しい! (西村紬)
Text By Haruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiNana YoshizawaIkkei KazamaRen TeraoTsumugi NishimuraDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaDaiki TakakuYasuyuki Ono