ジャパニーズ・ポップスの大通りを闊歩する “うた” のアルバム
さとうもかのニューアルバム。スマッシュヒットした「Melt bitter」、「Love Buds」という先行シングルと同様に、収録された13曲それぞれが一編のドラマのような、濃密な世界が広がる。2021年の日本のポップスの王道はここである、と言いたくなるほどの聴き応えのある作品だ。
この記念すべきメジャーデビューアルバムで、さとうもかの才能がいよいよ本格的に爆発したと言いたいところだが、その冒頭を飾る「Weekend」はインディー時代のデモ音源集に収められた、いわば旧作に位置づけられる楽曲である。その時点で、チャーミングでキャッチー、オーセンティックな親しみやすさという彼女の個性は完成されていたし、こうして最新曲と並んでもなんら変わらない輝度がある。ノエル・ギャラガーがドキュメンタリー映画の中で「自分が音楽で成功できると確信したのは「Live Forever」を書いた時。それまで書いていた曲はいかにもインディーって感じのやつばかりだったから」とソングライターとして覚醒した瞬間を語っていたが、きっとさとうもかは音楽を作りはじめた時から頭の中で、あまねく日本に響くメロディが鳴り続けていたのだろう。そう想像してしまうくらいに、ジャパニーズ・ポップスの大通りを自然体で歩んでいる感がある。そしてその自然な進化が、私のようなインディー時代からのファンをふるいにかけることなく、ティーンを中心にした新たなリスナーを獲得している理由だろう。
この新作において、最も強く印象に残ったのは、彼女のボーカリストとしての力量あるいはアイコンとしての声の魅力である。東京と岡山、二つのバックバンドに加え、Awesome City Clubのプロデュースを手がけるESME MORIやSIRUPとの協業で知られる森善太郎、さらに注目の若手ヒップホップアーティストMomを共作者として迎えたサウンドは、前作以上にバラエティに富んでいる。ハードなギターサウンドからベッドルーム感のあるヒップホップ、そしてジャズの香りを漂わせたバラードまで、ともすれば散漫な印象を与えるリスクがあるほど幅広い音を鳴らしつつ、最終的に「さとうもかの歌」という手触りだけをもたらす、歌声の力。その強度を最も感じられるのは「さとうもかバンドfrom 東京」というクレジットされたシンリズム(Gt)、河合宏知(Dr)、沼澤成毅(key)、森川祐樹(ba)という、最先端の音楽シーンを支える気鋭の面々を迎えた表題曲「Wooly」だろう。四人のミュージシャンそれぞれの顔が見えてきそうなほど個性的で勢いのある演奏と、さとうもかのボーカルがバチバチとせめぎ合い、高めあっていく様、そしてその帰結において「こんなにも全てが綺麗に見えていたのは永遠を信じきれなかった裏返し」とザラリと歌い切る迫力に触れれば、さとうもかがガーリーポップ、あるいはヒットチャート対応のJ-POPといった安易な既成概念の中だけで語ることができない表現者であることが伝わるはずだ。メジャーやインディーといった枠組みにとらわれず、しなやかに自らのクリエイティビティを発揮するさとうもかが、これからどんな軌跡を描くのか、改めて期待が高まる作品である。(ドリーミー刑事)
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