「ダメな自分を受け入れる、アートって自分を発見することでもあると思うから」
USインディーを体現するビーチ・フォッシルズ、インタヴュー
ビーチ・フォッシルズを紹介するとき、特記する言葉がいくつかある。例えば、彼らの拠点となるニューヨークはブルックリン、2010年代初頭のUSインディー、ムーヴメントを作り上げたと言える独立系レーベル《Captured Tracks》というように。この頃の、ビーチ・フォッシルズ、ダイヴ、ワイルド・ナッシングらの作り出すサウンドは、一つの時代を閉じ込めるかのように象徴する。
思えば、2010年のデビュー・アルバム『Beach Fossils』から独特だ。間を生かしたアルペジオのフレーズ、飄々としたヴォーカル、深いリヴァーブなど一つ一つを見れば決して目新しい音ではないかもしれない。けれど、すべての音があわさると肩の力が抜けるような心地良いインディー・ロックになり、懐かしくも新しい音楽に感じる。
7年ぶりの来日公演となった2025年4月の東阪公演で、同じような感覚を受け取った人もきっといるだろう。『Beach Fossils』、『Clash The Truth』(2013年)、『Somersault』(2017年)、最新作『Bunny』(2023年)とほぼ全ての作品から楽曲を演奏した。それぞれのアルバム毎に反応しては飛び上がる、オーディエンスの姿も印象的だった。2009年にダスティン・ペイサーのソロ・プロジェクトとして始まった、ビーチ・フォッシルズの年代を超えた魅力はどこにあるのか。
TURNのインタヴューでは、対面でメンバー4人に話を訊くことができた。具体的な曲作りのプロセス、インスピレーションとなる事象、《Captured Tracks》を起点としたコミュニティなど、彼らのリラックスした様子もあわせて伝われば嬉しい。
(インタヴュー・文/吉澤奈々 通訳/竹澤彩子 写真/中野道)
ビーチ・フォッシルズは動画プログラム《TURN TV》でのQ&A方式の質問企画、「THE QUESTIONS✌️」にも登場! 動画は記事の最後、あるいはこちらから!(編集部)

Interview with Beach Fossils(Dustin Payseur, Tommy Davidson, Jack Doyle Smith & Anton Hochheim)
──ダスティンは影響を受けた音楽に、ザ・バーズ、ボブ・ディラン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、80年代のUKポストパンク、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、初期のザ・ヴァーヴ、スピリチュアライズドをよく挙げています。なかでも、とくに研究したアーティストや作品は何ですか?
Dustin Payseur(以下、D):まさに今言ったアーティスト全部、自分達の基盤になってるし。あのへんの時代の作品ってどれも全般的に思い入れがあって、一つに絞るには難しい……今名前が挙がったアーティストのどれも自分にとって重要なんで。だから、特定のアーティストや作品に影響を受けてるっていうよりも、もっとふわっとした感じというか、今言ったものまとめて全部みたいな感じかもしれない。あるいはアルバムや曲そのものよりも、特定のパートや演奏スタイルからインスピレーションをかき立てられることもある。全体の構成ではなく、ほんの小さなちょっとした部分が一番強烈に印象に残ってることもあるし。あるいは、音楽以上に人生経験からのインスピレーションが同じくらい重要だったりするし。音楽だけからインスピレーションを拾ってこようとしても、どうしても限界があるわけで。形だけちゃんとしてても中身がなかったら何も伝えてないのと同じなので。つまり、何を伝えるかで、伝え方が重要なわけじゃないんだよ。むしろ自分が経験したことや、誰かが言った言葉や、目の前で起こった出来事のほうが、音楽以上に深くインスピレーションになることもある。
──今言った影響を受けたバンドなど、何かそこに共通するエモーションみたいなものはありますか?
D:ボンヤリ思うのは、甘く切ない感じ。喜びと悲しみが入り混じったみたいな感じ。それを言うなら1つの感情だけじゃなくて、いくつかの感情を同時に表現することを常に目指してるのかもしれない。いわゆるハッピー・サッド的な、幸せなんだけどなぜか同時に悲しいっていう……あるいは映画のエンドロールで流れてきそうな曲っていうのもバンド内でよく引き合いに出してる表現だよね。最後に劇中のすべての感情を総括してくれるような曲。それを音楽で表現したいっていう気持ちはあるかもしれないな。
Tommy Davidson(以下、T):あるある。今ので思い出したのは、『Somersault』をレコーディングのとき一緒に作業してたエンジニアがいて、その奥さんが作業中にたまたまミックスを耳にしたらしくて「これって『ヴァニラ・スカイ』のサントラっぽくない?」って言ってたらしくてさ(笑)。めちゃくちゃ嬉しかったし、最高の褒め言葉だよ! もともとすごく好きなサウンドトラックでもあるし、インスピレーションになりそうな曲がいっぱいでさ。多分、無意識のうちに入り込んでたのかも(笑)。
──ちなみに『Bunny』をサントラにたとえるなら?
Jack Doyle Smith(以下、J):あれもまさに、色んなエモーションの入り乱れたアルバムだよね。
T:グレッグ・アラキの作品じゃない? DVDや映画の映像を観ながら曲作ってたりするから、ある意味、サウンドトラックを作ってるような感じになることもある。たとえば『Bunny』を書いてるときなんかまさに、グレッグ・アラキの『ドゥーム・ジェネレーション』だとか、他にも90年代の作品をよく観てたよね。曲を作ってる間にそうした映像を流してたから、そこから色んなアイディアを拾って音に反映させてることも多いし、ほんと映画のサウンドトラックを作ってるみたいな感じだよね。
Anton Hochheim(以下、A):そう、90年代のTVやビデオの映像を流したりしてたしね。
D:音楽と同じくらい映画や映像にも影響を受けてるよね。
──ちなみに今日はスリップノットのTシャツを着ていらっしゃいますが。
D:そう。14歳ぐらいのときに一番好きだったバンドの一つなんだ(笑)。
──2010年のデビューから独創的なギター・サウンドで、日本のインディー・バンドにも大きなインスピレーションを与え続けています。アルペジオとメロディーの要素が同居しつつ、ミニマルで耳に残る。このギター奏法は、当時どういったきっかけで生まれましたか?
D:インスピレーションを受けてるポイントに関しては細かく分かれてるかも……例えば、ギターの音は1960年代のガレージ・ロック・コンピレーション・アルバムからの影響が大きくて、例で言うなら『Back From the Grave』シリーズや『Nuggets:Original Artyfacts from the First Psychedelic Era, 1965–1968』辺りからものすごくインスピレーションを受けているよ。生々しくて、武骨で、明るい感じの音というか、わかりやすく言えば1960年代のギター・サウンドだよね。あの時代のローリング・ストーンズとかまさに。
T:ゴールドフォイル・ピックアップ系統だよね。
D:そう、とにかく明るい。演奏のスタイルに関してはザ・バーズの12弦ギターの弾き方にすごく影響を受けていて、それを6弦ギターでやっている。あるいはメロディーだったら、ザ・キュアーやニュー・オーダーからの影響が強かったり……60年代と80年代の要素のミックスって言えるかもね。そこからさらにポストパンクからの影響もちょいちょい入ってくるし……と、ああだこうだ言ってみたところで、最終的に物を言うのはギターだったりするんだけどね。ただ何も考えずに本能のままにギターを鳴らして目の前にある音に乗っていく……そうするとどこかのタイミングで今言った要素が自然に混じり合って、新しい音が開けてくるっていう。そういうものなんだよ。
──『Somersault』から引き続き『Bunny』ではバンドのメンバーと共同でソングライティングをしています。バンド・メンバーと曲作りをすることを選んだ理由は何でしょうか?
D:そもそもの曲の成り立ちからしてそうだったから。ライヴやツアーの本番前のサウンドチェックでチューニング中に、誰か一人が何かを弾き始めた音に別のメンバーが「お、いいじゃん!」って反応して。その上に音を重ねていく中で自然と曲の種になりそうなアイデアが生まれていって、どこかのタイミングで誰か一人がスマホを取り出して「これは録音しておかないと」ってことで保存しておいたボイスメモが大量にある。そこから今言ったアルバムの曲が生まれてるんだ。
J:メンバー全員ともADD(注意欠陥障害)で、一つのことに集中できない性質なんでね(笑)。うちのバンドの練習とか相当すごいことになってるよ。音の放置プレイ状態というか、色んな音が入り乱れてもはや収拾がつかないことになってる(笑)。ひたすら弾いて弾いて弾きまくって、そうやってノンストップで一緒に音を出してるうちに、誰かのプレイが耳について、そこから自然にまとまって、何も考えてないのに気がついたら曲になってたってことがよくある。
T:ただ、集中できないことがかえって役に立つこともある。集中力がないってことは、逆に言えば一つのアイディアにいつまでも固執しないってことだから。曲を作らなくちゃって思って書き始めたら、それがかえってプレッシャーになって足かせになることもある。逆に、義務感とかじゃなく何も考えずにジャム・セッションしてるときのほうが自由にアイディアを出しやすかったりして、リハーサルで適当に遊びで出してた音が「お、意外にイケるんじゃない?」ってなるんだ。しかも自然なフローの中から生まれた音だからね。そこで録音しておいた音源を後で振り返って「あ、使えるかも」ってパターンだよ。形とかゴールとか決めずに、ただ純粋に楽しみながら音を出していって、そこから何か生まれてるのかじっくり見守っていくことが大事。そこから思いもよらない面白いアイディアが生まれて、それが最終的に曲に繋がっていくから。
──『Bunny』は「意識的にサビを書くことを考えていた最初のアルバム」とありました。これは具体的に、どのようなヴィジョンを描いて取り入れましたか?
D:そうなんだよ。ファーストの『Beach Fossils』や、あるいは初期の『What a Pleasure』にしろ『Clash the Truth』にしろ、何も考えずに直感だけで作ってるようなものなんで……何かアイディアを思いついたら即録音して気がついたら曲になってたっていうパターンで。曲の全体的な構成だの何だのについては、ほぼ考えてないのに等しくて、「お、いい感じじゃん」っていうフィーリングだけですべてやってた。そこからだいぶ後になって「……うちのバンドの曲って、実はサビらしきサビが一つもなくない?」ってことに気がついて(笑)。たまに、サビっぽいかなって思うものがあったとしても、サビというよりも厳密にはギターのフレーズだったりするし、曲中に一回しか登場しなかったり。歌詞よりもむしろ、ギター・ラインのほうが強烈な印象として残る曲のほうが多かったり……それってたぶん自分がインストゥルメンタル・ミュージックをよく聴いているからもあるんだろうけど。実際、ヴォーカルについては最後の最後になってようやく意識し出すこともあるくらいだし。ただ、『Somersault』を作るときに今さらながら「サビを入れてみたらどうなるんだろう?」って、本来そういうものらしいからってことで(笑)。それでビーチ・フォッシルズ史上初めてサビを導入したのが『Somersault』と『Bunny』だよ(笑)。
T:しかも、無理してるとかでもなく楽しんでやってる、筋トレ感覚というか。ダスティンもそうだけど、いわゆる作詞作曲みたいな感じで構えてないというか。前フリだけ作ってるつもりが、いつのまにか盛り上がってサビになってたり、その過程で全然別の方向に振り切れたり、そういうのがあっちゃこっちゃに散らばってるかんじ。完全に自分達のノリで遊んじゃってる。サビだろうが意外な展開だろうが、あくまでも全体のエネルギー・レベルを高めていくことを目的としてる。そうやって作ったパートがサビに発展することもあれば、曲を新たな展開に導くサプライズ的なトリックとして機能してることもある。例えば、「May 1st」なんてその最たる例で、曲の始まりと終わりでまるで違う景色の中に立ってる、みたいな。サビではないけどサビのような機能を果たしているパートがあって、それが次の新しい景色への橋渡しとして機能してる。サビについて意識するようになったとはいえ、そもそもサビを作ることを目的にしてない。作ってるうちに「あ、これってサビっぽいかも?」って自然に気づくことが多いからね。だから、いつも曲を構築するというよりは、色んなアイディアを重ねていったところに最終的に曲が完成してるみたいな感じ。
J:ほんとそう。最初からサビを書こうと思って書くことはほぼないよね。むしろ、曲を書いていく中で後から「あ、これサビだね」って気づくパターンで、まず最初にパートを作ってそれを組み立てつつ作っていく。
D:サビどころかそもそも曲を書くことを意識してるかすらも疑問……曲を書いてるってよりも、音のパートごとに作ってるような。小さなパートを持ち寄って「あ、使えそうじゃない?」って感じのものを集めていって、後から色んなデモを聴いて「あ、これがサビに使えそうだね」みたいな。だから、大抵の場合、前フリもサビも同時に書くことはほぼなくて、あちこちから拾ってきた小さなアイディアを繋ぎ合わせては最終的に曲を仕上げる感じなんだ。
──なかでもアルバムのリード・シングルとなった「Don’t Fade Away」はサビの没入感が印象的です。この曲はどのようなプロセスで制作していきましたか?
D:アルバム自体はほぼ完成してて、すでにミックスやマスタリングの予定も決まってたんだけど、どうも何かが足りない気がしてね。トミーに「もうあと1曲、アップビートな感じの曲が欲しいよね」って伝えて、お互いにインスピレーションやどんな雰囲気にしたいかについて話した後、しばらくしたらトミーからメールでインストゥルメンタルだけの曲が送られてきたのが「Don’t Fade Away」でブリッジ部分こそなかったけど、その時点でもう大半は完成してた。
T:しかも、あのブリッジとか、相当前に作ってあったものを使ってるよね?
D:そう、たしか10年前ぐらいに作った素材だし。
T:曲のメイン部分はできてたんだけど、追加で新たなパートが必要で……それで昔のデモを色々漁ってたところ、あのブリッジを発見したわけさ。さっきの話にあったように、まさに「フランケンシュタイン方式」で継ぎ接ぎで作ってるから、何年も前のパーツを持ってきて繋いだり、AとBを入れ替えてひっくり返したりとか、そんなことばっかりやってる。この曲もまさにそうやって作ってあって、昔のデモを漁ってたら8年だか9年前に録ったいい感じの素材を見つけて、「これ、キー変更したら相当いい感じに化けない?」と思って。
J:レゴを組み立てるみたいな感じだよね。
D:まさにそれ。何年もかけてインスト部分を作って、歌詞はアルバム全体分を1、2カ月で一気に仕上げる方式なんだ。すべてのインストが完成した後に歌詞を書くって、相当しんどいんだけど。
J:間違いない(笑)。
D:普通そんなヘンな書き方しない(笑)。ただ、うちのバンドって放っておいたら延々といつまででもインストの音楽を作り続けてしまいかねないんで……それで、そろそろ曲が完成しそうだなって頃に先手を打ってミキシングの予定をあらかじめ設定して、いよいよ歌詞を書かなきゃいけない状況に自分を追い込んでいく(笑)。だから、『Bunny』も『Somersault』も、歌詞やヴォーカル・メロディーに関しては、ほぼ同時に一気に書き上げてるんだよ。
T:そうだね、ミックス作業が始まる直前の2週間くらいが一番集中する追い込み期間だね。
D:『Somersault』のときなんて、朝10時から夜10時までスタジオでミックスの作業をして、その後、自宅のスタジオに戻って徹夜でヴォーカルを録りして、2、3時間眠ってから、起きてスタジオに戻ってミキシングの続きをやる、みたいな感じでストレスが半端なかったし! 絶対にお勧めしない(笑)。
T:そんなことやってるから当然体調崩すに決まってるし。あのとき風邪ひいて、めちゃくちゃしんどそうだった(笑)。
D:そう(笑)、大量に薬を飲みながら、息も絶え絶えの状態で歌入れしてた(笑)。
──デビュー・アルバムからディレイやリヴァーブが特徴的に使用されています。『Bunny』のミキシングは、かつてザ・マーズ・ヴォルタのエンジニア、セイント・ヴィンセントなどを手掛けるラース・スタルフォースと共同で行っていますよね。彼とはどういった聞こえ方になるように音響を作りましたか?
D:曲を作る時に同時にミックスもしてるんだよね。できる限り完成形に近づけてから、エンジニアに音源を渡すようにしてるので。エフェクトも全部かけた状態で出してるから、ミックスの段階でほぼすでに完成形みたいなもので。自分が人にミックスをお願いするときのリクエストは、「全体的に音をラウドにして」っていうそれくらい。例えばベースをより太くしたり、余計な部分をカットしたりとか、ほんとにそのくらい……レコーディング中はEQはいじらないから、そこを微調整してもらう感じだね。まあ、ちょっと専門的な話になっちゃうけど、ミックスはクリエイティヴな作業というより、よりプロっぽい音に仕上げるためのステップって感じで、注文内容としては「プロっぽい作りにして」っていう、本当にそれだけ。

──以前あなたは歌詞について、「キャリアの初期は幸せなポップソングを書いていたけど、良い気分じゃないときの気持ちを表現したい」と話してました。今、歌詞を書く上で、どんなことを意識してますか?
D:とはいえ、まだ新曲の歌詞に着手してないから何とも言えないけど(笑)。
──具体的な歌詞にはなってなくても、最近のモードというか考えてるテーマとして。
J:とりあえず、いつでも何かしら書いてるよね?
D:そう、スマホのメモにアイディアを書き留めておいたり、あるいはボイスメモに録音することもあるし、ただひたすら思いつくままに喋り続けたものを録音することもあるし……そこで録音したものを後から振り返って、それを元に書き始めたり……本当に行き当たりばったりで、ただ目の前に起きてる事象や、そのときの自分の感情について描写してる。物語を伝えてるっていうよりは、人生のワンシーンを切り取ってるに近い。例えば、誰かと話してて「面白いな」って思ったら、スマホにメモしておくとか。それをレコーディングの時に見返して、そこにある言葉を試しに声に出して実際に「歌って」みるんだよね。そこから何かしら共通するテーマが浮かび上がってくるというか、あるいは、そういったものを組み合わせて歌詞にすることもあるし。だから、アルバムごとに違うテーマを設けてあるというより、全部ひとかたまりの巨大な塊というか、形を変えて動き続ける一つの集合体みたいな……自分はただそれを捉えようとするっていう作業を毎回しているような気がする。だからこそ、自分の人生に起きた出来事や感情を、ただひたすら書き続けるってことをしてる。何かのストーリーを伝えようとしてるというよりはね。
──あなたはニューヨーク・スタイルの詩人から影響を受けているようですが、具体的に共感する作家は誰ですか?
D:そう、いわゆるビート詩人だよね。さんざんビート詩人の作品に触れてきたし、ものすごく影響を受けてるよ。これに関しては最初からずっとそうだった気がするな。一切のフィルターなしの言葉が綴られていて、だいぶ前の時代に書かれてるはずなのに今読んでもすごく新鮮でハッとさせられる。あの時代の作家って自分の言葉を検閲せずに、ただ自分の思ったことをそのまま書いてた…… 《City Lights Bookstore》から出ている作品なんてまさしくそうだよね。インディペンデントの出版社だったから、作家達も自分達の好きなように自由に書いて作品として出版できる環境にあった。そこから、いくつものクリエイティヴな文章が生み出されていって、しかも、どこまでも実直だよね。人間の不完全さについて率直に書かれてる……そこに自分みたいな人間はすごく共感してしまうわけさ。完璧な人なんてこの世に存在してないと思ってるんでね。この世の誰もが不完全で欠点だらけであり……唯一、僕を除いては(笑)。要するにダメな自分を受け入れる、アートって自分を発見することでもあると思うから。自分の欠点や間違いについて書くことができたら、一歩引いて客観的に自分を見ることができる。そのプロセスが自分を深く知ることに繋がってるんだよね。自分にとって音楽って、昔からずっとセラピーみたいな役割も果たしてきてくれてるので……それを歌詞にも利用してるだけっていう。まるで公開セラピーみたいなものだよ(笑)。
──運営するレーベルの《Bayonet》について聞かせてください。当初《Bayonet》の運営のインスピレーションとして《Stones Throw》と初期の《Rough Trade》を挙げていました。具体的に、この2つのレーベルを選んだ理由は?
D:どちらもレーベル共、ほんとにいろんなタイプの音楽を出してきてるからね。決して一つのスタイルに縛られてはいない。それがコミュニティの輪を広げることにも繋がるし、クリエイティヴな可能性も広げることに繋がってる気がする。「うちは〇〇の専門ですから」ってスタンスじゃなくて、単純に「音楽が好き」ってところだけで繋がってるような……自分達も何がうちのレーベルにふさわしくて、何がそうじゃないか限定したくない。正直、ジャンルには一切こだわりがないし、ジャンル自体は重要じゃない。ただ、その音楽を聴いたとき自分の中の感情の何かしらが作動するかっていう、それだけなんだよね。それっていうのはワクワクする感覚かもしれないし、高揚感かもしれないし、あるいは喜びでも悲しみでも怒りでもどんな感情であれ、それを聴いたときに自分の中に何かしら動くものがあるかどうかっていう。そこが一番重要なんであって、表現の仕方はどうでもいい。リアルに感情が動かされるかどうか、本当にそれだけだよね。
──《Rough Trade》は設立者のジェフ・トラヴィスが《City Lights Bookstore》の「コミュニティベースの環境」から影響を受けています。そういった「コミュニティの繋がりや助け合い」をどの程度意識していますか。
D:最初からすごく実感してるよね。初期の頃はとくに《Captured Tracks》を中心にコミュニティみたいなものが出来上がってて。
J:そもそも今のこのバンド自体が《Captured Tracks》が縁で繋がったみたいなもんだもんね。
D:ジャックはクラフト・スペルズ(Craft Spells)ってバンドで活動していたし、トミーはフープ・ドリームス(Hoop Dreams)で演奏してたし。
J:元々はレーベルメイトだからね。
D:ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートとも練習スペースを共有してたし、アントンも同じ場所で練習してたんだ。当時のニューヨークの音楽シーンって、まさにそんな感じで繋がってたし、リアルなコミュニティの感覚があったよね。まわりにミュージシャンがたくさんいて、というか、自分達の友達のほぼ大半がミュージシャンなんだけど、自然と今作ってる曲について話したり、気軽に「これどう思う?」って聞ける人がいる環境だったし、音楽的なセンスの信頼できる仲間と直接会ったり意見交換する場があったんだ。そういうコミュニティの存在ってすごく大事だと思う。今は自分のレーベルをやってるけど、そういうコミュニティ感覚をすごく大事にしてる。今では、自分で新しいコミュニティを作っていける場を持ってるんだなって感じるよ。
──2010年代に《Captured Tracks》が、ビーチ・フォッシルズ、ダイヴ、ワイルド・ナッシング、マック・デマルコらを輩出してムーヴメントを作ったように、かつて《Creation》が、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、スロウダイヴ、ライド、ジーザス&メリー・チェインらを輩出するなど、レーベルがムーヴメントを作る時流がありました。音楽家でレーベルのオーナーでもある、あなたは今この時流についてどのように考えますか?
D:そうであるといいよね。アーティストたちが心から誇りに思えるものを形にできる環境を提供したいし、彼らのクリエイティションに一切口出しするつもりもない。ただ、彼らが本当に作りたいものを作れるように、必要なリソースであり環境を提供していきたいんだ。そもそもそのアーティストのファンで、その人の作品が好きで、その才能を信じて契約するんだから。彼らのやろうとしてることを変えたり曲げたりしようとは一切思わない。ただ、アーティスト自身が本当に表現したいものを形にできるように全力でサポートしたいだけなんだよね。
──ちなみに今、《Bayonet》で一押しのアーティストは?
J:メイ・シモネス!
D:そうそう、確実にそうだよね。今すごく波に乗ってるし、音楽もすごくいい。
──今年1月に、ダスターの「Inside Out」のカヴァー曲を発表していました。このカヴァー曲はどのような経緯で選びましたか?
D:だって文句なしに最高の名曲だから(笑)。嬉しいことに、向こうのチームから「カヴァー曲のコンピレーションを作ろうと思ってるんだけど」ってうちのバンドに声をかけてもらってね。しかも、好きな曲を自由に選んでいいってことで、「Inside Out」一択だったんだ。カレント・ジョイズがカヴァーした曲がB面になっている形で、今度7インチ盤が出るんだけど、もう発表していい話なのかな。そうだといいけど。
──ちなみに前回の来日では、オアシスの「Wonderwall」を披露していました。今回のライヴでも何かカヴァー曲が聞けそうですか。
D:そっか、今思い出したけど、カヴァー曲の案もあるね。今から48時間以内に本番を迎えたら明らかになるはず。
J:ほとんどの場合、その場のノリとか思いつきだもんね。
A:ビールを何杯かひっかけた後に(笑)。
D:あれってステージ上で即興でカラオケをやってるみたいなものだよね(笑)。

<了>
【THE QUESTIONS✌️】Vol.34 Beach FossilsText By Nana Yoshizawa
Photo By Michi Nakano
Interpretation By Ayako Takezawa

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Beach Fossils『Bunny』
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